力の開放 2
「あ、あれだけの打撃を与えたのに……」
デルタの目下には、再構成された敵の軍勢が、寄り集まり、威嚇するようにうごめいていた。
『だが、どうやら相手は無傷というわけではないさそうだ おそらく予備戦力を投入したのだろう』
ゼクスマキナの提言に、デルタは、落ち着くと同意するように頷いた。あれだけの攻撃、相手は確かに削れているはず。……そのはず。
「ゼクスマキナ。迎撃兵装展開。相手の気勢を削ぐ」
『了解。広域迎撃兵装展開。無制御 最大火力 発射』
青い炎の塊が、地上に向けて放たれる。それにまるで反応するように、小型の獣が、群れを成して襲い掛かった。焼かれ、燃え尽きながらも、広域迎撃にくらいついて行く。
『まずいな、相手も学習しているということか。こちらの火力を削ごうとしているな』
地面に着弾する。巨大なドームを2つ作り出したが、明らかに、その規模は、前回のものを下回っていた。相手も学習している。そのことが、どれだけ大きいことか。それを感じながら、デルタは、下唇を噛んだ。それでも、地上に到達した爆音が そこから生まれ出ずる青き火の刃が、大地に届き、黒い海を切り裂いた。切り裂き、のたうつそれを容赦なく削っていく。
それでも、このまま続けてもおそらく届かない。そうデルタの胸中に焦りにも似た感情が生まれた……その時だった。
「あ、ああー、こちらの声が聞こえたのならば、返答してほしい」
不意に、通信が届く。デルタは、驚き、ヴェールの機能の確認をする。特に通信が届いているという形跡はなかった。つまり、同じ戦闘姫や魔属領からの通信ではないということだ。
ただ、レシーバーから届く声は、不思議と、安心できる声だった。
「ゼクスマキナ、通信が入ってるけど、確認できる?」
『デルタ、確かに通信を確認しているが、場所は不明だ。怪しいと言えば怪しいが……』
デルタはほんのわずかに思考を逡巡させた。今は、地上からの攻撃は一時中断している。すうっと息を吸いこんだ。
「はい、聞こえています。」
「いい子だ。戦闘姫、こちらは味方だ。援護攻撃に入り、そちらの撤退を支援する。そちらの呼称を教えてほしい」
「私は、デルタ12です」
「――デルタ12。了解した」
なぜか、ほんのわずかに間があった。だが、それでもすぐに返答が返ってきた。
『デルタ対象アクティブ 攻撃が来るぞ』
不意に地上からの攻撃が始まる。再び、誘導火球がデルタを捕らえる。デルタは、迎撃と回避に専念しようとした。まさにその時だった。
「待たせたな。デルタ。これより援護に入る」
懐かしい声の後に、火球にミサイルが吸い込まれ、爆散する。
「斎藤さん。あれ、その人たちは?」
「まあ、同僚といったところだ」
斎藤機の後ろには、スティーブの機体によく似た構造の機体と珍妙な形の機体で構成された部隊が続いていた。
「全機に通達。対象は召喚能力を有している模様。」
「召喚能力?あの、ちょび髭と同じ能力か?」
ひゅっと、誰かが息をのんだ音と驚きを多分に含んだ呟きが、デルタに聞こえた。
「ゼクスマキナ?召喚能力って?
『説明は後だが、常に、無傷の軍勢を現地に用意できる能力だ。 道理で だとすると少しまずいな……対象の体躯の巨大さにばかり気を取られていたが、そう言う仕組みだったとは。悔しいが単機火力では、とても歯が立たない』
デルタと、ゼクスマキナが話している間にも、地上の対象に攻撃は繰り返されていた。爆弾、地上掃射、光学兵装が、地上に襲い掛かる。それは、瞬く間に、小型の獣を削り取り、中型の獣をバラバラに砕き切る。
地を覆わんばかりだったその群れは、瞬く間に、その勢いを減じる。
その瞬間だった、雲を割いて、地上に榴弾が、速射砲が、機関砲が火を噴いた。デルタが見上げた先、雲の先に、巨大な飛行物体がいることに気が付いた。
「あ、あれは……」
「全機突撃。フルスロットル。敵の飛行機械を撃滅する」
アルファ1の声と共に、戦闘姫たちは、見たこともない空飛ぶ物体に、攻撃を開始する。それは、まるで大きな鳥のような姿に見えた。
「敵機体は、形状から判断して、対地攻撃能力こそ高いものの、対空攻撃力は、大したことはないと思われる。ローズブラボー1、上を取れ。対艦攻撃を許可する。一気に打ち下ろして終わりだ。」
アルファ1の命にしたがい、ローズブラボーと呼ばれた部隊が、上空へと駆け抜ける。そして、一気に旋回する。
「ローズブラボー1 フォックス1」
「ブラボー2 フォックス1」
「ブラボー3 フォックス1」
同時発射された3発もの特殊弾頭が、その飛行物体に集中する。それは、大空に跡形も残さずに消滅するはずだった。
「――弾頭ロスト――」
「ば、馬鹿な?3発の特殊弾頭。しかも3秒後同時起爆だぞ?そんなことができるやつが……」
「映像来ます。共有開始」
そこに写っていたのは、何事もなかったかのように、抜身の刀を手にたたずんでいる、老齢の域にある男性だった。奇妙な服、そして、動きを阻害しない程度の防具しか身に着けていない。
老人が、手に持った剣を頭上に掲げ、くるりと回すと、それを納刀した。
精錬されながらも、奇妙な行動だった。訝し気に見ている部隊に、悲鳴が届いた。
「チームアルファ、こちらローズブラボー。攻撃を受けている。援護を、援護を頼む」
アルファ1は、慌てたように、ヴェールを起動する。ちょうどそこには、空中に、血の華が咲き、無数のもの言わぬ肉片となり、海に落ちていく同胞の姿が映っていた。
「ローズブラボー、早急に離脱しろ!早く」
「そ、そうする。そうぃ……」
その声を最後に、ヴェールからすべてのローズブラボーの反応が消える。間違いない。あの老人が、これを成した。
「……アルファ1……対象は、単体で世界干渉能力を所持していると思われる。間違いない。相手は、この世界の対侵略兵装だ。」
「ゼクスマキナ、お前はどう思う?」
『アルファ2の意見に同意します。提案。対象の反撃不可能な攻撃で対抗するべきです。』
「それは、戦艦の主砲クラスならば可能か?……ローズブラボーのリボーンにはどれくらいの時間がかかる?」
『戦艦の主砲であれは、一考の余地はあるかと。現在は、オペレーション解凍中のため ローズブラボーのリボーン時間は不明。予想として、60分以上はかかるかと』
「……戦艦の主砲ならばか。……この場にいる戦闘継続可能な要員、全てに命じる。しばらく、その任務を私に預けてほしい。」
反応が返ってくる。皆、当然のように、私の言葉を受け入れてくれた。
「ゼクスマキナ、しばらく、この体を頼む。女王の玉座、私のいるポイント。すべての戦闘姫に、『力の開放』用記憶転送。全姫に命令。相互接続開始。全姫、自我停止」
『成し遂げてみせましょう。アルファ1。
女王の玉座より記憶転送。100%到達。各員の意識防壁 マスターコードにより解除。記憶域強制解放。記憶注入開始。相互意識強制接続開始。世界干渉制御開放。世界干渉上限設定なし。ターゲッティング開始。ターゲット固定』
青い光を放つ戦闘姫に囲まれた飛行物体。アルファ1のゼクスマキナがターゲッティングするその先で、老人は、ほんのわずかに眉を顰めると、実に楽しそうに、そして不敵に微笑んだような気がした。
『対象ロックオン完了。すべてのシーケンス完了。発射タイミングをアルファ1に委ねます』
「受けろ!力の開放!!」
「っ!」
『どうした、デルタ12?』
デルタは、ほんのわずかに起こったフラッシュバックを何とか受け入れた。
「な、なんでもない。戦闘を継続します」
「無理をするな。デルタ。大方の討伐は終わった、一時休止だ」
斎藤機から無線が入る。ふと地上に目を落すと、そこには確かに、あの超級1体だけが残されていた。
「キャプテン斎藤。対象に、高レベルの世界干渉反応を確認。対象が、召喚を行っている可能性がある。」
「……厄介だな。チェアマン。バンカーバスターはまだ、使用できないのか?」
「残念だが、まだできない。あれは装填式だからな。もうしばらく時間がかかる」
とりあえずの答えというように、グレネードの雨が、地上の超級の獣に襲い掛かるが、それだけでは、その巨躯を止めることはできない。
「まずいな。対象移動を開始。方向は……魔属領の陣地だ」
「あれが、その方向から、何かを感じ取ったということか。現地部隊との交信は?」
「だめだ。こちらの部隊との通信自体は可能だが、司令部との交信ができない。――」
あちらから聞こえる通信に、焦りの声が混じっているのが聞こえた。そんな時だった。
「戦闘姫 デルタ12」
不意に、今まで通信に割り込んできていたなかった声が聞こえた。
「は、はい?なんでしょう?」
「一つ、お前に問う」
その声に、なぜか、緊張を覚えた。ごくっとつばを飲み込む音がヴェール内に大きく響いた。
「お前は、戦艦並みの火力を瞬間的に出すことができるか?」




