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戦闘姫 披露する 1

 長い長い基地の廊下。デルタは、兵士に連れられて、何回も、同じような景色の中を、くるくるくるくると歩き続けていた。


「う~ん、なんだか大変。こんなに遠いと思わなかった」


 デルタは、いくつかの扉があき、その先にまた扉があるのを見てげんなりとつぶやいた。それを聞いた兵士が、訝し気にデルタを見るが、それは無視した。


『大した距離は移動していないぞ。イハーブ。おそらく……』


「うん、わかってるよ」


 小声で同意する。おそらくは、基地の形を憶えさせないようにする工夫なのだろう。確かに面倒ではあるけど、ここで、反発しても仕方ないと思って、我慢する。兵士を見ると、ドアのコンソールに何を入力していた。扉が開いた先に、同じような通路が見えたのを見て、一瞬ため息のような物を突いたように見えた。


「まあ、そうだよね」


 デルタは聞こえないように呟き、兵士の後ろについて歩いた。



 それから、何度かの同じ光景を見たあと、不意に景色が変わった。兵士がほっと息を吐いたのを感じてデルタもほっと息を吐いた。なんとなく、この人とは、仲良くなれそうだと思ったが、そこから後は、特に会話もなく、ただ、歩いた。そこからしばらく歩くと、そこにはグリフ中尉とその部下と思しき人が待っていた。


「ご苦労。ここからは引き継ぐ」


 兵士の人は、グリフ中尉に敬礼をして、そのまま回れ右をして、元来た道を帰っていく。


「大変そうだな」


 つい、その兵士さんに同情する。それが聞こえたのだろうか、グリフ中尉が、笑みを浮かべ、デルタを見下ろしていた。


「ぷくくっ。大変そうか。ああ、まあ、お前が気にすることではないが、帰りはそうでもないさ。では行こうか、戦闘姫。」


 グリフ中尉が、大きなドアに手をかける。中には、今までデルタが見たことのない光景が広がっていた。



 大きな、緑の映えるグラウンド。急ごしらえの屋根が、ここから逃がさないという意思を示していた。そんな中を、デルタは、その中央近くまで進まさせられる。

 

 そこには、待ってくれている人がいた。


「あ、アリアさん」


 グリフは、無言で敬礼を行う。それに、アリアが返礼する。今日のアリアは、白の軍服を身に纏っていた。その胸に、勲章がキラキラと、少ない光を反射しながら輝いている。敬礼の後、アリアからの視線で退出を命じられた、グリフは、デルタに小声で頑張れよと告げて、その場を後にする。


「……イハーブ、大丈夫?体調とか悪くない?」


『体調が悪くても取りやめるわけにもいくまい』


「うん、平気だよ」


 ゼクスマキナの言葉を不思議に感じたデルタだったが、それを感じさせないように、アリアに、返事をした。アリアのほっとしたどこか心配しているような表情を浮かべていた。アリアは、そのまま、何も言葉を発せずに、ひときわ豪華な席のある場所へ下がっていく。


 その後、何人かの白衣を羽織った男女が、会場に現れた。そして、警備の兵士に囲まれて、ひときわ偉そうな人が、お伴を引き連れて、その豪華な席へと移動してくる。その様子を、デルタは、ぼうっと見ていた。



「これより、イハーブ・デルタ12の、機能試験を行います。技師班は所定の行動をとってください」


 会場に声が響くと、工兵と思われる人が、デルタに近づいてきた。


「イハーブ・デルタ12。両手を肩の位置まで上げて、足を動かさないようにしておいてください」


 デルタは頷くと、指示されたとおりのポーズを取った。カチカチという音の後に、不意に、両手両足にあった重荷が取れてなくなる。目の前で、工兵が、手際よく手枷足枷をケースに収めるのが見えた。


「では、イハーブ・デルタ12、準備は万端ですか?」


『拘束機構の解除を確認。全領域の検査を行う。走査開始。デルタ、少しだけ待つように言ってくれないか』


 ゼクスマキナの対して慌ててい言葉に驚いたデルタだったが、その通りに伝えることにした。


「準備中です。少し待ってください」


「イハーブ・デルタ12、従者を呼んでもらっていいですか?」


「従者?」


 デルタは、素っ頓狂な声を上げた。従者というものをデルタは知らなかった。そう言えば、その単語が、耳朶を打ったことがあったと思ったけど、それがいたことなんてなかった。


『全機構問題なし。デルタ自体もグリーン。オールグリーンだ。始めてくれと伝えてくれないか?』


「ええと、始めていい。ゼクスマキナが言っています」


 一瞬、会場に喧騒が広がったが、一番偉そうなその人が、手を上げると、そこに静寂が戻った。それに合わせるように、デルタの視線の先の扉が開いた。




「オレンジ……」


 ほっとしたような声がデルタの喉の奥から出る。拘束こそそのまま。だけど、ヴェールまでついたその姿に、ほっと安どするように近づいた。


「こちらのドレスは、戦闘姫。イハーブ・デルタ12へ返還します。」


 その声も聞こえないようにデルタは、その小橙の芽を撫でた。


『マニュアルに沿ったチェックを完了。問題はなさそうだ。』


 すっと、触るのを止めると、デルタは、うんと頷き、各部のリアクターを開放する。


「では、従者によってそのドレスの着衣をお願いします」


「いえ、それは不要です」


 デルタは、すっと、そのドレスに触れる。



 見ている側からしたら、まるでだまし絵のような光景だった。今まで、デルタが立っていたところに、オレンジ色に光る人型が、浮かんでいた。そして、厳重な拘束をされていたはずのドレスは消えていた。


「あ、あなた……イハーブ……一体何を」


 アリアが、口をパクパクさせているのが見えた。声もきれいに聞こえる。


「あれ?どうして、聞こえるのかな?」


『昨日の夜のうちに昨日のアップグレードを施しておいた。指向性・拡大聴覚だ。使い方については、今見たと思うが』


「もう、勝手に改造しないでよ。……でも、ありがとう」


 デルタは、その場で少しだけくるっと宙返りをして、着地に合わせて、ドレスを脱ぐ。ポンっと音がしそうな感じで、デルタは地面に降り立つ。



「あの、この後どうすれば?」


 デルタの目に飛び込んできたのは、ざわめきを止めることができない観客たちだった。おそらく知的好奇心に灯が付いたのだろう?


「ええと、今のは何ですか?」


「あ、今の子ですか?この子は、」


 そう言うと、そのまま再度身に纏う。会場が驚きに染まるのがわかる。


「小橙の芽と言います。飛行練習用のドレスです」


 くるっと横回転。そのまま、地面にドレスを脱いで着地する。


「飛行……練習用ですか?」


 何を聞かれているのかわからないと、デルタは首を傾げた。


『まあ、手の内を見せるのはほどほどにしておくようにな。判断はイハーブに任せる』


「わかっているよ……ええと、他のドレスも見ますか?」


 まだあるのかと、会場のどこからか声が聞こえた。デルタは、一番知名度の低い(と思われる)ドレスに着替える。全身が黒光りするドレスに包まれる。先の小橙の枝と同様の方の形状でありながら、それよりも大きなスカート、そして、頭の上から垂れる様なヴェールが特徴的なドレスだった。


『訓練不足だな。他のドレスもきちんと着ていればこんなことにはならないだろうに』


 各部バランサーにアラートが表れているのを見て、発したゼクスマキナの言葉にデルタは、苦笑いしながら、そうだねと答えた。でも、ここで下手を打つわけにはいかない。仕方なく正直に答えるようにした。


「ええと、このドレスには、乗りなれていないので、少し浮きます」

 

 ふわっと浮いていく。そのまま、貴賓席にまで浮かび上がる。心配そうなアリアの顔と、驚いている偉い人、そして、まるでこちらを観察しているようなお伴の人が印象的だった。


「そのドレスには武装があるのか?」


 そのお伴の人が発した声。意外と大きな声だった。それに、デルタは、素直に頷いた。


「ええと、このドレスは、少しですが武装しています。」


 機銃くらいですがと、いうと、お伴の人は頷いて、デルタの後ろを指さした。


「武装しているか。では少し試してもらおう」


 壁に、的が現れる。あれを撃てということかと思いデルタは、後ろへ向き直る。


 すっと、腕をそちらに向けると、手に赤い光が集まり、そこに2丁の拳銃が現れる。それはずっしりと重く、そして、回転機構ではなく、まるで狙撃銃のように感じた。


『徹甲炸裂単発機銃 拠点制圧用の武装だ。装弾数100 有効射程300 最大射程3000 クールタイム2秒 クールタイムを含む射撃間隔10秒 炸裂部位を除いた模擬弾を装填。外さないように撃ってくれ』


 目の前に、ポインターが出現する。デルタは、緊張からスゥっと息を吸った。視線が集まっているのを感じる。



「撃ちます」


 ずんっ!!


 予想だにしていない重い衝撃が、デルタの体を突き抜けた。ここまで大きい反動があると思っていなかったデルタは、何とかその場にとどまる。土煙が、その直後にデルタを襲った。視界が土煙に覆われる。ただ、それに対抗する方法があることをを、デルタは知っていた。


「視界、ダウン。ゼクスマキナ」


『了解。サーマルスコープ 起動。光量温度調整開始』


 デルタの視界が、切り替わり、視界が単純に、温度の高低を記すものになる。そこに映る結果は明らかで、デルタの目の前。壁に大穴が開いていた。


「うわっ、すごい」


『想定内だ。そんな声を出すな』


 感嘆の言葉を出したデルタに、ゼクスマキナは、冷たく言葉をかけた。それでも、デルタは信じられないという表情を浮かべたまま、その壁を見てやった。


「でも……うん。すごい威力」


『イハーブ 今回は実弾ではなく、模擬弾を使用した。これで最低威力だ』


 デルタには、模擬弾の意味は解らなかったが、ただ、この武器が、すごい威力だということだけはわかった。


「参考になった。降りてくれ」


 その妙に偉そうなお伴の人が指示をする。デルタは、少し疑問を感じたけど、まあ、口をはさむようなことではないと思うと、地上に降り、ドレスを脱いだ。ざわめきは大きくなってきている。当事者である、デルタは、その場に取り残されているのではないか錯覚するほどだった。

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