第3章 プロローグ
「ええと、あの、それって本当なのですか?」
「ええ、本当よ。わたしたちと、あなたたち戦闘姫とは、未だに戦争状態を維持しているわ。まあ、私に言わせれば、紅茶の戦争。本当にくだらないものなんだけどね」
その問いかけに帰ってきた言葉に、きょとんと、デルタが首を傾げた。それを、苦笑いを浮かべながら、オルテガが見ていた。
「紅茶の戦争っていうのは、ある国で会議が開かれて、魔導盟国と機甲大帝国の特使が派遣された。その国は、その特使をもてなすために、国王の元、晩餐会をもよおしたんだ。そこで、食後に出された紅茶で、魔導盟国と機甲大帝国の特使の意見が対立。まあ、そこから戦争が始まった言われている。ただ、本当にそれがあったのかは、よくわかっていない
まあ、俺はなかったって思っているけど。」
デルタが不思議に思っていると、リリムが補足する。
「戦争って言っても、私どもが勝ちましたの。だから、もう終わりではいいではないですか。なのに、馬鹿みたいに意地を張ってしまっては、元も子もなくなりますわ。現に」
「リリム。」
オルテガが注意して、一時会話が途切れる。まるでその時を見計らっていたように、瞳に言葉が映った。
『そう伝わっていたのならば仕方ないだろう』
「……負けたんだね。私達」
言い争っている2人に気が付かれないように、デルタは、ゼクスマキナに問いかける。
『まあ、負けと言えば負けであろう。ただ、あれから、相当の月日がたったことは理解しているが、戦闘姫については、望むべき情報が伝播している。それは、対象への強みに直結している』
「ゼクスマキナ、もしかして、何か私に隠している?」
デルタの言葉に、しばらく反応はなかったゼクスマキナだったが、まるで、ふっと息を吐くように、一言注ぎ足した。
『あと、そのことで、デルタが無事に存在でいていることも大きい』
ふぅんと、それ以上の追及を止めて、言い争っている2人と、テラス席のドアの方を見る。2人の言葉の端々から、何かで言い争っているのはわかるが、それでも、そろそろ止めるべきではないかと、デルタは思い、口を開こうとした。
「リリム、オルテガ。」
凛と響いた声に、2人は、一瞬にして固まり、ギギギと音を立ててもおかしくない表情で、ドアの方へ向き直った。
「「ア、アリアさん……」」
二人の視線の先には、腕組みをしてその場をにらんでいるようにも見える、アリアの姿があった。アリアは、何も語らずに、そのまま、空いている席に腰かける。
呼鈴が澄んだ音色を響かせると、すぐに注文を取るために店員がやってくる。テラス席とはいっても、あの、実験棟に似せた部屋の中庭に設けられた小さなテラス。そこに、零下のごとき空気が漂っていた。
「で、リリム、オルテガ。何を話しているのかわかっているのかしら?」
2人が、驚いたように顔を見合わせた。それは、アリアの問いの意味を解していいない。と言っているように見えた。
「あの、」
「全く、2人には、イハーブの話し相手になってあげてって言ったでしょう。言っておくけど、この子にはゼクスマキナが搭載されているわ。もし、機密情報なんて話していたら……まあ、問題はないと思うけど」
『まあ、乏しい会話は、収容させてもらったが、特段こちらの興味を引くような、問題のある言葉は少なく思えたぞ。』
「ええと、ゼクスマキナは、問題のある発言はなかったと思うって言っています」
その言葉を聞いて、ほっとしたように、2人は座り込んだ。デルタは、二人には、何らかの確執があるのかなと思った。でも、それは聞くべきじゃないと、さっき、ゼクスマキナに注意されたのを思い出し、口を閉ざすために、冷えたりんごジュースに口を付けた。この2日間とっても楽しかった。デルタはただ思った。基地の中の生活区域の一部をライトさんやアリアさんに案内されながら、散歩したり、基地の近郊のお店に買い物のに行ったりして、とっても楽しい日を過ごした。
「でね、イハーブ」
「あ、はい」
不意に、アリアから、話を振られて、デルタは、驚いてストローを口から放す。
「明日、実験というか、確認があるの。これが終わったら、イハーブにある程度の自由を与えることが承認されるわ。そうしたら、少し時間がかかるけど、帝都に戻ることもできるかも」
アリアの言葉に、デルタは、驚きと不安、そして、嬉しさが入り混じった不思議な感情が体を突き抜けるのを感じた。
「もう少しで終わるから、がんばりましょう」
デルタは、がんばりますとその言葉に応えると、リンゴジュースの残りに口を付けた。
『さっき、聞こえたかもしれないが、南方戦線に異常あり。か。まあ、イハーブに、関係はないだろう』
ゼクスマキナの言葉に、デルタは、気が付かれないように、ストローを咥えたままかすかに首を縦に振った。




