戦闘姫、輸送される 7
不意に、陽の光がカーテンの隙間から注ぎ込んできた。そのまぶしさで、デルタは起きだした。まだ眠たい目をこすりながら、そっとベッドから降りる。
『起きたようだな』
「うん、ゼクスマキナ、おはよう」
うんっと体を伸ばし、車内をそっと見まわすと、昨日まではなかったものが、ベッドのナイトテーブルの上に置かれていた。
「また入ってきたのかな?ねえ、ゼクスマキナ、気が付かなかった?」
『さあな。前にも言ったが、イハーブが寝ている間は、さすがの我も外界の知覚はできない。だが、そうではない』
つまりは、昨日のあのわずかな間に行われたことということ。
「ねえ。私の周りって人外が多いような気がするんだけど気のせい?」
『肯定。今のデルタの周りは、デルタのスペックを超える人間しかいないと思う』
歯にもの着せぬいい方だが、逆にほっとした表情を浮かべて、デルタはその手紙を持ち上げ、そっと封を開き、中から手紙を取り出す。飾り気のない二つ折りの紙。デルタはそれをそっと開いた。その直後、その表情に、ほんのわずかな間、不可思議という表情が浮かび、そして、安堵したような笑みを浮かべた。
『どうした?……何が書いてあった?』
デルタが紙を再び二つに折り、大事そうに封筒に直したところで、不意にゼクスマキナから言葉をかけられる。その言葉にデルタは、少し驚き、つい問いかけた。
「え?ゼクスマキナは読んでいないの?」
『さすがに、イハーブ宛の手紙を読むほど、我は無粋ではないぞ。』
その言葉に、デルタは、驚いたような表情がわずかに浮かべ、そして、そのまま安堵したような微笑みへと変わった。
「ちょっとね……驚くようなことが書かれていたから。ねえ、ゼクスマキナ?戦闘姫って、有名なの?」
『この世界においては、まあ有名であるとも有名ではないともいえるな。不意にどうした?』
うんと、デルタ少し考える様なしぐさをしたその時だった。
「デルタ、物音がしましたが、起きていますか?起きましたか?」
ドアがノックされる。おそらくバンジーだろうと、デルタは考えた。
「ゼクスマキナ、この手紙隠せる?」
『ああ、格納能力には十分に余裕がある。そのまま、少し待っていてくれ』
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、デルタの持っていた手紙は、光の粒子のようになって消えていった。
『格納完了した』
「ありがとう。あ……はい、起きました!起きています。」
デルタは小声でゼクスマキナに感謝を伝え、ドアの先にいるであろう人に、戸惑いなく応えた……やがて、ドアが開かれて、その顔が見え、安心したようにデルタはほっとしたような表情を浮かべた。ドアからは、バンジーが顔を見せていた。大きなワゴンを引いていて、そこには、様々なものが整理整頓されて置かれていた。
「イハーブ。今日の準備をしましょう。いろいろと準備してきたわ」
「はい、バンジーさん。よろしくお願いします」
「うんよろしい」
バンジーが、ワゴンを引いてやってきて少し遅れて、ピアーズが顔を出す。少し遅れたとばつの悪そうな表情を浮かべ、すぐにバンジーの補佐に入った。
その手際は見事なもので、デルタは、あっという間に着替えさせられてしまう。着せられたのは意外にもシンプルですぐに脱がされることを前提としたようなワンピースだった。メイクは施されず、髪をきれいに梳かしていく。デルタは今日、本営といわれる場所につくと言われていたので、不思議に思いながら、早くも片づけをしているバンジーに問いかけた。
「あの、きょう、到着予定なんですよね?こんなシンプルなものでいいんですか?」
「うん?」
デルタの声に、一瞬驚いたような表情を浮かべたが、その顔に、一瞬で、微笑みが張り付いた。
「ええ。デルタ。今日は検査を行うように指示を受けています。なので、朝食はないです。ただ、水分は、十分に取っておいてくださいね」
すっと、ピアーズは、デルタに、透明な液体が入った広口の瓶、そして、その横に置かれたトールグラスが乗ったトレイを差し出した。
「できるだけ早く終わらせるようにしていますので、検査が……」
「あ、そうなんだ。うん……実験体は協力してくださいっていうことだね」
そう言うと、ピアーズは驚いたような表情を浮かべた。
「あのですね、イハーブ。我々は――」
その瞬間だった。バンジーがピアーズをキッと睨みつけた。殺気すらも感じるほどの鋭い視線に、ピアーズは、口を閉じ、デルタはその様子に驚いたように口を開けたまま固まっていた。
「ああ、ごめんなさいね。イハーブ。あなたを実験体だなんて私たちは考えていないから大丈夫よ。そうね、ちょっとした健康診断みたいなものだと思ってもらってもいいわ」
そう言うと、バンジーは、固まっているピアーズに、近づいた。ピアーズは、何かを察したようにほんのわずかに頷いた。
「イハーブごめんなさい。あなたを傷つける様な発言があったみたいだから謝るわ」
「ええと、そんな風に感じてなんかいませんから!全然気にしていないです!あの、お願いですから、頭を上げてください」
ピアーズが頭を下げて謝っているのを、イハーブは泡くった様子で制止する。不穏な空気が流れたそんな時だった。
♪♪~♪
バンジーの胸のあたりから、軽快な音楽が鳴り響いた。
「ピアーズ。そろそろ時間みたい。イハーブ。また後で会いましょう」
「え、もうそんな時間ですか?わかりました。イハーブさん、では、また後で」
二人は、あわただしく、後片づけをすると、そのまま、ドアから出ていく。
「何だったんだろうね?今の?」
『まあ、あちらにも――知られたくない何かしらの事情――があるということだな。
イハーブは気にしなくてもいいだろう』
デルタは、言いよどむようなゼクスマキナの言葉に、少し考える様なしぐさを見せたが、それ以上は考えても仕方がないとあきらめて、水をトールグラスに注いだ水を口に含んだ。
少しぬるさを感じるそれは、乾いた喉にゆっくりと落ちていった。
ほっとして、デルタが、ふと窓から外を見ると、列車は、建物が立ち並ぶ都市へと足を踏み入れていた。
「うわあ!」
『ほう、なかなかのものだな』
列車がゆっくりと速度を落とし、やがて停止する。デルタは、バンジーが部屋に入ってくるまでの間、その様子を見つめていた。




