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戦闘姫、平穏な生活に浸る 3

『いいか、イハーブ 戦闘訓練を行うということは通常の訓練にも応用ができるものだ』


「うんうん、わかっているよ」


『まるでわかっていないようだな。それに帰還中だというのに、注意力が散漫すぎないか?』


 デルタは、比較的ゆっくりとした速度で、雲の上を飛びながら、マーカーのポイント。今のわが家へと向かっていた。


『そろそろ、上空だ。着陸体勢』


「はい、はい!」


『全く、戦闘宙域でならば今が一番危険な時間だぞ。デルタリーダー』


 心配そうなゼクスマキナに、デルタは、照れた笑みで返した。


「だってさ、戦闘姫って、他にいないんだよね。それに、この速度って、誰も追いつけないじゃない。心配しすぎだよ。ゼクスマキナ」


『そうならばいいがな』


「だって、3か月も何もなかったんだよ。きっと明日も何も起きないよ。さてと、帰ったら、洗濯物を取り込まないと」


 ゆっくりと、デルタは高度を下げて、速度を落としていった。


 

 その瞬間だった。



 今まで、空色で満たされていた、ヴェール内が、赤色に発光し始めた。


「え?なに?なに?」


 目の前に映るのは見たこともない文字だった。


『デルタ 標準を向けられている。おそらく誘導兵装によるものだ。対象からの解析波を遮断できない』


「ど、どうすればいいの?」


『早く飛べ 全速力だ!』


「わ、分かった!!」


 デルタが頷いて、ドレスに流れるエネルギーを最大にまで引き上げて、それを推進機構に注ぎ込む。その姿に変化が生れる。ドレスのスカートが変形を初め、見た目がより細いシルエットとなる。


『干渉率維持 デルタ、もっと出力を上げられないのか?』


「こ、これ以上は無理だよ」


 デルタの目の前の速度を示す計器は200を示していた。それは、どんな飛行魔術師も追いつくことのできない領域。


 そのはずだった。


 その全力で逃げるデルタのはるか後方より、一筋の煙が天へと上った。


『対象から、誘導波   遮断できない』


「ゼクスマキナ……あれって?」



 少しの間沈黙があった。デルタは、ごくっと喉を鳴らした。今言った言葉をほんのわずかに後悔するほどに。


『あれは、こちら側の世界の対戦闘姫用兵器その一つだ』


 それは、ほんのわずかに空中で制止すると、まるでデルタを見つけたかのように落ちてきた。そのまま、デルタの後ろにピタッとついた。その動きは、獲物を追い詰める猟犬を思わせた。


「ふ、振り切れないよ!!」


『対象の速度 220以上 現在のこのドレスの速度では振り切ることは不可能』


 デルタは、何とか振り切れないかと思い、訓練で試した、通常マニューバーを行ってみる。しかし、そのどの動作にも、猟犬はピタッとくっついてきた。


『分析完了 対象は魔力追跡を行っている模様』


「魔力追跡って、それじゃあ、逃げきれないっていうことじゃない!!……あ、そうだ!!」


 デルタは、あえて、家の方へと向かう。


『何をするつもりだ?デルタリーダー』


「強行着陸するわ。低空でならば、相手の目をごまかせるかもしれない!!」


『確かに一案あるな』


 デルタの目に、見慣れた家が見えてきた。そして、裏庭には、フードを被った見慣れない人々の姿も。


「こ、ここにもいるの?」


 地面に置かれた大きな箱から、追いかけてくる猟犬によく似た、一発の弾が発射された。


「120°クイックターン!」


『クイックターン、使用』


 ドレスに大量のスラスターが現れ、一斉に噴射。その推力でデルタの体を、着地姿勢から、上昇姿勢に一気に変更させる。デルタは、その一回の行動で、ごっそりとエネルギーを吸われてしまうような感触を憶えた。


『大丈夫かデルタ?コンディションが、イエローになっている』


「だ、大丈夫。最大加速!」


 デルタは、加速を開始するが、180までしか、速度が上がらない。


『最大速度低下』


「ねえ、ゼクスマキナ、あれって、わたしの魔力を追ってきているんだよね?」


『肯定だ。デルタリーダー』


「だとしたら、追う魔力がなければ、目標を見失うっていうこと?」


『そう言うことになるな』


「ゼクスマキナ、高度800でドレスへの魔力供給停止。フリーフォールに移る」


『了解したデルタリーダー。カウントを始める。現在高度720……750……』


 きっとうまく言ってくれる。そうデルタは思いながら、上がっていく高度を見続けていた。すでに、それは、デルタの足元、いつでも噛みつけそうな位置にあって、もう、いつ追いつかれても、おかしくない状況だった。だが、もう一つのそれは、まだ随分下方に存在していて、ずいぶんと出遅れているようだった。


『780……800』


「エンジンカット」


 デルタのヴェール内の光が落ちて、真っ暗になる。即座に、非常用の緑色の明かりがついて、外の様子が、再度見えてくる。


『現在 推力を失い降下中。820……770……』


 上空を見ると、対象を見失ったのであろう、猟犬は、高く雲を出しながら、昇っていっていた。


「か、間一髪」


『まだ、対象からの誘導波切れていない。安心するな』


「うん。ありがとう。ゼクスマキナ、相手がわたしを見失ったら、魔力を供給して」


『了解 だが、2発目がまだ上がってきている。気を抜くな』


「うん!でも、これもきっと魔力誘導型なのでしょう?もう、私を見失っているはずだよ」


 そう言うと、デルタは、何気なく、左にわずかに体重を移動させた。その瞬間だった。それも、まるで見ているかのように、デルタに向けて方向を変えた。


『直接誘導型  よけろイハーブ!!』


 ゼクスマキナの言葉に、デルタが疑問を挟む前に、それは、爆発を起こし、デルタはそれに巻き込まれていった。




「作戦完了です」


 デルタの家の中には、隊長と准尉そして、何人かの部隊兵がそろっていた。


「いや、本当に肝が冷えました。もし、あそこで、強行着陸されていたら、追いかける手段がなかったですからね」


 うむと、隊長は頷くと、准尉を呼びつけた。


「はい、お呼びでしょうか?」


「ああ、これから、准尉は、工兵の小隊を率い、戦闘姫の下に向かえ」


 准尉は、静かに敬礼をすると、その場を去っていった。それを、満足げに眺めていた隊長だったが、家の中に振り替えると、大げさな動作と声で、皆に告げ始めた。


「さあ、諸君これから、忙しくなるぞ!パーティにはショーが、つきものだからな。今日のショーは、戦闘姫の解体ショーだ。撤収準備をすぐに開始しろ。ショーの時間に間に合わせたいのならばなぁ」


 その言葉に、兵士たちは、不敵な笑みを浮かべて、手慣れた手つきで、撤収準備を始めた。ほんの5分もたつ頃には、最初から何事もなかったかのような静寂が、その場所に訪れていた。

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