第四話 【感じるというのは不思議だ】
一秒たりともじっとしていられない元気な少女、ヴァレリアが俺から隠れることにした。
なにしろ、ただのかくれんぼだ。
屋敷のことはある程度知っていたが、どこを探しても見つからない。
とにかく広すぎて、隅々まで説明しようとするだけで頭が混乱してくる。
「ヴァレリア?」
お気に入りのソファのクッションの間に隠れていないか確かめるため、大階段に近づいたが、誰かがそこを通った形跡すらない。
だが、一つだけ開け放たれたままの扉が目に留まった。
普段は閉まっているはずの扉だ。来客用の私物を保管する小さな倉庫に繋がっている。ここにはあまり人が来ないため、ほとんどいつも空っぽだった。来たくないわけではなく、単にみんなここに来るのを怖がっているからだ。
時間をかけてまで見つけ出す価値があるのだろうか。
その問いにどう答えるべきか、自分でも分からない。
慎重に倉庫に入ると、古いコートの下にいるのをようやく見つけた。
目が合うと、呆れたようなため息をつく。
そして負けた後でさえじっとしていられず、軽く床を蹴ってそのエネルギーを爆発させていた。
それでも、文句は言わない。
ただ頬を膨らませて目を逸らし、しぶしぶ敗北を受け入れている。
「もうっ……! 見つかっちゃった! ダリくんの勝ちだよ……残念だもん!」
あんなに元気な子が、よくあれだけ長い時間隠れていて退屈しないものだと時々疑問に思う。
もしかすると、ここだけが隠れ場所じゃなかったのかもしれない。だが性格を見ていると、一時間丸ごとじっと待機した挙句、まるで何も待っていなかったかのように床を蹴り始めるなんてことも十分にあり得そうだった。
もし隠れる側が俺だったら、頭を空っぽにしてただ待つなんて不可能だっただろう。
考えたくもない思考が浮かんできて、結局はそれらに捕まってしまうに違いない。
もしかしたら向こうは探すのに飽きてしまったんじゃないか、とか、そもそもかくれんぼなんて始まっていなくてヴァレリアの勘違いだったんじゃないか、とか。
たとえそんな考えが浮かばなかったとしても、同じくらい無駄なことを考えてしまうはずだ。
どうしてこの木材はこんな色をしているのか、あのコートはどれくらいの間ここにしまわれているのか、あるいはコート掛けの上にある帽子はどれほどの時間埃を被り続けているのか。
対照的にヴァレリアは、あらゆることから思考を切り離し、深く考えずにじっとしていられるようだった。
だからこそ、あんなに隠れるのが上手いのだろう。
遊び終わった後、結局ソファで眠ってしまった。数秒ほどその姿を眺めてから、自分の部屋へと向かった。
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チョークを手に持ち、二つの魔法陣を描く。
本の方へと振り返る。
『同じ属性でない二つの魔法を同時に発動しようとすれば、両方とも失敗に終わるだけでなく、行使した力と同等の損失を招く可能性がある。無理に過程を進めればさらに危険性は増し、その結果は術者自身に直接降りかかることになるだろう。
魔法を扱う際の注意を忘れてはならない。
魔法は遊びではなく、ましてや命も遊びではない』
C・Cの二つ目の注釈には、結果は死に至るほど深刻なものではないと書かれている。
それでも、失敗が引き起こす影響を考えれば、警戒するのが最も賢明であり、大抵の場合はそもそも試さないのが一番だった。
二つの魔法陣を同時に維持できるのは、両方が全く同じ魔法であり、種類、規模、効果の度合いを完全に共有している場合のみだ。
たとえば、風の魔法を単なるそよ風程度の別の風の派生魔法と組み合わせることは可能だ。しかし、風の魔法と散水魔法を混ぜ合わせようとしても上手くはいかない。
結果として、魔法を成功させたのと同じだけの疲労を負うにもかかわらず、実際には何の効果も得られない。
非効率極まりない。
これは著者C・Cの魔法書の第二巻であり、注釈もはるかに多く、前のものよりもかなり充実しているように感じられる。
一番の理由は、破り取られているのが最初のページだけだからだ。そこにはきっとC・Cに関する情報が書かれていたのだろう。
もっとも、今の俺にはどうでもいいことだが。
本の説明によれば、水を撒きながら同時に風を起こしたいなら、もう一人別の人間が必要になる。
もし似たようなことを望むなら、一つの魔法の中に両方の効果を組み込むことは可能だが、それぞれ単一の元素を使用した場合と同じ効果量には決して到達しない。
これは、各個人の内部マナが選択した元素に応じて変異し、その変化が身体全体に影響を及ぼすからだ。
そのため、一人の人間が一度に複数の元素を流すことはできない。
だが、魔法陣というものが存在する。それはマナの流れを導き、変化させるためのもう一つの手段に過ぎない。魔法陣のおかげで、マナに特定のパターンを解釈させ、元素を組み合わせたような効果を生み出すことが可能になるのだ。
昨日使ったあの魔法のように。
『冷風』
十字は水を表している。
その十字の各先端は、水のそれぞれの状態を象徴していた。
液体、固体、そして気体。
世界一詳しい説明というわけではないが、本自体もそれほど深くは掘り下げていない。
いずれにせよ、そこまで重要なことには思えない。
魔法陣を効率的なものにするには、大きく描くか、あるいは極めて詳細に描く必要がある。
要するに、構築を複雑にするということだ。
複雑で明確に定義されていればいるほど、より少ないマナで高い効果を発揮する。
しかし、魔法陣自身が表現できる限界以上の結果を魔法で生み出そうとすれば、それを補うために膨大なマナが必要になる。
『マナが徐々に「生きている」ものではなくなっていったため、時が経つにつれて人間が要求する膨大な量の細部を解釈するために、途方もない量のエネルギーを必要とするようになった。その場合、絵を上手く描けるようになる方がマシである』
この部分から推測するに、すべてがもっと原始的だった過去の時代では、労力と効果のバランスがずっと取れていたのだろう。魔法は単純で要求の少ない構造でも機能していた。
だが今の魔法は、似たような結果を得るために、はるかに専門的で詳細な術式を必要としている。
一時的な魔法陣もあれば、永続的なものもある。
その維持は、マナを供給する者に完全に依存している。
もし一人で賄えない場合は、複数人で一つの魔法陣にエネルギーを供給することも可能だ。
魔法陣の形状は、マナに何をすべきかを理解させるための指示書に過ぎない。
その存在が生き物なのか何なのかは分からないが、知性を持っている。ただ、明確で正確な意図を受け取る必要があるのだ。
あとはマナ自身に委ねられる。
「うーん……」
おそらく、制限は形状そのものにあるのではなく、繋がりにある。
精神と意志がどう流れを制御するかの問題だ。
注意を分散させようとすれば、マナは混乱し、何を選ぶべきか分からなくなってしまう。
マナは知的な存在だが、こちらの意図を理解できなければ動いてはくれない。
だからこそ知的だと言えるのだろう。
そして、もし無理に二つの異なる魔法を同時に発動させようとすれば、自らを傷つけるだけでなく、流れが断ち切られ、霧散し、制御を失ってしまう。
言い換えれば、本当の制限は魔法陣にあるのではなく、マナと意思疎通を図る人間側の能力にあるのだ。
だが、ここで別の疑問が浮かび上がる。
完成した魔法陣をマナが自動的に解釈できるのなら、なぜその制限が未だに存在しているのだろうか。
その部分はまだはっきりしない。
今はこれ以上深く考えない方がいい。
どれも早急な結論に過ぎないのだから。
魔法陣の話に戻り、散水魔法の陣を作ろうと試みる。
それでも、自分が部屋の中にいることや、魔法がどれほどの規模になり、どんな結果を招くかなど、最後の最後まで考えてもみなかった。
単に夢中になっていたのだ。
なぜそこまで熱中していたのか、自分でもよく分からない。
おそらく、これがただの元素との対話ではなくなっていたからだろう。
今、それらを理解し、形作るために自らの努力を注ぎ込んでいるのだ。
状況を冷静に考え、問題の解決策を探るよりも早く、コービンが姿を現した。
「ダリアン様、いかがなさいましたか?」
コービンは完全に落ち着いている。
目の前のずぶ濡れになった床など、まるで目に入っていないかのようだ。
「あ、コービン。ごめん。ちょっと魔法を使って……」
「水差しをこぼされたのですね、ダリアン様?」
待て。水差し……?
部屋に入り、濡れた床を見て、即座にその結論に達したらしい。
「いや、今魔法を使ったって……」
「もっとお気をつけください。滑ってお怪我をされるかもしれませんよ。そうは思いませんか?」
「えっと……ありがとう」
バケツとモップ、そして手袋を取りに行く。
それらを身につけると、何事もなかったかのように静かに床の掃除を始めた。
コービンは信じられないほどの忍耐力で全ての作業をこなす。
もっとも、時折モップを動かす速度がやたらと速かったが。
「ダリアン坊ちゃま……あなたは実に興味深い若君でございますね」
手の中で雑巾を絞りながら言う。
「ご両親を除けば、私に対して過度な敬語を使われないのは坊ちゃまだけです。つまり、私のことを叔父のように見てくださっているのですね?」
そういう理由ではない。
前世でも丁寧な話し方なんてしていなかったし、ここでもそうだというだけだ。だが、叔父のように見ているわけでもない。
とはいえ、ここでまた新たな疑問が浮かんだ。
そもそも、叔父とは一体何なのだろうか。
理屈で言えば、父親の兄弟であるはずだ。しかし、コービンは屋敷の使用人に過ぎない。苗字すら持っていない。
だが……ヴァレリウスとコービンが話している様子は、本当に兄弟のようだった。
片方が屋敷の主人で、もう片方が使用人というより、同じ家族の一員のような印象を受ける。
もしかすると、父とコービンは一緒に育ったのかもしれない。
きっとそういうことなのだろう。
「いつも世話をしてくれるから、そうしてるだけだよ」
「なるほど……」
手の中で雑巾を絞る。
「そういうことかもしれませんね」
この新しい世界で、中身がずっと年上の三歳の子供だとしたら、どう振る舞うべきなのだろう。
あまり理路整然と話すわけにはいかないが、かといってずっと黙っているのも嫌だった。
もっと元気に行動したり、普通の子供のように振る舞うべきなのかもしれないが、どうしても上手くできない。
いくら努力しても、無理だった。
「さて、終わりました。そこでダリアン様、一つ助言をさせていただくなら、もう少し上手く隠すようにしてくださいませ。もしお母様が知ることになれば……まあ、想像するまでもありませんね。いずれ知られることになるとは思いますが、当面はくれぐれもご注意を」
「分かった。庇ってくれてありがとう」
「何かありましたら、ご遠慮なく針をお投げくださいませ」
静かに口笛を吹きながら部屋を出て行く。
針を投げる……?
何を言っているのか理解できない。
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再び魔法のことに意識を戻す。
何を使おうと関係ない。
チョークでも、羽ペンでも、石でさえも、魔法陣は明確に理解できる形で描かれていなければならない。
大昔、人々は動物の血を使ってそれを描いていた。特に羊の血だ。より正確には、エニフと呼ばれる羊から派生した種の血である。その時代にはありふれた動物だったが、今日では絶滅したとされている。
どんな世界であろうと、どんな時代であろうと関係ない。人間は常に、絵を描くことで現実を解釈する方法を見つけ出してきた。白いキャンバスの上だろうと石の壁の上だろうと、その欲求が失われることはないらしい。
エニフが姿を消すと、血の代わりに、叩くと顔料が出る岩から抽出されたインクが使われるようになった。
アラニと呼ばれるその岩は、今でも様々な洞窟で見つけることができる。
時が経つにつれ、魔法陣にはチョークや砂が使われるようになり、インクは文字を書くためのものとして定着していった。
ため息をつき、チョークを手に取る。
「えっと……」
円を描き、腕を伸ばして、何かが起こるのを待つ。
だが、一体何を待っているというのか。
冷静に考えれば、何もない。
ただ単純な十字を描き、あの感覚をもう一度味わえるのではないかと期待しただけだ。
その時、一つの考えが頭をよぎる。
あの感覚を再現できれば、思考を通じてマナと意思疎通し、指示を与えることができるのではないか?
立ち上がる。
何もない空間に手を伸ばし、初めてあの風の魔法を使った時と同じ感覚を想像しようと試みる。
マナが体を駆け巡るのを感じる。
外側でありながら内側でもあるような、精神の中心に存在しているかのような奇妙な感覚。
どこか心地よくもある、あの虚無感。
何も起きない。
声を聞き、直接望みを伝えることができた前世のやり方とは違うのかもしれない。
よくよく考えてみれば、あの頃の頭は完全に空っぽだった。
雨が降っている時を除けば、ただ目に映るものを追い、声が指示するままに従っていただけだ。
マナを両手に向ける。
そこへ全てを集中させる。
書かれた命令でも、魔法陣でもなく。
ただ意志の力だけで。
目を閉じる。
……
何もない。
静寂。
何かが応えてくれるのを待つ。
ゴロゴロ……
バシャッ……
ヒューッ……
パチパチ……
あの音……
いや。
そんなものは一切ない。
何の応答も得られない。
だからもう、静寂はないのか?
そういうことか?
おそらく、問題はマナではない。
元素でもない。
きっと、俺自身だ。
虚無を無理に作り出すことはできない。
静寂を真似ることもできない。
再現しようとすればするほど、心の中の騒音は大きくなっていく。
チョークを床に放り投げ、バルコニーに出る。
「今は意味がない」
この高い場所の空気は、あまりにも澄み切っている。
東には広大な海が広がっている。
空にはV字の編隊を組むカモメたち以外何もなく、遠くから聞こえる潮騒に混じって、何千本もの張り詰めた鎖が同時に引きずられているような、絶え間ない軋み音が響いていた。
巨大な船だろうか。
港の様子は見えない。
ただ、一面の青い海が広がっているだけだ。
沿岸都市だということは以前から知っていたが、深く調べようとしたことはなかった。
おそらく、その必要がなかったからだ。
大半の時間を部屋にこもって過ごしており、自分の抱える問題を無視するには、それで十分だった。
一つのことから逃げて、また別のことを始める。
基本的に、人生はいつもその繰り返しだ。
部屋の中に戻り、ベッドの上に置きっぱなしになっていた本を片付ける。
他の本にはあまり興味が湧かない。
唯一目を引いたのは、この都市の名前が書かれた一冊だけだ。
首都、ゼレニア。
『ゼレニアは推定六百年以上の歴史を持つ沿岸の首都である。正確な設立時期は不明だが、歴史的記録からおおよその推測は可能となっている。この都市は非常に長い間活動を続けてきたため、人間の技術における幾度もの世代交代を目の当たりにしてきたと言われている。さらに、かつての織り機の世界の英雄であるセレナを指導者としていた時期もあった。初期の数年間、飲料水の確保は地域住民が利用する特定の川に依存していた。しかし、テオの山脈から下りてきたレオフル家が、当時「未来へ」――ディレオマ語でエヴィリアと呼ばれていたこの地に定住することを決定し、その状況は一変した』
詳細は完全に明らかではないが、最古の記録によれば、セレナは当時の開拓者たちを襲っていた海魔を打ち倒したという。その開拓者たちこそが、巨大な半島によって海から守られたこの海岸に、最初の丸太小屋を建てた者たちだった。
開拓者の中には、漁師、探検家、職人、元騎士、そして熟練の木こりたちがいた。また、小規模な宗教使節団や女性医師の集団も同行しており、この地域の急激な気候変化に耐えるための助けとなった。
しかし、最終的に定住を決意させたのは、海の美しさと、そこから得られる膨大な食糧だった。
『エヴィリアは少しずつ、より機能的な集落へと発展していった。しかしある日、セレナが重い木箱を運ぶのを手伝っていた時のこと。水面から見たこともない怪物が姿を現し、漁師の小屋を直接襲撃した。その瞬間、彼女は剣を抜き、怪物に立ち向かった。その怪物は環境に適応する能力を持っていたと言われている。その体から生え出した足が、その能力がほぼ瞬時に発動することの証明だった。もしセレナがいなければ、怪物は陸地の環境に完全に適応していただろう。知られている限り、それは同種の中で唯一の個体であった。そしてセレナは、躊躇うことなくその怪物を討ち果たしたのである』
本に書かれているこの歴史は、なかなか興味深い。
『その事件以降、開拓者たちは海岸沿いにより強固な建造物と恒久的な防衛施設を建て始めた。最初の港が建設されたことで、古い沿岸の集落は村としての役割を終え、真の港湾都市への移行を開始したのである』
なるほど、沿岸都市か。
すべては内陸に向かって建設されていったのだ。
港の背後には商業区が広がっている。市場やギルド、商店、学校が立ち並び、人々が歩道で商品を売る傍らを馬車が進めるように設計された広い通りがある場所だ。
南北に分かれた労働者区は、商業区との間に位置する中流階級を囲むように戦略的に配置されている。
階級間の移行地点とされるその区画こそが、母ジュリエットが父と出会う前に住んでいた場所だった。
そして、他のすべての区画を囲むように貴族街が存在している。そこには堂々たる屋敷だけではなく、他では見られないような邸宅も建ち並んでいた。
いくつかの塔があり、さらに唯一の巨大な学院が一つある。その学院は子供と青少年向け、そして大人と高齢者向けの二つの部門に分かれている。
都市の終端には、たった一つの巨大な丘がそびえ立っている。
もっとも、それを「丘」と呼ぶのは控えめな表現だろう。あまりにも巨大で、本によれば自然にできたものではないらしい。
『開拓者たちの言い伝えによれば、元々その丘は存在していなかった。代わりに、この地を認識するための印として、巨大な土砂の塊が隆起したのだという。当初、そこに登ることは、崩れやすい不安定な柔らかい土の塊を踏破することを意味した。しかし時間が経つにつれ、それは乾燥し、変化し始めた。土はそのまま残ったが、岩が現れ、内部には巨大な洞窟が形成された。そして年月とともに、秋の風に運ばれてきた種子のおかげで植生が広がり始めたのである』
そしてその巨大な丘の頂に、四つの王家が住んでいた。
金属とインフラの家系、セラフェル。
水と浄化の家系、レオフル。
木と拡張の家系、ザイローン。
肉体とエネルギーの家系、クレアストス。
要するに、各家系が一つの元素を象徴しているのだ。
セラフェルは土を、レオフルは水を、ザイローンは風を、そしてクレアストスはエネルギーに関連する火を象徴していた。
結局のところ、ずっとそのセラフェル家の一員だったというわけだ。
その財力は、王の家系すらも凌ぐと言われている。
四大名家は、単なる直系の血筋だけでその地位を世襲してきたわけではない。少なくとも、初期の創設者の子孫というだけではなかった。
その地位は、王国への貢献、技術革新の力、そしてより安価でリスクの少ない方法で原材料を調達する手腕によって確固たるものとなったのだ。
だからこそ、政治的・宗教的な権力を理由に王家がすべての頂点に立っているとはいえ、四大名家の方がはるかに強大な購買力を持っているとみなされている。
次のページをめくろうとしたその時、勢いよく扉が開く。
「ちょっと、ソファにいとこを寝かせたままにしてたわね……首を痛めて起きちゃったわよ。すごく怒ってるみたい。よく分からないことを言ってたけど、あんな暗い場所に置き去りにしたって、あなたのことを責めてたわ」
母だった。自分の首に手を当てながら、どこか面白がっているような表情をしている。近づいてくると、俺と同じ目線になるまでしゃがみ込んだ。
「ねえ、どうして急に置いてきちゃったの?」
「えっと……」
目を逸らし、それから本に視線を落 শক。
「本が読みたかった、それだけ」
「そう……本を読むのが好きなのは知ってるけど、次は一人にしないでね。せめて声をかけてあげて。明日の夕食中、ずっとテーブルの下で蹴られ続けることになるわよ。そういえば、私が部屋に入ってきた時、ちょっと変な顔をしてたわね。何かあったの?」
「ただ、ゼレニアには近くに飲み水がないなって考えてたんだ。昔はかなり歩かなきゃいけなかったって本に書いてあるけど、今は都市が大きくなってる。人もたくさんいるだろ? どうやってるのかなって」
「ああ……ええっと……」
母は頬を掻く。
「それはわりと簡単に答えられるわ。私自身、そこまで詳しいわけじゃないけど」
立ち上がり、指を一本立てて説明し始めた。
「ええと、そうね……人工の地下水脈があって、そこから他の水脈が枝分かれして都市中に張り巡らされているの。この丘の洞窟の中に作られていて、水はまるで一つの川のようにただ下へと流れていくのよ。それを実現させるために、レオフル家が水の浄化魔法を開発してね。今でもその洞窟が水路網の中核になっているわ。たしか……私の記憶が正しければ、おじいちゃんがその場所で働いていて、ほとんど外に出なかったはずよ。たまに出てきた時は、牛乳よりも肌が真っ白だったって、お母さんが言っていたわね」
散水魔法に似た魔法だが、ゼレニアのすべての人々に飲料水を供給するために使われているのか。
水を運ぶための複雑なシステムを考案する必要はなかった。
単に丘の高さを利用して水を分配したのだ。もちろん、他にも魔法や何らかの圧力の仕組みが存在しているのかもしれないが。
「それに、『堕ちし者の浄化』と呼ばれる大規模な魔法もある。基本的には、人々の排泄物を浄化し、それを肥料と、鉱業や植物の灌漑用の水に分けるものだ」
声は扉の方からだった。
話していたのは父で、腕を組みながら枠に寄りかかり、こちらに笑顔を向けている。
「あら、あなた。報告書の処理は終わったの?」
「ああ。だが、今は仕事の話はやめておこう」
父は近づき、ジュリエットに口づけをする。
「ゼレニアについて教えていたのか?」
「ええ、まあ……」
母は一瞬で顔を赤らめる。
「この子にはもっと知る必要があると思ったし、本人も興味を持っていたから。私が知っていることを話しただけよ」
「よくやったよ。愛してる」
この時、もっと聞きたいことがあったので、二人の状況などあまり気にせずに口を開く。
このままでは、すぐに二人で寝室へ行ってしまいそうだったからだ。
「ジュリエ……母さん、父さん。その浄化の魔法陣ってどんなものか知ってる? 『堕ちし者の浄化』のやつ」
「私たちも知らないのよ。公開されていないし、教会が保護しているから。でも、きっとすごく高度なもののはずだわ」
どれほど複雑なものなのだろうか。マナは膨大な役割を果たさなければならない。
何をすべきか、何を分離し、何を消滅させるべきか、正確に理解する必要があるはずだ。
ヴァレリウスが俺の前にしゃがみ込む。
「なあ……お前、魔法を使っていたのか?」
「え、父さん?」
ジュリエットも俺を見る。今度は真剣な表情だ。
「母さん……?」
背筋に悪寒が走る。
どうする?
もし嘘をつけば、気づかれるだろう。
魔法陣を知っていて、それがどんなものか知りたがっている時点で、すでに魔法について何かを知っている証拠だ。
嘘はつけない。
見透かされる。
だが、告白することもできない。怒られるかもしれない。
黙っていたとしても、遅かれ早かれバレるだろう。
何をしようと、結果は同じだ。
「うん、まあ……」
叱られるのを待つ。
「さすが私の子だわ! ヴァレリウス、聞いた!?」
「怒られると思ったのに……」
「どうして怒るのよ?」
「許可なく魔法を使ったから」
「そんなこと心配してたの?」
「うん」
「そう」
それ以上何もしない。
怒りもせず、表情も変えず、まるでいずれ魔法を使うようになるのを予想していたかのように、その覚悟ができているようだった。
「えっと……ありがとう、母さん」
「どういたしまして。それで……あなたはどうするつもり?」
「別の魔法を試す」
「バルコニーでやってくれないかしら?」
「うん、いい考えだね」
額にキスをしてくれる。
それから髪にも。
そして、お腹が空いていないか尋ねてきた。
「ご飯は食べた? お腹空いてない? 思ったより痩せてる気がするんだけど……」
「うん、食べたよ。お腹は空いてない」
「分かったわ。何かあったら呼んでね。叫んでも、蹴っても、叩いてもいい……それか花瓶を投げてもいいわ、分かった? 隠し事はなしよ」
もう一度額にキスをして、髪を撫でてくれる。
二人は部屋を出て、静かに扉を閉める。
いや、待て。
なぜ行ってしまったんだ?
なぜ俺は、ここに残って、もっと話してほしかったんだ?
きっとこの身体の精神のせいだろう。あまり深く考えるべきじゃない。
母の話を聞いている方が、あの本を読むよりずっと良かった。だが、それを直接伝えることは拒んだ。
言えなかったからではなく、怖かったからだ。
しがみついたものはすべて失うということを、これまでの人生が教えてくれたから。
最初は母たち。そして死だ。
炎が両親を奪い去り、この新しい命は死ぬことすらも奪い去った。
そして今、かつて抱いていた否定的な感情でさえ、薄れ始めている。
死にたくないと思うことが、怖い。
もしあの古いアパートで目が覚めて、これがすべて夢に過ぎなかったとしたら?
自分に良くしてくれるものをもう二度と失わないように、二人を二度と失わないように、早く魔法を学びたいだけなのかもしれない。
奇妙な感覚だ。
何かを感じるということが、奇妙だ。
多くのことを疑いながら、それでも結局は信じてしまう。
恐怖を感じるが、同時に安らぎも覚える。大切に思うものがあるという証拠だから。
死を切望しながら、それが近づくのを感じると、逃げ出して生きたいと願う。
どう感じればいいのか分からない。
だが、今はまだそれが重要ではないのだろう。
大切なのは、生きる方法を学ぶことだ。




