戦闘姫 初戦闘をする 1
スティーブに誘導されるままに、その真ん中に降りたつ。
あっという間にかこまれ、銃を向けられた。
そんな中割って入ったのは、意外な人物だった。
「ほらほら、そんなに慌てても彼女は何も出せないわ。もう少しゆっくりするっていうことを憶えてもいいと思うわ」
「しかし……」
「しかし?なに?目の前で武装もしていない相手でも、自分が敵だと感じたらすぐ撃つっていうの?じゃあ、内地勤務の閑職がお似合いね。どうするの撃つの?撃たないの?」
漆黒の紅い燐光が動くたびに、その軍人たちは、銃を引いた。
気が付いたら、皆が銃を治めていた。当然、わたしに敵意を向けてくる人はいる。
「あの!本国から、救援物資を持ってきました!」
大きく声を出し、手から命令書を出す。それに、本営元帥の名と本国少将の名が書いてあるのを見て、ほとんどの人が、感嘆と安どの息を吐いた。残った皆を、あの人が治めている。不肖不肖ながら、その声には賛同するらしく、武器をとりあえず治めるものがほどんどだったが、その目から敵意は失われていない。
『やはり、難しいようだな』
「うん、でも、こんなところで躓いていなんかいられないよ」
ようやく、混乱が治まってから、スティーブが、顔を出した。
「大丈夫か?リトルスティール?」
今更とは思ったけど、それでもうれしいにはうれしかった。
「ええと、わたしの名前は、イハーブです。あと、大丈夫です。ええと、これから、補給物資を出します。前方は危険範囲ですので、下がってください」
「そんなこと信じられるか!?」
「そう言っておきながら――それを信用しろというのか?お前からの言葉を!」
辛い言葉が胸をさす。でも。
「この子はそんな子じゃないよ。もしそうだとしたら、わたしが止めるから。みな、少し、落ち着いたらどう?デルタ?それともイハーブ?どっちでもいいわ。やっちゃっていいわよ!」
その人の言葉が、染み渡る。私はできる。だから。
「出します!前方の方は、早く逃げて下さい!格納物資の次元連結解除」
『了解、次元連結解除。格納プロトコルに沿って、解凍開始。格納物質、捜査開始。走査完了。異常なし。基礎情報からの解凍プロセスを開始。――解凍終了。物質再現開始』
デルタの右手に集まった黒い塊は、やがて、まるで最初からそれであるかのように形を取り始めた。その様子をぼうっと見ていた兵士たちだったが、その影が、自分の頭上にあると知って、とっさの回避行動を開始した。
『回避行動完了。効果範囲内に兵士の影無し。物質再現完了。顕現のタイミングをデルタリーダーに移行』
「了解!物質顕現開始!いっけえええええ」
デルタの手から出たそのコンテナは、そのままの大きさで、最初からそこにあったかのように、陣地内に顕現した。
「きちんと使いこなせているようね。安心したわ。でも、気を抜いたらダメよ。デルタ。格納中のもう一個を」
『なぜ、彼女がそれを知っているのだ?』
彼女、黒い肌の人の言葉に、ゼクスマキナが驚きの声を上げる。それに対してデルタは、答える手段を持っていなかった。とはいっても、
「さあ、でも、もしかしたら、誰かから連絡が言っているのかも。了解しました。もう一個の解凍作業に入ります。ゼクスマキナ!」
それでも、その場では不思議に感じることなく、そのまま作業を続行する。
『格納№2解凍開始。走査終了。基礎情報解凍。物質再現作業へ移行。再現用意完了。物質顕現プロセスの開始を、デルタリーダーに移行』
ゼクスマキナの言葉に、両手を添える。両手の中に黒い圧縮された塊が生じる。デルタは、自らの言葉で、説明はできないけど、不思議と不安よりも、困惑よりも、明らかに……明らかに自らの役割を実行できる喜びの方が勝っていた。
「デルタリーダー了解。物質再現完了確認。物質顕現開始」
『了解。物質顕現』
そこには2つの巨大なコンテナが、まるで最初からあったかのように、皆を見下ろしていた。
「これほどの物を運べるなど……?」
聞いていないと言いたげそうな隊長の尻を、その人は蹴り上げた。
「ほら、言ったでしょう?この子はすごい子なんだって!さっさと、陣営の立て直しを始めなさい!早急にするのよ」
その人が、それだけ言うと、その軍人ような人たちは、コンテナの中身を取り出す作業と、陣地設営に戻る。そんな中、その人は、デルタの方にやってくる。怒っていると思わせながら、その瞳は笑っていた。
「あなたデルタね?私は、討伐ギルド受付嬢のアマンダ!よろしくね」
「あのわたし」
デルタはその声に、ほんのわずかに違和感を感じる。この人とは出会ったことはあるでも、こんな仲じゃないはず。
『いや、前回は世話になった。しかし、あのようなことは、今回限りにしてもらいたい』
「ゼクス?マキナ?」
急に語りだしたゼクスマキナの言葉にデルタは、困惑した声を上げる。
「前回はごめんなさいね。どうしても必要だったから。5か月ぶりといったところかしら?デルタ久しぶりだったわね。元気にしてた?」
その人が胸を逸らす、その谷間に光る赤い宝石から発する光が、わたしを照らす。
「各コンテナ問題ありません。これより陣地の再設営に入ります。救護陣を最優先として立ち上げろ」
技官の人の声で、デルタは正気に戻った。
『……』
ゼクスマキナの言葉の残滓が残っている。デルタは、ゼクスマキナの呼びかけに答えられなかったと、少し驚いた表情を浮かべた。
「デルタ、大丈夫?」
「あ、いえ、大丈夫です」
アマンダと話をしている時だった。
「ほう、上手くいったようだな。さすが戦闘姫といったところか」
「斎藤さん、上手くできました。」
デルタの声を聴いて、斎藤が破顔した。スティーブが、特に驚いたような表情を浮かべる。
「おい斎藤。こんな最高にクレイジーな奴と飛べるなんて、ずるいぞ。全く、リトルスティールが、科学系のヒーローのサイドキックかとかと思ったら、魔術系のヒーローのサイドキックだった。それだけでも、驚いているんだが。――あー、もしかして、日本で有名な魔法少女って、こんなやつらばかりなのか?こんなのがいても、護り切れないとか、全く、日本はどんだけ治安が悪いんだよ?」
「すまないが、自動翻訳機の調子が悪いようだが、少なくてもわたしがいた時代の日本は、治安がいい方だと思っているがな。ヒーローの価値観は、各国によって違うのは知っているだろう?だが、今の状況を見れば、そうとは思わないはずだ。それでも、貴国のヴィラン率を見ると、ヒーロー足りなくなるのはよくわかるがな」
「へ、うるせえ。しかし、お前が、斎藤さんって呼ばれているとはね。鬼教官のあんたが」
スティーブがデルタを見てきたのを見て、びくっと、身を震わせた。
「やめておけ。それより、残弾はどうなっている?」
「ああ、俺のサンダーバードは、通常弾薬残量無し。あと、エンジンの洗浄も必要だ。すまないが、交代頼む。あと、斎藤二尉。対象との交戦データ。相手は、特異存在。通常火器の事象では効果がうすい。攻撃属性の変更を提案する。では、スティーブ准尉、帰還し補給を受けます」
「交戦データ受領した。スティーブ准尉、帰還を許可する。帰還時に鵬に連絡を。」
デルタは、目の前で繰り広げられている、言葉の応酬に驚きの表情を浮かべていた。斎藤二尉とスティーブが発したあたりから、空気が変わった。てきぱきとした動作、気が付いたら、それに見惚れていた。
ふと思い出す。
「デルタ12着任しました」
「デルタ12の着任を確認しました。休んでいいわ。では、」
ドアが開く、2人入ってくる。
「あ、これが新しい子?」
「あ、ダメですよ、アルファ3。司令、申し訳ありません」
「ふふ、アルファ3。ベータ5。紹介するわ。今回の任務の要、デルタ12よ」
デルタは立ち上がる。
「で、デルタ12と言います!!よろしくご指導をお願い致します。」
「アルファ3だ。時間も限られているから厳しくいくぞ。」
「ベータ5よ。よろしくねデルタ12。頑張っていきましょう。あなたの任務の成功を願っているわ」
二人の顔……それどころか、誰の顔も思い出すことができない。
私の任務……わたしの任務って……何なのだろう?
『どうした?デルタリーダー、大丈夫か?』
「ええと、イハーブ?ええと、この場合は、デルタでいいのかしら?大丈夫?」
ゼクスマキナの言葉とアマンダの声で、デルタは、再び現状を確認する。
「あ、あの、大丈夫です。」
『どうしたデルタリーダー、具合が悪いのか?』
「そうじゃないんだけど……う~ん。なんだか落ち着かなくて」
周りを見回すと、自分の周りには、斎藤さんとアマンダだけが残っていて、他の人たちは、忙しそうに手を動かしていた。
「戦闘姫!戦闘姫!!」
そんな中、呼ぶ声が聞こえた。そちらを見ると、魔属領の軍人が立っていた。
「な、なんでしょうか?」
デルタは、ふよふよとそちらの方へ向かっていく。
『戦闘姫は、地上付近での戦闘が苦手だ。訓練と思ってやってくれ。デルタリーダー、ホバリング。高度、0.5固定』
デルタは何とか、指示されたとおりに、頑張ってその場に踏みとどまろうとする。その様子を、訝しむように見ていたその軍人だった。だが、ふむと息を吐くと、さっきデルタが見せた命令書を見せた。
「戦闘姫は、物資輸送任務完了後、現地の指示に従うこととなっている。我々の陣地は、現在修復中だ。修復完了には、およそ、1時間近くの時間を必要とする。戦闘姫は、この間に、この陣地から最も近い、活性化中のダンジョン、ポイントー6221の偵察を命じる。偵察ポイントは、ここから距離50の地点だ」
デルタは、頷く。確かにさっきから視線をちらちらと感じていた。もしかしたらいい気分転換になるかもしれない。
「拝命しました。戦闘姫、任務に移ります」
デルタは、そう言うと、振り返る。斎藤が頷いた。アマンダは、どこかの現場を手伝っているのか、そこにはいなかった。
『先ほどまでいたのだがな』
「そうだよね。偵察……初めてだからよくわからないけど、無事に帰ってこよう。ゼクスマキナ、指導をよろしくね」
『任せておけ。地図の読み込みを完了』
斎藤も自らの乗機に戻る。2人は、再び連れ添うように、空へと消えていった。
「中佐、陣地の設営完了しました。救護陣営3、防護陣営5、稼働状態に移行しました。全祈念士の回復まで30分と見込まれます。」
「そうか、装備の状況はどうだ?」
空に消えていく2筋の光を見ながら、中佐と呼ばれた男は、報告にきた部下の方は向かずに、問いかける。
「は、降雨100機、雷鳴20基。組みあがっております……あの、しかし、これは必要なのでしょうか?」
「彼女たちが帰ってきたのだ……危惧し、供えることは必要だろう」
振り返った中佐に、組みあがったばかりに、対高高度高速飛翔体迎撃誘導兵装”猟犬”が、目に飛び込んできた。
「保険は必要だろう?」
そう笑みを浮かべる、中佐に部下は、何かを言いたそうな表情を浮かべる以上のことはできなかった。




