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戦闘姫 披露する 2

「では、戦闘姫。装備可能なドレスは、以上ですか」


「いえ、もう少しあります」


 デルタは、次のドレスを身に纏う。

 そのドレスは、今までのドレスが、流線型の形状をしていたのに対して、直線的なフォルムで構成された面を多数持っているドレスだった。


「これは、新緑の籠というドレスで……」


 デルタが説明をしようとした時だった。不意に、入り口があわただしくなる。兵士が会場に駆け込み、そのまま、まっすぐに貴賓室へと向かっていく。


『デルタリーダー、しゃべりすぎだと思うが』


「そうかな?う~ん」


 デルタがゼクスマキナと話をしている時だった。



「南方戦線にて、攻略部隊が敵中にて孤立。すぐに物資の輸送を求めて来ています」


「どれくらい持ちそうなのだ?」


「推定では、あと、わずか3日ほどと換算されます。現在部隊を編成していますが、到達には1週間はかかります」


 デルタの耳に、緊迫したやり取りが聞こえてくる。


『部隊の孤立か。どういう状況かは不明だが、輸送部隊が必要とされているのだな』


「輸送……輸送か。ねえ、ゼクスマキナ。このドレスなら」


 できるかもしれないと、いう言葉を飲み込んだ。


 

 しばらくの沈黙。


『やってみてもいい。そうデルタが望むのならば』


「――ゼクスマキナ?」


 デルタは、一瞬信じられないというようにその言葉を見つめた。


『新緑の籠を使用した輸送訓練……を行うことを許可する』


 目の前のやり取りは、押し問答になっているが、その言葉の端々から、事態が切迫していることが、デルタにもわかった。



「あの!」


 デルタは意を決して、大きな声を出した。だが、その言葉が聞こえている様子はなかった。声が小さくて聞こえていないことは明らかだった。近づかないといけないと感じて、ゆっくりと、貴賓席近くまでゆっくりと近づく。警備が、こちらに銃を向けてくるが、それでも、ゆっくりと近づき、貴賓席の前でホバリングをする。


「あの!!」


 さっきより少し大きな声。貴賓席からの視線が、デルタに集まる。


「戦闘姫。何かあったか?」


「戦闘姫の輸送任務への協力を提案します。このドレスは、輸送特化型のドレスです」


 一瞬だが、ざわめきが止まった。そのお伴の人が、冷たい視線をデルタに送る。


「……君が裏切らないという、保証がどこにある?」


 もっともな言い分である。


「あの、それは……」


「わたしからも提案いたします。元帥。現在のところ、その提案が、最も有効な手段であると思います。また、戦闘姫に対抗できる彼らが滞在していることは、不幸中の幸いでありますが、先ほどの提案があったことを勘案すると、おそらく彼らも力を貸してくれると思います」


 その声の方向を、デルタが見つめる。アリアだった。


「戦闘姫……どれくらいの物資を輸送できる?」


「ええと、スペック上は10tまでとなっています」


 その言葉に、全員が驚いたような表情を浮かべた。それが、おかしいことなのかと思ったが、デルタは黙っておくことにした。


「良かろう。輸送任務について、アリア起案により認める。早急に準備をしてくれ」


 お伴の人がやっぱりこの場所の司令官だったのだと、デルタは今更に感じた。




「イハーブ!」


 少しの間、その場での待機を命じられたデルタに、アリアが駆け寄ってきた。


「何で、あんなことを言ったの?あなたが、やる必要なんてないのよ!」


 アリアの言葉の端々から、心配をかけていることがデルタにも十分に伝わった。


「……少しでも、少しでも何かがしたかったからです。だから、使ってほしいと思ったのです」


 デルタの言葉に、決意を感じたアリアは、ぐっと、言葉を詰まらせた。そして、目を開けたとき、そこには、軍人としてのアリアがいた。


「今回の作戦は、ここから南方300の地点に存在する、ダンジョン群生帯。こちらでの通称ライン内で孤立した部隊に補給物資を輸送することとなる」


『ダンジョン?迷宮のことか?』


「なお、本作戦には大倭の部隊も、協力を行う旨の連絡を受けている。戦闘姫は、彼らと共に、孤立している部隊の状況が改善するまで、現地での支持に従うように」


 アリアの声に、デルタは頷いた。


『決意はついているようだな』


「うん」


 デルタは、アリアの方を向く。


「いい、イハーブ、これを受け取ったら、もう後戻りはできないわ。今ならば……」


「大丈夫です。やって見せます」


 デルタがさし伸ばした手のひらに、アリアはそっと命令書を置いた。


「行ってきます。無事に帰ってきます」


「ええ、期待しているわ。だから、無事に帰ってきてね」


 デルタは、アリアと短くそして、確かに暖かく言葉をかけた。


 

 デルタは、そのまま、アリアと共にあの廊下に戻った。アリアは、何らかのキー操作をする。


 グォン


 小さな機械音が響いた。さっきまでは気が付かなかった。


『なるほど、これは、そのままで大規模な移動装置になっていたのか。いくつか、物体を組み合わせることで、基地内の移動を制限したり、また、目的の場所に到達しやすくなるという仕組みか』


「今回は早くつくわ。デルタ、では、よろしくね」


 その言葉の通り、扉が開いたとき、そこは、大きな倉庫の中だった。何人かの整備兵と思しき人たちが、アリアに敬礼をして、デルタに訝し気な視線を投げかけた。


「そのままで行きましょう。」


 アリアの発した小さな声にわずかに頷き倉庫から出る。そこには、整地されただだっ広い平原が広がっていて、巨大な鳥のような物体と、その横に2基の金属でできた三角形のような物体が、鎮座していた。アリアはゆっくりと、その物体の方へと歩いていく。それに、デルタも着いて行こうとした。


「イハーブ、あなたは、あっちに先に寄ってきて。荷物を受け取らないといけないでしょう」


 アリアが、立ち止まり倉庫の一つを指さす。そこには、おそらく工兵と思しき人が、手を上げるのが見えた。デルタは、そちらにすぅーっと、飛んでいく。




「あんたが、戦闘姫か。俺は、兵站隊のダンダールっていう。よろしくな」


「戦闘姫のデルタ12です。よろしくお願いします」


 新兵は久しぶりだが、いい表情だと、ダンダールは笑い、倉庫の扉の開閉スイッチを操作した。ゆっくりと重い金属の扉が大きな音を立てながら開いていく。


「この扉って機械式なんですか?」


「まあ、半分はそうで、半分は違うな。まあ、歯車を動かすために魔力を動力源としているっていうことだ。簡単言えば、人力動力の最たるものといったところか。あっと、ここは、機密事項だったかな?まあいい。これから行く場所で、それを嫌でも目にするわけだからな」


『人力動力か。だが、有効な事だろう。重いエンジンと燃料を持ち歩かなくても、大規模な装備品を使用できるということは、大きな有効性になる』


「そ、そんなものなの?なんだかピンとこないけど」


 明かりが差し込むと、倉庫の中が明らかになる。大きな長方形が2つどんっと、鎮座していた。


「約2週間分の補給物資だ。一つ当たり、総重量4tにもなる」


 デルタは、すぅっと、上方に飛び、全体を確認する。どう見ても、自分よりも大きな物体だった。


「ねえ、ゼクスマキナ、このドレスって、10tまでの物資を持てるって聞いてたけど、4tでもこんなに大きいんだね」


『そうだな。確かに、大きいが、これでも十分に格納可能だ。さて、では、このドレスの本懐を見せてやるとしよう』


 嬉しそうに表示される、ゼクスマキナの言葉に一瞬デルタは驚いたものの、せっかく作ったドレスが、全く着ていなかったと今更に思い出すと、その気持ちがデルタにも少しはわかったような気がした。


『では、デルタ。展開時のことを考えて、コンテナの面積が小さな面に手を触れてくれ』


 デルタは、ゆっくりと、最初の位置に戻った。ダンダールは、少し意地悪な表情を浮かべていた。


「で、どれくらい格納できるか知らないが、あちらに任せた方がいいのではないか?」


「いえ、大丈夫です」


 ゼクスマキナが、内部情報を走査していく。問題ないと判断されたらしい。


『では、デルタ。格納形態を起動するぞ。デルタの方で指示を出してくれ』


「わかった。……新緑の籠、格納形態へ」


 スカートについていた、巨大な長方形の箱が、デルタの声に反応し、大きく開いていく。


『エンジン稼働率上昇。世界干渉 レベルを1から2へ。対象を高度基本情報へ昇華させる。物質昇華開始。』


 目の前で、コンテナが、その長方形の箱に吸い込まれていく。あっという間に、一つのコンテナが姿を消す。そのまま、デルタは、もう一つのコンテナに手を伸ばした。それも同じように取り込む。目の前のヘッドアップディスプレイに、積載率が表示される。45%。


『積載完了。今回は、無生物のみかつ、単純な構造物のみだったからな、飛行能力の低下を考えて、限界まで圧縮させてもらった。』


「まだ積めるんだね」


『まあ、始めて使うときはこれくらいがちょうどいいだろう。では、行くぞ』


「ええと、受領しました」


 デルタは、あっけにとられている、ダンダールに声をかける。


「いや、すごいものだな。戦闘姫って。こんなのと闘っていたなんてな」


「いえ。でも、私達の、負けは負けですから」


 デルタの声に、ぽかんと口を開けたダンタールだったが、ふぅっと、呆れたように息を吐いた。


「そう伝わっているのなら仕方ないさ。さて、呼んでいるぜ、さっさと行ってやりな」


 その視線の先には、アリアが、女性と話をしていて、その近くに不思議な衣装に身を包んでいる男性がいるのが見えた。


「あ、はい!」


 デルタはそう言うと、そちらの方へふよふよと急ぎ向かっていく。



 女の人は、アリアの服装に近い服装だったが、男の人たちの衣装はまるで違っていた。各所にベルトとチューブが巻き付いたつなぎのような服を着ていた。あと、手に、光沢のある厚めのヘルムを持っていた。


「あれ?あの図柄って」


『ああ、この間の写真で見たな。』


 その肩についている図柄は、青地にたくさんの星と赤と白の線の人と、白地の真ん中に赤い丸の人がいた。


「では、当作戦にご協力いただけるということで宜しいのですか?」


「ええ、宜しいです。彼らにもその旨を伝えます」


 そう女性が言うと、男の人に、全く違う言葉で語り掛けた。その言葉に、訝し気な表情を浮かべた2人であったが、その事に対しての反対はなかったよう頷いた。そして、デルタの方を見た。


「ええと、よろしくお願いします」


 

「へえ、この嬢ちゃんが今回の協力者っていうわけか。リトルスティールって呼んでいいか?」


「浮岩殿、このような未成年者を」


「いや、スティーブ准尉と、斎藤二尉。何言っているの。今回の任務は、魔甲国家群への協力と、戦闘姫の調査ですよ」


 浮岩の呼ばれた女性が、あわあわと、説明するのを、スティーブと斎藤と名乗る男性は、ニマニマしながら見守っていた。


「ええと、わたしの調査も行うっていうことですか?」


 デルタの間の抜けた声に、二人の表情が引き締まったものになる。


「なるほどね。こいつは、例外。全く、油断がならないというわけか」


「厳に厳にそういうものであろう。まあ、聞こえていたのならば、仕方がない。さて、貴君の名を聞いておこうか」


「ええと、わたしの名前はイハーブと言います。よろしくお願いします、スティーブさん、斎藤さん」


 デルタは、自らの名前を告げる。二人は、それに驚いた表情を浮かべた。


「イハーブね。全く、ここに博士の一人でもいれば、この現象も、もう少し分かっただろうが」


「そうかもしれないが、そうでもないかもしれないだろう。さあ、こっちの話しは、とりあえずまとまった。浮岩殿、続きの話を」


 浮岩と呼ばれた女性は、頷くと、残りの説明を開始する。


「現在、部隊は南方300。こちらの距離計で、約600キロメートルの山岳地点で、孤立した状況になっています。状況的に多数の負傷者を抱えていると思われます。任務は2つです。往路については、スティーブ機は先行し、部隊の状況を確認し、必要があれば、鵬に連絡をください。斎藤機は、戦闘姫を護衛しながら、目的地に進んでください。必要がある場合には、限定的な火器の使用を認めます」


「「了解」」


『デルタ、今の話は理解できたか』


「う、うんなんか」


「じゃあな、イハーブ。また後で会おう」


 スティーブは、そう言うと、片目をパチッと閉じると、背を向け自らの乗騎へ歩みを進めていく。


「ところで、お前は初陣か?」


「え、あ、はい」


『そうだな。全く持って久しぶりの初陣だ。』


 斎藤が、不意にデルタに語り掛けてきた。ゼクスマキナが、はやし立てているが、そんなことよりも、デルタは、なぜか、斎藤がこちらをじっと観察しているような気がした。


「あの、何かありましたか?」


「いや、何でもない。自己紹介をしよう。俺の名は、斎藤権次郎。皇国軍所属で、階級は二尉だ」


「ええと、イハーブです。戦闘姫です。よろしくお願いします」


 斎藤は、訝し気にデルタを見ていたが、ふうっと息を吐いた。すでに、スティーブは、出撃準備を終えていようで、整備兵が、周りから退避をしていた。


「スティーブ機、発進を許可します。」


 小さな箱を持った浮岩が何か指示を出している。それに応えるようにスティーブが、コクピットの中で、小さく敬礼をした。斎藤がそれに返礼をする。地面に向けられた、ノズルから炎が上がり、それが透明な色になっていくと、ゆっくりと、機体に浮力生じている。ある程度の高度まで達したとき、推力の方向が明らかに変わった。ほんの一瞬、その次の瞬間には、その三角は、雲の中に消えていった。


『飛行原理は違うようだが、あちらも飛ぶことはできるのだな』


「うん、そうだね」


 デルタは、その光景を感慨深く見ていた。そんな中、不意にデルタの背後から声が掛けられる。


「さて、こちらも行くか。」


 斎藤の言葉にデルタは頷いた。その10分後、二つの軌跡が雲の間に消えた。

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