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【もふもふ育成・日常系】『追放された元巫女ですが、神様がミニマム妖怪すぎてもふもふパラダイスになりました』  作者: eccen.
【第1章】極寒のボロ神社と、ちいさな神様

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第5話 あったかおでんと、雪の森から来たちび狸

 朝。


「うーん……」


 コハクは布団の中で伸びをした。


「よく寝た……」


 昨日までとは、明らかに違う。


 寒くない。


 正確には、外は相変わらず猛烈な寒さなのだろう。


 けれど、神社の中には柔らかな暖気が満ちている。


「ハクのおかげかな」


「きゅ」


 隣から返事がした。


 見ると。


 ハクがコハクの布団の中で丸くなっていた。


 小さな体。


 小さな角。


 細い尻尾。


「……いつの間に入ってきたの?」


「きゅ?」


「ふふ。まあ、いいけど」


 コハクはハクを抱き上げた。


「おはよう、ハク」


「きゅー!」


 ハクは嬉しそうにコハクの頬へ顔を寄せた。


「今日も元気だね」


 昨日までの弱々しさが嘘のようだ。


 まだ小さな体だけれど。


 目にも力が戻っている。


 そして。


「……あれ?」


 コハクは社殿の床を見た。


「雪がない」


 昨日まで隙間から吹き込んでいた雪が、今日はほとんど積もっていない。


「結界が強くなってる……」


 ハクが得意そうに胸を張った。


「きゅ!」


「ハクが頑張ってくれたの?」


「きゅっ!」


「ありがとう」


 頭を撫でる。


 ハクは嬉しそうに目を細めた。



「さて」


 朝食を終えたコハクは、食材を並べた。


「今日は何を作ろうかな」


 残っている野菜。


 大根。


 人参。


 芋。


 少しの肉。


 そして。


「……寒い日に食べたいものといえば」


 コハクは前世の記憶を思い出した。


「おでん!」


「きゅ?」


「大根を煮て、卵も入れて……」


「きゅ!」


「練り物も欲しいけど、今日はないから」


 ある材料で作る。


 それが料理の基本だ。


「大根はあるし、卵もある」


 鍋を用意する。


 出汁を取る。


 大根を切る。


 人参も切る。


 肉も食べやすい大きさにする。


「よいしょ」


 大鍋の中へ、具材を次々に入れていく。


 ぐつぐつ。


 ことこと。


 ゆっくり煮込む。


 やがて。


「……いい匂い」


 醤油と出汁の香りが、社殿いっぱいに広がった。


 ハクの鼻が。


 ひくひく。


「きゅ……」


 目が鍋に釘付けになっている。


「まだだよ」


「きゅぅ……」


「ちゃんと煮込まないと美味しくならないの」


「きゅ……」


 ハクは鍋の前に座った。


「そんなに待ち遠しいの?」


「きゅ!」


「ふふっ」


 コハクは笑いながら鍋をかき混ぜた。


 その香りは。


 神社の外へも流れていった。


 神社から少し離れた雪の森。


 そこに。


 一匹の小さな影がいた。


「……くんくん」


 白い雪の上を歩いている。


 丸い耳。


 ふわふわの尻尾。


 小さな手足。


「くんくん……」


 影は鼻を動かした。


 何かの匂いがする。


 温かい。


 そして。


 とても美味しそう。


「……?」


 小さな狸だった。


 体はまだ子供。


 お腹を空かせている。


「ぽ……」


 小さく鳴く。


「ぽん……」


 お腹が、ぐぅぅぅ……と鳴った。


「ぽん……」


 狸はお腹を押さえた。


 けれど。


 匂いはどんどん強くなる。


「……あっち」


 雪の森を抜ける。


 一歩。


 二歩。


 小さな足跡が続いていく。


 そして。


 その先に。


「……!」


 古い鳥居が見えた。


「ぽん?」


 狸は首を傾げる。


 その鳥居の向こうだけ。


 雪が積もっていない。


 暖かそうな空気が流れている。


「……ぽん!」


 狸は走った。



「よし」


 コハクは鍋の蓋を開けた。


「できた!」


「きゅー!」


 ハクが大喜びする。


「はいはい」


 小さなお椀に取り分ける。


「熱いから、少し待ってね」


 ふーふー。


「もういいかな」


 コハクがハクの前に置く。


「どうぞ」


「きゅ!」


 ハクが大根にかぶりつく。


「……」


 一瞬、固まる。


「どうしたの?」


「…………」


 ハクの目が大きくなる。


「美味しい?」


「きゅ――!」


 尻尾がぶんぶん回った。


「ふふっ」


 コハクもおでんを食べる。


「うん。美味しい」


 体の中から暖まる。


「やっぱり寒い日はおでんだね」


「きゅ!」


 そのとき。


「……ぽん」


「?」


 コハクが顔を上げた。


「今、何か聞こえた?」


「きゅ?」


 もう一度。


「ぽん……」


 今度ははっきり聞こえた。


「外?」


 コハクは立ち上がった。


 社殿の扉を開く。


「…………」


 そこには。


 小さな狸が立っていた。


 雪まみれ。


 耳も尻尾も冷えている。


 そして。


 鍋の匂いを嗅ぎながら。


 じーっ。


 おでんを見ている。


「……」


 コハクも見つめ返す。


「……可愛い」


「ぽ……」


 狸は一歩後ずさる。


「あっ、ごめんね」


 コハクはしゃがんだ。


「怖くないよ」


「……ぽん」


「寒かったの?」


「ぽ……」


 狸は小さく頷いた。


「お腹も空いてる?」


「…………」


 今度は。


 ものすごく小さく頷いた。


「ふふ」


 コハクは笑った。


「じゃあ、おいで」


 手を差し出す。


「一緒に食べよう」


「……ぽん?」


「おでん、まだあるから」


「……!」


 狸の目が輝いた。


 とことこと。


 コハクのところへ近づく。


 そして。


 ぺたっ。


 コハクの膝に前足を置いた。


「ふふ」


 コハクは優しく抱き上げた。


「冷たい!」


「ぽん……」


「こんなに冷えるまで、どこにいたの?」


 狸の体を毛布で包む。


「まずは暖まろうね」


「ぽん……」


 狸は安心したように目を細めた。


 その様子を見ていたハクが。


「……きゅ」


 じーっ。


 狸を見る。


 狸もハクを見る。


「…………」


「…………」


 二匹の小さな妖怪が見つめ合う。


「きゅ」


「ぽん」


 ハクが一歩近づく。


 狸も一歩近づく。


 そして。


 鼻先を、ちょん。


「きゅ」


「ぽん!」


 どうやら。


 仲良くなったらしい。


「よかった」


 コハクは笑った。


「じゃあ、三人でおでんを食べようか」


「きゅ!」


「ぽん!」



 小さなお椀に、おでんを取り分ける。


 大根。


 人参。


 柔らかく煮込んだ肉。


「熱いから気をつけてね」


「ぽん……」


 狸は恐る恐る大根を食べる。


「…………」


 もぐもぐ。


 そして。


「ぽ――――ん!」


 尻尾が大爆発した。


 ふわっ!


「わあっ!」


 コハクが驚く。


 狸の尻尾が、嬉しさのあまり倍くらい大きくなっている。


「そんなに美味しかったの?」


「ぽんぽん!」


「ふふふ」


 ハクも負けじとおでんを食べる。


「きゅ!」


「はいはい。ハクも美味しいね」


 小さな龍。


 小さな狸。


 二匹が並んでおでんを食べている。


 その光景を見て。


 コハクの胸が、じんわり暖かくなった。


 追放されて。


 誰も知っている人がいない場所に来て。


 一人ぼっちになると思っていた。


 でも。


「……一人じゃないね」


 コハクが呟く。


「きゅ」


「ぽん」


 二匹が顔を上げる。


「これからも、一緒にいようね」


「きゅー!」


「ぽーん!」


 元気な声が返ってきた。


 その瞬間。


 ――ぽわぁ。


 神社を包む光が、少しだけ強くなった。


 鳥居の外。


 雪の上に。


 小さな芽が一つ。


 ひょこっ、と顔を出す。


 コハクはまだ知らない。


 この小さな狸が。


 この神社に住みつく最初の妖怪になることを。


 そして。


 翌朝。


 コハクは目を覚ますと――


「……え?」


 枕元に置かれた。


 見たことのない、美しい橙色の果実を見つけることになる。


 それは。


 ぽん太からの。


 小さな小さな「恩返し」だった。

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