【7日目】決戦、魔王城!
――――日の出とともに、アジト周囲の森がザワザワとざわめき出した。
約束の刻限となり待機していた魔王軍が動き出したのだ。
ぐずぐずしてはいられない。
「――――準備はいいか?」
「えぇ。いつでもいけるわよ」
フェウーが地面に転移の魔法陣を書き終わる。
俺は立ち上がり、自分の装備を最終確認した。
勇者時代に使っていたスケイルアーマー、魔王相手にどこまで通用するかわからないが魔法をレジストする効果を持ったアイテム各種。
勇者を引退してから愛用していた2丁の魔法銃は魔力的に格上である魔王には通用しないので持っていかない。
代わりに俺は昨日リーゼから受け取った剣を腰に履いていた。
「なかなか様になっているじゃない。まるでおとぎ話に出てくる勇者様みたいだわ」
「実はな、今まで隠していたんだが。俺は勇者だったんだよ」
「ふふふっ」
冗談の応酬に笑ったフェウーは俺が買ってやった魔法のドレスを着ている。
見た目はただの少しお上品なドレスだが、実のところ俺の鎧よりよほど防御力は高い。
「……」
「……」
パシッ!
俺達は無言で視線を交わし、強くハイタッチした。
「じゃあ――いくわよ!」
「あぁ行こう。魔王を……倒しに!」
フェウーが呪文を唱え魔法陣に魔力を注ぐと、俺達の視界はまばゆい光に包まれ――――。
その光が小さくなると同時に、俺達の眼前には巨大な火球が迫っていた。
「“DIFFUSION”!」
火球が俺達に直撃する寸前でフェウーが防御呪文を唱えた。
眼前に迫った火球はフェウーのかざした両手に展開された見えざる盾によって弾かれるように後方に拡散されながら逸れていった。
フェウーの魔力であればかろうじて対抗できるようだ。
「ほう」
掻き消えた炎の向こうから恐ろしい魔法を放った相手の姿が現れた。
転移の隙を狙われる可能性があるとフェウーに言い含めておいて助かった。
「遅かったな。勇者ユータよ。そして、我が娘よ」
魔王は、あの時と同じように玉座に深く腰掛け、肘掛けに腕を置いて泰然とこちらを眺めていた。
ここはかつて俺と俺の仲間が魔王に敗れた謁見の間。
雲霞の如く湧いてくる魔王軍から二人で逃げ切ることは不可能だと判断した俺達は、あえて魔王城に乗り込む計画を立てた。
無論……どれだけ数が多くとも、魔王軍よりも魔王1人のほうが遥かに強いということを覚悟の上で、だ。
「お前ならば直接ここに来るだろうと思っていたぞ」
俺とフェウーは素早く戦闘態勢を取り、周囲の安全を確認した。
「安心しろ、部下達は殆ど全て出払っている」
「なに?」
確かに、謁見の間には俺とフェウーと魔王しかおらず。魔王城は静まり返っていた。
罠かとも思ったが格上である魔王が罠を仕掛ける理由もない。
「お前達を包囲していた部下達の役目はあくまでお前達が逃げようとした時の拿捕だけだ。むしろ、こうしてお前達の方からやってくるというのなら手間が省ける」
魔王は俺達を威圧するようにゆっくりと玉座から立ち上がった。
「安い文句ですまないが、『お前を倒すのには私一人で十分』ということだ」
剣の柄を握る自分の手がじわりと汗ばむ。
「まさかわざわざ親切に娘を届けにきてくれたというわけではあるまい?」
カツンカツンと玉座から降りてくる魔王の殺意を跳ね返すように俺は自分を奮い立たせた。
「そうだ。俺は、俺たちは――――お前を倒しに来た」
「であろうな。ならば当然、勝てる策を用意してきたのだろう?」
俺は返答とばかりに鞘から剣を抜き放った。
玉座から降り、俺達と同じ目線に立った魔王は剣を見て怪訝な顔をした。
「それはかつて私が折った聖剣か? あの鈍らをわざわざ修復してまで持ってくるとはな」
そう、この剣は勇者の頃に俺が使っていた魔王殺しと呼ばれる剣だ。
そしてかつて魔王に折られた剣――。
かつて、魔王城から敗走した俺はリーゼに匿ってもらっていた時期があった。
折られた聖剣と同じく勇者としての心を折られていた俺は聖剣の処分をリーゼに頼んでいた。
てっきりもう捨てられたと思っていたのだが……お節介焼きのリーゼがこんなこともあろうと手を回して鍛え直してくれていたのだ。
「そんなものが奥の手か? 興ざめだな」
魔王はつまらなそうに片手をこちらに向け、それが開戦の合図となった。
「フェウー!」
俺は魔王に向けて一直線に駆け出した。
「わかってるわ! “JAMMER”!」
魔王の手から俺では防げそうもない強力な魔法が放たれようとすると同時にフェウーが魔法妨害の呪文を唱えた。
俺よりも大きな魔力を持ったフェウーの呪文は辛うじて魔王の魔法を妨害することを成功したようだった。
「ふむ」
自分の手元で掻き消えた攻撃魔法を見て魔王は別段動じた様子を見せない。
想定内とでもいうように代わりに俺と同じように腰の剣をするりと抜いた。
「うおおおお!」
俺の突進の勢いを乗せた一撃はガキンと派手な音を立てたものの、魔王の持つ片手剣によってやすやすと受け止められた。
俺が驚愕に目を見開くと同時に魔王は俺の剣を引き込むように流し、体勢の崩れた俺に刺突を繰り出した。
「くあ……っ!」
首筋を狙った刺突を無理に身体を捻って回避した俺は慌てて魔王との距離を取った。
「なるほど、魔法を封じて近接戦になれば勝ち目があると踏んだか」
剣を構え、俺と話しながらも魔王は手から魔力を出し続けている。
「くぅうう……!」
妨害魔法を継続しているフェウーが苦しげな声を漏らす。
フェウーがいなければ恐らく到底防げないような攻撃魔法が暴風のように降り掛かっていることだろう。
彼女は留まることを知らない魔王の強力な魔法を懸命に妨害してくれている。
だがそれも長くは持たないだろう。
この作戦は短期決戦が大前提だったが……。
「甘いな。私とて元勇者だと言っただろう。貴様のような若造に負けるほど衰えてはいないぞ」
「くそっ!」
俺はがむしゃらに突進した。
ギャリンッ! ザシュ! ギィン! シュン!
しかし魔王は俺の突撃を何度もいなし、切り返し、その度に俺は傷が増えていった。
魔王の持つ光り輝く片手剣は何かしら謂れのある名剣なのだろう、俺のドラゴンの鱗で作られたスケイルアーマーを易易と貫いてくる。
「ぐっ! くそ! はぁ!」
切り結ぶ度に差は開いていく。無慈悲に時間は過ぎていく。
「あなた……! だらしないわよ! さっさとそんな奴倒しちゃいなさいよ!」
「わかってる!!」
かつてない魔力消費に息を切らせたフェウーが俺に発破をかけてくる。
必死に戦う俺達を嘲笑うように魔王は飄々と長期戦の構えだった。
「悪くない太刀筋だが、それにしたところで分の悪い賭けに賭けたものだ」
魔王は魔力を放出し続けながら嘲笑った。
「なるほど我が娘の魔力であれば私の魔力に対抗できるだろう。だが、大きな魔力を扱うにはそれを支える精神力が必要となる。世間知らずの小娘と、百戦錬磨の魔王。どちらの精神力が勝るかなど考えるまでもなかろう?」
「ゴチャゴチャうるせぇ!」
魔王は俺との剣戟の最中でも息も切らさずベラベラと余裕ぶって話を続ける。
「ふっ。何、ここまで手応えのある敵は久し振りなのでな。饒舌になるのも仕方なかろう?」
ガキキキキンッ!!
「うっ!?」
魔王が放った鮮やかな連続斬撃を受けきれず血しぶきがあがる。致命傷を回避するのが精一杯だ。
「精神力の差だけではない。私とお前の剣の腕前でも同じことだ。仮に私が魔法を一切使わなかったところで結局お前は私に敗れるだろう」
「くそ!」
「そう、お前たちが私に勝る要素はどこにもないのだ」
ガギィン!!
「ぐぁっ!?」
俺が踏み込むタイミングに合わせるように繰り出された魔王の斬撃を受けて俺は大きく吹き飛ばされた。
「!?」
心配して駆け寄ろうとするフェウーを俺は手の平を向けて制止した。
まだ……まだ何かできることがあるはずだ。
「以前同じことを言っただろう。所詮、この世界では魔力が全てだ。お前も私と同じように、ダークエルフを殺して力を得れば良かったのだ――――私が私の妻を殺したようにな」
「「――――っ!!」」
俺とフェウーは怒りで強く歯を噛み締めた。
「お前は魔力の素養が高い。私の娘を殺して力を奪えば、あるいはこの私に勝てたやもしれぬというのに」
魔王は跪く俺を見下している。
「所詮は民衆に勇者などと祭り上げられただけの小悪党よ。何かを守ることも……何かを選ぶことも自分でできん。それがお前の本性だ。――――私はその娘を取り戻し、更なる力を得るだろう」
自分の妻を殺して、ダークエルフの力を手に入れただと?
そして、今度は自分の娘を取り戻して更なる力を手に入れる――?
数え切れない切り結びを経て満身創痍となりながらも、強い怒りの感情が俺を包んだ。
「ふざっっけんな!!」
俺は跳ね起きるように飛び上がった。
「ユータ……!」
フェウーも最後の力を振り絞って妨害魔法を唱え続けている。
「テメェなんかに……テメェなんかにフェウーを渡してたまるか!!」
俺は決死の覚悟で魔王に大上段で剣を振り下ろした――。
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