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戦闘姫、輸送される 4

 フィーリーとバンジーに監視を兼ねて、恥ずかしがしいながらも、シャワーで体を流してもらったデルタは、部屋に用意された、少し良い服に身を包んだ。


「あの、この服って?」


 デルタの声に、着付けを行っていたフィーリーが、微笑んで答えた。


「この後、昼食会を行うから、少し綺麗に着つけておくように。って、命令。拒否権はないわよ」


 いつも優しかったフィーリーの言葉に、デルタは、驚いたように俯く。その様子を見て、フィーリーは、ふっとほおを緩めた。


「……でも、本当に無事でよかった。ええと、どうするデルタの呼び方。部隊名で呼んでもいいの?」


 デルタは、少しだけ考えた。自分の本当の名前なんて考えたこともなかった。デルタが部隊名だとしたら……その名前で呼ばれるのは良いことではないだろう。


「ええと、今後は、わたしのことは、イハーブと呼んでください。デルタが部隊名だとしたら、その名前で呼ばれると困りますので」


「いいよ。じゃあ、今後はイハーブって呼ぶね。他の人にも伝えておくから」


 そう言うと、フィーリーは、右手の親指を喉元に当てて、小指を耳に当てる様なしぐさをした。


「ええと?何をしているんですか?」


「イハーブちゃん。少し待っててね」


 問いかけようとした、デルタをバンジーが引き留めた。フィーリーは、時々首を縦に振ったりしている。


『あれは、この世界の生体通信技術だな。いま、おそらくライトと上官に連絡をしているのだろう』


「え、そんなことできるの?」


 すっとんきょうな声を上げたデルタに、通信を終えたらしいフィーリーが視線を合わせた。


「通信終わりっと、今後は、イハーブって呼んでいいかしら?」


 デルタは、驚いた表情を浮かべた後に、うんうんと首を縦に振って、その言葉を肯定する。その顔に、フィーリーは、少し悪戯っぽい笑みを浮かべて、じっと、デルタの両目を覗き込んだ。


「ええと、何かついていますか?」


「ライトがね、早くデルタの綺麗な姿を見たいってさ」


 その言葉に、デルタは真っ赤になる。


『ライトに実験体として見られないのは始めてのことだな。我としては、今のイハーブの姿を見れて十分だと思うが』


「ゼ、ゼクスマキナまで……からかわないでよ」


 その後、生まれて初めてメイクまでしてもらって、デルタは、食堂車へ向かい歩き始めた。



「分隊長。イハーブ・デルタをお連れいたしました」


「ご苦労入ってくれ」


 デルタは、列車の中に通された。そこは、少し変わった空間だった。デルタ入ってきたドアの真向かいには、ライトが座り、両隣にあのグリフといった軍人と女性の副官が座っていた。そう、そこは食堂車というよりも、


『会議室のようだな』


「そうみたいだね。でも、」


 目の前には、おいしそうな料理が湯気を上げていた。思わず、ごくっと喉が鳴ってしまう。それを見たライトとグリフは苦笑いを思わず浮かべた。


「さて、フィーリー。戦闘姫を席に就けてくれ。」


 ライトの指示に、フィーリーは右手を胸の前に置き、きれいな礼をする。それに見惚れ入ているイハーブの目の前の椅子を引き着席を促した。


「ええと。」


「こんな時は素直に座っていいのよ。少なくともフィーリーと私は、イハーブの味方をするように言われているから」


 バンジーはそう言うと、まるであらかじめ決まっていたかのように自らの席へを歩を進めた。


『イハーブ。ここは従っておいた方がいい。そう決めたのだろう』


 デルタは、その言葉に返答をすることなく、フィーリーが引いた椅子へと腰を落ち着かせた。その椅子の座り心地は、疲れ切った体を包み込むような上等な座り心地だった。


『空腹でよかったな。おまけに睡眠をとりたいという思考が駄々洩れだぞ』


「今日だけで、いろいろあったもの。お昼を抜いていたなんて、すっかり忘れかけてた」


『緊張がほぐれたようだな。いい傾向だ』


 そっと、デルタは頷いた。


 その様子を見ていた、フィーリーも、ほっとしたような表情を浮かべると、自らの席へと向かった。



「さて、まずは、再会を祝して。」


 ライトが目の前にグラスを手向けたのを見て、皆もそれに倣った。デルタもそれに従う。


「再会を祝して。乾杯」


「乾杯」


 皆が、静かに、グラスを掲げる。


「さて、軽食を取りながら聞いてほしい。イハーブ、そして、ゼクスマキナ」


『どうやら重要な話のようだ』


「そうみたいだね」


 デルタは、皆が目の前のパンに手を伸ばしているのを見て、自分も、皿から一つ取り上げた。それは、すこし不思議なものが挟まったパンだった。おそるおそる、少しかじるように食べてみるとわずかに粉っぽい感触がっあったが、それを、粘り気のある何かが見事に包み込んでいた。それは、しっとりとした粘り気がありながらも、少し酸味がある不思議な食感のものだった。それが、のどを通ると、独特の香味が、鼻に抜けた。



「おいしそうに食べてるわね。やっぱりおなかが空いていたのかもね」


 バンジーが、必死になってパンに貪り付いてるように見えるデルタを、ほほえましく見ていた。やがて、デルタは、目の前のパンを食べ終わって、ほっとしたように、目の前に置かれたリンゴジュースのストローを口につける。


「さて、少しは落ち着いたか?」


 不意にグリフがデルタに問いかけた。


『イハーブ、話があるようだ。まだ、空腹が耐えがたいということはわかるが、少し落ち着いた方がいい』


「あ……は、はい……」


 その言葉に、デルタは、不思議なパンのソースで口の中が少し粘っこくなっていた。それを払うためにをつけていた、瓶に入ったリンゴジュースを、未練がましくテーブルに置こうとする。


「隊長、おなかが空いている育ち盛りの子供にそんな言い方はないと思います」


 グリフの副官が、非難がましく、グリフに意見をする。


「な、ラパーチ、どちらの味方なんだ」


 ラパーチは、肩をすくめると、ジト目に上官を見つめた。


「そりゃ当然。かわいい子の味方に決まっているでしょう?ねぁ、イハーブちゃん?」


 ついさっき、肩口に凶悪な工具を差し込んできた人と同一人物だとは思えない面持ちで、微笑みかけてくるのを見て、デルタは、変わった人だなと思い、


「ええと、わたしが、かわいい子かどうかは置いておくことにしますが……」


 デルタがそこまで発したときに、ラパーチは珍しいものを見るようにさっきよりも、楽し気に両手の指をテーブルの上で絡ませていた。


「まあ、ラパーチの意見にも一理あります。大事な話ならば、このまま話すことにしましょう。まあ、不幸中の幸いか、相手に逃げる意思はないようですからね。ライト特務少佐」


 探るようなグリフの声に、ライトは静かに目を閉じて、再び開いたときには、ライトのブルーマリンの瞳は、ブラッディレッドの色に染まっていた。


「できれば隠し事はない方向で行きたいが、いかがかな?ゼクスマキナ?」


『知っている範囲でなら応えよう。そう伝えてくれ』


 デルタは、その通りに、ライトに伝えると、ライトはふむと頷いた。


「そうだな。では、我々と戦闘姫について簡単に解説することにしよう。イハーブ。この世界のことはどれくらい知っているか?」


 いきなり、漫然とした質問が出て、デルタは、ほとんど知らないと答えて首を横に振った。以前の記憶はほとんどなく、あっても断片的なもので、連続性が全くなかった。おまけに、きちんと記憶があるこの帝都での3年の間は、ほとんどフォルフォード家で軟禁状態になっていて、外部との接触自体が全くなかった。


「わたしの知っているのは、これくらいです」


「戦闘姫のオリジナルドレスが、帝都にあるのか……由々しき事態だが、簡単に事を起こすというわけにはいかないな」


 デルタは、一旦息をついて、リンゴジュースを口に含む。


「さて、では、私たちもデルタに応えなければならないな。なぜ、私たちと戦闘姫が敵対しているのか、そして、この世界のことについてもな」


 ライトは、まっすぐにデルタを見た。デルタは、リンゴジュースの瓶をテーブルに戻すと、その視線を受け入れた。


「まず、私たちのことから話そう」


 ライトが口を開いた。

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