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知識の巫女は見守るだけ。  作者: 篠由
その少年ミザントロープにつき、
14/19

13 二本指の法則

 社務所で用事を済ませた花那が鳥居の下に来た時、トミオは神社のご神木を見上げて佇んでいた。


「お待たせしました。行きましょうか」

「はい」


 振り返ったトミオの背景は明るい。昨夜の雨の気配はなく、すっきりとした青空が広がっている。


(トミオくん自身の顔つきも昨日までとは違いますしね……ん?)


 トミオの視線が風で乱された髪を直していた花那の手元を見ていた。


「……繋ぎますか?」


 まさかそんな欲求があるはずはないだろうと思ったものの、何となくそう申し出てみた……ら。


「んー……じゃあ、お願いします」


 少し考える時間があったので花那の申し出は予想外ではあったのだろう。それでも受けて手を繋いだ。


「思春期の男の子はこういうこと恥ずかしがると思うんですが」

「何か一周回ってよくわかんなくなってきましたけど、せっかくなんで」


 花那は成人女性の平均からそれほどかけ離れた身丈はしていない。ごく平凡である。

 対してトミオは中学生男子、一般的には成長期前の時期だろうか。だが横に並んで歩くと結構大きいことがわかる。

 顔立ちは、子どもらしく頬はふっくらとしていて目も大きいので表現としては『可愛い』と言うのが妥当だが、子どもの可愛らしさだけではない整い方をしている。

 過度な派手さはないが整った見た目と大人びた穏やかな雰囲気、優しい話し方。……となると。


「トミオくんてモテそうですね」


 何気なく言ったが、それを聞いたトミオは珍しく顔をしかめる。


「どうも」

「嫌そうですね……」

「……贅沢だっていうのはわかってます。でもよく知らない女の子から格好いいとか騒がれても。ヒトと深く関わるのが嫌で当たり障りなく話してるのを大人っぽいとか思われるのも嬉しくないし」

「なるほど……言われてみると納得ですね」


 トミオの場合、複雑な環境のせいで自己防衛のために身についた態度だが、同世代の女子にはたまらない効果を生み出したわけか。


「前に聞いたことあるんですけど、父さんも若い頃同じような感じでモテたらしいんです」

「トミオくんはお父さんに似てるんですか?」

「ぼくの見た目は百パー父さん似です。更に父さんは性格も天然で緩くて……年上のお姉さんにヘンなとこに連れ込まれたことが何度もあるらしくて」

「子どもにそんな話を、」

「ホントにね。天然なんで、うちの親。……これは想像なんですけど、そんなんだから父さん『ママ』とも押しに負けて結婚しちゃったのかも」


 だってあのヒトどう考えてもメンヘラだし、と続く言葉に花那も考える。見た目がよくて性格が穏やかで押しに弱いとなると、隙に付け入ろうとする女性もいるだろう。

 幸いトミオは穏やかそうに見えて警戒心が強いので付け入らせはしないだろうが。


「こればっかりは私にはわかりませんが……いつかトミオくん自身を理解してくれる子と出会えたらいいですね」

「母と妹がわかってくれたら他は別にどうでも。それにハナさんもわかってくれてるし」

「私がわかってても意味はないのでは……」


 家族と花那はトミオにとって『女の子』のカテゴリーには入らないだろう。


「ぼくにとっては充分です。そもそもモテたい欲求ないですから」


 これは根が深そうである。


(今はそっとしておきましょうかね)


 中学生男子にあるまじきことを言っているが、子どもなんだからと告げてから数十分しか経過していない。成長とともに考え方も変わっていく……と思いたい。


「あ、そう言えばさっきはなにを見てたんですか?本当に手が繋ぎたかったわけではないですよね?」

「あぁ、見てたのはハナさんの指ですよ。ハナさんの手、薬指より人差し指のほうが短いですよね」

「二本指の法則のお話でしたか。そうですね、確かに人差し指のほうが短いです。なので、私はトミオくんのように異性からモテたことはありませんよ」

「母……『母さん』もそうなんです。昔ハナさんと同じこと言ってたこと思い出して」

「あれ、そうなんですか?」

「はい。ぼくはその指好きですよ。綺麗だと思うし」


 人差し指が薬指より短い女性は男性脳だと言われる。もちろん法則性の話で、それが絶対ではない。


「トミオくん、そういうところですよ」

「なにがですか?」


 そんなだから周囲の女性陣が放っておかないのだ。


   ○


 とりとめのない話をして歩いていたら、駐在所へはあっという間についた。


「あ、ハナさん!ご苦労様です」

「おはようございます」

「……おはようございます」


 駐在所の前に立っていたのは昨日話を聞きに来てくれたお巡りさんだ。


「では後のことはよろしくお願いします。トミオくん」

「はい」


 繋いでいた手を放す。だが放した後、花那は反対の手でトミオの手を掴んだ。握手のような形で。


「大丈夫」


 驚いて顔を跳ね上げたトミオにそう告げる。言外に告げた言葉は、『心から願うことなら』だ。


「……はい、ありがとうございます」


 ぎゅっと握った手に力を込めてまた力を抜くと、人差し指が薬指より少し短い綺麗な手が離れていった。


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