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空明の再誕 - 生きる理由を取り戻すために  作者: 日和秋彦
第1章 - 空

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第三話 【魔法について】

 三歳になってからというもの、本を読むのをやめなかった。


 隙を見つけては、部屋にある本や、廊下からこっそり持ち出した本を読み漁る。


 一度、図書室まで行こうとしたが、止められてしまった。

 止められたといっても、行く手を塞がれ、床から抱き上げられて、部屋に連れ戻されただけだ。


 初めての育児で少し抜けたところがある両親のジュリエットやヴァレリウスとは違い、コービンは常に気を配っているし、リヴィアとの連携も見事だった。


 だからこそ、いつも止められてしまうのだろう。


 リヴィアは純粋な本能で動いているとしか思えない。企むことをことごとく見破る理由は、それ以外に考えられないからだ。一方でコービンは、非の打ち所がない聴覚を持っているようだった。

 もっと色々知りたい気持ちはあるが、こればかりは諦めるしかないのだろう。


 抱きかかえながら、コービンはため息をつく。


「ダリアン坊ちゃま、そちらへ行ってはいけませんよ」


 そして、本が積まれた絨毯の上に下ろされる。


「本をお読みになりたいのなら、こちらをお使いください」


 それからドアを閉め、リヴィアと共に去っていった。


 時々、あの二人は何者なのだろうと疑問に思う。

 恋人なのか。友人なのか。それとも家族なのか。

 あるいは、そのすべてを兼ね備えているのかもしれない。

 理解しようとし、一つ一つの振る舞いに理由を求めると、決まって自分の間違いに気づかされる。

 決して完全に理解することなどできない考えの波に、いとも簡単に呑まれてしまうのだ。


 頭の中が霞がかっていく。


 そんなとき、自分の無知や、本やフィクションの物語から得た知識だけで語っていることに気づかされる。


 何一つ確信を持てないし、自分の主張を正しく論証することもできない。

 なぜなら、人がどれほど予測不可能な生き物であるかを本は教えてくれないし、すべての人を理解するための万能な方法など存在しないからだ。

 それでも、心の一部では別のことも考えている。そうであることに理由は必要ないのかもしれないし、愛に論理は通用しないのだと。


「分からないな」


 母のジュリエットは、とても明るい女性だ。

 泣かなくても、笑わなくても、決して気にしない。それは理解できない種類の愛であり、同時に理解したいと願う愛でもあった。

 だが、「どうして愛してくれるの?」と尋ねる勇気はない。それに、そんなことを聞くべきだとも思えない。


 盗んだ本の話に戻るが、幸いなことに母はそれを単なる子供のいたずらだと思っている。父親がいつも本を読んでいるのを見て真似しているのだと考えていて、止めようとしたことは一度もない。幼い頃から本に触れることは大切だと思っているのだろう。本棚に手が届かないときは、代わりに取ってくれることさえある。


 微笑みながら本を渡し、鼻歌を歌いながら去っていくのだった。


 ---


 数時間後。


「コービン、ちょっと来てくれるかしら? お願いがあるのよ」


 母はコーヒーカップをテーブルに置く。


「はい、奥様」


 コービンは瞬きするよりも早く現れた。母の前に立ち、背筋を伸ばす。その自制心と仕事の早さには、驚かされるばかりだ。


「うちの子って、本当にすごいと思わない? ベッドの下のぬいぐるみの横から、廊下にあった本が三冊も見つかったのよ。三冊も! もう、可愛すぎないかしら?」

「おっしゃる通りでございます、奥様。しかし、このままではいずれ、あの本にも手が届いてしまうのではないでしょうか?」

「だからあなたを呼んだのよ」


 ジュリエットはコーヒーを一口飲む。


「やってくれたかしら?」

「はい、奥様。坊ちゃまが触れることは不可能です。ですが……」

「ですが?」


 母はカップを置き、不思議そうに顔を向ける。


「成長されれば、見つけ出してしまうかもしれません。この子はとても賢いので」


 母はくすくすと笑う。


「ええ、本当にいたずらっ子だわ。抜け出していた頃の父親にそっくり。でも心配ないわ。あの子が見つける頃には、きっと心の準備ができているはずだから……それと、奥様じゃなくてジュリエットって呼んでって言ってるじゃない」

「かしこまりました、ジュリエット様。ですが、これも私の仕事の一部でございます」

「あーあ」


 母は頬を掻く。


「まあいいわ。それじゃあ、夕食の準備をしましょうか」


 そう言って二人は部屋を出ていく。その前に、母から顔中にキスを浴びせられたのは言うまでもない。


 静寂の中に取り残され、たった一つの疑問が残る。


 何を隠そうとしているのだろうか?

 二人の言うことに逆らう気はない。理由も理解できたし、反発するつもりもない。それでも、好奇心を抑えることはできなかった。

 時々、この新しい体が勝手に動きたがっているように感じることすらある。まだ知るべきではない秘密を暴こうとするかのように。


 ---


「ふぅ……」


 ベッドの下には、特別な一冊の本がある。


「ええっと……」


 表紙は白かったが、卵子のような絵が描かれており、その周りを赤い線が薄っすらと取り囲んでいる。


「どうして卵子なんだ?」


 中心には、自ら光を放っているかのような金色の星も描かれていた。


『魔法について・体と世界におけるマナの操作』


 仰々しいタイトルだが、興味をそそられる。

 専門書のようだった。


 元いた場所には、魔法そのものは存在しなかった。エレメントとは対話していたが、それは魔法ではない。語りかけてくる生きた精霊たちと精神を通じて繋がっていただけだ。誰もが時間をかけて習得できるような能力ではない。


 だが魔法は、実際に学べるもののようだった。

 学べるのなら、守ることもできる。助けることができるのなら……母の言葉に従い、ひいては父の言葉に従うことができる。


 そう、それこそが最初からすべきことだったのだ。

 しかし、思うことと行うことは別だ。今はまだ無理だった。

 傷が癒えるかどうかは、その深さにかかっている。十八年分の空虚を、たった三年で修復することなどできるはずがない。


 頭を振り、続きを読むことにした。


 本には情報と、試しに使えるいくつかの呪文が載っている。

 実際には、子供が基本的な呪文を使ってどこまでできるかを測るためのもののようで、目次を見ればその理由もはっきりと分かる。


 世界について書かれた本と同じく、この本の著者もC・Cだった。

 一つの分野に留まることができない性質らしい。かなりの調査を行っており、幅広い知識を持っていることは明らかだった。

 情報源が信頼できるものかどうかも分からないが、今のところ手札はこれしかない。


 魔法について書かれた別の本を探すことは、不可能だった。


 ゆっくりと本を開く。

 予想通り、目次のページを除いて最初の三ページは破り取られていた。四ページ目には卵子のような絵が描かれているだけで、表紙よりもずっと大きく、さらに強い光に包まれている。


 破られたページには、著者についての情報が書かれていたのだろうか?

 今はそんなこと、どうでもいい。


 まともに読める最初のページには、魔法の誕生について書かれていた。

 どうやらこの世界では、魔法について「誕生」という言葉が使われるらしい。

 本によれば、魔法は歴史の始まりから人間とともに少しずつ発展してきたという。まるで生き物であるかのように。

 変化し、適応し、進化を遂げてきたのだと。


 初期の人間はマナと会話をしていた。言葉を交わし、考えを共有し、時には助け合うことさえあった。魔法は使用者の望みに応じて発現したが、同時に人間もマナから伝わってくるものに導かれていた。


 マナが呪文へと変わるプロセスは、ADOと呼ばれていた。


 古代ではマナと会話することが可能だったが、それは図形や円を描くことで行われていた。

 時が経つにつれ、円だけが残る。

 現在では機械的なものと見なされている。あるいは、マナが適応を重ね、完璧な形――すなわち現在の姿に辿り着いただけなのかもしれない。

 マナ、つまりADOは、整然としており明確な論理に従っている限り、描かれた図形を解釈することができた。

 どうやら、火はそのようにして発見されたらしい。


 ページを指でなぞる。


「その名前に深い意味はなく、マナが使われたときに発する音に由来する。時が経つにつれてその音は消えていき、周囲を取り巻くものと内なるものの両方を指す言葉として、マナという新たな名前が与えられた。また、不安定なマナの場合はアナムと呼ばれる。魔法が存在できない唯一の場所は、ネクサスである」


 指を離した。


 攻撃魔法は存在しない。少なくとも、本にはそう書かれている。

 魔法は畜産や農業、建築、輸送、日常の作業など、様々な用途に使われている。


 結界の魔法や、水、氷、さらには火の呪文もあるが、直接的な攻撃を意図したものは一つもない。

 大半の攻撃は間接的に行われていた。

 水や岩の弾丸を放つことはできない。それは単に不可能なのだ。


「……がっかりだな」


 単なる日常的な使い方よりも、もっと面白いものを期待していたのに。

 エレメントと対話できたから、ここでもそれが普通なのだと思っていた。


「エレメントとの対話……?」


 そのときになって初めて、声も、伝わってくる感覚も、もう感じ取れなくなっていることに気がつく。


 どうして今まで気づかなかったんだ?

 時間が経ちすぎたせいか?

 それとも、この新しい脳がその機能を無効化し、無関係なものとして切り捨ててしまったのか?


 天井の蝋燭を見上げる。


 腕を伸ばすが……何も起きない。


 窓辺に近づき、手をかざす。

 反応はない。窓は開かない。


 机の上のグラスに向かって手を伸ばす。

 駄目だ。もう応えてはくれない。


 ベッドから降りて、木製の床に触れる。

 前世では、建物の中にいても大地を感じることができた。

 ここでも同じはずなのに……何も感じない。


「失ったのか……」


 思ったよりも、ほっとしている自分がいる。

 ようやく自由になれた。少しだけ胸が高鳴る。空虚な重荷から解放されたのだ。

 肩の力が抜け、何年ぶりかに、ほんのわずかな笑みが頬に浮かぶ。

 存在しないかのような微かなもので、窓に差し込む光を雲が遮るほどの、束の間の笑み。


 自分の両手を見つめる。

「ってことは、これから手にする成果はすべて……本当に俺自身のものになるのか?」

 手を握りしめ、再び本へと向き直る。


 ・マナの使用


 マナを扱うには、チョークで円を描くだけではいけない。まあ、部分的にはそれも必要なのだが、その前に行うべきことがある。


『誰もが決められた量のマナを持って生まれてくる』


 マナの容量は生まれつき決まっているものの、それを増やす方法も存在した。だが、それは非常に複雑で、専門機関でのみ行われる訓練用の円にアクセスする必要があるらしい。


 莫大なマナを持って生まれたにもかかわらず、幼少期からの訓練を受けていないためにそれを使えない者は、様々な可能性に満ちた人生を運命づけられることになる。

 その中には、死の可能性も含まれていた。

 この現象は不安定なマナと見なされ、それが発生すると、マナが折れ曲がり軸が変化することからアナムと呼ばれる。

 簡単に言えば、脳と足が入れ替わるようなものだ。

 文字通りではないにせよ、その感覚は即死に等しいらしい。


 また、教会によって制限されている方法も存在する。

 禁じられるほどのものとは、一体何なのだろうか?

 当然だが、答えはどこにもない。

 知る限り、本で重要なことに触れるなら、少なくとももう少し情報を残すべきだ。

 曖昧なままにしておくのは、この本の専門性の低さを証明しているようなものだ。


 さらに、マナの量は遺伝とは無関係だとも書かれていた。

 一方で、貧しい村から優秀な魔法使いが現れる確率はほぼ皆無であり、幼少期から訓練を積まなければ、あらゆる資源を自由に使える貴族ほど強くなることは絶対にないとも記されている。


 平均的なマナしか持たない貴族でも、優れた訓練を受ければ、才能ある平民よりも優秀になり得るのだ。

 才能だけで成功は掴めない。それがこの世界の現実だった。


『内部魔力、外部魔力、そして知覚マナ』


 祝福者たちは知覚マナを持っていた。第三の眼と呼ばれるそれは、普段は見過ごされるようなものを感じ取ることを可能にする。


 精霊、未来の事故、啓示、環境の微妙な変化、そして近づく嵐。


 未来予知と呼ばれるものはあまりにも断片的で、まるで謎解きのようなものだった。重要なのは、不安定なマナの揺らぎを感知できるということ。少なくとも、その異常に苦しむ人々にとって、それこそが最も価値ある力だった。


 原則として、第三の眼を持っていなくても問題になることはない。問題なのは不安定なマナの揺らぎの方であり、身分や生まれに関係なく、誰にでも起こり得るからだ。


 次は内部魔力についてだ。


 予想通りの内容だった。


 マナの循環とも呼ばれるそれは、ノイドとして知られている。マナを体内で実体のあるものとして導く人間の能力であり、まるで新しい血液のように体内を駆け巡り、本来なら運べないような栄養素で身体を強化する。


 このノイドのおかげで、身体能力が強化される。速度、筋力、そして感覚が研ぎ澄まされる。どうやらこれが最も攻撃的な形態らしく、結節点を巡るため、扱いを誤れば死や取り返しのつかない状態に陥る危険があるらしい。


 ディオルとして知られる外部魔力は、偉大なる竜ドゥリンに由来するものだ。その巨竜は顎から呪文を放ち、鱗を通してさえ魔法を導くことができたという。


『記録によれば、偉大なる竜ドゥリンは飛行能力を持つ唯一の巨獣とされていた。その巨体は既知のあらゆる基準を凌駕し、羽ばたくだけで地域一帯の気候を変えるほどの気流を生み出したと言われている。

 竜として分類されていながらも、特異とみなされる特徴を持っていた。翼だけでなく完全に機能する手を持っており、それを使って山々や崖、その他の巨大な自然の地形に掴まることができた。

 ドゥリンが山脈全体に身を横たえ、高みから領土を見下ろしていたという伝承は数多く残っており、当時の文明にとって決して立ち向かうことのできない存在だった。生きた生物というよりは自然の驚異と見なされており、一説によれば、自身の重みで潰れないよう常に魔法を使って体重を支えていたという。大半の記録において、人間を襲うことは滅多になかったと意見が一致している。

 また、ドゥルグハイムの山々から伝わる話によれば、冬の間、この竜は長い冬眠に入っていたという。山脈の上で眠る姿を目撃することも可能で、遠くからでもそのいびきが聞こえたとされている。まるで山頂を自身の玉座にしているかのように、遠目からでもはっきりと識別できるほどの大きさだった……』


 あるページにはそう書かれている。だが、その最後に……。


『……しかしある時、なんの予兆もなく、竜は攻撃を開始し、織り機の世界に混沌をもたらした』


「……それは予想外だな」


 すべての事象には理由がある。

 その竜がどれほどの時を生きたのかは知らないが、理由もなく突然襲いかかってくる生物などいない。生存本能の観点から見ても、理にかなっていなかった。ただ、攻撃してきたというのだ。


 一体なぜ、そんなことを?


 ドゥリンは外部魔力の発展において鍵となる存在だったため、この分野の研究が最も進んでいる場所では、世界全体を脅かした後でさえ、魔法を学ぶ上で不可欠な存在と見なされている。


 竜の名前の隣には、ある称号が刻まれていた。


 D H R Y N・P R O T F U N


「それにしても、どうやってあんな化け物を倒したんだろうな」


 外部魔力は攻撃には使えず、内部魔力は近接戦闘に特化している。


 だったら……どうやって?


 考えてみれば、あの竜は魔法陣なしで魔法を使うことができた。つまり、陣がなくても魔法を使うことは可能だということだ。

 それに……もし誰かがそれを成功させて、その結果、歴史から消されたとしたら?

 あり得ない話ではない。もしかすると、それこそが教会の禁忌なのかもしれない。


 ページをめくる。

 いくつかの魔法陣が見つかる。


 雨雲 :果樹園のために継続的に雨雲を発生させる。雷雲(ヌブルリム)

 水壁 :上下から湧き出る水の場

 灌漑 :高需要の作物向け

 冷風 :涼やかな風を生み出す。太陽の時代には重要な呪文だった。


 太陽の時代? 灼熱の時代のことだろう。少なくとも、その名前からはそう推測できる。


 指示書きと円の形を確認する。

 今のところ、換気システムが一番良さそうだ。跡が残らないから、誰にも気づかれない。だが、それを描くためのチョークがない。


 急いで部屋を出る。


 父の書斎を見つけるのにはかなり時間がかかった。場所を知らなかったし、ようやく見つけたときには黒板の上に置かれていた。黒板を揺らすと、チョークが手の中に落ちてきた。


 部屋に戻り、慎重にドアを閉める。


 床に魔法陣を描き始めた。

 本には、呪文が完了すると円は自然に消えると書かれている。完璧である必要はないが、解釈可能な形にしなければならない。


 本の方へと振り向く。


「南から伸びる三本の曲線が、左端に向かって山と交わり……うーん……」


 少し歪んでいても問題ない。概念が伝わり、何より円の形が理解できるものであれば発動するはずだ。

 そうでなければ不安定な円が形成され、自分自身を傷つける結果になる。だからこそ学習が厳格なのだ。円を描く際にも正確さが求められる。


 戦争がないおかげで、急いで魔法陣を描かなければならないような人間はおらず、事故もそれほど多くはない。

 それでも、人類はその弱点を補うために別のスタイルを選ぶことを余儀なくされた。

 それが、魔法と人間の脆弱性について本が述べている最後の記述だ。


 円が完成した。

 あとは手をかざすだけだ。

 手首を覆うような袖は着ていない。


「落ち着け……」


 エレメントの感覚へと意識を向け、作業を完遂することに意志を集中させる。

 その瞬間、手が下へと吸い込まれるような感覚を覚えた。

 危うく床に倒れ込みそうになる。突然、円が光り輝き、四方八方へと風の奔流が吹き荒れる。


 風はあまりにも冷たかった。

 ここまで冷たいとは予想していなかった。


 バンッ!


 勢いよくドアが開く。

 集中が途切れ、魔法陣は一瞬にして消え去った。


「ダリくんっ! だめだよっ!」


 従姉妹のヴァレリアだった。

 寒さを追い払うかのように、宙で腕を振り回し始める。


「どうして? 魔法なんて普通のことだろ?」

「そうだけどっ! でも、うまくコントロールできないと倒れちゃうかもしれないじゃん……倒れたら、病気になっちゃうかもしれないもん!」

「でも、ヴァレリア。俺は平気だよ。見てわからないか?」


 片足を上げて、バランスを取ってみせる。


「そんなの関係ないもんっ! ふんっ! ダリくんに何かあったら嫌だもん!」


 ヴァレリアの表情はコロコロと変わる。

 怒ったり、心配したり、眉をひそめながら手を振ったかと思えば、何かを探るように俺の目をじっと見つめてきたりする。


「本気で言ってるのか?」

「当たり前だよっ、ダリくん……!」


 どうやら機嫌を損ねてしまったらしい。


「でも……もう、なんでもいいやっ!」


 短い沈黙の後、ヴァレリアは再び口を開く。


「ねえねえ! 一緒にお外で遊ぼうよっ!」


 ヴァレリアは、一つの話題に長くとどまることができないようだ。


「えっ……?」

「ダリくん、すっごく真面目な顔してる! 遊ぼう! わたし、なんか変な気分のときは、いつも遊ぶことにしてるんだよっ!」


 そうして、熱狂的な従姉妹に引きずられていった。

 孤独に対する人間の脆弱性とは……。


 他者の存在だろうか?

 当たり前のことだよな?

 だとしたら、なぜ俺は今まで気づかなかったんだ?


 まだ理解できない。どう向き合えばいいのかも分からない。

 けれど、庭へと引っ張りながら笑う従姉妹の姿を見て、自分でも驚くほどの熱意で後をついていき、喜ぶ顔を見て、そして……前世の八歳の時以来、初めて遊ぶことになって……。


 そのすべてが、胸の奥に何かを感じさせた。

 魔法でさえ引き起こせなかった何かを。


 安らぎだ。


 このまま、ずっと続くのだろうか?

 なぜか、それを望んでいる。


 一緒に遊びたい。


 普通の子供になりたい。


 俺にその資格があるのだろうか?

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