第3章エピローグ ~デルタside2~
「こちら、イハーブ。司令部応答願う」
「こちら司令部。調子はいいようだな戦闘姫」
デルタは、棘のない指令の言葉に頷いた。あの戦いから1か月が過ぎようとしていた。デルタは、南方戦線の主戦場を離れて偵察飛行を行っていた。着込んでいるのは、ゼクスマキナが新たに作成したドレス”蒼穹の連”。オーバーホールに入った”白銀の銃”の代わりに作成された、火力よりも偵察・索敵能力に特化したドレス。
『デルタ センサー準備完了』
「了解。センサー投下。」
高速でセンサーが投下され、地面に突き刺さると、すぐに情報がHUDに表示される。ここから、たった30キロメートルの地点。つい1か月前までいたその場所。大きな爆発と破砕音。おそらく、ダンジョンの最期の抵抗なのだろう。
2日後に起きて、体が動くようになるまで、更に丸1日を有した。その間、大規模な作戦が展開されていたらしい。らしいというのは、その事をデルタ自らの眼で見たわけでもなく、アリアから聞いただけだった。白銀の銃を回収し、ゼクスマキナからの助言に従って、指令に作戦への協力を提案したが、却下された。現在、兵力、火力は十分に足りていると言われ、デルタは、起き上がってから1週間近くは、飛ばない生活を味わった。
そんな中、沈静化したダンジョンの付近で偵察活動を命じられた。今になって思えば、戦場から離れて過ごすために、アリアさんが用意してくれたのだろう。そんな中、ゼクスマキナが2つのドレスを完成させた。それが、今着ている”蒼穹の連”。そしてもう一つ。対地攻撃に特化した”逆鱗の焔”。
『ただ 現在の感情を考えるに 安易にこれを装着することは推奨できない』
ゼクスマキナの言葉に、デルタは頷いた。あの武器。力の開放の使用以降、確かに見る目が変わった。それまでの、戦闘姫は単機では、無力なものという見解から、単機においても危険な存在だと説明こそできないが、そう感じることが増えた。ただ、それが、いいことか悪いことなのかはわからない。それを考えても仕方ないから。
そう思うと、少しだけ気が軽くなった。
「センサー投下」
『命令のあったセンサーはこれで全てだな』
「うん。司令部。センサーの設置完了しました。」
「了解した。ご苦労だったな戦闘姫。では、2時間の自由時間を認める」
「了解しました。では後ほど。オーバー」
それだけを伝えると、デルタは、ふうっと息を吐いた。この自由時間の間は、力の開放を除くすべての武装の使用、特殊マニューバー、全てのオプションが使用できる。
「じゃあゼクスマキナ。教えて。今のわたしに何ができるのか」
『ああ デルタ 教えよう』
ゼクスマキナから訓練プログラムが渡される。それに一通り目を通したデルタの姿は、上昇しあっという間に雲の中に消えた。
2時間30分後
「はあっ。やっぱり訓練の後のシャワーは……最高ね」
デルタは、シャワールームから出てくると、チョコレートに手を伸ばそうとする。それは、リリムが持ってきたものだった。リリムも、医官として30キロ先の司令部に詰めている。こうやって会えるのは、3日ぶりといったところだろう。デルタは、何か言いたげなリリムの顔を見ながらチョコレートを一つ口に放り込む。最初は、ほろ苦さにびっくりとしたその味にもいつしか慣れて、よく、アリアさんやリリムが手土産に持ってくるこのチョコレートというお菓子を食べることが楽しみになっていた。
デルタは、つい、手が進んで、4個目に手を伸ばそうとした時だった。
「デルタちゃん。太った?」
「え?ひゃあ!」
不意にデルタの脇腹に細い手が添えられる。それにひどく驚いたデルタは、掴みかけたチョコレートを皿に落とした。もうっと、膨れた様子で振り返るとそこには、見知った顔があった。
「いきなり酷いですよリリム。それに太っていません。」
「え?そう?まあ、成長期ということで。いやぁ、ごめん、ごめん」
リリムは、デルタを見てホッと安どの息を漏らした。この1か月の間、隠れることもなく、誰の目も感がることなく、そして、栄養のついたものを食べ、よく運動した。あのころ、急速に作られたようにも見える、疑似的な栄養失調状態から、半年でここまで回復した。太ったという言葉を、なぜか気にしているデルタを見ながら、ようやく主治医卒業ねと、リリムは一人口の中でつぶやき、微笑ましそうにその光景を見つめた。
「ええと、ゼクスマキナ。私太り気味なのかな?」
『さあ 知らんな そう言えば 今日の訓練 特殊マニューバーFFTSの訓練をしたが うむ――』
「ええと、うむじゃないよ。……だ、黙っていないで何か言ってよ」
そう言いながらも、デルタの表情は明るい。楽しそうに表情がころころと変わる。リリムは、バッグから書類を取り出し、すこし、心配そうにそれを見つめる。それは、今までの生活が変わってしまうことを告げるタイミングを慎重に見極めているいるように見えた。
「さてと、そんなデルタちゃんに、命令が出たの」
話題に一息ついたのだろう。デルタは、きょとんとしながらも、促されるままにリリムの目の前の席に座る。心なしか、緊張している様子が見える。
「正式な命令は、1週間後になるけど。戦闘姫 イハーブ・デルタ12は、アリア・ホワイトヘッド准将の指揮の下、小帝国の査察を命じる。」
「小帝国?」
「そう、あなたが生まれ育った場所。私たちは、それを小帝国と呼称している。もともとは、大帝国の飛地。ただ、あなたたちとの戦争以降、こちらのコントロールを離れて久しいのと、その動向には疑問が多い。南方戦線が落ち着いた今、ようやく本腰を入れられるといったところ。」
デルタは、いきなり告げられたその言葉に驚きながらも、少しだけ頭の中で整理した。
「質問いいですか?」
「ええ、許す」
「その任務にわたしはそぐわないと思いますが、……もしかして、私には、別の任務があてがわれますか?」
その言葉に、リリムは眼鏡の先の眼を細め、つい出てしまいそうなため息を飲み込む。
「察しがいいわね。ゼクスマキナからの入れ知恵かしら?」
「いえ、私の疑問です。」
デルタは、リリムをじっと見つめる。少しの間沈黙が流れた。リリムは、根負けしたのか、口元を歪めた。
「そうね。あなたは、あくまで協力者。貴女にやってもらいたいことが、2つあるの。ただ、両方とも危険を伴う」
『予想通りか』
デルタは、沈黙でリリムに次の言葉を促す。
「1つは、かく乱工作。あなたが、小帝国で姿を見せることで、敵対勢力に少なからずの衝撃を与えることができる。2つ目に、これが最重要。小帝国王城に保管されているはずの戦闘姫のドレス。本物なのかどうか。あなたの眼で確認してほしい」
デルタは、リリムの持ってきた資料に目を通した。
『イハーブ 視界をフォトモードで起動する』
デルタは、ゼクスマキナの言葉に口の中で分かったというと、視界に映った資料を複写し始める。そんな中、一つの資料に手が止まる。
「リリムこれは?」
薄い資料。そこには、レディスパーダという名が記されていた。
リリムは、少し考える様なしぐさを見せると、ずれてきつつあった眼鏡の位置をくいッと直した。
「都市伝説。そう。不確定要素として、そう言うのもあるって言うことね」
ページをめくる。そこにあったのは、いつか見たあの雑誌の記事の内容とほとんど変わりのない資料だったが、その一つに目が釘付けになった。
そこに写っていたのは、女性。タイトなスーツに身を包んだ黒髪の美しい女性が月をバックに立っていた。
「ああ、その写真は、現場にいた部隊が撮ったものよ。レディスパーダの一人って言われているけど。その隊員は、その女性に声を掛けようとしたところ、忽然と消えたとか言っているから、信ぴょう性は低いわね」
デルタは、リリムの言葉を聞き流しながら、あの夜のことを思い出していた。
「レディスパーダ」
口の中でつぶやいた言葉は、誰にも聞かれることなく、その空気の中に消えていった。
これで、第3章完です




