エピローグ ~デルタSide~
誰かの声に、目を開くと明かりが飛び込んできた。それと同時に、
『気が付いたか うなされていたようだったが。』
「ゼクスマキナ?」
デルタは、起き上がろうと、力を込めるが、まるで体が鉛になってしまったかのように、その動作は重かった。
「どれくらい寝てたの?」
『2日間丸々といったところだ ドレスの着脱が遅れていたら 危ないところだったな』
デルタは、ほっと息を吐くと首を傾ける。そこには、見たこともない機械が所狭しと置いてあり、半透明のカーテンにより、視界が遮られていた。
ピッ
ピッ
その機械から規則正しい音が漏れ出ているのが聞こえてきて、デルタは、ここが夢ではなく、現実だと再確認した。それ以外の音は聞こえない。暗闇と機械の出す音。そして、デルタとゼクスマキナだけがその場いるすべてだった。心地よさと安堵感を感じて、もう一回デルタが眠りにつこうと思った時だった。
不意に明かりが灯った。不審に思ったデルタだったが、右手側を向くと、何かの袋からデルタの右腕に向かって透明な管がつながれている。
『それは 点滴というものらしい 栄養を直接デルタに届けるためのものだ』
一瞬きょとんとした表情を浮かべたデルタだったが、その言葉に笑みを浮かべた。
「へぇ。ゼクスマキナってやっぱり何でも知ってる。賢いなって思って。」
『まあな さて 人が来たようだ』
入ってきたのは、女性だった。逆光で良くは見えない。ただ、デルタが起きていることに驚いているような様子が見て取れた。
「ええと、」
「あら、もうお目覚めって。はぁ、間が悪いな」
『間が悪いという意味は分からないが どうする』
どうするって言われてもと、デルタが、一瞬困った表情を浮かべたのを、その女性に悟られたようだ。かすかに悪戯っぽく笑みを浮かべたのが見て取れた。
「体は動く?」
デルタは、少し回答に躊躇したのちに頷いた。それを見て、女性はほっとしたような笑みを浮かべた。
「ほんと、ピアスの言う通り。面白い子ね。」
「ええと、褒めてもらっていると思っていいんですか?」
なぜか、背筋をゾクッとしたような感覚がつたう。それは、冷や汗が流れる感覚だとデルタが気が付いたときには、女性の顔は目の前にあった。デルタは驚きこそあったが、つい、その顔に見とれてしまう。しばらくの間、時が止まったように、二人は視線を合わせていた。やがて、女性は、デルタから、視線を外すと何かの準備を始めた。
気まずい沈黙が流れた。それに先に耐えきれなくなったのは、デルタの方だった。
「あ、あの。」
「ふふ、まだ時間がかかりそうね。まあ、その間は、まだ楽しめそうなものがあるからいいとして、そろそろね私は退場するわ。じゃあね、戦闘姫ちゃん。また会いましょう。」
「あ、は、はい」
思った以上に大きく出てしまったデルタの声に、女性が微笑み返し、姿を消す。本当に一瞬のこと。気が付いたら、緊張していたのだろう。デルタはふぅっと大きく息を吐いた。でも、イヤな緊張じゃないと思い、その顔を思い出していた。
「デルタ!」
その耳朶を懐かしい声が打った。デルタは、どんな顔をしているのかわからなかったが、その人はとても心配そうな表情を浮かべていることだけは見て取れるようだった。足音が近づいてくる。抱きしめられる強い手に、デルタは安堵を感じた。
戻ってきたのだということ。戻ってこれたということ。
「アリアさん。デルタ12・イハーブただいま戻りました。」
「……ええ、ええ。おかえりなさい。イハーブ。」
再び抱きしめられる。その心地よさ。そのまま、再びデルタは、眠りに落ちていった。
その夜のことだった。
「ねえ、ゼクスマキナ。起きてる?」
『なんだデルタ 眠れないのか?』
デルタは、頷く。そして、ふと思い出したように、ゼクスマキナに問いかけた。
「そう言えば、前預けていた便箋だけど、見せてもらえない?」
『そんな用か いいぞ』
デルタの手の中に封筒が現れる。差出人
「レディスパーダ」
昼よりは動くようになった手で裏返す。裏の、おそらく、封筒の開封口と思われる箇所には巨大なトカゲのような、獣のような絵が張り付けてある。そっと触れると、少し盛り上がりを感じた。おそらく張り付けてあるものなのだろう。その絵柄のコミカルさにふっふっと思わずデルタから笑みがこぼれた。
ゆっくりとそれをはがす。中からは、上質な紙でできた便箋が出てきた。
『暗くて読みにくくないか?』
「え……うん少し。でも、明かりなんか付けたら……あ、そうか、ヴェールだけ装着するっていうこともできるね。でも、目立つか」
あははと、小声で笑ったデルタだったが、ふと嫌な予感がして、口を紡ぐ。
『安心しろ 視野をナイトビジョンに切り替える』
視界が、微かな光を拾い、手紙に書かれた文字がはっきりと読めるようになる。
「ちょ、ちょっと、勝手に改造しないでって言ったでしょう?」
『聞いていないな 作戦遂行のため そして何よりデルタのためならば 我らは 努力を惜しまないさ あと 今回の力の開放使用を受けて エンジン部分の最大出力強化 緊急時のバイパスの造設 あとは2つほど特殊視界 身体機構の開発が終わっている 今は自衛用の装備の作成をしているところだ』
「多い。予想したより改造箇所多い。ゼクスマキナが私を大事にしていることはわかってるけど、多い。」
そう言いながらも、デルタは、笑みを浮かべた。その過剰ともいえる改造は、ゼクスマキナがどれだけ自分を心配しているかの裏返し。決して嫌な感じは受けていないようだった。
「でも、ありがとう。心配かけてごめん」
『いや あれは私のミスだ ……さて 我は 調整に入る しばらく集中するから 便箋を再格納する時には教えてくれ』
そう言うと、ゼクスマキナの言葉は視界から消える。
「ありがとう」
デルタは、再び、お礼を言うと、ナイトビジョンに浮かぶ手紙の文字に集中する。手紙の文字は決して多くない。でも、そこにあったのは、あの時の助けられなくてごめんという謝罪の言葉と、もし機会があればあって話がしたいという言葉だった。
「わたしも、会いたいな。レディスパーダ……どんな人なんだろう?あ、でも、このまま、アリアさんたちと暮らすのなら、難しいかな?う~ん」
その短い手紙が、くちゃくちゃになるまで読み直しながら、デルタの夜は更けていくのだった。




