地雷案件イコール乙女
短いです。ごめんなさい。
こちらの暦ではじきに年の瀬を迎えるという、十三月半ばのある早朝。
いつものように『どこでも扉』でカワセミ亭のシグの部屋に差し入れに行った私は、そこで思わぬパワーワードを耳にした。
「大暴走?」
二次元創作物の中でならともかく、かつての日常でついぞ耳にした事のない類の単語だった。
「ああ、そうなる可能性が高い。お前から例の話を聞いて事前に調べたんだが、今んとこギリギリ踏み留まってる感じだな」
だからお前は絶対『外』に出るなよ、と釘を刺される。
「いや、出ないし」
「グウィンの結界なら獣なんざ余裕で弾くが、念の為だ」
ああ・・・あの挽き肉製造結界。
通常モードでは認識阻害の術式が働いてて、人や獣が無意識に避けて通るような仕組みになってるらしいんだけど、無理に押入ろうとすると瞬時に対物理の術式が反応して、確実に対象を細切れにする凶悪な機能付き。
かなり前に事故的なやつで結界に激突した獣が、お肉になっているのを遠目で目撃して以来、結界の側には寄らないようにしている。
見えてる範囲なら自前の異能でどこへでも移動可能とはいえ、用も無いのに自ら進んで真冬の山中に跳んだりしない。
「━━━あのね、シグ。このところお母さんとチビちゃんが、ずっとうちの庭にいるの。だから家の護りは万全なのよ」
「は?」
「多分、ひ弱な『娘』を気に掛けてくれてるんだと思う。お母さんの目の前で私、何度か死にかけてるから」
自分の領域にたくさんの異分子が流れ込んできている現在の状況は、子育て中の天狼のお母さんにとって、目障り以外の何物でもないだろう。
チビちゃんはまだしも、ちょっと(?)風に当てただけで死にかけるような、ひ弱な娘がいては。
「・・・まあそれなら、安心・・・?・・・なのか?」
「それにね、家に何かあったとして、家主が何もしないでいると思う?」
「・・・チッ!そっちが暴れる可能性もあんのか」
『チッ』・・・て、いま舌打ちした?ねえねえ。
「━━だからね、今の我が家は世界中の何処より安心安全な場所だと思うの」
「いや、訂正。全く安心できねぇわ」
何を思い浮かべたのか、やけにゲンナリとした表情になったシグは、差し入れのバゲットサンドをコーヒーで急いで胃に流し込むと慌ただしく席を立ち、『いいか、お前はくれぐれも大人しくしてろ!』と言い置いてから、部屋を飛び出して行った。