アルカ雪原VI
「ア、アルカ雪原から出られない.....ですか。」
「そうじゃ」
サトーはふと思った。
待てよ...
俺は元はと言えば、記憶を取り戻すために旅に出ていた。その記憶が戻った今、クヴェルト村への旅は終わってしまったのだ。と。
いや、行かずして達成してしまったと言えよう。
そんな今、俺がこのアルカ雪原から出られないからと言って何が悪いのだ...?と。
「...お主、至って冷静じゃな」
「...そうでも無いですよ」
サトーは虚ろに俯く。
... 魔王軍アルカ雪原統括・魔法部隊総隊ヨヴスト。
アイツはそう名乗った。
俺にはもう生きる意味はない。
戻った記憶の中身は空っぽな上、殺人を犯し、ボイドやウォーターの誰1人も救えなかった。
俺みたいなやつが、生きていていい訳ない。
ただ...
「む...っ?」
ルーが咄嗟に身を引き、1歩下がる。ルーも知らぬ間に臨戦態勢になる。
サトーのミチミチとした歯ぎしりの音だけが響く。
あ.....
ああい【、いつだけェはァ.....】
【アイツだけは.......ぁあ!】
――――――パチンッ!
「.....ぁ」
サトーはハッとした。
「お主...」
ルーの目が潤む。
どこか寂しげに、哀れむようにサトーを瞳に映す。
「お主まさか悪魔と.....」
ルーが続けてそう言おうとした時サトーがるーの言葉を遮る。
「ひ!人は...」
「なっ」
驚いた顔をするルー。
「人は闇を持ってして闇を産むんです...ふふ...」
打ち切りしたアニメ、双剣伝説ヘルバーンのポーズをぎこちなく取る。
「はぁ....びっくりさすでないぞ......悪魔に乗っ取られたかと思ったわい...」
ルーは呆れたように苦笑いした。
ルーは腰に手を当て、ため息をつく。
何とか免れた.....
まさか、悪魔の意思を制御できなくなっているとは....
バレたらどうなっていたことやら...
この事だけは流石に隠すしかない...
ルーが山荘の灯りを、一つ一つゆっくり木の踏み台を使い、消していく。
そうして全ての灯りを消した時。
「陽光よ...月を照らせ...」
【月光灯】
ぽわぁ...とルーの人差し指に小さい明かりが灯る。
ルーはおもむろにサトーの隣に寝っ転がる。
ルーの腰まで伸びた茶髪がサラサラと音を立てる。
「な!?!?//////」
しーっと、その人差し指で静かに合図を送る。
ルーはジトっとした目でこちらを見つめる。
「お主...勘違いするでないぞ...あくまで治療じゃ...」
ルーの頬はそれでも赤く染っていた。ルーの過去については全くもって触れていないが、きっと長いこと人と会っていなかったのだとサトーは思った。
「光のマナよ.....我の身からこの者に...粒子の流れを」
【循環治癒】
ルーが詠唱をボソボソと呟くことで、彼女の吐息が当たり、サトーの身からすれば満更でもない...
そうサトーが緊張しているうちに、サトーの体内で魔力が循環していくのがわかった。先程までとは比べ物にならないほど、足腰が楽だ。強靭な筋肉を纏った手の傷も若干薄くなる。
ガチガチの体は動かさず、ふとルーの方に目を向ける。
「......っ」
サトーはハッとした。
ルーの肩が小刻みに震えていたのだ。
サトーは先程までの緊張が自然と解けていき、ルーの方へ体を向ける。
サトーのとった行動は自分でも意外だった。
「ぁ.....」
サトーは、ルーをそっと抱きしめた。
だが、サトーの体は悲鳴を上げる。
「いててて.....」
ルーは我に帰ったかのように、咄嗟に離れる。
「な、何をしておるのじゃ...!わしはただ...」
ルーが目を背ける。
「...何となく、です」
サトーが小さく呟く。
サトーには彼女が一瞬寂しそうに見えたのだ。ずっとこの閉鎖的な空間に閉じこもっていればそうもなる。彼女ですら気付かぬうちに精神がすり減っていたのであろう。
ーーーー彼女を救いたいと、単純にそう思ったのだ。
しばらくの沈黙の後、ルーはサトーに躊躇いもなく抱きついた。窓がガタガタと音を立てて、今にも割れてしまいそうだ。
「よ、夜は寒いからの.....」
ルーの声は震えていた。それを隠すように声を出すルーだが、全く隠せぬほどに心は疲弊していた。想像もできないほど長い年月この雪原でひとりぼっちで...沢山の死体を見て.....。
ルーがサトーを抱きしめる。ルーは客人をもてなすのとは、一線を優に超えていた。
「.........すまぬ...こんなはずでは...」
サトーの胸元の服がじわじわと急所的に濡れていく。
サトーは何も言わず、そっと彼女の頭を撫で続けた。
「んむ.....」
ルーはまるで幼い子供が母親の胸元で寝付くようだった。しゅるしゅると肩の震えが収まっていき、眠りに落ちた。




