第三話 【魔法について】
俺は三歳になった。について
あれからというもの、俺は本棚にある本を片っ端から読破することに没頭した。時には廊下からくすねてくることもあった。
実際のところ、それは思っていたよりも困難な作業だった。だが幸運なことに、母はそれを単なる子供の悪戯だと思ってくれていた。
俺がこうした行動をとることで、かつて泣かなかったことへの彼女の不安が払拭されたようだ。本を盗むという行為でさえも……。
「わかっております、ジュリエット様。ですが、このままでは全ての本を読破されてしまうのでは……」
「ええ、でも重要な本はもう片付けたわ。だから心配いらないのよ……。それに、あの子が一度も泣かなかったことをずっと心配していたけれど、こういう悪戯をするってことは、どこもおかしくなかったってことだわ。ただ、私の可愛い息子はとても大人しいだけなのよ」
俺はゆっくりとドアを閉め、意識を本に戻した。
「ふぅ……」
魔法についてというタイトルは、世界についてと似ていたため、また内容の薄いものか、あるいは同じ著者のものかと思った。
だが、この本はより小さく、ページ数も少なそうだった。
前世の世界に魔法は存在しなかった。
だが、俺は精霊と話すことができる特異点だった。
あれは別の種類の魔法だったのかもしれないが、孤独な俺に寄り添ってくれたのは、確かに生きている彼らだった。
俺が逝った時、彼らは嘆いてくれた。
それでも、何が俺をここに連れてきたのかはわからない。
別の機会か。
なぜだ。
今はそれを考えている場合じゃない。
1.魔法の誕生とは
この世界では、出現や発見のことを誕生と呼ぶらしい。
つまり、魔法は生物の成長のように、段階的に発見されていったということだ。
だが、書面にはすべての呪文が本質的に強力なわけではないとあり、戦争という背景がなかったため、魔法は進化しなかったと記されていた。
生活魔法や、稀に医療に使われる程度に留まっている。
どうやら魔法は補助的なものでしかないらしい。
結界魔法もあるにはある。
だが、攻撃的な要素を示す記述は皆無だった。
生活魔法というのは、畜産、農業、建築、運搬、そして日常の雑務を指す。
(……期待外れだな)
もっと興味深いものを想定していた。
俺は元素と対話できた。
ここではそれが普通だと思っていたのに。
(待て……元素と話す、か。)
今さらだが、奴らの声を感知できない。
長い時間が経ちすぎて、気づかなかったのか。
それとも、この新しい脳がその機能を無効化したのか。
蝋燭に視線を向け、手をかざす。
何も起きない。
微動だにしない。
窓へ行き、手をかざす。
無反応。
開かない。
机の上のコップへ手を伸ばす。
いつも感じていたあの応答がない。
しゃがみ込み、木の床に手を触れた。
何も起きない。
どこにも土を感じない。
(喪失したのか……)
なのに……なぜこんなにも清々しい気分なんだ
たぶん、あの雨の日から背負っていた重荷を、ようやく下ろせたからかもしれない。
俺は頭を振り、本に視線を戻した。
2.マナの使用法
どうやらマナというのは、単にチョークで円を描くだけのものではないらしい。
・誰もが決まった量のマナを持って生まれる。
・大量に持っていても、全員が使えるとは限らない。
・容量を増やすことは可能だが、複雑な円を描く必要がある。
・教会によって制限されている別の使い道が存在する。
制限された使い道とはなんだ。
興味があるわけじゃない。
ただ、他にやることがないだけだ。
それに、いつかこれが重要になる時が来る。
無視はできない。
本には、マナの量は遺伝子に縛られないとも書かれていた。
つまり、貧しい家から天才が生まれることもある。
だが、貧しい村から有能な魔術師が出る確率はほぼゼロだという。
一般的に、いや常に、貴族こそが最も制御に長けている。
これには根本的な理由がある。
栄養、情報のアクセス、学習計画、訓練、その他の要因だ。
この世界では、才能だけでは不十分らしい。
あるいは才能があったとしても、それだけで大成することは稀だ。
子供の頃から十分な訓練を積まなければ、影響が出る。
さて、
生死に関わらないのなら、なぜこれほど研究が重要視されるのか。
その答えは次のページにあった。
3.内部魔力、外部魔力、そして知覚マナ……あるいは第三の眼
知覚マナは、祝福者だけが持つとされている。
彼らは、通常では気づかないものを知覚できる。精霊、未来の事故、啓示、環境の微妙な変化、隠された気配、そして不安定なマナの変動などだ。
この変動を感知することが重要なのは、対処が遅れれば死を招くからだ。
本来、第三の眼を持たないことは通常なら問題ではない。しかし、不安定な変動は予測不可能であり、出自や地位に関係なく誰にでも降りかかる。
貴族や有力者が、家に少なくとも一人は祝福者を置きたがるのも頷ける。
・内部魔力について
これは予想通りだ。
内部魔力、あるいは「マナの循環」とも呼ばれ、内部魔力として知られている。
身体能力の強化、つまり速度、筋力、感覚などを向上させる。
読んだ限りでは、これが最も激しいものであり、マナの結節点を巡るため、正しく使わなければ死に至る可能性がある。
当然、狩猟に最も使われるのはこれだ。
・外部魔力について
これは外部魔力と呼ばれる。「ドゥリン」が語源だ。あの巨大竜はこれのエキスパートだったらしい。口から呪文を放ち、鱗を通してさえ魔法を行使できたという。
しかし、人間は魔法陣か、マナを貯蔵できる魔道具を使わなければならない。
環境マナはどこにでもあり、逃げられる場所はない。それをどう活用するかは未だ発見されていないが、唯一の例外がネクサスだという。
外部魔力に関する情報は、魔法陣の記述以外には少なかった。
「筋が通らないな……」
そもそも、攻撃魔法が存在せず、内部魔力に既知の遠距離攻撃がないなら、どうやってドラゴンを倒したんだ。
第二に、詠唱魔法や無詠唱魔法が存在すべきだ。ドラゴンがその証拠だ。
そして最後に、誰かがそれを試そうとして、消されたのか。あり得ない話じゃない。
ページをめくった。
今はそんな疑問を抱いている場合じゃない。
いくつかの魔法陣を見つけた。
雨雲:菜園のために雨雲を継続的に発生させる。
水の結界:空から現れる水のフィールドを作り出す。
灌漑システム:雲に似ているが、より大規模で需要の高い収穫用。
換気システム『夏用特化』:人や家畜のために涼しい風を発生させる。
俺は換気システムを選んだ。
部屋を出る。
父の執務室まで歩き、黒板からチョークを一本拝借した。
部屋に戻り、誰にも聞かれないようにそっとドアを閉める。
この宮殿では、コービンは針が落ちる音さえ聞き逃さないからな。
息を吐き、円を描き始めた。
ほぼ完璧な円、中央に十字、そして南から来ることを模した三本の曲線。
多少歪んでいても構わない。概念さえ伝われば十分だ。
この世界では、マナは指示に従わなければ機能しないからな。
そうでなければ、不安定な円が出来上がり、自傷することになる。
だからこそ学習が厳格に求められ、
円の精度も必要とされる。
もちろん、戦争がなかったために急いで魔法陣を組む必要のある人間もおらず、怪我人は出なかった。
しかし、人類はその弱点を補い、ネクサスの南の連中に食い殺されないために、別のスタイルを選ばざるを得なかった。
それが、この本が魔法と人類の脆弱性について言及していた最後のことだった。
円は完成した。あとは手をかざすだけだ。
手首を覆う袖はない。
元素の感覚に意識を直接向け、
その作業を遂行するための意志の力を込める。
手が下へと吸い込まれる感覚があった。
危うく床に倒れ込みそうになったが、
円が光り、そこから風が吹き始めた。
風はあまりに涼しく、これほど冷たいとは思わなかった。
疑問だ……。
戦争がなく、魔法が進化しなかったのなら、なぜ人類はネクサスの南の連中に苦しめられているのか。
全く意味がわからない。だが疑っていた通り、情報は隠蔽されているのかもしれない。
政治的な観点から言えば、革命を起こさせないために真の力を隠すのは常套手段だ。
もちろん革命の種は常に存在するが、大惨事を引き起こせる人間がいなければ、現状を変えようとする人間も減るだろう。
風が、俺の焦げ茶色の髪を揺らした。
バンッ!
突然ドアが開き、集中力が途切れて魔法陣が一瞬で消えた。
「ダリくん! ダメだよ、そんなことしちゃっ!」
従姉妹のヴァレリアだった。彼女はまるで寒さを追い払うかのように、手で空気を仰ぎ始めた。
「なんでだ。魔法は普通だろ」
「そうだけど、うまく制御できないと気絶しちゃうんだよ……! 病気になっちゃうもんっ!」
「でも、ヴァレリア、俺は平気だ。見ての通り」
「関係ないもん、フンッ! ダリくんに何かあったら絶対に嫌だもん!」
ヴァレリアの表情はころころと変わる。
怒り、心配し、眉をひそめ、そして俺を真っ直ぐに見つめた。
俺はただ彼女を見つめ、会話を続けた。
「本気で言ってるのか」
「当たり前だよ、ダリくんっ!」
どうやら……気分を害したらしい。
「でも……まあ、いっか!」
「ねえねえ、一緒に外で遊ぼうよっ!」
唐突に話題が変わった。
「え……」
「ダリくんの顔色が変だから、遊ぼうっ! 私ね、変な気分の時はいつも遊ぶんだよ!」
こうして、俺は熱心な従姉妹に引きずられていった。
孤独に対する人間の脆弱性、その答えは……「存在」か。
明白なことだろう。
なら、なぜ俺はずっと気づかなかったんだ。
まだ理解しきれない。だが、庭へ向かって走りながら笑う従姉妹を見て、
俺が同意したことを喜ぶ彼女を見て、
俺が無事であることに熱意を見せる彼女を見て、
そして、前世の八歳の時以来初めて遊ぶという行為に連れ出されたこと……
それらが、俺の胸に何かを感じさせた。温かい、まだ理解できない何かを。
ずっと、こうしていられるのだろうか。




