戦闘姫 初戦闘をする 2
陣地から離れると、そこには、見渡すばかりの茶色い荒野が広がっていた。そのあちこちから、煙が上がっているのを見ると、おそらくそう遠くない前に、戦闘が行われたのだろう。だが、その痕跡はあれど、敵となるものを見出すことは、デルタにはできなかった。
「すごい光景だね。ゼクスマキナ」
『ああ、そうだな。戦闘の後だとは思われるが、これほどの状況を作り出せるとは』
2機は、生きるものがいない空を駆けていく。
「気を付けろ、計器類に異常な反応が出ている。そちらでは観測できていないか?」
「あ、はい、確認します。ゼクスマキナ」
『確認している。と伝えてくれ』
「ええと、確認しています」
そうかとだけ、斎藤の返答が返ってくる。
『デルタリーダー、先に言っておくが、おそらく、彼が観測しているものと我々が観測しているものが同一であることはないと思われる。我々の観測能力は、彼らよりも上にある』
ゼクスマキナが、何か優越感を出すように、デルタに言葉をかけてきた。
「ええと、そうなの?」
ゼクスマキナは、一旦言葉を閉じ、ほんのわずかに逡巡するように、言葉を書いては消ししていたが、意を決したように、次の言葉をデルタに告げ始めた。
『いい機会だから伝えておく。我々……戦闘姫は、単純な推力を発生させて飛んでいるのではない。自らの世界を利用して、この世界に干渉を行い飛行を行っている。今のイハーブには、これ以上の説明することができないが、対象からの干渉が強ければ強いほど、今のイハーブが、戦闘姫の力を出すことが難しいと思ってくれていい。我々は、その干渉力や、対象に対する改変能力の強度を計る能力が備わっている。これは、彼らにはない能力だ。』
早口のように表示されるその言葉に、デルタは、分かったとだけ答えた。
『今向かっている先は、先ほどの陣地の空間に比べると、干渉が強くなっている。現環境下では、オレンジの着用は許可できない』
「今は、訓練できるほど余裕はないってこと?」
その言葉に、一瞬ゼクスマキナが笑みを浮かべたようにデルタは感じた。
『そう言うことだ』
その言葉を返した時だった、斎藤機から、通信が入る。
「イハーブ、こちらの観測は完了した。世界干渉の数値が、先ほどの場所の2倍に膨れ上がっている。うまく説明はできないが、強力な相手がこちらを認識し干渉を行っている可能性がある。十分に気を付けろデルタ」
斎藤の言葉に、デルタは頷き返す。ただ、ゼクスマキナはその言葉に十分なショックを受けているようだった。
『……馬鹿な……こちらと同等の技術というのか?』
「はい、気を付けます!……ゼクスマキナ」
『……――ああ、分かっている。各種センサー稼働。対象の干渉力を考慮』
デルタは、無線を切って、ゼクスマキナに呼び掛ける。ほんのわずかな間、動揺していたような感じがしたゼクスマキナはデルタの声に応えた。各種センサーが起動する。
「斎藤さん、干渉センサー、振動センサー、あと、改変センサーに感があります。」
そこまで伝えた瞬間だった。視界にあった岩が大きく吹き飛ぶ。そこにあったのは大穴。そこから、黒い何かが大地に染み出してきていた。
「ダンジョンの氾濫だ……どうやら見つかってしまったらしいな。イハーブ、その機体に、何らかのステルス機能は何かあるか?」
「えっと、」
『デルタリーダー、残念だが、この機体には、そのような性能はない』
デルタは、一瞬顔をこわばらせたが、かすかに頷いた。
「斎藤機、わたしの機にはそのような機能はありません。」
「……気にしなくてもいい。」
実際にはそうではなかったのだとしても、その声に、デルタは斎藤の失意を感じたように思った。
「イハーブ、これから、本機は調査索敵から、戦闘を主としたシステムに切り替えを行う。イハーブは、各種センサーで、できるだけの情報を仕入れて、持ち帰ってくれ。援護する。…大丈夫だデルタ。期待している。通信終わり」
斎藤の気遣っているような声が聞こえ、静寂が戻った。
「ゼクスマキナ、各種センサーの稼働状況を隠さずに教えて。」
デルタの声に、一瞬の沈黙がその場に流れた。
『まず、地中振動センサーはさっきから、数値が降り切れている。おそらく多数の物体が、地中を移動中だと推定される。空間センサーは異常値。他センサーについては……』
各種センサーの説明をゼクスマキナから受けたデルタは、その情報を、逐一斎藤に伝える。斎藤機は、その間に何度か、地上を機銃掃射する。しかし、大穴から溢れてくるそれを止めることは、なかなかできていない。
「確かに、通常兵装では、効果がうすいか。スティーブの報告の通りだ。イハーブ!」
「は、はい。なんですか?」
斎藤の声が、強く拒絶する感じを出している。デルタは、次の言葉に備えるように唾を飲み込んだ。
「現戦力のみで、対象の殲滅は不可能だ。これより、本機は、戦闘行動を開始する。デルタ機は、直ちに転身し、陣地にて待機を命じる。おそらく、フロッグの到達は、早ければ、1時間以内と見込まれる。」
「……斎藤さん、わたしも……」
斎藤機が、小さくなり、一瞬で大きな爆風が、数か所、地面から立ち上がる。おそらく斎藤は戦闘に突入したのだろう。
「イハーブ、今の能力では、君は戦闘面での戦力になりえない。だが、君は素晴らしい力を秘めている。……だからこそだ。今できることをしてほしい。君が、なすべきことをしてほしい」
聞こえてくる斎藤の声を、まるで集中して聞くためというように、デルタは、一旦空中に静止し、一度目を閉じた。
『デルタリーダー、斎藤の言が正しいと思う』
斎藤の声を肯定するゼクスマキナの言葉に、デルタは静かに目を開いた。
「斎藤二尉、イハーブはその命を受けます。……どうか、ご無事で」
「ああ、俺が、帰ったら散々しごいてやる覚悟しておけ」
「楽しみにしています。デルタリーダーこれより、伝令に戻ります」
空に緑の軌跡を描き、デルタの姿が見えなくなる。
「全く、あなたは、いつでも優しいわね。セカンドルーキーは、あの聞かん坊と違って、命令とかきちんと聞くタイプみたいだから、よかったけど、分の悪い賭けじゃなかった?」
「そうでもないさ。あれは、そういうものだ。一願殿の教えが正しかったというわけだな。さて、せっかくここまで来たんだ。伝説のシノビの力、ここで十分に見せてもらう」
斎藤は、そう笑みを浮かべると、急降下し、地上掃射を再開する。音速に近い速度で動いている戦闘機の上に、まるで忍者のような人物が、いつの間にか、何事もないかのように立っていた。
「そう言うのは嫌いじゃないわ。梟から連絡があったわ。その間の足止めだけでもさせてもらおうかしら。」
その忍者は、覆面をすっと持ち上げ、機銃掃射中の戦闘機の前方に飛び、軽業のように機銃の球を蹴り一気に加速する。目の前の獣が、機銃を受けながらも、反撃に転じようと、斎藤機の方へ、身を向き直った瞬間だった。
忍者が投じた刀が、首に刺さりそれを、再び手に取ると、深く刺さったそれを、獣の喉元から腹に向けて切り裂いていく。一糸の乱れもないその軌跡がやがて地上に達する。ほんの刹那、その姿が露わになる。獣たちが、その存在に気が付いたのと同時だった。
忍者の存在に気が付いた獣たちによる、赤い道が、そこに現れた。その長さ、おおよそ1km。その全てを獣の死体で作られた殺戮の道。その赤の中に白い一点が見えた。
「血遁術……血河一滴」
チンッと、刀を鞘に納める音が聞こえたような気がした。その瞬間に、その線は円になった。その円が連なるように、茶色い地に次々と赤い円が作られていく。
「さすが、ニンジャマスター!これは、俺も負けていられないな!」
斎藤機が、大型弾頭を投下し、赤い円を追おうとする獣たちを、まるで殉死させるかのように、炎の大輪の花が咲いた。それをまるで合図とするかのように本格的に獣たちも攻勢に転じた。
2人は、確かに強かったが、それでも、ただの2人では、数に勝る獣、全てをとどめることなどできようはずはなかった。その輪から外れた、一団は、まるで、デルタがどこに向かっているのかを知っているかのように、その軌跡を追いかけていく。その一団の点に、他の穴から湧き出てきた多くの黒い獣が、合流していく。
もう止めるものもない荒野を走る線が合流し、時に別れながら、まるで何らかの糸を持っているかのように、地を駆けていく。もし上空からその様子を見ることができたのならば、まるで、2つの黒い蛇が地で踊っているようにも見えただろう。




