戦闘姫、輸送される 5
それを聞いたデルタは、確かにそう言う過去があったのならば、いきなり襲われたりしたのも止むに負えないなと思い、再び、リンゴジュースを口に含もうとした。
「と、これが、我々の認識の話だが……ゼクスマキナ、いかがかな?」
全員の視線が、その声と同時にデルタに集まる。デルタは、ストローから口を放した。
『まあ、基本的な認識としては相違ない。こう伝えてくれないか?』
「ええと、認識としては基本的には相違ないって、ゼクスマキナが言っています」
その言葉に、ほっと胸を撫でおろしたのは、バンジーと、フィーリーで、逆に、考え込むようなしぐさをしたのはグリフとライトだった。
「……ゼクスマキナ、君はその知識をどこで得た?君は、最近、イハーブに搭載されて、まだ、ほとんどまっさらな状態ではないのか?」
鋭い眼光が、イハーブを突き刺した。思わず、バンジーとフィーリーは、ライトに一言言おうと立ち上がろうとした。
『イハーブ。ライトに、まだ隠していることがあるくせに、けん制するのはやめろと、伝えてくれないか?』
イハーブは、ゼクスマキナのいつもの言葉が怒っているようにも感じた。理由を考えたが、多分、プライドを傷つけられたからではないかと思って、余計なことは口にしないことにした。
「まだ隠していることがあるくせに、けん制はやめろ。ってゼクスマキナが、言っている」
「なんていうか、意外と不便なものだな……」
しばらくの沈黙の後、グリフは、肩をすくめた。ライトは、デルタを見つめていたが、ふっと肩の力をぬいて、再びデルタにかすかな笑みを見せた。
「お互いの認識に差異があることは確かだ。ただ、完全ではない、『たった一人の戦闘姫が脅威だ。』……そんな風に、今のところは、我々は考えてはいない。イハーブ。」
「はい?」
ライトの声で、デルタはその場に流れている空気が変わったことを感じた。ほんのわずかな間だったが、確かに緊迫した空気が流れて、誰も言葉を発しなかったが、
今はそうではない。
「さて、ここからは腹の探り合いは無しにしよう」
『明らかに話題を変えたな』
ゼクスマキナの好戦的な言葉に、デルタは、内心苦笑いした。ゼクスマキナは、変なところで対抗心を燃やすというか、そう言う部分がある。
「そんなことはないんじゃない?」
『全く、おそらく今のイハーブが無力だから、篭絡……言い負かそうという魂胆だろう。イハーブ、お前に任せる』
「そんな無責任に言われても困るよ。でも、それは、否定できないところだよ……だから」
『大丈夫だイハーブ。今は無力でも、お前を必ずそらに戻す。わたしはそのためならば協力を惜しまないつもりだ』
頼もしいその言葉に、デルタは、抱えていた不安。このまま、空を飛ぶことはままならないのではないかということをとりあえず頭の片隅に移した。その時だった。
「イハーブに、デザートをお持ちしました」
「ああ、入ってくれ」
ライトの声で、食堂車側の扉が開き、そこから、給仕が室内に入ってくる。給仕の手には銀のトレイ、その上に、デルタの見たこともないものが、乗っていた。
「今回は特別メニューというやつだな」
『指摘の通りだ。イハーブ。お前は、まだ栄養が枯渇した状態にある。これくらいは食べても問題はないだろう』
ライトの声とゼクスマキナの言葉よりも、デルタは目の前に出てきたものに興味が引かれていた。中心には、大きな存在感を醸し出す、上から黒いトロッとしたものをかけられた、白と黒の半円状のものに三角の茶色いクッキーのような物が立てられている。その皿の主の周りには、それをさらに引き立てる様な、ふわふわの白いクリーム、薄い焼き菓子のような物、そして、リンゴ以外は見たこともない鮮やかな果物と思われるものがその皿を彩っていた。
「これは?」
「アイスアラモードという外国のデザートだ。その真ん中のものがアイスというらしい」
目の前の皿に盛られたアイスという物体と、華やかに飾られたフルーツ。それは、デルタが見てきた多くのスイーツというものを過去にしてしまうような華やかさを纏っていた。
「ええと、なんかすごいものが出てきたんですけど、これ、本当に食べていいんですか?」
「もちろんだイハーブ。それは、お墨付きだからな」
デルタは、スプーンを取ると、その山にそっと突き立てようとした。その瞬間だった。
……
ライトの胸辺りから、機械音声の歌唱が響いた。
「お、これは」
「少佐殿。早く出た方がいいのでは?」
グリフとフィーリーが、にやにやとした笑みを浮かべながら、ライトに離席を促した。ライトは、仕方ないという表情と、デルタに許可を求める様な視線を送った。そんなことは考えていないと、デルタは思わず、うんうんと首を縦に振ってしまう。
もしかして、アリアさんかな?確か夫婦だって言っていたし……と、デルタは思ったが、
「少し出てくる」
ライトは、ほんのわずかに不快そうな表情を浮かべると、食堂車より出ていく。
『全く。大変なものだな。上司や歓待役というのは』
「え、ゼクスマキナ」
『まあ、気にするなこっちのことだ。さて。イハーブ。十分に栄養を取っておけ。』
栄養ってそんなと思いながらも、デルタの手は、中央で頂を形成しているアイスに伸びる。スプーンで削られたそれは、甘味と、ほんのわずかな苦みがデルタの舌に確かに記憶されるものとになった。
「おいしいけど少し苦いですね」
「イハーブはまだ子供だから、そう感じるかもしれないけど、このチョコレートっていうやつの苦みが癖になるのよ」
「本来なら、魔属領のデザートでもてなしたいところだったが、こっちの方が保存性がいいのでな。全く。大倭の技術に高さには恐れいるよ」
「大倭ですか?」
デルタの問いに、明らかにしまったという表情を浮かべたグリフの横腹をラパーチが突く。一瞬にして苦悶の表情を浮かべるグリフをほほえましそうにフィーリーとバンジーは見つめていた。
「って、ってめえ。」
「そんなところに、脇腹があるのがいけないのです。……お望みでしたら、もう一回突きましょうか」
冷徹な声を上げるラパーチを、驚愕の表情でグリフが見つめる。が、それがなぜか安堵したような表情に変わった。
「ふん……なるほどな。そう言うことか。ああ、言わなくてもいい。」
「わかってしまいましたか?」
「ああ、分かった。そう言うことなのだな――ラパーチ監察官」
「ご名答です。さすがグリフ軍曹」
さて、そういうやり取りはあったが、デルタたちのしていたことは、主に目の前のアイスアラモードへの対処だった。
「冷たいけど。空を飛んだ後だと、格段に
……おいしい。」
デルタは、目の前のデザートが体に沁み込んでいくような感触に、心奪われていて、目の前の光景は気にしないことにした。
そして、その冷たいデザートは、今日の苦い思い出や様々なものを忘れさせるのにふさわしい味がした。




