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知識の巫女は見守るだけ。  作者: 篠由
その少年ミザントロープにつき、
11/19

10 知識の巫女は看破する


「トミオくん、今日スマホを持ってなかったのは、もしかしてわざとですか?」


 ずばり切り込まれた。


(何で気づくんだ、このひとは……)


 年齢のわりに大人びてるとか頭がいいとか……たまに行きすぎて、なにを考えてるかわからないとか察しがよすぎて気持ち悪いとか。あまり大人にいいことを言われてこなかったトミオにとって、こんなことは初めてと言っていい。そしてずばすば見抜かれ更にずばずば言われてもまったく不快に思わないところがすごい。


(やっぱ巫女さんだからか。神さまに仕えるヒトは何でも視えるのか)


 実際には巫女でなく神職なことを本人はまだ知らない。と言うか、単に違いがわからないだけである。


「アタリ、です」


 ともあれ、嘘をつく理由も必要もないトミオは普通に肯定するだけなのだが。


「その行動に意味はありましたか?」

「……あったと思いますよ。ぼくは何ていうか……『いい子』なので、」

「そうですね。そう思いますよ」


 そこは『自分で言いますか』と突っ込むところだと思う。だが花那の言い方は茶化すでもなく、単なる素直な感想を述べただけだとわかる。


「スマホを持ってたら、帰ってきた父親が連絡してきてたと思うんです。自分からはしなくても電話がかかってきたら、ぼくには無視はできなかったと思う……し」

「そうですね。そう思いますよ」


 今日の朝、母は妹を連れて泊まりで実家に行った。母からはトミオも一緒に行かないかと誘われていたが断った。『面倒臭いからひとりでゲームでもしてる』と言って。

 最近ではこれぐらい言っても疑問には思われなくなっている。トミオももう中学生、男の子ならこんなもの。そう思われているのをわかっていた。

 ただ母親としては実の親子ではないことをカミングアウトしたばかりであり、トミオの心情を慮って強く誘わなかったのもあるかもしれない。

 父は朝から出張で帰りが夜になることは知っていた。だから日中トミオが居なくなっても誰も気づかない。

 だから本当に最初はちょっとした気分転換のつもりで外出した。大した装備ではなかったのもそのせいだ。

 今までの自分が知らないところで、誰も自分を知らないところで、なにか少し気分が上がるようなことでもないかと思って。


(なきゃあないで別によかったんだけど)


 そこまでの大冒険が起こるとまではさすがに思わない。トミオは年齢のわりに大人びて賢いリアリストだから。


「場所がこの街だったのは偶然です。自分の所持金とICカードの残高とで、多少飲み食いもできて往復できる範囲の一番遠い駅を選んだ結果がここで。夕方、一回帰ろうと思って駅までは行ったんですけど」

「そうですね。そう思いますよ」


 疑われていないとわかって安心する。一度は花那と別れて帰宅の途についたのは嘘ではない。


「このまま帰ったら、出張から帰った父さんを普通に出迎えて。そしたらなにも起こることなくぼくが家を空けてたことも誰にも気づかれないまま一日が終わるんだなー、と思ったんです」

「そうですね。そう思いますよ」

「家を出た時はそれならそれでいいや、って冷めた振りして思ってたけど……ハナさんが教えてくれたから。神さまはヒトを甘やかさないし、心から願うことがあるヒトを無下にはしない、って」

「そうですね。そう思いますよ」

「はい、ぼくもそう思います。実際に体験したし。だから……あの時引き返してきてよかったな、と思ってるんです。きっといろんなひとに迷惑かけて、心配もかけたけど……ちゃんと、」


(ちゃんと、実りはあったと思うから)


 最後のほうは言葉にならずに吐息のように零れ落ちた。

 柔らかくて温かい布団に包まれて、既に意識はとろとろと沈みかけている。そのわりに口調がしっかりしているのはトミオの自意識の賜物かもしれない。


「……そうですね。そう思いますよ」


 少しだけ躊躇うような沈黙の後、花那は同じ言葉で静かに肯定をくれた。それに安堵し、トミオの意識は完全に落ちた。


   ○


 言葉が途切れた後、花那はトミオがすやすやと安らかな寝息をたてていることを確認する。どうやら深い眠りに落ちているらしい。このまま悪い夢を見ることなく朝を迎えてほしいものだ。

 話の後半はあまり意識がなさそうだったから、起きたら言ったことも覚えていないかもしれない。眠くても口調の乱れないあたりはやはり普段から気を張っているせいなのか。

 寝顔は年相応に可愛らしいのだが。

 寝顔をいつまでも眺めているのも悪趣味なので、自分も寝支度をしなければならないが……花那は自分の今の状態を確認する。

 トミオほど酷い状態ではないので風呂に入り直さないといけないほどではないが、着替えはしたほうがよさそうだ。

 花那は音を立てないように静かに立ち上がり、自宅である離れに戻るべく母屋を後にした。

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