乙女と歌うカワセミ亭
出てきた料理はなんというか、どれも見事に“赤”かった。
スープにもメインの煮込み料理にも、タバスコに似た調味料がふんだんに使われていて、独特の酸味と辛味が良く言えばスパイシー。
有り体に言って私には刺激が強すぎた。
「ゴホッ、これ、何が原料なの・・」
「さぁな」
苦手とはいえその味にいくらか慣れているシグは、平静を装ってせっせと料理を口に運んでいる。
食料事情の厳しいこの土地で、善意の無料飯に文句をつけるほど恥知らずじゃないらしい。
「すみません・・・女将さん、お水を一杯もらえますか?」
「はいよ、嬢ちゃんには辛口過ぎたかねぇ。ミィソの辛味は苦手かい?」
「・・ちょっとだけ」
「あっはっは!気を遣わなくたって良いんだよ。うちの自家製ミィソは特に辛口に仕上げてあるからね。小さな子には辛いかもとは思ってたのさ」
どうやらいつものように私の見た目が作用して、辛いものが苦手な“子供”と判断されたらしい。
その方が角が立たなくていいから、私もいちいち訂正はしない。
ミィソは蒸した赤ソイ豆に岩塩とお酢とトウガラシを入れて発酵させて作る調味料で、各家庭によって味が微妙に違うらしい。
いわゆる“おふくろの味”ってやつ?
歌うカワセミ亭は宿泊客以外にも、お酒を呑みに来るお客さんがいるため、大人の男性向けに特に辛口に仕上げてあるんだとか。
「あらかじめ言ってくれれば、辛味を抑えた味付けもできるからね」
「じゃあ、夜はそれでお願いします。二人分」
「二人分?」
女将さんが『おやまあ』といった顔でシグを見る。
「俺は辛味はともかく、酸味がなぁ・・」
と、きまり悪そうに頬を掻いたシグを見て、今度は盛大に笑い出した。
「なんだいなんだい!そういう事なら早く言ってくれりゃいいのに」
他所の地域から来るお客の中には、ミィソの“酸っぱ辛い”味にどうしても馴染めない人もたまにいるとかで、そういうお客には予め別の献立を用意するんだとか。ちなみに別料金。
食事処とはいえ、冬の限られた食材で毎食何種類もの献立を用意するのは難しいため、主菜は大体大鍋での煮込み料理になるのだとか。
主食は雑穀の粉を水で練って、薄く伸ばして焼いたもの。インドのチャパティみたいな感じ?
粗く挽いた雑穀のプチプチした食感が面白くて、私はわりと好き。
「これに甘辛く味付けしたお肉と野菜を挟んだら美味しそう・・」
「おっ、いいんじゃねえか?テリヤキ味のやつだな」
「━━ 甘辛い味付け?ってどんなのだい?」
ここで女将さんが私達の会話に興味を示して、会話に加わってきた。
どうも“甘辛い”という表現がよくわからなかったらしい。
料理に砂糖を用いる習慣がないなら無理もない。
そういえば“向こう”でも料理に砂糖を使う国は、多数派ではなかったと記憶している。
食事の後『一旦休んでから町の中を案内してもらう』という事になって、私はシグがカワセミ亭でいつも寝泊まりしているという部屋に案内された。
“兄妹”なら相部屋でも別におかしくはない。
ましてや“妹”がこんな小さな(!)子供なら。
「・・・でも『こういう部屋』ってどうなの」
「あー・・わり」
通されたのはカワセミ亭で一番上等な客室だとかで、中央にキングサイズの寝台がドン!と鎮座した、いわゆる『そういう』用途のために調えたような部屋だった。
「ほら、あれだ、他の娯楽が少ねーとソッチに偏るっつー・・・な?」
「『な』?って、言われてもね・・・」
つまりこの界隈の宿は連れ込み宿も同然と、私は新たな知識を頭の隅に刻んだ。
「別に俺は、女を連れ込んだりしてねーぞ」
「でもどうせいつの間にか女の人が潜り込んでるんでしょ」
「たまにな」
いつも追い返してるがな、とシグは言うけど。・・・どうだかねぇえええ?
「一度家に帰って、晩御飯の仕込みをしてくる」
「・・お、おぅ」
「一時間ぐらいで戻るわよ。町の人や女将さんに姿を見られてんのに、私がこのままこっち戻らなかったら不自然でしょ」
不本意だけど今回は『兄にねだって町に連れてきてもらった妹』という設定だから、ちょっとはそれっぽく振る舞わなきゃならない。
面倒臭いったらありゃしない。




