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知識の巫女は見守るだけ。  作者: 篠由
スキャンダラス録の開示を致す。
18/19

02 離れていた頃の話


 休憩時間に入ると同時に四鏡神社の神職、守里(もりさと)花那(はな)は目を擦った。それを見た神職の先輩が目を丸くする。


「ハナさん何か眠そうじゃない?珍しい」

「……昨日、少し寝たのが遅くて」


 指摘されて花那は素直に肯定する。すると先輩は大袈裟に驚いてみせた。


「それもまた珍し!基本めっちゃ規則正しい神職のカガミみたいな生活してる守里ハナが!」

「言いすぎです。わたし普通の人間なんですが」

「いやいや、ハナさんと同じことはそうそうできないからね?でも何かあった?単に寝つけなかっただけ?」

「いえ、高校時代の友人と電話をしてて少し話し込んだだけです」


 『遅くにごめん』と謝罪から通話が始まったのは、電話の相手もまた花那の就寝時間が早いのを知っていたからだろう。


(わたしの生活サイクル、昔も今も変わってませんからね)


 夜の一〇時を過ぎたらパッタリ連絡を返さなくなるのが花那である。


「高校時代って言うと、寮にいた頃だっけね」

「そうです」


 花那は高等学校時代、この街を離れて他府県に出ていた。全寮制ではないが、寮があることが都合がよかったので選んだと言っていい。


(中学まではお祖父さん達も頑張ってくれたけれど……あまり無理をさせるわけにいかなかったし)


 母を早くに亡くしているため、難しい年頃の孫の養育に苦心していたのを知っている。ならばといっそ手を煩わすことのない場所に離れてしまえばいいと考えた。


「確か何か……すごいお金持ちの学校だったよね?」

「はい、まぁ」


 他府県の進学校だったのだが、確かに小市民の感覚では別次元の富裕層の子女が通うところだ。

 これは守里家に財力があるというわけではない。

 花那は特待生だった。絶対にそこがよかったわけではなく、特待生の枠に入れたからというだけのこと。


「あとは、ちょっと宗教色の強い学校だった?」

「そうですね」


 世の中には宗教を中心に街が興り発展していくケースがある。花那が通っていたのも宗教が先にあって、それを信仰する者が集まる学院だった。


(神社の娘が通っていいのかと疑問に思ったものだけれど)


 別に構わないらしい。確かに学院生の多くがその教えを信仰してはいたが全員ではなかったし、無理やり改宗を迫られることもなかった。

 信仰は個人の自由であり、学院でも自由にできて花那としても気に入っていた。


「生徒会の友達?」

「はい、皇帝だったひとです」

「『皇帝』……?」

「間違いました。生徒会長です」


 当事者でないとわからない言い回しに首を傾げる先輩神職に、すかさず花那が訂正を入れたところで。


「ハナ、今いいか?」

「はい?」


 声をかけてきたのは四鏡神社の宮司である。花那にとっては祖父でもあるが。


「週末の出張の件だが」

「はい、何でしょう」


 宮司も宮司で神社を不在にしていることが多いのだが、実はそれとはまた別枠で花那も外部の仕事を任されることが多い。いわゆる広報担当のような枠で。

 花那は神職としてはここに務める者の中で一番勤続が短いが、神社に関わってきた時間なら宮司である祖父の次に長い。

 当然のように後継者のような役割を求められるが、神社の宣伝もその範囲内のことだ。


(今回の出張は、それともまた違うので仕事と言うのも微妙ですが)


 高等部を卒業後、花那は同じ学院の大学に内部進学はしていない。

 それは神職の資格を取得するため、その専門学科のある大学に進学する必要があったから。

 前述のように花那の目的は単に家を離れることだったから高校はどこでもよかったが、将来は家に戻って家業でもある神社で神職になる。最初から神職志望だったのでこれは譲れなかった。

 週末の出張先というのが、その母校の大学なのだ。神職を目指す学生、花那の後輩になるが、彼らに話をしてほしいという。つまり講演の依頼があったため。


「講演の日と翌日は休みでよかったか?」

「そうです。ご迷惑をおかけしますが」

「なに、頻繁に空けるのは私も同じだからな。しっかりやって来なさい」

「わたしの話にどこまで価値があるかはわかりませんが、できるだけのことはしてきます」


 自分も神職として実際に働き始めてまだ一年と少ししか経っていない。とても言葉に重みなど足りないと思うのだが、お世話になった恩師から話が来たので恐れ多くも受けることにした。

 宮司としてもこんな話が来ることを嬉しく思う気持ちはあるらしく、優しく肯いた。だがそこでふと表情を変える。少し心配げに。


「泊まるのは高校の時の友人の家だそうだな」

「はい、聞けばひとり暮らしをしてる場所がそう遠くなかったので」

「うん……そうか、気をつけてな」

「はい」


 何のことはない、祖父としての心配である。

 そこで休憩の時間は終わり、それぞれに務めに戻ることになる。

 出張の日に宿を提供してくれるのは、昨夜電話をしていた友人だ。近況を尋ねられた時に、話の流れで週末出張することを言ったら自分のところに泊まりに来ないかと言ってくれた。

 だからありがたくお言葉に甘えることにしたのだ。


(実はちょっと、有名人なのだけど)


 少し気になると言えば気になる。周囲に混乱が起きないかと。

 だがまぁ、一緒に歩いているのが地味な自分ではスキャンダルになりようもないだろうとも思っている。


   ○


 掃除用具を持って境内に向かって歩いている時、参拝者とすれ違った。


「こんにちは」

「こんにちは」


 すれ違う時に挨拶を交わす。よく参拝に訪れる男性なのはわかっていたのだが、花那は少しの疑問を感じた。

 だからと言ってそれを解消する術はないので、まぁいいかと流すしかなかったのだが。

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