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戦闘姫、翔ぶ

『デルタ……選択を求める』


 大きな石を踏んだのだろうか、馬車が、跳ね上げられて、感傷に浸っていたデルタは、床にたたきつけられた。その痛みの中、目の中にゼクスマキナの文字が浮かんでいた。


「選択?」


 小さな石を踏んだ感触が、デルタに伝わる。もう、崖は目の前だった。


『そうだ、デルタが生き残るための方法。その選択だ。

 その方法は、2つある。1つは、我を開放し、自らが死んだ事実を捻じ曲げて生きること。そうすれば、とりあえず生は拾える。だが、我は消える、その後どうなるかは、運しだいだ』


『2つ目の選択肢は、我を受け入れ、契約し、使命を受けること、そうすれば、今日からデルタは戦闘姫だ・・・そして、我も消えない。』


「なによそれ」


 デルタは、振動の中、椅子に手を置き、何とか立ち上がる。


「そんなの選べないじゃない。契約とか使命とか、何もわからないし、戦闘姫が何なのかわからないけど……わたし、ゼクスマキナと一緒にいたいし、まだまだ、アリアさんやライトさんみんなと一緒にいたい!」


 馬車が大きく揺れる。御者席の方に助けに来てくれた人は向かっていったようだったが、それは視線の片隅に捉えるだけにした。


「わたし!ゼクスマキナを受け入れるよ!」


『了解した。デルタリーダー』


 その瞬間、光が、広がった。




 次に、デルタが、目を開いたときには、見覚えのある、白一色の空間が広がっていた。ただ、あの時と違うことが、一つあるとすると。


「これって……なに?」


 いつの間にか、デルタの手枷足枷は消えていた。そして、目の前に、不思議な白銀の鎧が鎮座していた。すらっとした、軽鎧のように見え、少女騎士が使うものだと、デルタは推測した。

 すらっとしている上半身に対し、下半身の異形さが際立っていた。そのなかでも、特に異形を放っているのは、金属でできた巨大なスカートだった。デルタが手を伸ばしたものよりも大きい。そして、白銀の鎧ではあるが、デルタのリアクターの位置に、黒い模様が付いていた。



『デルタ。待たせたな。ここは戦闘姫である、お前の領域を使い作った工房だ。そして、これがお前の記憶から再構成した、空を飛ぶためのドレスだ。デルタが、いつでも着られるようにチューンを施してある。』


「戦闘姫のドレスを?わたしのために?」


『本当ならば、昨日の夜に十分時間をかけて説明するべきだったが、もう、時間もない。さあ、主よ、ドレスと契約してくれ』


「契約って、どうするの?」


『リアクターを出し、ふれるだけでいい、それだけで登録される』


 ごくっ、


 デルタは、不安も感じながらも、全身のリアクターを現出させ、そのドレスにふれる。その瞬間だった。


 ドレスが、まるでデルタがもともと身に纏っていたように装着される。


『契約が成ったぞ、主』


 それは、一瞬の出来事だった。デルタは、そのドレスを着ていた。重厚そうな外見だが、身に感じる重さはなくて、一瞬困惑したが、指一本動かすことができないとデルタは気が付いた。


「ええと、ゼクスマキナ、まだ動けないんだけど」


『焦らなくてもいい。デルタリーダー、初期システム構築を開始する。エンジンから、エネルギーをリアクター流すんだ』


「魔力を?こう?」


 デルタは、ゼクスマキナ体内のエンジンといわれるの大魔力の塊から、リアクターに流れる魔力をいつもより増やす。デルタの視界が、蒼に染まっていく。


『もっとだ、もっと大胆に流していいぞ』


「わ、わかった」


デルタは、リアクターに流れる魔力を、今できる最大にまで上げてみる。魔力がごうっと音を立てて流れていく。視界が蒼一色に染まってそのあと、あの訓練でいつも見ていた、表示が、次々に浮かんでくる。


『ドレス、稼働率、68%・・・89% 各部稼働率上昇。動力部稼働 駆動系チェック完了 索敵部稼働 各レーダーシステム チェック完了 火器管制システム チェック完了

 稼働率95% 世界律に干渉を開始』


「はあ!!」


 デルタの、体から、蒼い光が上がる。その瞬間だった、地面にあった足が、ふわっと浮き上がった。その瞬間、デルタの目に、『おかえりなさい』と表示が飛び込んできたが、デルタはそれどこではなく、初めての感覚に驚きを隠せないでいた。


「ねえ、いま、少し浮いた!!わたし、浮いている!!」


『ドレス稼働率100% デルタリーダー、出撃許可(オールグリーン)』


『主よ、ドレスの起動が完了した、もうすぐ、現実に戻る、』


「え、?」


その空間は消え、再び、デルタは、ドレスを纏った状態で、馬車の中にいた。あの衝撃はないけど、目の前には馬車の天井が広がっていた。


『この馬車は、自由落下中だ、30秒後に、地面にたたきつけられる。たたきつけられた場合死亡率は90%オーバー現在の状況では、生存は勝ち取れない』


「相変わらずだね。ねえ、ゼクスマキナ、そんな状況になりたくない。……わたしは、どうすればいい?どうすれば、助かるの?」


 デルタは、ゼクスマキナに聞いた。それは、助けてほしいという懇願ではなく、どんな力が自分にあるのかわからないから、助かるために教えてほしいという、ゼクスマキナへの信頼だった。


 すぐに、ゼクスマキナがメッセージを出す。それは、もう知っている、という、デルタへの教育だった。


『戦闘試験を思い出せ、自衛戦闘の訓練だ。』


「そうか、なるほど。わかったよ!!」


 すっと、ドレスに力を込めるとデルタの手に、紅い光が生まれる。そこには、見たこともないいかつい形状の拳銃のようなものが二挺握られていた。銃身が回転を始め、魔力が弾丸にこもっていく。


「とりあえず、脱出口を作る!!」


銃口から、暴走するような魔力が、無数の紅い弾丸となり、一瞬で抗魔力の高い素材で作られているはずの馬車の天井を粉々にする。確かに高速で落ちている証左である、岩壁が見えた。


『進路クリア。跳べ。デルタリーダー』


「はい、デルタリーダー、出撃します」


 デルタは、はじかれるように、飛び出す。ドレスに一瞬文様が浮かび、魔力が完全に通ったことがわかる。飛び出るのと同時に、馬車が谷底に落ちる音がしたが、デルタは振り返らずに、その場から離れるように、渓谷の底を飛びはじめた。


「訓練が役に立ってる。わたし飛べているよ!ありがとう、ゼクス=マキナ」


『礼として受け取っておこう、では、飛行ルートを提案する』


「少し待って、今何時」


『5時30分だ。どうやら人攫いたちは王都を出るのに、ずいぶんと時間を食ったらしい』


 冬の初め、だんだんと日が昇るのが遅くなるが、すでに、空が明るくなり始めている。


「本当は、目立ちたくないけど、6時ちょうどに王都の中央教会の上に行けないかな?見ていきたいことがあるの」


『ふむ、主よ、見ていきたいということは、何かあるのか?』


「ええ、本当は見たくないけど、見ていかないといけない。あと、私のためにも必要なの」


『飛行プランを訂正した。少し高速飛行の練習も兼ねている、あと、マニューバをいくつか試してみよう』


 訂正されたプランが、デルタに示される。


 デルタは、そのプランの通りに飛ぶことにした。谷底から、銀色の戦闘姫は一転上昇し、雲の中へ消えていった。


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