表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/14

02.平和ボケ

仕事帰り。早朝なため、いつも通り人気は少ない。


時々すれ違うのは、犬の散歩をする老夫婦や、ジョギングする大人くらいなものだ。

馬鹿みたいに大きい噴水を中心とした広場であるため、その外周が散歩や走るのにちょうどいいらしい。

かくいうシドネも、軽く体を動かしたいときに利用させてもらっている。


「……」

何とはなしに手元の紙袋に目線が滑る。


シドネは昨日の夕食から何も口にしていない。

しかも仕事帰り。

疲れた。

つまりは空腹である。

シドネは紙袋を開いた。

焼きたてではない小麦の香り。

しかし、飢えたシドネの食欲をそそるには十分すぎた。


シドネはキョロキョロと周りを見渡す。

傍から見れば完全に不審者の挙動だろうが、人目はなかった。


「……よし」

誰に許可を与えるでもなく、シドネは紙袋からパンを取り出し、それを咥えた。

少し行儀は悪いが、誰も見てはいない。完全犯罪である。


――マナーは人を不快にさせない程度に守ればいい。

それがシドネの即席モットーである。


二つ目に突入した辺りで、シドネの罪悪感は跡形もなく消え去っていた。


パン一つと二つ目の半分を食べ終えたころ、ベンチを発見した。

座る場所を見つけた途端、食べ歩きに抵抗感が湧いた。

なにより食べづらい。

素直にベンチに座らせてもらうことにした。


シドネの一張羅であるコートの裾が木製の座面に広がった。

買い替える機会を逃しに逃したこのコート。

シドネの皮膚と化す日もそう遠くはないかもしれない。


確か、このコートと出会ったのは七年前――

「……ごちそうさん」

回想に入る前に、食べ終えてしまった。


ホットドッグとクロワッサンを完食。


――食べ過ぎて気持ち悪い。



しばらく、シドネは満腹感に浸りながら、延々と吹き出る水を眺めていた。


そうしていると、背後から気配。


――来たな


シドネはあえて姿勢を崩し、ベンチの背もたれに深く寄りかかった。


予想通り、視界が暗くなる。

暖かな手のひらがシドネの視界を覆った。


「だーれだ!!」


背後から聞き慣れた間延びした女の声。


「ディアナ」


無視するかしまいか悩んだが、悩むことすら不毛に思えたので答えてやった。


「せいかーい!」


小さく手を叩く音とともに視界が戻る。

先ほどよりも朝日が眩しく感じられた。


シドネは顔をしかめたまま振り返る。

やはり見慣れた女が立っていた。

朝日に照らされた長い銀髪がキラキラと輝いている。


「くだらないことするね」


ディアナは自慢げに鼻を鳴らしてから、指揮者のように指を回した。


「その「くだらないこと」がどなたかにとってはジョークとなるのです」


ディアナは当然のようにシドネの隣に陣をとる。せまい。


「あ、パンもらったの?」


「……あげるよ」


シドネは半ば投げやりに紙袋をディアナに手渡した。


「え!いいのー!?」


数個のパンごときではしゃぐ成人女性。ある意味心配になる。


「いいよ。僕はもう食べたから」


ディアナは袋をのぞき込んでさらに目を輝かせた。


「園で一緒に食べようね」


一瞬言葉に詰まる。


「……ん」


歯切れの悪い返事に、ディアナは頭を傾げた。


「照れてる?」


「照れてない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ