第三十四話 【戦いの舞】
夜になって、新しいことを試していた。
踊っていた……いや、少なくともそうしようと試みていた。
火や風の操作に応用できないか確かめるため、カポエイラの基本的な動きをいくつか練習している。
だが、風の動きや火の勢いを真似てみても、手からは何も生み出されない。
ふと動きを止め、星空を見上げる。
力を制御できるようになるには、まず生きることを学ばなければならない。
おそらく、それぞれの天恵に発動の引き金が存在するのは、それが持ち主に課せられた試練だからなのだろう。
アレクシオは、戦士の魂を持ちながらも静止していなければならない。
そしてマリアの場合、力を目覚めさせるために憎しみや強烈な感情を必要とする。そのせいで平和な時はそれほど力を発揮できないが、肉体を鍛え上げ、身体能力を高めることで補っている。
稀に、心が穏やかな時は内部魔力を使ってその欠点を補うこともある。
もどかしい。
どれだけ試行錯誤しても、何もできない。
分からないからだ。
動くことは、分かる。
戦うことも、分かる。
だけど……。
継続的かつ論理的に、感情を抱き続けること?
それはできない。
これまで何かを感じたことがあったとしても、単なる自動的な反応に過ぎない。
心から何かを感じるということが、どうしても理解できなかった。
「ねえ、ダイキ。力の特訓?」
振り向く。
数メートル離れたところにマリアが座り、静かにこちらを観察している。
「ああ……いつからそこに?」
「んー……十分くらいかな。どうだろう」
立ち上がり、ゆっくりと近づいてくる。
「さっきの動き……もう一回見せてくれない?」
「何のことだ、マリア?」
「お母さんって呼んでって言ったのに……まあいいわ。その、踊りみたいに見えた動きのことよ。危なっかしくて……命を奪うような動きに見えた」
「ああ……あれか。北方の技術について読んだことがあってな。俺は……『戦いの舞』と呼んでいる」
「『戦いの舞』ねえ。教えてくれない?」
「教える? 習いたいのか?」
「内部魔力と一緒に使えるなら、もちろんよ」
「いいが、見た目ほど簡単じゃないぞ」
「なおさら良いわね」
そうして、マリアに教え始めた。
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あれから八ヶ月が経った。
少しずつ、日常が当たり前のものになっていく。
村の人々は半ば俺を養子のように扱い、子供たちにもかなり懐かれている。
理由は未だによく分からないが、だからといってどうすることもできない。
あとになって知ったことだが、思い返してみれば当然のことなのだが、アメリアは村の司祭であるアメリオの孫娘だった。
この世界に独身制というものは存在しない。少なくとも、この宗教においては。
マリアはカポエイラの使い手として達人の域に達している。
今では、日常のふとした瞬間にその動きを使っているのを見るのも珍しくないほどだ。
特訓を始めた最初の数日間は、マリアにとってではなく、俺にとって困難なものだった。
誰かに物を教えたことなど一度もない。これが初めての経験だったが、思いのほか上手く教えられたことに自分でも驚いている。
アメリアは想像以上に人懐っこかった。
いつも話をするために宿屋へやって来る。マリアの許可を得て部屋に入り浸り、何時間も過ごしていくのだ。
最初は同い年かと思っていたが、実際のところアメリアは二つ年下だ。
そして、兄は二つ年上らしい。
この世界では人間の成長が早いということを忘れていた。
ここの生物学は根本的に違う。
まだ理解しきれない。
ちょうどその時も、アメリアが話しかけてきていた。
「それでね、何があったと思う……? ベッドの横で大きなカタツムリを見たの。ベッドのすぐ横だよ! それが思ってたよりもすごくて、綺麗だったんだ」
「カタツムリ? この辺りにはいないと思ってたけど」
「うん、いないよ、ダイくん。あり得ないもん……でも絶対見たんだってば。その後いなくなっちゃったけど」
それがカタツムリの驚くべきところだ。
普段は見かけないのに、少し目を離した隙に、突然あちこちを這い回っていたりする。
「そういえば……少し前、カタツムリを食べる文化がある地域から商人たちが来てたな。ソース煮とか、詰め物とかにして食べるらしい。たぶん、そこから一匹逃げ出したんじゃないか」
「うーん……そうかも。あとで探してみる……って、食べるの!? あんなに可愛いのに!」
「簡単に手に入るし、要するに食糧不足の対策になるからな。誰もがコネドリーを持ってるわけじゃないし、適応するしかなかったんだ。肉の美味しさが理解できない人がいるように、カタツムリを好む理由が分からない人間もいる。見た目だけで言えば……」
見た目だけで言えば、なんだ?
ただの嗜好の問題だ。これ以上言うべきことはない。
「……見た目は悪いかもしれないが、案外美味しいのかもな」
ああ、そう言っておくのが無難だ。
「アメリアちゃん! お母さんが呼んでるわよ!」
庭から声が飛んできた。
マリアだ。
「はーい! またね、ダイくん!」
そう言って、慌ただしく駆けていく。
「ダイくん、か……」
世界は常に戯れるが、決して嘘はつかない。
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翌日も、マリアの特訓を続ける。
「よし。次にやるべきことは……いや、俺が知ってることはもう全部教えた」
この辺りで留めておくのが最善だった。
カポエイラについてすべてを語ってしまえば、ただの思いつきの嘘では済まなくなり、矛盾だらけの明らかな虚言になってしまう。
もし本当に『戦いの舞』について本で読んだというのなら、巨大な図書館に出入りできたか、あるいは極めて優秀な師匠がいたことになってしまう。
逆に、少しの知識しか持っていないほうが、よほど信憑性がある。
「ありがとう!」
マリアはハステイラを放ちながらそう言った。足を地面すれすれで円を描くように滑らせ、相手の足を払ってバランスを崩させる技だ。
こちらに仕掛けてきたが、届く前に後方へ飛びのいた。
「ハンサムで、賢くて、身軽な息子を持って私は誇らしいわ」
そして近づいてくると、俺の頭を腰に抱き寄せるようにしてハグをしてきた。
この数ヶ月で、すっかり愛着を持たれるようになっていた。
少しばかり、度が過ぎるほどに。
対して俺は、この温もりに対してどう感じるべきか、まだ分からずにいる。
その点においてジュリエットの代わりになる存在はまだいないが、それでも満たされてはいる。
手放したくないという感覚。ジュリエットの時と同じだ。
「変な感じだ」
「ん? 何が?」
「いや、何でもない」
「ふーん、そっか」
マリアの良いところは、決して深入りしてこないことだ。
何でもないと言えば、それ以上は聞いてこない。
だが逆に、それが結果的にこちらから打ち明けさせるための最善の戦略になっている気もする。
なぜ俺を愛してくれるのか分からないと、そう言いたかった。
けれど、自分自身でさえ自分のことが分かっていない。
だから、そんなことを尋ねても意味はない。
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夜が訪れ、マリアの小屋にいた。
いつものように、コネドリーの肉にジャガイモとペプロの葉を添えて料理をしている。
「すごく美味しくなるから、楽しみにしててね」
「分かってる。美味しいはずだ」
「あら、お世辞が上手ね」
頷いて、テーブルで待つ。
実のところ、少しずつだが、以前の自分では想像もできなかったようなことをし始めている。
ゼレニアでの日々を思い出し、一人で笑みを浮かべることもある。
またある時は、決して起こらなかったけれど、起きてほしかった出来事を想像して物思いにふけったりもした。
ヴァレリアの気遣いや……ジュリエットの愛情を、どれほど無駄にしてしまったかということも考えた。
この先の人生に何が待ち受けているかは分からないが、真剣に生きたい。
強くなり、この先出会う人々を守るために生きるのだ。
物事を大切にできているのだろうか?
ああ。
それは、受け入れるのに時間がかかった現実でもある。
大切にすること。
そして、大切にされること。
あとは、それをどう維持するか……あるいはどうやって育んでいくかを見つけるだけだ。
論理的に考えれば、可能なはずだ。
コントン
「え?」
マリアが振り返った。
「あなたが鳴らしたの?」
「いや、ドアからだ」
マリアはお玉を置いた。
「ってことは……ルビーね」
エプロンで手を拭き、ドアへと近づく。あそこまで緊張している姿は見たことがない。
短い髪を三度も整え直している。
ドアを開けると、そこにはルビーが立っていた。
笑みを浮かべ、自分よりも大きな鞄を提げている。
そして次の瞬間、大粒の涙をこぼし、二人は抱き合った。
「マリア……無事だったのね、よかった……」
「おチビちゃん……お姉ちゃん、どうしてこんなに遅かったの? すごく会いたかったわ」
「分かってる、分かってるわ。色々とあったのよ……ん?」
そして、ルビーと顔を見合わせた。
「え……? まさか……」
くそっ。いくらなんでも早すぎないか?




