戦闘姫 初戦闘をする 3
『イハーブ、画面に必要な項目を追加表示した。確認してくれ』
デルタは、ゼクスマキナの言葉のしたがって、表示された項目に目を移す。
高度、速度、機体角度などの表示に加えて、各種武装……新緑の籠には、機銃しか武装はないらしく、その残弾数が表示されていた。
そこに新たに、オプション装備が追加されている。
「オプション?」
デルタが、そう呟くと、その項目が展開される。フレア、レーダー……。今まで見たこともない文字が表示されている。
『これが、オプション装備。ドレスの拡張性の一つだ。オレンジで訓練している時は、考えなくてもよかったが、今は実戦だ。
デルタリーダー、オプションのブースターの使用を提案する』
「ええと……あ、これか。了解。ブースターを使用?」
そうデルタが、つぶやいた瞬間だった、スカートの一部が展開されて、何もない虚空から、大型のノズルが、4つ出現する。そこから、炎にも似たものが噴き出し始めた。
『ブースター接続。接続テスト……グリーン。よし、デルタリーダー、ブースター点火と言ってくれ』
「わ、分かった。ブースター点火」
デルタの言葉と同時に、4つのノズルから巨大な赤い炎が上がり始め、それは赤から青そして、透明になっていく。それと同時に、機体速度も上昇していく。いきは、どう頑張っても、350くらいにしか上がらなかった機体速度は、400を軽く超えて、500に届きつつあった。
『10分間だけ加速し、残りは、慣性移動に切り替える。これで、到着時刻を30分短縮し、更にエンジンの出力を抑えることができるはずだ』
ゼクスマキナの言葉も、まともに入ってこないように、デルタは過ぎ去っていく雲に、空に、驚きを憶えながら飛んでいた。これだけの速度で飛ぶのは、始めてであるはずなのに、デルタは不思議な懐かしさすら感じていた。
10分間の高速飛行を終えて、そのまま、着陸コースに移行する。雲を抜けて、地上を目にすると、そこには、小さな蜘蛛の巣のように作られた陣地が見えてきた。それを見たデルタは、うん?っと、疑問の声を上げた。
「ねえ、ゼクスマキナ、なんだか、陣地が、大きくなっているような気がするんだけど?まだ、時間的にはそんなに経っていないよね?なんだか、出ていった時と、ずいぶん様子が違うね」
『どうやら、あちらもだいぶ立て直しが進んだようだな』
ひときわ大きな陣地に設営された天幕から、見知った顔が出てくるのを見て、デルタは、とりあえずそのまま、着陸態勢に移行する。速度と高度を落し、地上すれすれで、反力場を展開して、軍服の男性の前で、ホバーする。ふと気になって、あの女性を探してみるけど、とりあえずは、その場にはいないようだった。
「ずいぶんと早いお帰りだな?ところで、大倭の奴はどうした?」
その人は、訝し気な表情を浮かべて、こちらに聞いてきた。
「ダンジョンにて、大規模な氾濫が発生しました。僚機は、足止めのために、その場に残りました。私は、陣地に危険が迫っている可能性があるので、伝達の命を受け、ここに戻ってきました」
ゼクスマキナに指示されたとおりの文言を読み上げる。見る見るうちに、男性の顔が、渋くそして、かすかに怒気を感じるようになる。
「戦闘姫……お前は、みすみすと、逃げてきたというわけか?ここに、相手をおびき寄せるために……あとは、逃げるつもりというわけか?」
「そ、そんなことは考えていません」
デルタは、明らかな敵意をぶつけられて、一瞬怯むが、すぐにかぶりを振って、反論する。もし、ここで逃げてしまったら、きっと、アリアは、デルタを見限ってしまうだろう。そんな未来など考えたくなかった。
「逃げるつもりはないか……どこまで信用できるかはわからないが……我が陣地は、まだ、再生の中途にある。完全な戦闘力が、戻るには、まだ、時間がかかりそうだ。そこを攻められては困るからな……さて、どうしたものか」
その男性の言うことはよくわかるつもりだった。
『どうするイハーブ?』
「……私は行くよ。ゼクスマキナ。きっとここで……」
『イハーブならば、そう言うだろうと思っていた』
反対されると思っていたデルタは、驚きの表情をその言葉に対して浮かべ、そして、確かな表情を浮かべた。
「私が、相手を足止めします。その間に迎撃準備をお願いします」
その言葉に、男性は少し意外そうに眉をひそめて、デルタを値踏みするように見る。そして、少しの時間の後にかすかに頷いた。
「戦闘姫が、我々に協力するか……どういう風の吹き回しかは聞かないとしておこう。いいだろう。ただし、対象の数などは、常に報告してもらうぞ」
「了解」
『準備をする。イハーブ、コンテナの上に移動するぞ。時間がない。急げ』
「戦闘姫、これより、出撃準備に移ります。コンテナの上をお借りいたします」
許すとの言葉を最後まで聞かずに、デルタは、コンテナの上に降り立つ。
『イハーブ。わかっていると思うが、これからは、本格的な戦闘を経験することになる。本来なら、十分に訓練をしたいところだったが……』
「ゼクスマキナわかってる。でも、斎藤さんが教えてくれたから。大丈夫」
ほんのわずかな間、2人の間に沈黙が流れた。しかし、デルタは、感じていた。ゼクスマキナがデルタの言葉を、楽しそうに微笑んでいるようにも感じた。
『そうだ、鬼退治の訓練通りにすればいい。イハーブ ハンガーを展開する ドレス”白銀の銃” デルタリーダー、搭乗を許可する』
あっという間に展開された、目の前の白の空間の中に、それよりも白く輝くドレスが、吊るされている。ここ3か月の間一度もまともに着ていないドレス。その光は、まるでデルタを待っていたかのように、眩いばかりの輝きを放っていた。
「搭乗?装着じゃないんだね」
『今回は、完全装備だからな。少し前のデルタリーダーならば、まさに着られているというという感じだったが、
今のお前ならば大丈夫だろう。今回は、我は完全にサポートに回らせてもらう』
デルタは、”白銀の銃”にすっと手を触れる。あっという間に、その体にドレス”白銀の銃”が纏われる。以前のような、挙動の重さもなく、エネルギーのチャージも必要とせず、そのまま、かすかにそのドレスは、地より離れた。
それを感じた、デルタの心中に訪れたのは、驚きよりも、納得感といった感情だった。
「もしかしたら、わたしって、このドレスが、ものすごく好きだったのかな?なんだか、すごくなつかれているみたい。久しぶりに着てもらえて喜んでいるような気もする」
『そうかもしれない。それに、ドレスが戦闘姫を懐かしんでいたとしても、おかしいことではない。もっと、かまってやれ。
さて、おしゃべりはここまでだ。 全システム、チェック開始』
その言葉が、合図であったように、現実の空間が、デルタの周りに戻ってくる。デルタも、各部のチェックを行う。
『各システムチェック完了。オールグリーン』
「デルタリーダー、コンディショングリーン。エンジンリアクターにコネクト、ドレスの各部位世界干渉を開始。」
『世界干渉のレベル設定は、3としろ。本来は、レベル5以上に設定したいが、今のイハーブでは、ほんの10分も稼働できないだろう』
その言葉に不思議なものを感じたが、デルタは、それ以上問わずに、世界干渉のレベルを3に設定する。
『これで、基本的な武装は使用できる。武装の確認をするぞ。万能機銃2丁、空対空小型誘導弾、空対空万能誘導弾、広範迎撃兵装。各兵装の残弾を確認してくれ』
デルタは、始めて、武装格納区画をの項目を確認する。そこには、今ゼクスマキナから示された各武装が整然と示されていた。
「機銃 残弾300。空対空小型誘導弾 残弾50。空対空万能誘導弾 残弾20。広範迎撃兵装 残弾10。すごい武器の数だね」
『そうでもない。もし考えもなく全力で戦ったのならば、この武器庫は、5分も持たずに空になる。イハーブ、お前がいかに精神力を振り絞ろうと、生命力を削ろうと、この武装に影響することはない。継戦能力の弱さ。それが、戦闘姫の弱点だ』
そうなんだと思いながらも、デルタは、その言葉を納得ができるように頷いた。
「だからこそ、そうなんだね。……私頑張ってみるよ。ゼクスマキナ。進路確認」
『了解。進路確認。オールグリーン。デルタリーダー、出撃許可』
「了解。女王の玉座所属。イハーブ・デルタ12出撃します」
コンテナの上から、銀光が空へと駆けた。
「やっぱり、彼女は空が好きなのね。それとも、空が彼女を好きなのかしら?」
もう一つのコンテナの上、あの女性と大きな棒を抱えた少年の姿があった。女性は楽しそうに、空に昇っていく、銀光をまぶしそうに見ながら、少年に問いかけた。少年は、少し不満そうな表情を浮かべたが、それを押し込めると、女性に応えた。
「それはそうでしょう。彼女たちは、そう作られて、そう生きてきていますから。空に生きていることは、不思議なことではないです。あなたも、それをわかっているはずですよね?」
そう返された女性は、ふっと、笑みを浮かべると、再び、空を見上げる。それに、対して、さしたる干渉を持っていないような様子だった少年だったが、何かに気が付いたように、すっと踵を返した。
「あら?動きがあったのかしら?」
それに対して、ああ、と小さく頷く。
「どうやら、あなたが、まいた種が見事に花を咲かせたらしい。うちの上司が、この間からずっとうるさかったが、早く帰って来いと、泣きながら訴えている」
「ああ、そうなんだ。やっぱり、あの子負けちゃったのね。20年間負けなしだったから、今回も頑張れば、勝てるかなって思ったのに残念」
さして残念がる様子もなく、コンテナに、あお向けに寝っ転がる女性。それを後ろ目にみながら、少年は、ふうっと大きなため息を吐くと、また後でというと、静かに消えていく。残されたのは、女性だけだった。
「さて、一休みっと。これだけおぜん立てしたんだから、戦闘姫は、自分で何とかしてくれるでしょう」
女性は目を閉じると、すうすうと寝息を立て始めた。




