魔王殺しの聖剣
「うおおおおおおお!」
「ふん……」
俺の渾身の一撃に対し、舐めきった魔王は真正面から俺の斬撃を受けた。
ガギィン!!
燃え盛る怒りを籠めた俺の一撃。
怒りを籠めたぐらいで埋まる実力差ではないのは百も承知だ。
しかし――――。
「……ムッ!?」
この時何故か、これまでと違い魔王の体が僅かに揺らいだ。
これには魔王だけでなく俺自信も驚いた。
俺と魔王には圧倒的な実力差があった。
それはたかだか怒りを込めた一撃のような根性論で覆せるような差ではない。
「貴様……何をした?」
「知るかぁ!」
どういった理屈なのかはわからないが、魔王が不調であるならば畳み掛ける他ない。
好機と見た俺は滅多矢鱈に魔王に斬り掛かった。
これまでのように受け流して切り返すのではなく、明白に魔王は防戦一方となった。
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「――――だから、お前には後方支援を頼もうと思う」
ユータは魔王との戦いについての作戦を丁寧に教えてくれた。
魔王の魔力は強すぎるから、私がとにかくそれを妨害して、その間にユータが剣で倒すという作戦だった。
「作戦はシンプルで良いと思うのだけれど……本当に上手くいくのかしら?」
「これしかない。俺たちの魔力では魔王の魔法を防げないからな。長引くほど不利になる」
「ふぅん……」
ユータは意図的に「もしかしたら剣でも魔王の方が強いかもしれない」という心配を私に悟られないようにしているつもりらしかった。
彼はとても優しいのだけれど、本当に嘘が下手だった。
私が作戦に難色を示しているとはいかに自分の剣技が凄いのかを自慢し始めた。
腰の剣を抜いて自分の武勇伝を語る彼は虚勢を張っているのが見え見えだった。
「あら……?」
ふと、私はユータの持つ剣をどこかで見たような気がした。
「どうした?」
「あなた、その剣はどこで手に入れたの?」
「これか? これは魔王と戦うために仲間と伝説のダンジョンに潜って手に入れた『魔王殺しの聖剣』……らしい」
「聖剣? らしい?」
「あぁ……。魔法が籠められた剣だっていうのはわかるんだが、どんな魔法が籠められているのかよくわからないんだ」
「だからまぁ……実際はただのちょっと切れ味が良くて頑丈な剣なんだが。気休め程度にはなるさ」
「ちょっと見せてもらってもいいかしら」
不思議に思いながらもは剣を貸してくれた。
私は重い剣を苦労して隅々まで見てみると、柄の所に紋章が刻まれているのを見付けた。
「あなたこれ……!」
「なんだ? 何か知っているのか?」
「いえ……そうね。これなら大丈夫かもしれないわ。あなたの作戦通りにいきましょう」
私の賛成を聞いてはホッとして、真剣な面持ちで「もしもどちらかだけが生き残った時」のことなどを話し始めた。
でも私はきっと私達は魔王に勝てると、そう思った。
ユータが持っていた『魔王殺しの聖剣』……一体どういう経緯でその名前が付いたのか知らないけれど、私はその剣の本当の名前を知っていた。
子供の頃、母さんから聞いたお伽噺。
むかしむかし、魔力目当てで母親を殺されたダークエルフの娘が、自らの命を捨てて母親を殺した相手に復讐を誓った。
母親の強い魔力を奪った相手に復讐するため、ドワーフの刀匠に頼み込み自らの命を使って鍛えさせた魔力を奪う魔剣。
私達の一族が持つ力を悪用された時、打ち合う度にその力を奪い去るとされる魔剣『フロウライト』――。
この剣ならば…………いえ、違う。
この剣を持ったと私の二人なら、きっと母さんの仇を取れる。
私は彼と一緒にこれからも生きていくために、パパと――――母親を殺した自分の父親と戦うことを決意した。
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「うおおおおおおおおお!!」
「ぐ……っ!」
剣技が勝るわけではない。
力が勝るわけではない。
ただ俺は勝つために、フェウーを守る為にひたすらに剣を振るった。
剣戟を打ち交わす度に魔王は弱っていった。
赫灼たる闘志に燃える俺と精彩を欠く魔王。
既に趨勢は決したかと思われたが――――。
「うっ……くぁ!」
絶え間なく呪文妨害の魔法を行使していたフェウーの精神力が限界を迎えた。
それは、俺達の敗北を決定的にする、絶望的な時間切れ。
魔王はすぐさま俺を殺すべく必殺の呪文を唱えだした。
だが俺はこの最後の一瞬こそが最大のチャンスと、決死の一撃を繰り出した。
「これで終わりだっ!」
俺は聖剣を片手に持ち替え、魔王の心臓を目掛けた刺突を繰り出す。
魔王の剣を持っていない方の腕から巨大な火球が生まれた。しかし、遅い。
俺は潜り込むような低い姿勢で死の火球を掻い潜り、魔王の懐に肉薄した。
魔王殺しの聖剣が、今まさに魔王の胸に突き立てられようとしていた。
だが――――俺は気付いてしまった。
魔王が放った火球は、俺ではなくフェウーに放たれていたということを。
世界がスローモーションになったかのようにゆっくりと時間が流れる。
火球がフェウーに向かっていく。
振り返るとフェウーは魔力が尽きて床に崩れ落ち、呆然と自分に迫る死の炎を眺めていた。
俺の魔力では魔王の魔法を消すことはできない。
今ならまだ助かる。今俺が助けに行けば!
だが、そんなことを魔王が許すはずがない。
俺がフェウーを助けようと剣を引き背を向けた瞬間、逆に魔王の刃が俺の心臓を貫くだろう。
しかし……しかし!
このままでは魔王を殺せたとしてもフェウーが死んでしまう!
刹那。俺は日本での自分のちっぽけな人生と、この世界に転生してからの人生を走馬灯のように振り返った。
究極の選択を迫られた俺は、フェウーの瞳を見た。
フェウーは俺の視線に気付いて笑顔を返す。
「ありがとう。あなたは、生きて」
そう、フェウーに言われたような気がした。
ふっっっっざけんな!!!!!
俺は! もう二度と! 仲間を失うつもりはないっ!!
俺はありったけの魔力を篭めて腹の底から、自分が一番使い慣れた簡単な、そして短い呪文を叫んだ。
「“GATHER”!!」
「えっ?」
火球が着弾する寸前に姿を消したフェウーの身体が俺の元に引き寄せられる。
突然の出来事に目をパチクリと開いたフェウーが俺の左手に収まった時、俺の右手に持った聖剣が魔王の心臓を貫いていた――。
静寂が謁見の間を支配した。
聖剣の先から滴り落ちる魔王の血だけがぽたりぽたりと音を立てていた。
「……よくぞ、この魔王を倒した」
魔王は絞り出すように口を開き、片手剣が力なく手からこぼれ落ちた。
乾いた金属音が謁見の間に寂しく響く。
「わかっているだろうが、私を倒したということはお前が次の魔王となるのだ。お前が望むと、望むまいと……」
俺はフェウーを強く抱き締め、フェウーも俺に強く抱きついた。
「例えお前が悪事を働かずとも、お前を快く思わぬ者達は必ず存在し、そ奴らが必ず勇者を差し向けるだろう。その娘と共に生きたければ、お前はこれからもその手を汚し続けねばならん。そしていずれ、お前も己の娘を……」
「……そうはならない」
「ほう……?」
ズシュッ
俺は一息に魔王に突き立てた剣を引き抜いた。
力なく魔王の身体が床に崩れ落ちた。
「面白い……やってみるがよい」
「俺と妻がなしえなかった、新たなる……道、を…………」
そして、やけに呆気なく、安らかな死に顔で魔王は逝った。
魔王が息を引き取る様を、フェウーは複雑そうな瞳で見つめていた。
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