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力の開放 1

 これからの火力は、通常ではない。ゼクスマキナのその言葉を、デルタは、思い知っていた。両手の機銃から打ち出された弾丸は、着弾点で小さな爆発を起こし、たやすく小型の獣を薙ぎ払った。小型誘導弾は、あの陣地発破に劣ることのない火力と爆発を叩きだした。


『デルタ。わかっていると思うが、空対空万能誘導弾、広範迎撃兵装は、超級の獣に使用する。攻撃可能回数は、6回だ。空対空万能誘導弾は、無誘導で発射。広域迎撃兵装は、対象周辺に落とすだけでいい』


 うんと、デルタは頷くと、小型誘導弾を発射する。中型の獣が、炎の中に消えていく。デルタが、きっと前をにらみつけると、まだ遠い超級の獣と目があったような気がした。


 その様子をもし、上空から見るものがあれば、黒い海の上に、銀の雫が、一つ浮かんでいるように見えただろう。


『進路前方、干渉波集中。反撃が来るぞ。デルタ』


 ゼクスマキナの声が、終わるか終わらないうちだった。超級の獣の口元に、赤い光が宿った。それが、高熱を伴う炎だとわかった瞬間に、それは放たれた。


「上空へ回避」


『低空に回避しろ』


「――?了解!」


 デルタは、ほんのわずかに上昇し、そのまま、獣の海の中に飛び込むように低空飛行に移る。そのデルタを地に引きずり降ろそうと、多数の小型の獣たちが襲い掛かる。


「フルブースト!」


 速度計が、あっという間に、400を指す。今出せる最大の速度。そのまま、機銃を前方に構え、掃射する。弾丸が貫通して、そのところどころに、小さな爆発が起こる。包囲に開いた小さな穴にデルタは一気に飛び込んでいく。そこに行かすまいと、とびかかる小型の獣に、小型誘導弾の爆風が襲い掛かった。

 その時だった。超級の獣からの攻撃が始まった。高速で飛来する火線。そこから別たれた火の玉がデルタの後方に着弾し始めた。

 確かにこの火力が後方の陣地にまで及んでいたら大変なことになっているそう思い、デルタは、地面を這うよう高度を猛スピードで駆け抜けた。


『振り返るな』


「言われなくても!」


 獣を巻き込みながらも攻撃してくる火の玉をかいくぐる。


『本番の攻撃が来る。ブースターを使用』


「了解。ブースター装着」


 スカートの一部に、大型のブースターユニットが現れる。デルタは、ブースターの最終チェックを行う。


「ブースター、コンディショングリーン。ゼクスマキナにブースターの使用権限を移行」


『了解した。ブースター接続完了。エンジン出力の10%をブースターに回す。デルタ、ブースター使用後、5秒後に180°クイックターン――ブースター起動3.2.1』


「ブースター点火」


 ごうっという音を立てて、ブースターから、大きな炎が巻き起こる。それは、背後から襲い掛かろうとしていた小型の獣や中型の獣を薙ぎ払っていく。同時に、デルタは、超加速し、一気に超級の獣に肉薄し、そのまま、背後に回り込んだ。その瞬間だった。さっきまでデルタがいた場所に、巨大な火柱が立つ。熱線が、大地をえぐるように切り裂いていた。超級の獣の前にいたはずの獣はその姿を消していた。


 それを見ることなく、デルタは、5秒後を迎えた。


「クイックターン!」


『上位コマンド起動。慣性、速度保持。』


 ドレスに、大量のスタスターが出現し、瞬時にデルタの体は、さっき来た方向へ向き直る。だが、いつもは、即座に方向変換されるが、今回のそれは違った。


「と、止まらない!」


 橙色の小枝ならば、即座にその場で推力の方向が変わっていた。しかし、この白銀の銃では、大きく、スライドするように、デルタの体は、300メートル近く、流されてしまう。


『デルタ、今の状況を解除しようとするな。ブースターの効果が乗っているうちに、攻撃を開始しろ』


「了解!誘導弾セット……発射」


 ほんの一瞬獲物を見失った獣の群れに、大型の誘導弾が襲い掛かった。ズンッという鈍い音が戦場に木魂したと思った瞬間、視界を覆いつくさんばかりの爆発が、巻き起こった。


『デルタ、白銀の銃は、特殊マニューバー能力は低く抑えられている。操縦には十分な経験が必要だ』


「うん。ゼクスマキナわかったよ。でも、あとは、あの超級の獣だけだね。一気に行こう。広域迎撃弾準備」


 わずかに上昇して、広域迎撃弾を投下する。それは、狙い外さずに、超級の獣に襲い掛かった。その獣の姿は、炎でできた2つの山の中に消えた。


「干渉波増大……センサーアウト。ふう……でも、これだけ攻撃を加えたんだもの。多分、もう、原型をとどめていないよ。でもすごい力だねこれ。弾とかの形状は変わっていないのに、さっきとは全然威力が違う」


『そうだな。いまは、機動力の世界干渉を兵装にに移行させてある。この火力はその賜物だ。本来ならこのようなことをしなくても、このくらいの火力は通常でも出せる。まあいつも言っているが、訓練の足りていない今のデルタには、そのような高度な処理はできないだろう』


「耳が痛いや。これが終わったら、がんばります」


 眼下には青い炎が、渦を巻いている。デルタは、ほっと肩の力を抜いた。爆音が過ぎ去り、わずかに沈黙が流れていた。


「多分これで終わりかな。あれだけの大火力をぶつけたから、もう、さすがに生きているってことはないよね?」


『そうだといいのだが     デルタ、回避行動』


 青い炎を割くように、3つの火球が飛び出して来た。不意を突かれたようになったデルタだったが、2発は何とか躱しきる。


「3発目、よけられない。こ、この!」


 機銃の弾が、火球に吸い込まれ膨張。大爆発を起こす。デルタは、あまりの近距離で爆発したため、その熱と火から完全に逃げきれなかった。


『姿勢制御。ダメージコントロール』


「く、体を水平に……」


 いままで、コンディショングリーンを指し示していた、各箇所が、一瞬にしてコンディションイエロー、またはコンディションオレンジに染まる。再度、3発の火球が青い炎をかき消して飛び込んでくる。デルタは、一度、上空に退避する。火球は、まるで目が付いているようにデルタを追いかけてくる。


「多分、こちら魔力を追尾してると思う。オプションベイ展開。デコイ1番2番。フレア展開」


『了解。コンフューズスモークも使用するか?』


「うん、ゼクスマキナに任せるよ」


 上昇を続ける戦闘姫を追いかける火球は、戦闘姫から出る煙に巻かれ、ほんの一瞬、その姿を見失う。再び、それを発見したときには、それは、3つに分裂していた。3体いたと即座に判断した火球は、その人数に同時に対応した。1体目の戦闘姫は、なすすべもなく、業火に包まれ、燃え尽きた。2体目の戦闘姫は、ほんのわずかに回避行動をとったものの、その進路をふさぎ、近接距離で膨張大爆発。それに巻き込まれて、その肉体は、バラバラになって地に降り注いだ。


『次 来るぞ』


「フレア展開」


 デルタの魔力を纏ったフレアが宙域に巻き散らかされると、火球はほんのわずか、困惑したように動きを鈍らせた。そこに、デルタの機銃が襲い掛かった。火球は、もろともに消えて後には静寂が残った。


「これで、終わり……っと。あれだけ打ち込んだのに、これだけの反撃が来るなんて……一体どうなっているの?」


『わからないな……現在、高度800といったところか。デルタ、ヴェールの視覚をズームモードに切り替える。直接視覚で確認してほしい』


 デルタは、頷くと、ヴェールを通して、地上の様子を確認する。その様子が、明らかになるにつれて、デルタの顔から血の気が引いていった。


「一体どうなっているの?さっき、あれは……」


『答えるすべを我は持たないが――少々まずいことになった』



 

 そこには、さっき壊滅させたはずの獣の群れが、まるで何事もなかったかのように地を覆いつくしていた。

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