14.馬鹿
本当にすみませんでした。
かなり期間をおいてしまったので、文体やその他諸々、変わっているかもしれません。
「いやいや、嘘だろ……? 覚えてるだろ?」
昨日の今日だぞ。
以前シドネも、とある赤ベストを忘れていたが――ここまでか? ここまで重症なのか?
……勉強しよう。
「……ああ」とリューエルは笑った。
「カナちゃん目当ての」
「その言い方やめろって」
「ふふっ」とセリオスが笑う。
「息ぴったりですね。仲良しさんですか?」
「ちがう。昨日の今日だ」
仲いいもクソもあるか。
「それでセリオス神父、なんの用ですか?」
「いえいえ、私ではなく――」
セリオスがそう言ってシドネに目線を向けた。にやにやとした、それはもうムカつく視線。
「このお嬢さんが、貴方にどーしても会いたいと。それはもう情熱的に貴方を――」
言わせるか、とシドネはセリオスの腰の辺りに蹴りを入れた。
「わぁ――ッ!?」と、蹴られた痛みよりもバランスが崩れたことに驚いたような間抜けな声が地面に落ちた。
「……わぁ」とリューエルはわざとらしく目を見開いてみせる。
「セリオス神父、大乗仏教ですか?」
「お前ら、そのなりで仏教徒なのか」
「いえいえ」とリューエルは手を振る。
「『大丈夫ですか』と言葉をかけているだけです。あ、ちなみに今のもかけてます」
「怒られろ」
「まったく」
セリオスは砂埃を払いながら身を起こした。
「よっこいしょ」
「……」
つい足が出てしまった負い目もあり、シドネは聞かなかったことにした。
コイツは本当にいくつなんだろうか。
「流行らないと何度も言っているのですが」
「そこか?」
「つかの間のひととき、美少女に見下ろされて幸福でした」
「言い直してもズレてるな。というかキモい」
「お嬢さんからの扱いが段々と雑になる……」
「嫌なんですか?」
「いえ全く」
――と、その時。
「セリオス様ー!!」
……増えた。
修道女だ。古本を胸に抱えてこちらに小走りで――いや、全力疾走か。
小柄な分、勢いが相殺されている。とにかく、全体的に小動物みたいな少女だ。
「ああ、ロゼさん」とセリオスが柔らかく応じた。
「さきほどセリオス様のお叫び声が――」
「『お叫び声』って何?」
横から口を挟んだリューエルを、修道女――ロゼがねめ上げる。
「リューエル、また貴方ですか」
「いやいや、今回私、悪くありませんって」
リューエルは横目にシドネを見た。
やめろ、こっちを見るな。
「また言い訳して――そちらの方は?」
矛先がシドネに向いた。セリオスに蹴りを入れた張本人としては非常にまずい。
どうやらこのロゼとかいうシスターはセリオスを慕っているらしい。
「えっと……シドネといいます」
シドネは顔に笑みを張り付けた。愛想笑いはシドネの十八番である。
「すみません、お騒がせしてしまい……以後、気をつけます」
シドネが申し訳なさそうに会釈すると、ロゼは慌てて首を横に振った。
「いえいえ……っ! こちらこそ……すみません。みっともないところをお見せして」
ロゼはぺこりと頭を下げてから目を伏せ、シドネにはにかんでみせた。
「……ああ、いや全然」
羊みたいなふわふわな髪に、淡いピンク色の瞳。控えめな所作に華奢な体躯。
まさに男の夢とロマンを煮詰めたような美少女。
執行人としていくつもの社交場に足を運んだシドネが、一瞬とはいえ絆されそうになるくらいにはかわいらしい笑みだった。
「セリオス神父、今日の晩飯なんですか」
「バザーの残りです」
「儲かったお金から外食行きましょうよ。私、お肉がいいなー」
真横で繰り広げられる似非神父二人の地獄のようなやりとり。
「……」
かといって、目の前には修道女の花のほころぶような笑み。
「……?どうかされましたか?」
「……いえ」とシドネは鼻の付け根をつまんだ。
「なにも」
あまりの落差にシドネは眩暈がしただけだ。
「あ、それとセリオス様。『お祈り』のお時間ですよ」
ロゼはセリオスに向き直る。
「ああ、もうそんな時間ですか。ではお二人ともごゆっくりー」
ロゼはこちらに一礼し、軽く片手を振るセリオスの後を追って、教会の表へと消えた。
去り方一つで人柄というのは案外分かるものだな、とシドネは思った。
――
「……」
というわけで、シドネはリューエルと二人きりになってしまったわけだが。
「……」
非常に気まずくなった。
「……ところでお嬢さん」
「お前、とことんセリオスに似てるよな」
語り口といい、言葉選びといい、フットワークといい、似ている。
もちろん嫌な意味で。
「血は争えないと言いますしね」
「それを言うなら『蛙の子は蛙』じゃないか」
『争えない』という重い言い回しは、なんとなくしっくりこない。
どちらかというと、親の悪癖が受け継がれたかのような、コミカルな言葉が似合うような気がする。
「嫌だなぁ」
とリューエルは肩をすくめた。
「そこは『身内なのか』って聞いてくれないと。本当に親子みたいじゃないですか。反吐出ますよ。あんな似非神父の身内だなんて。百八回死ねます」
「アイツ泣くぞ。あとその身内」
冗談に聞こえないくらい似てるけどな、お前ら。
「これぞ本当の『親の心子知らず』ですね。私の場合、『親に限らず』ですが」
リューエルは教会の表側に身を翻す。
「というわけで、言ってくれなきゃ私行っちゃいますよ?」
「は?」
シドネの足が止まった。
「『情熱的なお嬢さん』?」
「……ほんと、いい性格してんな。お前」
リューエルが笑った。
「よく言われます」
「……ばっかじゃねぇの」
――つられて笑ってしまった自分が、何より憎たらしかった。
ぼちぼちゆったり投稿していこうと思います。




