ある講習
しばらく、本編に関係のない話が続きます。
「残念ながら、私どもの知識並びに、遺留品をすべて解析しても、その正体に迫ることはできませんでしたが、もし、接触する予定ならば、私の知っている範囲で、お答えしたいと思います」
そう言うと、彼は、プロジェクターの前に進み出る。
「さて、基本的な知識ですが」
そう言うと、プロジェクターに、見覚えのある二重らせんが映し出される。これは、
「我々の物か?」
「そうです。我々の物です。正確に言えば、」
指揮棒の示す先に、小柄な女性の博士を認めた。そう言うことか。
「我々の中で、主に女性に、この染色体は合致します。」
ふむと、頷き、続きを促した。
「そして、この染色体のデータは、99.8%、人間のものと同一と考えられます。奇妙なほど、彼女たちの構成自体は人間のものに近いと言えます」
「……人間と同じか」
ふと、思い出が瞬きの間、瞼の裏をかすめた。それを察したのか、それとも察しないのか、彼は、話を続けた。
「ええ、ですが、彼女たちは人間ではありません。それは、閣下が一番わかっていると思われます」
そうだなと、そのきれいすぎる死体の前から、銀の奇妙な衣装の前に進み出る。それは、中世のドレスを思わせたが、その少女に合わせて作られていることは確かなことだった。
「このドレスの持ち主については、確認が取れています」
「どれどれ? 所属飛行場 女王の城門 ボディタイプ ノーエントリー 部隊コード デルタ12 製造№破損 か。まるで、飛行機の割り当てのようだな」
その声に、博士は、渋い顔を浮かべた。
「飛行機ですね。彼女たちは、死してその存在の意味を失っていないのです」
その言葉に、私は、後ろを振り返った。そこには、そのドレスの持ち主が眠っている。
「彼女たちの体は、死体の状況でも、常に1mm以上の浮遊状態にあります。また、ドレスには、武装はおろか、推進器の痕跡すらありませんでした。つまり、彼女たちは、自らの力で飛び、自らの力で攻撃を行っていると判定されました。
なお、解剖は不可能でした。解剖の意志を持って彼女に触れた人間は、メスを入れることなく、解剖したつもりにさせられて、その死体を処分しないといけないという強迫概念に囚われてしまいました。
かといって、無人機を使用した場合にも同様の結果になりました。つまり彼女は、死してもなお何らかの隠蔽性を持っているのです。その後は、ご存じかと思います。閣下とその部下の方の処置を引き継ぐ方向で、私達が保管することになりました」
「……空を飛ぶ異世界の人類ということか?決して衰えることのない、普遍的な攻撃性と隠匿性を持った?」
私の声に、博士は頷いた。
しばらくして博士は、喉から声を振り絞るように、私に語り掛けた。
「実際には、実験自体は、ここ、5年進んでいません。ただ、仮説が正しいとすれば、彼女たちは、異世界の物質により構成され、いかなる時、場所、法則によらず生存し、その攻撃性を失わないと思われます。この少女もそうでしょう」
私は、ふと、氷の棺にもにたガラスケースに眠るそのドレスと、安らかに眠っているような少女に目を向けた。それは、物言わず、私がこの世界に認められるために行ったことを責めているようにも、または、無関心なようにも見えた。




