第四十九話 魔王マモート
そう言ったホクサの顔を、私は見つめた。目は真剣で、殺気がこもっていた。くっ。この魔族は一体、どんな攻撃をしてくる?……。と私が聖剣アポビーを構えて警戒していると、この広間に威厳と恐怖を感じさせる声が響いた。
「そこまでだ、ホクサよ。お主も、分かっているだろう? きっとお主では、その人間は倒せん……」
するとホクサは、悔しそうな表情になった。
「くっ、お分かりですか。魔王様……」
ホクサがそう答えたので、私は驚いた。こ、この声はひょっとして魔王の声なの?! 確かに威厳と恐怖を感じさせる声だ……。するとホクサは、両方の手の平を私に向けた。
「魔王のご命令なら、仕方がありません。ユーミ王女、あなたを魔王の元にお連れします……」
とホクサが告げると、私の目の前に黒い渦が現れた。くっ。これはきっと、ワープさせられる黒い渦だ! 一体どこに、ワープさせられる?! 取りあえず、この渦には入らない方がいい! と私が黒い渦から離れようとしたが、黒い渦は私を追ってきた。くっ、逃げられないか! そして私は再び、黒い渦に吸い込まれた。
次の瞬間、私は漆黒の大広間にいた。え、ここ、さっきと同じ場所? え? どういうこと? と思ったが、違った。ここはさっきとは、違う場所だった。目の前に灰色の玉座に座った、魔族がいたからだ。そいつは禍々しい緑色の肌をしているから、一目で魔族だと分かった。
そして灰色の、ゆったりとしたローブを着ていた。顔や腕には深いしわがあり、この魔族は老いて見える。だがその鋭い眼光は、私に今まで感じたことがない恐怖を与えた。次の瞬間にでも、私が殺されるかも知れない恐怖だ。
そして今まで遭った魔族とは、雰囲気が違う。その魔族が発する雰囲気は、私を動けなくさせた。逃げることも、もちろん近づくこともできない。それどころか、指一本動かすことができない。こ、この魔族、タダものじゃない。もしかすると……。と私が考えている、その魔族は威厳と恐怖を与える声で、話し出した。
「まずはご苦労、ホクサよ。この人間を、生きたままここに連れてきて……」
え? ホクサ?! するとその老いた魔族の左に、黒い渦が現れてそこからホクサが出てきた。そしてその老いた魔族に、うやうやしく頭を下げた。
「さきほどは勝手な真似をして、申し訳ありません。魔王マモート様」
それを聞いた私は、最大級に警戒した。もしかしたらと思ったが、やはりこいつが魔王だったか! するとマモートは、静かに答えた。
「いや、構わん。よくぞこの人間を、殺さなかった……」
「はい。ありがたき幸せ、魔王マモート様」
するとマモートは、今度は私に話しかけてきた。
「さて、お主には二つ質問がある。答えてもらおう。まずお主は、この国の次の女王である、ユーミ王女か?」
私はマモートの雰囲気に気圧されながらも、何とか答えた。
「そ、そうですわ! それがどうか、いたしましたか?!」
するとマモートは、冷静に答えた。
「まあまあ、そう興奮するでない。それでは、次の質問じゃ。なぜお主はモンスターを殺さずに、戦闘不能にして退けたのじゃ?」
「そ、それは……」
くっ、こいつ。私があまり話したくない話を、ズケズケと聞いてきますわ! でも私は、答えた。そうしないとこのマモートに、瞬殺される予感がしたからだ。だから私はその恐怖心と戦いながら、答えた。
「そ、それはモンスターも生き物だからですわ! 私と同じ、生き物だからですわ! 私はむやみに、生き物の命を奪ったりしませんわ!」
するとマモートは、冷静に静かに答えた。
「なるほど、なるほど。確かにこれは面白い。ヨダクとタフバが、お主に興味を持つのも当然じゃ。そんな考え方、人間はもちろん我々魔族もしない。モンスターなど我々魔族の、下僕にすぎんからのう……」
そしてマモートの眼光は、更に鋭くなった。
「それでは、この儂はどうする? この儂は五〇〇年前、多くの人間を殺したんじゃが?」
「ま、まずはその理由を知りたいですわ」
「なるほど、理由か……」
するとマモートは、不気味なほど冷静に静かに答えた。
「それは五〇〇年前、人間が我々魔族を滅ぼそうとしたからじゃ。我々魔族は人間よりも、圧倒的に強力な魔力を持っている。だから放っておいたら、何をするか分からないという理由でな。だから儂は魔王として、人間相手に戦った。我々魔族を、護るために……」
それを聞いて、私の心は乱れた。くっ、それはヒドイ。人間の方がヒドイ。そんな訳の分からない理由で魔族を滅ぼそうとする、人間はヒドイ。だから私は、そんな魔族を護るために戦ったマモートに敬意を感じてしまった。するとマモートは、再び話し出した。
「五〇〇年前、儂は人間に倒された。だが人間に罪もない妻と子供を殺されたホクサによって、儂は今蘇った。そして儂は、絶望した。五〇〇年前と変わらずに、我々魔族を滅ぼそうとする人間に。だから儂は、決めた。今度こそ人間を、滅ぼそうと。さあ、ユーミ王女よ。お主はこんな儂を、どうする?」




