空を翔る乙女
「うひゃあぁぁ!気ん持ち良いーーー!!眺め最ッ高!でも寒ぅいぃぃい!」
「う”お”あああああーーーーーッ!!」
お空の上からコンニチワ。華朱と愉快なお爺様です☆
只今絶賛フライト中。
あの後、天狼親子の塒に跳んで『麓の町の近くまで運んでください』とお願いをしたところ、お母さんはそれを快諾、お昼頃に迎えに来てくれた。
ちなみにチビちゃんはお留守番。
あの子を人間のいる場所に近付けたくないしね。
夏に何度かお母さんの背中に乗せてもらって、家の周りを飛んだ事もあるし、空を飛ぶ事自体にさほど抵抗もない。━━━私は、ね。
空を飛ぶ乗り物に慣れていて、ドローンやヘリでの空撮映像を日常的に目にしていた異世界人にとって、空からの眺めはテンション上がる以外の何物でもないけど。
こっちの人間にはそうでもなかったみたい。
いざ飛行という段階になって、シグが渋々といった体の態度をとったため、それならばとお母さんはシグを特等席にご招待。
━━━そう、私も何度かやられた事のあるアレ。
『お口でパックン』
絶妙な力加減でお口に咥えられて、空のお散歩と相成りました。
「ここまで送ってくれてありがとう、お母さん。帰りは自分で“跳んで”帰るから、心配しないでね」
天狼の姿が人目に触れると、大パニックが起きるのは確実なので、町の手前に見えた林に降ろしてもらい、そこからは歩いて行く事にする。
上空から見た感じで、直線にして一キロぐらいかな?
「シグー?行くよー」
「・・酷ぇ目にあった」
着地のタイミングで雪の上にボトリと落とされたシグは、憮然とした様子で身体中に着いた雪を手で払っている。
「あー、身体が犬臭ぇ・・」
「でも怪我はしてないでしょ。お母さんも一応気をつけてそっと咥えてくれてるし」
「お前な、そういう問題じゃねーんだよ。死ぬかと思ったわ」
「いい眺めだったでしょ?」
「んな余裕あるか!」
そしてそこからの道程は、雪道に慣れていない私のせいで歩みが遅れに遅れ、目的地に到着するまでにかなりの時間を要した。
「着いたぞネージュ、ここがエルモの町だ」
「つ、疲れたー・・・」
慣れない雪道に悪戦苦闘しながら、やっとの事でたどり着いたその町は、少しばかり寂れた感じがする田舎町だった。
通りにあまり人の姿は見えず、建ち並ぶ家々の煙突から出ている煙で、ようやく人の気配が伺い知れるといった感じ。
通りをしばらく往くと、普通の民家とは少し趣の異なる建物が軒を連ねている場所があり、入口の軒先に道具や物を模した看板がぶら下がっている。
「商店街にしては、人出がまばらなような・・・」
「おい、こっちだ」
余所見をしてたら声を掛けられ、慌てて視線をそちらに向けると”歌うカワセミ亭“と書かれた看板の文字が目に飛び込んできた。
どうやらここが件のお宿らしい。
ギィ、と軋む扉を押して建物に足を踏み入れると、そこには居酒屋のような雰囲気の空間が広がっていた。
四人掛けの丸いテーブルが六つと、止まり木のあるカウンター席が五席。
イメージ的には西部劇に登場する酒場が近いかもしれない。
昼時を過ぎた時間帯のためか、店内はガラガラに空いている。
「おや、シグルーン。いまお戻りかい?」
私達が手近な席に座ったところで、奥から四十前後のふくよかな体型の女性が、注文を取りにやってきた。
「おぅ、また女将の世話になる。とりあえず飯を二人前頼む」
「こっちのお嬢ちゃんは旦那の身内かい?」
「いつも兄がお世話になってます」
「おやまあ!小さいのに随分しっかりした娘さんだね。妹さんかい?」
「義理の、だがな」
「ふぅん?まぁ、ゆっくりしてっておくれよ。今日はこの子も泊まりかね」
「ああ」
お喋り好きそうな女将が奥に引っ込むのを見届けてから、私はつい思った事を口にしてみた。
「義理の、って、いつからそんな面倒な設定になったのよ?」
「・・・なんとなく?俺らあんまし血の繋がりがあるようにも見えねーだろ?」
「そりゃまあ、ねえ」
事実そんなものは無いし。
そして、注文した食事はすぐにやってきた。




