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種族を超えた夫婦の契り


 ――――夜になった。


 なんとか1つだけ見つけた壊れていないランプが頼りなくベッドを照らしている。

 壊滅したアジトから使えそうなものを掘り出したり、“明日”に備えて色々準備しているうちに日が暮れてしまった。


 俺とフェウーは話し合いの末、なんとか生き残るための作戦を一つ考えついた。

 俺たちが立てた“作戦”が上手くいくかどうかはわからない。

 その作戦が上手くいくよう最大限努力したところで、やはりこの夜がフェウーと過ごす最後の夜となる可能性は依然として高い――。


 そんなことをベッドの脇に座って鬱屈して考えていると不意に話しかけられた。


「何よ? 暗い顔してるわね」


 全身からほかほか湯気が出ているフェウーは何故かペチペチと俺の腕を叩いてきた。

 いつのまにか風呂(お湯が出るくらいには直した)からあがったフェウーが隣に来ていた。


 契約をしてからどうもフェウーからのボディタッチが増えた。

 彼女なりのスキンシップなのだろうか。結構痛いぞ。


「そういうお前は機嫌が良いな」


「あなたが悲観的すぎるだけよ」


 そう言うとフェウーは俺の隣に……肩が触れ合うような近くに腰掛けた。


「……?」


「やるだけのことはやったのだから、後は結果を出すだけよ」


「あ、あぁ……」


 なんとなく気まずくて俺は少し横にずれてフェウーとの距離を離した。

 するとフェウーは無言でにじり寄ってまた距離を詰めてきた。


「……」


「……」


 近づいて、離れて。近づいて、離れて――。


 ポカッ!


 とうとう俺がベッドの端まで追い詰められるた時、隣の少女からげんこつが飛んできた。


「なんで逃げるのよあなた」


「いや……なんていうか、近くないか? 急に……」


「私達は夫婦なんだから、これくらい普通の距離感でしょう?」


「そう……か? そうだな、うん」


「そうよ」


「……」


「……」


「…………」


「…………」


 ポカッ!


「いてぇ」


「ちょっとは何か話しなさいよ」


 何かっていうと手が出るんだな、こいつは。


「あなたね、こういう時は殿方がリードするものでしょう? 雰囲気作りとか少しは努力しなさいよ!」


「リード? 何を?」


「初夜よ」


「ぶはっ!?」


 げほげほと激しくむせる。


 きゅ、急に何を言い出すんだこいつは。

 そりゃ確かに俺達は今日から夫婦になったけれども。


 俺たちは傍から見れば完全に親と子どもの体格差だぞ。

 いやそりゃそんな少女を数日前に乱暴してる俺からは口が裂けても言えないが。


「早急過ぎないか? もっとお前が大きくなるまで俺は……」


「はぁ? あなた、私がいくつだと思っているの」


「え? あー……」


 確かエルフは長命種で、人間よりも遥かに長生きすると聞く。

 そしてダークエルフは更にそんなエルフよりも長寿だといわれている。すると……。


「30歳くらいか?」


「200歳よ」


「にっ……!?」


 流石に驚いた。

 俺より年上な可能性もあるだろうくらいに考えていたが、まさかこんな見た目で俺の10倍近く行きているとは……。


「私が大きくなるのを待っていたらあなたなんかすぐ墓の下よ。まぁ、あなたが心配してる通りまだ私は見た目がまだこんな風でしょう? それに実際ダークエルフとしてはまだ子どもね」


「は、はい」


「何畏まっているの。今更年上扱いなんてしたら叩くわよ」


 ペシペシ!


「お、おう」


「だから、そうね。あなたには私を対等のパートナーとして接して欲しいのよ。……あなたは嫌かしら?」


 そう言ってフェウーはサラリと少し湿った金髪を指で流す。

 ほのかに石鹸の香りが鼻をつき、少女のような外見とは裏腹な艶っぽさに俺はどぎまぎした。


「なぁに? あなた。今更私では不服だっていうつもり? まさか私の身体に不満でもあるのかしら?」


 フェウーは以前街に行った時に買った純白のドレスを着ている。

 改めて見ると、まるで花嫁衣装のようだ。


「いや……綺麗だよ」


 思わずポロリと本音が出てしまった。


「そ、そう?」


 …………。


 俺たちは暫くもじもじと、互いに照れてしまった。


「……なぁ」


「……なによ」


「本当に、俺でよかったのか?」


 フェウーは、伴侶となる男性を捜して何度も何度もリセットを繰り返して生きてきたという。

 リセットさえ繰り返せば、例えば魔王に捕まったとしてもいずれは運命の人に出会う可能性はあるはずなのだ。


 俺の心中を察してフェウーはふるふると優しく首を横に振った。


「『私』があなたを選んだのよ。他の誰でもない、あなたを」


 フェウーは俺の眼をまっすぐに見てそう答えた。


「しかし……」


 俺はまだ納得できていなかった。

 フェウーのことを思えばこそ、彼女の一生を左右する決定をそんな軽率にしてよいのかと。


 今日のフェウーからすれば俺は初対面のどこの馬の骨とも知らない輩のはずだ。

 いくら昨日の自分が決断したからといって、そう簡単に納得できるものではないのではないか。


 不安げに見つめ返す俺を見てフェウーはくすくすと笑った。


「それはね、あなたが私を愛してくれたからよ」


 優しく両手で俺の顔を包み、フェウーは諭すように語りだした。


「今朝、私が眼を覚ました時。今日の私は初めてあなたと出会ったわ。私が起きた時のあなたの顔ときたら、ひどいものだったわ。身体は薄汚れていて、目の下に隈ができていて、目も真っ赤になって……どれだけ泣いたことやら」


「――――フェウー」


 金色の瞳が、俺を見つめている。

 俺はその瞳をまっすぐ見つめ返した。


「あなたは私が死んでも生き返るって知っているのに、朝まで私の事を見守っていたのよね。とても嬉しかったわ。きっと、この人なら私を幸せにしてくれる。守ってくれると、そう思ったわ」


 フェウーが両手を俺の首に回してぐっと力を入れた。


「だから……、私もあなたを愛しているわ。」













 こうして、俺達は――――


 過去の罪も、未来の絶望も、全てから解放され。今この時を抱き締めて愛を確かめあった。

 これからも共に未来を歩もうと、苦難に立ち向かう決意を胸に…………。




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