第四話 【感じるというのは不思議だ】
ヴァレリアと過ごした午後は……
有意義だった、のだろうか。
何と言えばいいのか、自分が何をしているのかすらわからなかった。
一度かくれんぼをした。だが、この家が広すぎて見つけるのは至難の業だ。
一時間後、ようやく家具の裏にいる彼女を見つけたというのに、彼女はまるで「二時間もここで何もせずにいたわけじゃないのよ」とでも言うように、うんざりしたため息をついた。
退屈しなかったのだろうか。
これに対してどう感じればいいのかわからない。
常に分析ばかりしている俺の思考回路方に問題があるのかもしれない。
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翌日、俺は魔法陣の検証に戻った。
集中できるのは一種類だけ。
つまり、同じ種類であれば二つの魔法陣を同時に維持することは可能だ。
属性と呪文の性質が共通していなければ、マナを導くことはできない。
水を撒きながら同時に涼しい風を送りたいなら、別の人間が必要になる。
魔法陣をより効率的にしたいなら、大きく描き、複数の人間でマナを供給し合わなければならない。
図形は、マナに何をすべきか教えるためのものだ。
仮にそれが事実だとするなら……。
同時に二つの異なる種類を発動させることを阻んでいるものは何だ。
例えば、原点と呼ばれる場所へマナを送るだけのことだ。
マナは片手でしか送れないとでもいうのか。
もしかすると……制限は図形にあるのではなく、繋がりそのものにあるのかもしれない。
自分の精神と意志が、どう流れを制御するのかという点に。
注意を分割しようとすれば、マナはどちらに先に従うべきかわからなくなる。
そして異なる二つの呪文を強制すれば……流れは途切れ、霧散し、制御を失う。
つまり……制限をかけているのは魔法陣ではなく、同時にマナに語りかける俺自身の処理能力の問題だ。
だが、魔法陣を読み取った時点でマナは何をすべきか理解しているはずだ。
このあたりはまだよくわからない。
今はまだ深く探求しない方がいいだろう。
呪文の検証に戻る。
風だけには留まらなかった。簡単な水撒きの魔法陣も使ってみた。
だが計算を誤り、床の大部分を水浸しにしてしまった。
(夢中になりすぎた……畜生)
俺は……やる気を出していたのか。
元素との単なる対話ではなく、今は俺自身が努力しているからかもしれない。
それ以上考える前に、ドアが開いた。
コービンだった。わかっていた。当然だ。
「ダリアン様、床が水浸しですが、一体何があったのですか」
「ああ、コービン」
「もし水差しをひっくり返したのなら、もう少しうまくごまかしてください、ダリアン様」
「わかったよ、コービン……」
彼はしゃがみ込み、信じられないほどの忍耐強さで拭き掃除を始めた。
「ご存知ですか、ダリアン様。貴方はとても興味深い若君です」
「どうしてそう思うんだ」
「私に敬語を使わないのは貴方だけです。つまり、私のことを叔父のように見ているのでしょう」
敬語を使わないと決めたわけじゃない。前世で使う機会がなかっただけだ。
叔父のように見ていると答えたかったが……そもそも叔父とはなんだ。
俺の知識では父親の兄弟のことだが、コービンはヴァレリウスと実の兄弟のように仲が良い。
「まあ、いつも俺の世話をしてくれているからな」
「ええ、そうかもしれませんね……。さて、終わりました。それで、ダリアン様、これについてはもう少しうまく隠してくださいね。魔法を学ぶのは普通のことですが、水を使うのは避けた方がいいでしょう。あちこち濡らしていると、ジュリエット様がお怒りになるかもしれませんからね」
「わかった。庇ってくれてありがとう」
「どういたしまして。何かあれば、針でも落としてください」
そして彼は、ゆっくりと口笛を吹きながら部屋を出て行った。
魔法陣はチョークだろうと、手元にあるものなら何で描いても機能した。
唯一重要なのは、マナに何をすべきか理解させることだ。
紙に描くこともできるらしいが、小さくなるほど効果は薄れる。
魔法陣を起動した時の感覚から、一つの疑問、いや、二つの疑問が頭に浮かんだ。
それを再現してみたらどうなるか。
マナに語りかけ、何をすべきか理解させることができるのだろうか。
俺は立ち上がり、元素エレメントと交信していた時と同じ感覚を想像しようとした。
それは外部との繋がりだった。額のちょうど真ん中で感じ、頭蓋の奥へと巨大な虚無として広がっていく。奇妙なほどに安らぎを与えてくれる虚無だ。
奇妙だった。
心が完全に空っぽの時にしか、彼らの声は聞こえなかった。
ならばと、その感覚を自分の手へと向けてみた。
そこにマナを集中させる。
書かれた命令としてではなく。
魔法陣としてでもなく。
ただ、意志だけを。
それを再現してみたらどうなるか。
何も描かずにマナに語りかけ、何をすべきか伝えることができるのだろうか。
目を閉じる。
虚無。
静寂。
そして、何かが応えるのを待った。
クルルル……
ポチャ……
シューッ……
ヒュオォォ……
沈黙の中に、あの音を再び呼び起こす……。
何も。
何も返ってこなかった。
なぜだ。
今はもう、静寂がないからか。
もしかすると、問題はマナではないのかもしれない。
元素でもない。
おそらく、俺自身だ。
虚無は、強制するものではない。
静寂は、真似るものではない。
再現しようとすればするほど……。
俺自身の心が、騒音を立てる。
そしてその苛立ちを消すために、王都についてさらに調べることにした。
なぜだ。
集中を保つのに役立ったからだ。
もう……俺と話さないと決めた存在に話しかけようとして、狂ってしまわないように。
ここは王国の首都、ゼレニア。
その名は古代の英雄、セレナに由来する。
詳しいことは知らないが、最古の記録によれば、彼女は開拓者たちを襲っていた巨大な海獣を打ち倒したという。海辺に丸太小屋を建て始めた最初の入植者たちだ。
彼らは漁師であり、探検家であり、職人であり、熟練の戦士だった。
その中に、天恵者、セレナがいた。
まず彼らは即席の避難所を建てた。
次に頑丈な家を。
そして港を。
やがて、その小さな入植地は野営地であることをやめ……。
都市の姿を形作り始めた。
沿岸の王都であるため、すべてが海から内陸に向かって建設されている。
東側には大港がある。
埠頭、船、倉庫。
その背後に商業区。
市場、ギルド、店舗。
荷車が通れる広い通り。
労働者区は南北に分かれている。
商業区と労働者区の間に中流階級がいる。
これら三つの地区に守られているため、襲撃を受けた際には特権的な立場にある。
そしてすべての中央、中流階級に囲まれるようにして貴族区が存在する。
壮大な邸宅、結界魔法、衛兵、専用の庭、さらには外の汚れを一切遮断するための換気システムまで完備されている。
さらにそれとは別に、もっと高い場所に上層区がある。
大きな丘の上だ。
そこに王族にあたる者たちが住んでいる。
わずか四家族だけ。
そこに、俺の家族であるセラフェル家がある。
金属の輸出により、王家を凌ぐほど裕福な一族だ。
ドゥルグハイムでは最高の金属が採れるらしく、彼らはそれをセラフェル家にしか売らないのだという。
ページをめくり続けようとした時、ジュリエットが部屋に入ってきた。
「ダリアン、ヴァレリアちゃんをソファで寝かせっぱなしにしていたわね……。首が痛いってプンプン怒って帰っちゃったわよ」
「あ、えっと……本」
俺は床の本を指差した。
「そう、まあいいわ……。でも次は一人で置いていかないであげてね。あとで夕食の時にずっと足をバタバタさせるんだから……。ところで、部屋に入った時、なんだか変な顔をしていたけれど、何かあったのかしら」
「うん、母様……」
母様という言葉は、未だに重く感じられた。
詐欺師にでもなった気分だった。
「どうしたの、ダリアン」
「飲み水をどこから引いているのか、この本には書いてないんだ。川も繋がってないし」
「ああ、それなら簡単よ……」
彼女は俺の隣に座り、説明を始めた。
人工の帯水層に巨大な魔法陣を使っているのだという。
水撒きの魔法と同じだが……規模が全く違う。
水は丘の上から四方八方へと流れ下る。
街全体が一本の巨大な地下の根から水を飲んでいるような光景だ。
下水道システムもあるらしい。
汚水は堕ちし者の浄化と呼ばれる巨大な魔法陣を通り、水と廃棄物を分離させ、果樹園の肥料に変えるという。
端的に言えば、植物に必要なミネラル栄養素だけを残すのだ。
残った水は純度が高すぎて飲用には適さず、灌漑か鉱業にしか使われない。
魔法陣が壊れたり消えたりした場合の計画も用意されているらしい。
「ジュ……母様、その浄化の魔法陣がどんなものか知ってる」
「いいえ、ごめんなさいね。でも、とても高度なものであることは間違いないわ」
一体どれほど緻密なのだろうか。
マナは途方もない作業をこなさなければならない。何をすべきか正確に理解する必要がある。
ジュリエットが真剣な顔で俺を見た。
「ねえ……もしかして、魔法陣を描いていたの」
「えっ、母様」
背筋が凍った。どうすればいいかわからない。
嘘をつけば、おそらく見抜かれる。
真実を言えば、怒られるかもしれない。
黙っていても、結局は聞き出されるだろう。
どの道を選ぼうと結果は同じ。俺の詰みだ。
「うん……描いた」
「さすが私の息子だわ!」
「でも、怒ってないの」
「怒る理由なんてどこにあるのかしら」
「あ、えっと……」
「それが心配だったの」
「うん……」
「そう」
結局、大したことではなかった。
一瞬、子供が魔法を学ぶのはタブーなのかと思った。
何しろ、コービンにはもっと慎重になれと言われたからだ。
魔女狩りのようなものまで想像したが、考えすぎだった。
「ええと……ありがとう」
「どういたしまして。それで……あなたはどうするつもり」
「もっと他の呪文を試してみる」
「バルコニーでやってくれるかしら」
「うん、いい考えだね」
彼女は俺の額にキスをした。
髪を梳いてくれた。
お腹が空いていないか確認した。
「何かあったら呼ぶのよ、いいわね。隠し事はなしよ」
「隠し事はなしだよ、母様」
「愛してるわ。あと数時間したら降りていらっしゃいな、夕食ができるから」
彼女は部屋を出て行った。
胸の奥に奇妙な感覚が残った。
もっと知りたい……もっと話してほしかった……。
いや。
待て。
なぜ俺は、彼女に話し続けてほしかったんだ。
これは本を読むよりもずっと良かった。
だが、それを直接彼女に伝えることは拒んだ。
できないからじゃない。
怖いからだ。
人生は、俺がしがみつこうとするものをすべて奪い去ると教えてくれた。
両親。
死。
火事が彼らを連れ去った。
トラックが、俺に再び生きることを強要した。
そしてこの新しい生活の中で、そんな後ろ向きな思考は消え去ろうとしている。
死にたくない。
死にたくない……それが恐ろしかった。
もしこれが夢で、あの古いアパートで目が覚めたらどうする。
もしかすると、事故が起きた時に彼らを救い、同じ過ちを繰り返さないために、早く魔法を学びたいだけなのかもしれない。だが、確信はない。
感じることは奇妙だ。
疑いながらも、信じている。
恐怖を感じながらも、安らぎがある。
死を望みながらも、その淵に立てば生きたいと願う。
わからない。まだ、俺には。




