囚われの戦闘姫
がた、ごと!!
大きな振動でデルタは目を覚ました。首の痛みがほんのわずかに残っていたけど、そっと、視線を這わせた。そこは馬車の客車の床のようだった。
「気が付いたみたいだな、戦闘姫」
「ここは?」
くくくと、目の前の人物が、嗤う。その被虐的な表情に、ぞわっとした悪寒がデルタの体中を駆け抜けた。
「戦闘姫か。お前のことを正しく理解している研修者だよ。まったく、ダメじゃないか、基本的なことしか研究しないようじゃ、」
「な、なにを言っているの?」
「いや、きちんと、メスを入れて、接続部の裏側や、体が破裂するまで魔力がためることができるかとか見ないと、やっぱり研究科は甘いな、まあ、警備も甘かったから助かったけど」
「切り刻むって。」
「いや、戦闘姫っていうくらいだから、ゴブリンくらいは余裕だろ、戦闘力もきちんと図らないと、全く、実験をないがしろにするなんて!!」
「そんな……」
気持ちの悪い、笑みが、デルタを見下していた。ひっと、短い悲鳴を上げ、デルタは、壁側に逃げようとする。
じゃら!!
デルタは、それ以上動けなかった、短い鎖が、それ以上デルタが動くことを拒否している。
その時になって初めて、、自分の手と足が、馬車の屋根と椅子に固定されていることに気が付いた。
男は、顔を伏している、デルタの髪を掴み強引に引き上げると、嘲るように顔を近づけた。
「お前は、もう逃げることはできないんだよ、実験体からな」
デルタが、抵抗を辞めたのを見て、男は、満足したのか、御者席へのドアを開け、そして、閉める。カギのかかる音がデルタの耳に聞こえた。
『すまんな、デルタ』
「ううん、私の視線がすべてだもの、慰めてくれてありがとう」
デルタは、手錠と足かせを見てみる、のっぺりとした手錠は、今まで見たことのないものだった。
『はあ、なるほどな』
ゼクスマキナの納得したようなメッセージ。
「?何かあったの」
『このくらいの魔法錠ならば、解除は簡単だ、デルタ、リアクターは出せるか?』
「うん、」
デルタの手と足に、リアクターが現れると、リアクターと手錠の魔力が干渉を始める。
デルタの目には、その魔法錠の仕組みと、その中をどのように魔力が流れているかを
「いつの間に、こんなことができるようになっていたの?」
『われと、契約した時点でできるようになっていた。いやもしかしたら、出生の時からかもな』
「で、私にできることは?」
『今のところ、詰まらせるということと、魔力が通っていないところ切ることしかできぬ』
まんべんなく、魔力が流れている、手錠と足かせは、まるで∞の字のように魔力が流れている。
「これは、あ、そうか、ここを詰まらせて、」
デルタは、ちょうど中間部に魔力を流し込み、詰まらせる。たちまち、魔力の流れは弱くなり、二つの〇があるようになった。
『あとは、』
「ここを切れば終わり」
魔力錠が、力を失う。デルタは、そっと鎖を外した。
『デルタ、まだ、拘束されているふりをしたほうがいい』
デルタは、頷き、鎖が如何にも機能しているように手錠と足かせの近くに垂らした。
「でも、どうなるんだろ、このまま逃げ切れるなんて思えない」
『デルタ、提案が・・・』
その瞬間だった、馬車が大きく揺れた。
「きゃあ!!」
2度3度馬車が跳ねる。
『攻撃でも受けているのか?』
「まさか、アリアさんが?」
御者席の方から、焦った声が聞こえてくる。
「やばい、レディ=スパーダだ!!嗅ぎつけられたか!!」
「おい、あと、1時間で合流予定なんだ、振り切れ!!」
「無茶を言うな!!あんな化け物から逃げられるか!!なんで、馬と並走できるんだよ!!こっちは4頭立てだぞ!!」
「淑女の剣!?」
実験棟の中でも、囁かれている人物なのか、組織なのかわからない名前だった。リリムやオルテガから、何度もそのことを教えてもらっていた。デルタは、聞こえてくる悲鳴じみた声に驚きながら、逆に冷静になっている自分に驚いた。
「今なら逃げられないかな?」
『試してみよう』
御者席から聞こえてくる悲鳴じみた叫び、魔術の詠唱は、この馬車が、極度の混乱状態にあることを表していた。
デルタは、そっと側面のドアの方へ近づく。その時だった。
「ええい、軽くするしかない、残念だが、戦闘姫はあきらめる!!切れ!!荷物を捨てて軽くするぞ、この先の崖で廃棄しろ。ほかに奪われても困るからな!!」
「え?」
がこっ、急速度の中、馬車から、引っ張られているという、感触が消える。
『どうやら、留め金を外したらしいな、主どうする?』
「どうするって、わっ!!」
大きな石に乗り上げたのだろうか。馬車が大きく揺れる。
「この先は崖って、言ってた、あの目使える?」
『了承した』
視界が切り替わり、右に大きくカーブする道と、目の前の崖が見える。4頭の馬と御者席に、2人の姿が見える。そして、
「あれは、何かしら?」
奇妙なものが、馬車と並走していた。巨大な異形。形容はしがたいが、大きなトカゲにも、また、神話に出てくるような伝説の生物……ドラゴンのようにも見える。
馬車から高温を示す、白い球体が飛んでいるのが見えるが、一向に、その奇妙なものには当たらない。
ふと、御者席留め金を見ると、薄く糸のような魔法が結ばれているのが確認できる。おそらく偽装のためなのだろう。
『これでは、カーブに耐えきれないな』
「太くするとかはできない?」
『今は無理だ』
「そうなのね」
デルタは、少しうつむき、
「アリアさん、ライトさん……ごめんなさい」
朝まで一緒にいた、その二人の顔を思い出しながら、そっと口の中で、デルタは謝った。もう、決して戻らないその日々が幸せだったのだろうと、そう思いながら。
『デルタ……選択を求める』




