戦闘姫、平穏な生活に浸る 4
爆発の衝撃に、ほんのわずかに、意識が飛んでしまっていたらしい。デルタは、うっすらと目を開ける。
『イハーブ 大丈夫か?』
「うん、大丈夫。」
だんだんと高度が落ちていっている。300……280……
「ゼクスマキナ!魔力を供給。再度飛行を」
『無駄だ イハーブ』
なぜと問う前に、デルタは、リアクターを全開にして、いつものようにドレスにエネルギーを注ぎこもうとする。しかし、その努力は、何の成果も得られず、ただ、デルタの疲労がたまっただけだった。
『今のドレスは お前の味方ではない』
「そん……な」
その機を読んでいたのか偶然化はわからないが、はるか上空で、猟犬が、自壊をしたらしい。まるでそれが、勝利の雄叫びを上げているかのように、デルタには聞こえていた。
「私が、悪かったの?自由に飛べるなんて思ったから?空は・・・自由じゃなかったんだ」
デルタのその言葉には、ゼクスマキナは何も答えなかった。
だんだんと地表が近づいてくると、デルタは自分がどこに降ろさせようとしているのかが、わかるようになってきた。
それは、自分の今住んでいる家の、やけに広い裏庭だった。減速がかかり、前のめりに降りてきたデルタを、フードを被った集団が取り囲んだ。
「とりあえず、回復を待てばいいんだよね?」
『イハーブ、言っていなかったが、戦闘姫を無力化する方法は2つある』
「え?それは、どういう?」
『一つは リアクターを出せなくすること これは技術的に非常に難しいことだ』
困惑するデルタの前に、一人の女性が進み出てくる。手には大きな何らかの工具と思わしきものを持っている。
『もう一つは ドレスを 解体することだ』
その瞬間、デルタの両肘に何かが差し込まれるような衝撃があった。ヴェール内の表示が揺れる。この状況でも、ダメージ表示はきちんとしているらしい。両肘に破壊的な行為を確認 緊急偽装開始
やがて、その外装がダメージに耐えきれなくなったのか、無残にめくれ上がる。
「や、やめて!!」
悲鳴のようにヴェールの下で叫ぶ。これは、ゼクスマキナが私のために作ってくれたドレスなの!私は、誰にも迷惑なんてかけていないのに!
デルタの声は、届くことはない。手慣れた様子で、その女性士官は接続部を探り出す。再び大きな工具を差し込むとまるで解体作業でもするように手慣れた様子で、肘から先のドレスの分離作業まであっという間に終わらせてしまう。次は、足だった。手を振り回して、抵抗しようとするもののあっさりと制圧され、大きな声を出すことしかできないデルタを嘲笑うように、女性は、スカートをドレスから剝がす。あっという間に、デルタはヴェール一つの状態になってしまう。
「ゼクスマキナ……わたし、これからどうなっちゃうんだろう?どうしてこうなっちゃたんだろう?」
『イハーブ 気を落すな 今は生き残ることを優先するんだ どうする?ドレスを着替えるか?』
散々に大声を出し、ささやかな抵抗もできなかったデルタの目の前で、無残な状態になった小橙の芽は、筒のような物に固定されていた。それをぼうっと見ていたデルタに、さっきの女性と一際大柄な男性が近づいてきた。
「お初にお目にかかりますな、戦闘姫。あなたを放置することができないので、このような姿にさせてもらいました」
座り込んでいるデルタを見下すように、その男は、笑みを浮かべた。
「わ、わたしをどうするつもりですか?」
デルタは、男の顔を見据えながら、口を開いた。それに対して、男はゆっくりとフードを取りながら、デルタに問いかけてきた。
「先ほどまでの元気は、一旦引っ込んだようで、冷静に話ができるようでうれしいですよ。
我々があなたをどうするか。それは。あなたの態度次第です。とりあえず、お近づきの徴として、まずは、あなたの製造番号を教えていただけませんか?」
「せ、製造番号?そんなの、そんなの知らない。知らない!」
「隊長、ドレスの解析終わりました。非武装のドレスで、インナー、コルセットの使用は認められません。あと、所属飛行場と部隊名がありましたが、お伝えしましょうか?」
「いや、いい、是非に……この戦闘姫からお伺いしたいからね。では、改めて、戦闘姫、あなたの製造番号、そして、所属飛行場と部隊名をお教えください」
デルタは、ヴェールの下で困惑を隠せないでいた。これは一体どういうことなのだろうか?
『イハーブ 全ての戦闘姫は 飛行場に所属してその部隊に取り込まれる イハーブの部隊はデルタ そして、部隊内でのコードは12 だ」
「そ、そんなこと、そんなこといきなり言われても……」
その言葉が、その男にどのように伝わったのかは定かではないが、男は、凄みのある笑みを浮かべると、その瞳をこちらに見せつけながら、デルタに顔を近づけてきた。
「ほう、白を切るか。自らの製造番号も所属飛行場と部隊名も答えることができない戦闘姫とは、帝都では、なかなかに良い教育を受けているようだな。」
その強い輝きを放つ、赤い瞳に覗き込まれて、デルタは、まるで蛇に睨まれた蛙のように身動き一つとれなくなっていた。男は部下と思わしき兵士から報告書を受け取ると、大げさにほうっと驚きの声を上げた。
「では、お教えいただけないのならば……よろしい、戦闘姫、こちらで、読み上げて差し上げよう。製造番号不明 所属飛行場 女王の玉座 部隊名 デルタ コード 12」
「え?」
デルタは、つい声を出してしまった。それが、どういうことなのかもわからずに。
「どうやら、心当たりがあるようだな。戦闘姫」
『イハーブ 落ち着け』
デルタは放心してしまったように、地面に目を落した。それを、出自が暴かれてしまい、ショックを受けていると判断したのだろう、男は、デルタから顔を離すと、引き上げの指令を出す。
「これより、戦闘姫ならびにそのドレスの搬送任務に移る。全員用意を勧めろ。特に戦闘姫とドレスの位置には十分注意しろ!」
『イハーブ 今ならまだ逃げられるぞ ペイルアウトコードを実行するんだ そうすれば 今着ているドレスを自壊させることができる 混乱を利用すれば白銀の銃を装着できる』
自壊……その言葉に、顔を上げたデルタの目に映るのは、馬車に固定されている小橙の芽だった。この3か月間の思い出が……ゼクスマキナに無理を言って作ってもらったあの子が、行ってしまう。
「いや、できない。そんなことでしないし……逃げられないよ。あの子を置いて。わたしだけ逃げるわけになんていかない」
何も写さないヴェールのディスプレイに、涙が一滴こぼれた。デルタの様子に気が付いたのだろうか、男が戻ってきていた。
「ああ、逃げてもいいぞ。戦闘姫。だが、こちらは、それを理由に帝都にて行動を行ってもいい。帝都に大事な人がいなければいいけどな」
それを聞いて、デルタは、自分の中から、ますます逃げようとする意欲が失われていくのを感じた。アリアとライトが犠牲になる。何も悪くない、わたしが悪いだけなのに、デルタは、そう考えて立ち上がる。
デルタは、それ以上涙が零れないようにすると、目線を上げて、男に向き直った。
「わかりました。戦闘姫、そちらの意向に従います」
「よろしい。しばらくお付き合いいただこう。では、戦闘姫。両手を前に出してください」
デルタが手を前に差し出すと、そこに、手錠がかけられた。たったそれだけで、一瞬ですべての力が枯渇したのではないかと思うような、強烈な疲労感がデルタに襲い掛かった。
「戦闘姫専用の拘束具だ。少し辛いかもしれないが、しばし、付き合ってもらうぞ」
倒れ込みそうになったデルタを、女性兵士2人が支え、足にも同じような枷が付けられる。もう、デルタは、言葉を発する気力も出ないまま、箱のような物体の方へ入れられて外からカギがかけられる。
『イハーブ、大丈夫か?』
「うん、大丈夫……こんなのあの子の苦しみに比べたら、大したことない。今できる私への罰だよ」
ゼクスマキナの言葉に何とか、デルタは反応を返す。
「女王の玉座所属デルタ隊の戦闘姫の護送任務に移る。総員……進め」
外から聞こえる声が、遠くに思えた。デルタは、その気だるさの中で意識を失っていった。




