第三十四話 違和感
なので私は早速、右手をハショウ君の右腕にかざして治癒の魔法を唱えてみた。
「ヒール!」
そして、聞いてみた。
「ど、どう、ハショウ君?! 癒しを感じた?! 私、治癒の魔法も使えるようになった?!」
するとハショウ君は、首を左右に振った。
「いえ、癒しは感じません……」
え? そうなの? えーと。確か治癒の魔法のコツは、慈愛と優しさだったわね。だから私はそれらを、自分なりにありったけ込めて魔法を唱えた。
「ヒール!」
でもまたしてもハショウ君は、首を左右に振った。ダ、ダメか……。でもハショウ君は、励ましてくれた。
「でも、ガッカリすることはありませんよ。きっとユーンさんなら、この治癒の魔法もすぐに覚えますよ!」
うん、そうですわね。ここまで順調に魔法を覚えてきた私ですから、きっとこの治癒の魔法もすぐに覚えられるに決まってますわ! オーホホホホ! そして再びナバウ様と、剣聖を目指す旅の再開ですわ! と、そこまで考えた私は気付いてしまった。そうか。私がこの治癒の魔法を覚えたら、ハショウ君とお別れなのね。初めての友だちの、ナリンさんとも……。
と、ちょっと私の感情が複雑になっていると生徒の叫び声が聞こえた。
「うわー! モンスターだ!」
「な、何でこんなところに?!」
「とにかく逃げろ! 早く逃げろ!」
そして生徒たちは、一斉に逃げ出した。私が声をした方を見てみると、そこには一〇体ほどのモンスターがいた。手足があり見た目は人間のようだが、すぐにモンスターだと分かった。全身が黒い毛で覆われていて、頭部はオオカミのようだったからだ。
するとハショウ君とナリンさんは、火の魔法でモンスターを攻撃しだした。まだ逃げ遅れている生徒がいるから、彼らを護るためだろう。だが火の魔法は、モンスターには効かなかった。モンスターは火の魔法にひるんでいるが、ダメージは与えられないようだ。これでは、時間稼ぎにしかならない。でも二人は、それでも良いと思っているようだ。そのスキに生徒たちを、逃がすつもりのようだ。
だから私も魔法で加勢しようと思ったが、止めた。それでは、時間稼ぎにしかならないからだ。モンスターたちを、倒せないからだ。だから私はこの広場から、女子寮の自分の部屋に戻った。そこに、聖剣アポビーが置いてあるからだ。二人の魔法で倒せないなら、私の剣術で倒しますわ!
だが広場に戻った私は、思わず立ちすくんだ。右腕から血を流してうずくまっているナリンさんを、火の魔法でモンスターを近づけさせていないハショウ君を見たからだ。おそらくナリンさんは、モンスターに攻撃されたんだろう。それに気づいた私は、激怒した。
「私の友だちに、何をしてるんですか?!」
私は聖剣アポビーを右上から左下に振り下ろして、一体のモンスターを倒した。まだまだ、まだですわ。全てのモンスターを、倒して見せますわ! そして私は聖剣アポビーを、振り上げた。だが次の瞬間、妙な違和感に襲われた。な、何ですの、この違和感は?……。
私は目の前のモンスターを倒そうとしたが、倒せなかった。な、なぜ?……。すると、じっとモンスターを見ていた私は気づいた。このモンスターは、人間に似ている……。確かに全身が黒い毛で覆われていて頭部はオオカミだが、手足がありパッと見は人間だ。だから私はさっき、モンスターではなく人間を倒したような違和感に襲われたのだ。私はもちろん、人間を倒すつもりはない。だから人間に似ているモンスターも、倒せないようだ。くっ。私は一体、どうすればいいんですの?……。
と私が迷っていてもモンスターは、ナリンさんをかばっているハショウ君を攻撃しようとしていた。と、とにかくこのモンスターたちを何とかしないと。そう考えた私は目の前のモンスターに、五〇パーセントの力で聖剣アポビーを振り下ろした。すると目の前のモンスターは大きなダメージを受けたようで、うずくまって動かなくなった。でも、倒してはいない。よし、これですわ!
そして私はオオカミの頭をしたモンスターたちを、五〇パーセントの力で斬り続けた。このモンスターたちは左右の拳を突き出して攻撃してきたが、それは遅いので私は余裕でかわして攻撃し続けた。するとモンスターを倒さずに、戦闘不能にすることができた。気づくとモンスターたちは全てうずくまり、戦闘不能になっていた。それを確認すると私は、ナリンさんの元に駆け寄った。
「だ、大丈夫、ナリンさん?!」
するとナリンさんは、苦しそうな表情ながらも答えた。
「だ、大丈夫。ハショウ君が、護ってくれたから……」
それを聞いた私は、ハショウ君と顔を見合わせて頷き合った。とにかく、何とかモンスターたちを退けたようですわ……。と私が一安心していると、ハショウ君が叫んだ。
「な、またきた?! モンスターがまたきた?!」
私がハショウ君が見ている場所を見てみると、何とまた一〇体ほどのモンスターが現れた! 今度のモンスターも一見、手足があり人間に似ているが全身が茶色の毛で覆われていて頭はイノシシに似ていた。くっ。こいつも人間タイプのモンスター?!
そいつらは手に持ったヤリで、私たちを攻撃してきた。それはヤリで連続の突きを繰り出す、攻撃だった。だがもちろんナバウ様の十連突きよりも遅かったので、私は余裕でかわした。そして、覚悟を決めた。くっ、やるしかない! さっきみたいに五〇パーセントの力で攻撃して、倒さずに戦闘不能にするしかない! そして私は目の前のイノシシ頭のモンスターを、五〇パーセントの力で斬りつけた。でもそいつは一瞬ひるんだが、またヤリで攻撃してきた!




