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空明の再誕 - 生きる理由を取り戻すために  作者: 日和秋彦
第3章:炎

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第三十一話 【星を見る】

 評議員たちの名は、アンドロス、ニコス、ドリアン、そしてレオンといった。


 アンドロスはクリオヴァルの重要な家系の出身だが、今はローゼンライで質素に暮らしている。話によれば、移住した最初の年は気温の変化にかなり苦労したという。


 幸いなことに、気候など些細な問題だった。

 山脈の反対側にあるため、どうせ寒いのだ。

 クリオヴァルほどではないが、快適に過ごすには十分な冷え込みだ。

 おまけに、念のためにと自律型の魔法陣まで提供されている。

 姓はネオコといった。


 レオンは無名の村の出身で、四人の中で一番の話し好きだった。

 全員がそれぞれの身の上話を聞かせてくれたが、レオンだけはまるで壮大な冒険譚のように語り、実際そう聞こえた。


 残りの者はわざわざ名前を挙げるほどでもないが、そのうちの一人がルビーを大いに助けたと聞いた。それがドリアンだ。偶然にもダリアンと名前が似ている。


 アンドロスとニコスはヘーゼル色の波打つ髪。

 ドリアンは黒い巻き髪。

 対してレオンは金髪で、肩に大きなポニーテールを垂らしている。


 知っているのはそれだけだ。

 何よりも、彼らはあっという間に村と深い親交を結び、マリアを含むエルピダの住人たちがこぞってその話を聞きたがったからだ。


 当然、何も言わなかった。

 こんな時、同い年の子供なら何を言うべきなのか。

 分からない。


 だから、黙っているのが一番いい気がする。


 ---


 翌日、評議員たちがゲオの家族を連れて発つ前、マリアは馬車の上にカラスを一羽とまらせた。


「信用できるのは分かってるわ。ただの念のためよ。もし何かが起きたり、この子が戻ってきて知らせてくれたら、すぐに分かるから。いいかしら?」

「もちろんです。ご心配には及びません。カラスに見張られていても気になりませんから。とにかく、感謝します」

「どういたしまして。さて……」


 マリアは少年に近づき、目線を合わせるようにしゃがみ込む。


「ゲオ、本当にすごい子だったわ。早くエリスに会えるといいわね」

「マリア……」

「何よ? 本当に鈍感な子ね。あの子はきっと恋をしてるのに、口に出したくないのよ。それに、もう一人もそんな感じみたいだけど……」


 だが、少年は両手でその口を塞いだ。


「もう、やめてよ……!」


 ほとんど走るようにして、家族と一緒に馬車へと向かった。


「エルピダの皆さん、申し訳ありません。ですが私の息子です……この子に最高の環境を与えるためなら、何だってするつもりです」

「気になさらず! 我々も喜んでいるのですよ! 良い知らせを持ち帰れますから!」


 そうして、一行は去っていった。


 ---


 一方、俺は人知れず修行を続けた。

 始めた時は、そう思っていた。


 夜の帳が下りた頃、暗闇の中に座り込み、瞑想する。


(うーん……)


 やるべきことは、心を落ち着かせ、前向きな思考を保つことだ。

 効率よく力を操りたいなら、まずは内なる静寂を見つけなければならない。


 すべてが、あまりにも早すぎる。


 突然の腕の再生。

 手紙と海越しの別れ。

 オソリオ、誘拐犯たち、そしてマリアの温もり。

 新しい母。


 前世で両親を失った時、決して他人を新しい家族として受け入れることはできなかった。


 一度だけ、ある家族がリスクを承知で養子に迎えようとしてくれたことがある。

 だが、本当の姿を見るなり、すぐに送り返された。


 責めるつもりはない。

 救いようのない子供なんて、誰も抱え込みたくはない。

 多くの場合、それが最善の結果にすらなる。


 だが、それでもマリアは離れず、あの家族のように見捨てることもなかった。


 そしてそれは……どうしても理解できないことだった。


 ため息をつき、瞑想をやめる。


 ただ湿った芝生を見つめる。その夜、いつもより大きく見える月の明かりだけが、周囲を微かに照らしていた。


 月へと視線を上げる。


「どうしてそんな風に見るんだ?」


 なぜ話しかけているのかすら分からない。

 月に話しかけたところで意味などないのに、それでもここにいる。


 ただ、もっと強くなりたい。

 自分のためではなく、マリアに心配をかけないために。


「ダイキ」


 背後から声がする。


 少しだけ身をすくませたが、振り返りはしない。


【ヒカリ。あの声を聞こう】


(……嫌だ)


【いや、聞くべきだ。今はあの人が面倒を見てくれているんだから。どうして別人のフリをする必要がある? 俺たちは二十歳じゃなくて、まだ六歳なんだぞ】


「ダイキ!」


 再びビクッと肩が揺れる。

 振り返ると、マリアが腰に両手を当てて見下ろしていた。


「そこで何してるの?」

「あ……ごめん、考え事をしてたんだ」

「そう……」


 そして、隣に腰を下ろした。


「あなたみたいな子が、一体何を考えることがあるの?」

「色々だよ、実は。時々星を見上げて、この広大な宇宙の前では人間なんてちっぽけな存在だって思うんだ。そういうこと、ない?」

「ないわね。だって私はマリアで、星は星だもの」

「そっか」

「でも……特定の星の前では、自分がちっぽけに感じることはあるわ。ルビーとか……まあ、いいわ」

「マリア?」

「ええ、もう言っちゃったしね。話してあげるわ」


 マリアは必要以上に深く息を吸い込んでから、言葉を続ける。


「七年前、ある男の子に出会ったの。私のせいで母親が死んだと知って逃げ出した時……あの子が見つけてくれた。ヤズミと名乗っていたわ。飢えから救ってくれたの。フェアリュの出身で、アイノファ王の未来の娘を守るために修行するって、大陸を離れていたのよ」


 初めて『ダイキ』という名を出した時、マリアが黙り込んだ理由がようやく分かった。

 ヤズミは、ダンジョンの出現やその他の出来事により、はるかに過酷な環境で修行したかっただけなのだ。


「また会おうって約束したけど、当然のようにそれは叶わなかった。若き王女が生まれて、きっと今は彼女の側を離れられないんだと思うわ」


 ヤズミのことを話す時、マリアの声は普段とは違い、その瞳は星よりも輝いている。

 恋をしているんだ。

 この国と対立している王国の誰かに。

 どうして恋をしていると分かったのか、自分でも不思議だ。

 きっと、ジュリエットが父を見る時と同じ目をしているからだろう。


「ダイキ、私は馬鹿じゃないわよ。筋肉ダルマみたいに見えるかもしれないけど、普通の人なら理解するのに何ヶ月もかかるようなことにも気づけるの。だって、どれだけ過酷な経験をしたとしても、あなたと同い年の子供が夜更かしして空を見上げて……瞑想なんてするはずがないもの。それ、私がやってたことだから」


「何て言えばいいか分からないよ、マリア」


 マリアが頭に手を置いた。


「ただ、あなたらしくいてちょうだい。いいわね?」

「……」

「ちょっと、ダイキ……返事は!」

 マリアは大げさに声を荒らげる。

「分かった、分かったよ……その言葉、ありがとう、マリア」

「母さんって呼んでくれない?」

「え?」

「ええ、それが一番いいわ」

「分かったよ……母さん」

「そうこなくちゃ!」


 弾かれたように立ち上がる。


「あんまり長く外にいないこと。夜中の十二時前には中に入るのよ」


 そして、去っていった。


 こんなことを言われて、一体どう返せばいいというんだ。


 ---


 翌日、マリアは庭で待っていた。


「よし、息子よ。準備はいい?」

「何の?」

「決まってるでしょ? 修行よ。若いんだから、その成長期を無駄にしちゃ駄目」


 確かに一理ある。

 天恵者としての力に集中するあまり、肉体的な鍛錬を疎かにしていた。

 マリアとなら、有意義なものになると分かっている。


「じゃあ、まずは最初ね。内部魔力(ノイド)が何かはもう知ってるわよね?」

「うん、知ってる。たくさん本を読んだから」

「ああ、よかった。私、座学は苦手なのよね」


 木剣を放り投げてきた。


「とりあえず、攻撃を当ててみて」


 こうして、修行が始まった。


 ……


 一撃を入れるのは不可能だった。

 剣術の達人だからではない。とてつもなく俊敏なのだ。

 時折、地面を蹴って大地を揺らし、体勢を崩してくる。

 こんな真似ができるほど、天恵者の力は圧倒的だった。

 それでも諦めない。


 一度、思い切り剣を振り抜いた。

 マリアはいつものように躱したが、どこからともなく一陣の風が吹き荒れ、思わず目を覆った。

 届かないことへの苛立ちを糧に、力が再び顕現したのだ。


 このままでは、意図せず誰かを傷つけてしまうかもしれない。

 そんなことにはしたくなかった。

 だからこそ、鍛えなければならない。


「よし、今日はここまで。その小さな体には三時間もやれば十分でしょ」


 そう言って、風呂を浴びに小屋へ行ってしまった。

 剣を握りしめ、荒い息をつく俺だけが取り残される。

 どうしていいか分からず、俺も風呂に向かうことにした。


 ---


 風呂の準備は一番簡単な作業だ。

 大きな木桶の中に温水の魔法陣を描くだけで、勝手にお湯が湧き出し、桶を満たしてくれる。


 湯に浸かり、しばらくそのまま、何もない空間や立ち昇る湯気をただ見つめていた。


「母さん、あなたが必要なんだ……」


 思考が追いつく前に、その言葉が口からこぼれ落ちていた。


「また、会えるのだろうか……?」

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