戦闘姫、輸送される 3
一瞬、怪訝な表情を浮かべたのは、グリフだったが、デルタが、迷うことなく、両手を差し出したのを見て、その疑念は払しょくされたのか、その態度を崩した。
「本当にいいのか?」
ライトの声に、デルタは頷いた。ライトは、それを確認して、バンジーとグリフの隣にいた女性士官を呼び寄せる。
「ハンガーを持ってきてくれ」
その言葉だけで理解したらしく、二人は、その場から、小走りに立ち去る。
デルタは、ほっとしたような表情を浮かべた。
「デルタ、よく決断したな」
ライトのその言葉に、デルタはううんと首を振った。
「どうしようかって思ったんです。でも、きっと、ここでこの怖さから、逃げちゃったら……大事なものを、とても大事なものを失う気がして、それが、拘束されることよりも怖くて……こんなこと、ゼクスマキナが知ったら呆れられるって思うのです。でも……」
『そんな言動で我が、呆れているのなら、もっと前に呆れているわ』
「それくらいで、ゼクスマキナが戦闘姫を見放すことはしないさ。その関係の深さ、そして強さは、よく知っているからね」
『そう言うことだ。イハーブ。よく決断した。お前の意志を尊重する』
ゼクスマキナからかけられた、思ってもいなかった言葉に、デルタは、思わず驚き、つい笑みを浮かべてしまう。
そんな中、バンジーが帰ってくる。
「ハンガーの準備が整いました。」
後ろからは、少し重そうな箱を持ってきているあの女性士官がいた。
「ハンガーを、戦闘姫デルタに装着します」
「軍曹。緊張しているぞ。焦るな」
「は、はい。では、先に手の方から」
両腕に嵌められたのは、飾り気のない腕輪のような物だった。カチャ、カチャっと、軽い音が響きその後、わずかにそれが動く。
「これを付けられている間は、戦闘姫のドレスを着用することはできない」
『確認した。効果に間違いはない』
ゼクスマキナは投げ槍だなと、デルタは思ったけど、口には出さなかった。それにその効果を確かめようとも、思わなかったし、逃げる気もなかった。そのまま、流れるように足にも同じような装置が取り付けられる。
「では、行こうか。移動手段を待たせてある」
「おいおい、少佐。従者のことかは聞かなくていいのか?」
「もしいたとしても、あの家の周辺に残しているはず。そう言う話ではなかったか?グリフ中尉」
従者?と、デルタは首をかしげたが、なんだか、面倒なことになりそうだったので黙っておくことにした。
二人の話は、平行線のままだったが、護送任務に変わりはなく、そのまま、通路のような場所をデルタは、フィーリーの後ろについてとことこと歩いていく。
わずか3分も歩いただろうか、不意に、視界が開けた。
ふと後ろを振り返ると、大きな倉庫のような建物が並んでいた。そのうちの一つからどうやら出てきたらしいと、デルタは思った。
「戦闘姫護送任務の命令書です。こちらを確認を」
「命令確認しました」
ライトが、厳重に金網に囲まれた場所で、何かの係ようなものと話をしている。ライトやグリフと衣装が違うから、きっと違う部隊の人なのだろうか?そう思ってみていると、ふとその係の人と目が合う。訝し気にただ、確かに敵意を感じる様な視線。それを感じながら、金網の扉をくぐる。その先の階段を下りる。
地下のはずのそこは意外にも明るい空間だった。
「あの?ここは?」
「デルタ、すまないが、ここは、秘密の場所だ」
「まあ、そう言うことだ。戦闘姫」
デルタの問いに、ライトとグリフはそれぞれに応えにならない答えを返した。その言葉に、首を傾げたデルタだったが、それを見計らったように、そこに放送が流れた。
「まもなく、4番ホームに列車が入ります。まもなく、4番ホームに列車が入ります。この列車は、特別車両です。白線の後ろまでお下がりください……まもなく、4番……」
「どうやら来たようだ。……」
ライトの言葉が、途中で聞こえなくなり、轟音を立てながら、箱のような物体がデルタたちの目の前に現れた。
「荷物の積み込みをする。工兵隊急げ」
停車した箱に驚いていると、少し離れた場所で、女性士官の声が聞こえた。そこには、しっかりと拘束されたオレンジ色のドレスが、固定されているのが見えた。
『大丈夫かイハーブ。心拍が早くなっているぞ』
「大丈夫だよね。また会えるよね」
『ああ、あれも、きっとお前を待っているはずだ』
ゼクスマキナの言葉に、デルタは、うんと頷いた。
「さて、準備ができたようだ。デルタ、こっちに来てもらえないだろうか」
ライトが、箱の前の階段にデルタを誘導する。デルタはそれに従い、ゆっくりと階段を上がった。そこにあったのは、
「ええと、ここって何ですか?」
デルタが今まで見たこともない、豪勢な部屋だった。
「ここは、貴賓車。客をもてなすための車両だ」
デルタがおどろいていると、ライトが部屋の設備の説明をしてくれた。中には、独立した洗面施設にシャワールームも備え付けてある。さらに、その隣の車両は、食堂車になっていて、何でも食べられるということだった。
それを聞いた瞬間にデルタのおなかがなった。ここしばらくの間で最も大きな音でなった。デルタは、顔を真っ赤にして俯いた。
『現在、14時だ。あれだけ魔力を吸収されていては、生命維持に支障が出るところだった』
「え?そうだったの?」
デルタは、ゼクスマキナの言葉に驚いた表情をうかべた。まさかそんな状況だとは思いもしなかった。
『イハーブ。戦闘姫のエンジンは、空を飛ぶためだけではなく、生命維持や日常の活動すべてに密接にかかわっている。さっきまでの拘束具は、そのエンジンに直接干渉して、エネルギーを外に無理やり放出させる類のものだ』
「結構危なかった?」
『今のイハーブの場合、あと丸3日ほどつけられていたら、生命の危機だったな』
「なにそれ、全然危険でも何でもないじゃない」
思わず、吹き出したデルタに、明らかにグリフは不審な目を向けた。が、ただ、それだけだった。
「この部屋には、監視としてフィーリーとを残す。他のものは、移動する」
「おい、聞いたか、移動だ。ぼさっとするな」
ライトの声に、全員が移動を始める。そんな中、デルタは、フィーリーと女性士官に両肩を抑えられて、ポツンと取り残された形になった。
「さて、デルタ・イハーブ12。久しぶりね。」
フィーリーが、デルタに笑顔を向けてくる。
「あの、フィーリーさん……」
「いいの、いいの。無事でよかったわ。さて、食事の前にシャワーを浴びましょう。きれいにしておかないと」
「おいおい、キレイにするって、それだけでいいの?」
女性士官の声に、フィーリーは、わずかに微笑みを返した。ただ、その微笑みからは、明確な意思を感じた。
「そうね。貴官の言うこともわかるわ。でも、平気よ。なんていっても、私たちのデルタなんだから」
それはデルタの味方だという意思。それを示すように、フィーリーは、デルタの小さな体を抱きしめた。
「でも、本当に良かった。無事で……本当に……」
デルタは、ほんのわずかに困惑しながら、その行為を受け入れることにした。ふと、その女性士官に視線を向けると何とも言えないばつの悪そうな表情を浮かべていた。




