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【もふもふ育成・日常系】『追放された元巫女ですが、神様がミニマム妖怪すぎてもふもふパラダイスになりました』  作者: eccen.
【第1章】極寒のボロ神社と、ちいさな神様

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第4話 ちいさな神様、はじめてのお仕事

「……あれ?」


 朝。


 コハクは目を覚ますと、最初に違和感を覚えた。


「寒くない……?」


 昨日までとは明らかに違う。


 吐く息が白くならない。


 布団の中も、ほんのり暖かい。


「え?」


 コハクは起き上がり、周囲を見回した。


 壊れた壁。


 古びた柱。


 応急処置をした屋根。


 見た目は昨日と変わらない。


 なのに。


「……暖かい」


 まるで、小さな暖房がついているようだった。


「どうして?」


 コハクが首を傾げた、そのとき。


「きゅ……」


「ん?」


 隣から声がした。


 毛布の山が、もぞもぞ動いている。


「ハク?」


 毛布から、ちょこん。


 小さな角が出てきた。


「おはよう」


「きゅ……」


 ハクが顔を出す。


 昨日より少し元気そうだ。


 そして。


 その体が、ほんのり温かい。


「……あったかい」


 コハクがハクを抱き上げる。


「昨日よりずっと暖かくなってるね」


「きゅっ」


 ハクは得意そうに胸を張った。


「もしかして……」


 コハクは周囲を見渡した。


「ハクが何かしてくれたの?」


「きゅ!」


「えらい!」


 コハクが頭を撫でる。


 するとハクは嬉しそうに目を細めた。


 その瞬間。


 ――ぽわっ。


 ハクの角から、小さな光が生まれた。


「わっ」


 光はふわふわと宙を漂い。


 神社の四隅へ飛んでいく。


「……なにこれ?」


 四つの光が。


 それぞれの柱の前で止まった。


 そして。


 ――ふわん。


 透明な膜のようなものが、神社を包み込んだ。


「……結界?」


 コハクは目を見開いた。


 巫女だった頃。


 何度も見たことがある。


 魔物や邪気を防ぐための結界。


 けれど。


「これは……」


 コハクは手を伸ばした。


 透明な膜に触れる。


「暖かい……」


 冷気が完全に遮断されている。


 しかも。


 嫌な気配がまったくない。


 むしろ。


 心が落ち着く。


「ハク……」


「きゅ?」


「これ、あなたが作ったの?」


「きゅっ!」


 小さな龍が嬉しそうに頷いた。


「すごい!」


 コハクはハクを抱きしめた。


「すごいよ、ハク!」


「きゅー!」


 ハクの尻尾がぶんぶん揺れる。


 すると。


 結界がさらに少しだけ強くなった。


「……ふふ」


 コハクは笑った。


「褒められると力が出るんだね」


「きゅ!」


「可愛い……」


 コハクは頬ずりした。


「よしよし」


「きゅぅ……」


 ハクはすっかり甘えん坊になっていた。


「それにしても……」


 コハクは外へ出た。


 昨日まで吹雪いていた境内。


 今日は雪が降っている。


 けれど。


「神社の中だけ、風がない」


 鳥居の外では猛烈な吹雪。


 鳥居の内側では、静かな雪。


 しかも。


「寒くない……」


 雪は降っている。


 けれど、空気は不思議なくらい穏やかだった。


「これが土地神の力……」


 コハクは呟いた。


 土地神。


 その土地に住む者たちを守る存在。


 雨を呼び。


 豊穣を与え。


 災いを退ける。


 けれど。


「ハクは、まだ赤ちゃんなんだよね」


「きゅ?」


 ハクが首を傾げる。


「こんな小さな体で、頑張ってたんだ……」


 コハクは胸が熱くなった。


 誰も来ない。


 お供えもない。


 神社も荒れている。


 それでも。


 この小さな神様は。


 ずっと、この土地を守っていた。


「ありがとう」


 コハクはハクを抱き上げた。


「ずっと守ってくれてたんだね」


「……きゅ」


 ハクは照れたように顔を隠した。


「ふふ」


 コハクは優しく撫でた。


 その日の昼。


「さて」


 コハクは神社の中に戻った。


「昨日は甘酒だけだったからね」


 食材を確認する。


 米。


 野菜。


 味噌。


 少しの肉。


「今日は、ちゃんとご飯を作ろう」


「きゅっ!」


 ハクが元気よく鳴いた。


「そんなに食べたいの?」


「きゅ!」


「ふふっ」


 コハクは鍋を取り出した。


 まずは水を沸かす。


 野菜を切る。


 米を洗う。


 味噌を溶く。


 簡単な料理だけれど。


 温かいものを食べられるだけで、気持ちはずいぶん違う。


「ハク」


「きゅ?」


「この神社を、暖かくて安心できる場所にしようね」


「……きゅ」


 ハクがじっとコハクを見る。


「寒い人が来たら、暖まれるように」


「きゅ」


「お腹が空いた人が来たら、ご飯を食べられるように」


「きゅ!」


「そして……」


 コハクは笑った。


「神様も、毎日ちゃんとご飯を食べる」


「きゅー!」


 ハクが両前足を上げた。


「はいはい」


 コハクは笑いながら頭を撫でる。


「いっぱい食べようね」


 夕方。


 神社の中には、味噌の香りが広がっていた。


 ハクは鍋の前でそわそわしている。


「まだだよ」


「きゅ……」


「熱いから冷ましてから」


「きゅぅ……」


「そんな顔しても駄目」


 ハクはしょんぼり座り込んだ。


 けれど。


 コハクが味見をすると。


「うん。美味しい」


「!」


 ハクが飛び起きた。


「もう少しだけ待ってね」


「きゅ!」


 しばらくして。


 小さなお椀に温かい汁物を入れる。


「はい、ハク」


「……」


 ハクは嬉しそうに近づく。


 そして。


 ふーふー。


 コハクが冷ましてあげる。


「どうぞ」


「きゅ!」


 ぺろ。


 ごく。


「……!」


 ハクの目が輝いた。


「美味しい?」


「きゅっ!」


 尻尾がぶんぶん揺れる。


 コハクも嬉しくなる。


「よかった」


 その瞬間。


 また。


 ――ぽわっ。


 ハクの角が光った。


「……!」


 今度は、その光が神社の外へ飛んでいく。


 境内の木。


 石灯籠。


 古い手水鉢。


 そして。


 雪に埋もれていた小さな祠。


 一つ。


 また一つ。


 淡い光が灯っていく。


「……何が起きてるの?」


 コハクは呆然と見つめた。


 すると。


 神社の境内に。


 ほんのりとした暖気が広がった。


 雪が。


 ほんの少しだけ溶ける。


「……すごい」


 コハクは呟いた。


「ハクの力が戻ってる……」


 ハクは、自分でも驚いている。


「きゅ……?」


 そして。


 小さな龍はコハクを見る。


 まるで。


「もっと頑張ったら、もっと暖かくできる?」


 そう聞いているようだった。


「うん」


 コハクは笑った。


「きっとできるよ」


「きゅ!」


「でも、無理はしないでね」


「きゅ……」


「一番大事なのは、ハクが元気でいることだから」


「……きゅ」


 ハクは嬉しそうに笑った。


 ――その夜。


 神社の外は氷点下。


 猛烈な吹雪。


 けれど。


 境内の中だけは。


 春のように穏やかだった。


 そして。


 コハクが眠りについた後。


 ハクはそっと布団から抜け出した。


「……きゅ」


 小さな龍が、社殿の中央へ歩いていく。


 そして。


 両前足を、古い床にぺたりとつけた。


 ――ぽわぁぁ……


 淡い光が広がる。


 神社を包む。


 さらに。


 その光は、少しずつ地面の中へ染み込んでいった。


 ――土地神の力。


 ほんの小さな力。


 けれど。


 確かに、この土地は喜んでいた。


 枯れかけていた木の根が。


 ほんの少しだけ、力を取り戻す。


 凍りついていた土の奥で。


 小さな芽が。


 ひとつ。


 芽吹いた。


「……きゅ」


 ハクは満足そうに笑った。


 そして。


 コハクの布団へ戻っていく。


 何も知らないコハクは。


「……ん……」


 眠ったまま。


 ハクを抱きしめた。


「暖かい……」


「……きゅ」


 小さな神様は。


 嬉しそうに目を閉じた。


 こうして。


 極寒のボロ神社には。


 誰にも知られない、小さな奇跡が生まれ始めていた。


 そして翌日。


 甘い香りに誘われるように。


 一匹の小さな妖怪が。


 雪の森から、神社へ近づいてくることになる。


 その名は――


 ぽん太。


 手のひらサイズの、ちいさな狸の赤ちゃんだった。

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