戦闘姫 再会する 1
バンジーに連れられて、デルタは列車から降りる。その瞬間に、デルタに視線が突き刺さった。
『もろ手を挙げて歓迎されているという感じではないな』
「そうだね」
ライトが先導し、バンジーとフィーリーが、デルタの両脇を固め、後ろからグリフとその部下たちが、デルタを監視するように付いてきていた。
『もう一人足りないようだが』
ゼクスマキナの言葉に、そうだねと、小声で反応し、デルタは、用意された馬車のような乗り物まで、護送された。
「さて、イハーブのことよろしく頼むぞ」
「あれ?ライトさんはいかないんですか?」
デルタのその声に、ライトは、非常に残念そうな苦笑いを浮かべ、列車が止まっている駅の方を見た。
「元々の任務があってな。そちらに戻ることになる。」
すっと、首筋に手を当てると、その顔が精悍なものになった。
「さてと、すまないが任務の続きに行ってくる。イハーブのことよろしく頼むぞ」
そう、ライトが、バンジーとフィーリーに告げると、踵を返して、駅の方へと帰っていく。
「じゃあ、行きましょうか?イハーブ?」
じっと見ているデルタの視線を切るように、バンジーが、乗車を促した。デルタは、仕方なくタラップを上がった。全員が、その馬車のような物に乗り込んだ時、歓声が聞こえたような気がしたが、それは、扉を閉める音で消えてしまった。
デルタの、対面にグリフとフィーリー、隣にバンジーが掛けた。
「さて、イハーブさん。今から向かう場所について話しておこと思うけどいいかしら?」
『さて、どこに向かっているのか?』
フィーリーの緊張した面持ちとゼクスマキナの言葉に、デルタは、今から向かう場所は、監獄か実験施設か、いずれにせよ自分に優しくない施設だろうなと、不安げに感じていた。その様子を察したのだろうか、
「戦闘姫。そんなに緊張しなくてもいいさ。お前にとって、きっとそんなに悪いところでもないさそうだろう?フィーリーさん」
不意にグリフが、会話に割って入った。フィーリーとバンジーは、驚いたような顔をしたが、
「それもそうね。フィーリー表情が硬いわよ。そんなんじゃ怖くて話も聞けないわよね?ねえ、イハーブ?」
デルタをなだめているその声に、フィーリーは、その固い表情を崩した。
「ああ、すまなかった。今から、軍の施設で簡単な検査を受けてもらう。その後は、ここを案内させてもらおう」
「ええと、フィーリーさんや、バンジーさんが?」
デルタの問いに、フィーリーとバンジーは、ほんのわずかに悔しさの混じる寂しそうな表情を浮かべた気がした。
「まあ、私たちが……といいたいところなんだけど、残念なことに、私たち他の任務の途中なの。」
「そう、あなたを送り届けたら、元の任務に戻ることになっているわ。適任な人がいるからその人に、お願いすることになりそうね」
適任?それって……
『アリアのことかな?』
ゼクスマキナの言葉に、デルタの胸の中に、ちくちくとした小さな痛みが生まれた。アリアは、私が何をしたのかを知っているのだろうか?どんな顔をするのだろうか?それを知りたいような、知りたくないような不思議な気持ちで、いっぱいだった。
「ああ、ちなみに俺が適任っていうことじゃないから、よろしくな」
「ええ、あなたにはいっていないわ中尉」
「ええ?イハーブをそんな目で見ていたんですか?最低です。民間人に対する基礎講習もう一回受けます?」
『全く、口ではどう考えてもかなわないとわかりそうなものだが』
「そうだね」
デルタはその光景を見ていたら、さっきまで感じていた胸の奥の小さな痛みが消えていくように感じた。
そんな感じで、あっという間に目的の場所についたらしい。ドアを、クリフが開き、デルタに降車を促す。
「さて、戦闘姫。ここが、目的地だ。降車願う」
クリフのその声に、驚いたデルタだったが、フィーリーとバンジーも、席を立ったのを見て、そのまま、馬車のような物より降車する。デルタが、クリフの下に向かったが、フィーリーとバンジーはついてくることはなかった。
「ええと、フィーリーさんとバンジーさんは?」
二人は、顔を見合わせて、心底残念そうな表情を浮かべた。
「ごめんなさいね。ここまでしか、送り届けられないの」
「もうライトから、呼び出しがかかっているから。自由時間になったら、また会いに来るわ。じゃあね、イハーブ、とりあえずクリフ中尉。あとは頼んだわ」
二人は、再び乗り物に乗り込むと、その乗り物は、ゆっくりと軌道の上を進み始めた。
「あれって、自動で動いているんだ」
『おそらく、起動駆動の簡易な小型列車だろう。確かに基地内であれば、そう言う乗り物のほうが有効な場合も多いな』
デルタは、その小さな馬車が、建物に空いたトンネルに消えていくのを見送った。
「さて、それじゃあ行きますか。」
「ええと、クリフ……」
「ああ、クリフでいい。階級とかは、こっちの話だからな。すまねえが、こっちは戦闘姫と呼ばせてもらう。本来ならば、名前で呼んでやりたいところだが、」
『任務の都合上というわけらしいな』
デルタは、ゼクスマキナの言葉に、驚きそして、納得した。
「ええと、クリフさん。私のことは、戦闘姫と呼んでもらって結構です」
その言葉に、クリフは驚いたような表情を浮かべたが、ほっとしたように表情を崩した。
「あんたが、素直で助かる。すまないが、俺の近くに立っていてくれ。あと、これから傷つくようなことを言うと思うが、俺の本心ではないからな。そこは、分かってくれないか?」
『ずいぶんもったいぶった言い方だな』
「そうだね。わかりました」
そんなことを言った瞬間だった。3両が数珠つなぎになったさっきの馬車みたいなものがトンネルから現れた。現れた車両には、乗り切れなかったのか、何人かは外の手すりにつかまって現れた。停車し、ドアが開く。
素早く、全員が降車しクリフとデルタの前に整列する。
全員が、整列、点呼を終え、その部隊長がクリフに報告をする。それを聞きクリフは、頷き返礼をする。部隊長が、列に戻り、全員がクリフの次の言葉を待つ。
「さて、諸君らの尽力により、被害なく、任務を終えることができたこと。そして、この地に戻ってこれたことに、感謝する。この任務により、我らの力は、十分に脅威に対応できるということが確認できた。これは、現在起こっている問題へ我々がアプローチをかけることができるという、証左である。」
『部隊員への激励か。イハーブ、しっかりと見て、そして聞いておけ』
デルタは、その言葉に不思議に感じたが、反応するわけにもいかず、ただ、前を見ていた。
「戦闘姫。彼女たちの来襲から始まったこの厄災。その解決の糸口がこの戦闘により見出された。――あの悲劇を繰り返してはいけない。我々は、世界を護るものとして、戦闘姫にあたり今日、勝利した。
……小さな勝利だ。
だが、この勝利から、反撃を始めよう。我らの世界のために。
さて、私の話は以上だ。第3から第4小隊は、この時を持って、現隊へ指揮権を返す。第1第2小隊は、引き続き戦闘姫の護送にあたる。諸君、ご苦労だった」
クリフの敬礼に全員が返礼を返す。
『傷ついたか?』
「そんなに傷つかなかったかな……でも、なんだか、ずいぶんと気になること言っていた気がするけど、ゼクスマキナ――」
デルタの言葉に、ゼクスマキナが反応を返すのにしばらく時間がかかった。
『ああ、そうだな』
デルタは、直感的に、これ以上は、ゼクスマキナは答えてくれないなと思い、話題を変えることにした。
「ところでオレンジはどこに連れて行かれたんだろう?」
『おそらく研究施設だろう。そこで解析を受けていると思われる――心配か?』
ゼクスマキナの言葉に、ううんとデルタは首を振った。なんとなくだけど、そんなにひどいことをされていないという根拠のない確信があった。そんな中、護送準備が整ったらしく、クリフに部隊員が、声をかける。
「準備整いました。中尉ご指示を」
「よし、これより移動を開始する。さて、戦闘姫。準備はよろしいですか?」
デルタは、その声に、頷いた。前後をふさがれるような形で陣形が取られて、デルタは、目の前に暗闇が広がる廊下へと足を踏み出した。




