第二十三話 【あてのない旅】
もう、どう進めばいいのか分からない。
……
旅の真実なんて分からない。
……
なぜ慎重な決断を下したのかも、分からない。
……
間違いすぎた。
人生は俺を惨めな気分にさせるらしい。たとえ人に囲まれていても。一度はすべてを手に入れたというのに、また奪われてしまうのだから。だから、この世界のことを何も知らないまま、ここを去ることに決めた。
……
その時、月明かりに照らされる中、あの声が語りかけてきた。
今回は違った。今までになく、遠く離れているように感じる。
それと同時に、悲しみと苛立ちが込み上げてくる。
(もう私たちで対話できるか分からない、それは……)
「黙れ。お前の声なんて聞きたくない」
(…………)
「……え? いや、待て。どういうことだ? おい? なあ?」
返事はなかった。
くそ。
なぜ今更気にするのか、自分でも分からない。
同時に、安堵もしている。
あの声はもういない。もう感じることはない。
そのまま帆を下ろし、眠りにつくことにした。
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数時間後、寝心地の悪さで目を覚ます。
「本当に出発したのか、それとも夢だったのか?」
目を覚ました時、頭に浮かんだのはそれだけだ。
船の揺れと、停泊している船の周りを旋回するカモメの鳴き声が聞こえる。
「夢じゃなかったか……」
再び寝転がった。
自分の手を見る。
一瞬、何かを感じたが、またそのまま腕を下ろした。
星空も見つめる。
星々は別の法則で動いており、前世の記憶にあるものとは全くの別物だ。
だが、星々はただ一点に向かって進んでいるように見え、まるでそこが結節点であるかのようだった。
「……?」
太陽が昇り始めた時、顔を覆った。
こういうことには慣れていない。いつも、ちょうどいい光加減で目覚めていたからだ。
そんなことが問題になったことは一度もなかった。
今こうなっている以上、早く慣れなければならないのは明白だ。
船は小さかった。
一人用というわけではなく、数人用としては、だが。
中はきちんと整理されている。
簡素な寝台に、清潔な毛布。片側には食料、もう片側には釣り具などの道具が置かれている。
今のところ、必要なのは食べ物だけだ。
缶詰。
セラフェル家の、もう一つの発明品。
その紋章を見るたび、胸の奥で何かが反応する。
「何なんだろうな」
だが、あの絵に描かれた父の顔を見ても、いい気はしない。
ましてや、忙しすぎてめったに見せることのなかったあの笑顔はなおさらだ。
ただ、手紙を読んだ時、自分に責任があると感じないでほしい。自分は正しくやったのだと思ってほしい。問題なのは父ではなく、俺の方なのだから。だが、父親がどう感じるかなんて分からない。そんなこと、断言できるわけがない。
缶詰を手に取り、甲板に座り込んだ。
小さな鍋を取り出し、フックに吊るして、縁の近くにある低いスタンドに置く。
「よし……」
チョークを取り出し、鍋の下に魔法陣を描いた。
単純なものだ。炎を出さず、ただ熱を送るだけ。
深呼吸する。
思考が衝突している。
原点に入れるかどうか分からないが……。
暗闇。
あれを見つけ出せ。
空虚でありながら、同時に満たされていると感じさせるもの。
一つの問い。
「どうして俺を愛してるの、ママ?」
そして、彼女の答えだけで十分だ。
目を開け、魔法陣に集中する。
しかし、手から炎が飛び出し、海へと消えていった。
「え? 何か間違えたか?」
もう一度試すと、呪文は正常に機能した。
「今のは何だったんだ?」
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食事は悪くなかったが、腹は満たされない。
このままでは食料が長く持たないし……釣りを始めないといけない。
水面が泡立っている。
突然、波が揺れた。
「誰だ……?」
何かが水中から飛び出し、満面の笑みで甲板に着地した。
「おい、人間! この海を渡る前にひれ伏せ! 海の女神を前にしてるんだ、もっと敬意を……!」
海の女神……?
どう見てもただの子供だった。
だらしない服装に、ボサボサの二色ヘアー……。
いや、待て……どうやって水中から出てきたんだ?
「あのさ……」
「女神エフィリアの降臨だ!」
「女神? お前が……女神?」
「そう! エフィリアは有能な女神なのだ!」
「……じゃあ、俺が追放された原因はお前か」
剣を鞘から抜く。
「えっ……? 違う! エフィリアはそんなことしない……!」
「悪い女神じゃないって? そんなわけ……」
「……エフィリアは女神なんかじゃない。ただの嘘だ」
少女は眉をひそめた。
「エフィリアは海を守る。エフィリアがここを統べるの」
彼女は誇らしげに自分を指差した。
「人間には、決してエフィリアのことが分からない」
「……」
「人間がエフィリアを理解する必要はない。でも、エフィリアは人間を理解するのだ」
この少女――どうやらエフィリアというらしいが、俺の前への現れ方からして、海に住んでいてそれが日常の一部であるかのようだった。
そして、決して喋りやまない……。
「エフィリアは巨大な網から魚たちを守るのだ。でも、一度エフィリアも網に引っかかったことがある。エフィリアは釣りを罰したりはしない。でも、乱獲はダメだ。そして、お前は……」
彼女はしばらくの間、俺を見つめた。長い間。
「エフィリアは、お前の中に何か大切なものを感じる。人間には理解できないかもしれないけど、いつか分かる時が来る」
そのまま海へと飛び込んだ。
「待て……!」
反応はない。すでに消えていた。
「今のは、何だったんだ……?」
再び座り込む。
あの子供は何だったんだ? なぜわざわざこの船に来た?
答えが欲しかったが……。
得られることはないだろう。
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あれから二十日が過ぎた。
最初の数日は……そうだな、予想外の経験だった。
食べ物はあったが、話しかけてくる者は誰もいない。
前世ではそれが当たり前だったはずなのに……いや、母がチョコレートを持ってきてくれた時が懐かしい、というか……まあいい。
船はいつも通り南へと進み続けた。
小型船とはいえ、非常に効率的だった。
真っ直ぐに進んだわけではない。進むよりも立ち止まる時間の方が長かったが、それでも十分だった。
案の定、食料は尽き、釣りを始めざるをえなくなった。
余った魚は、魔法陣を使って鮮度を保った。
雷雲と同じ原理だ。おかげで長期間保存できた。
遠くに嵐の雲が見えるが、今の場所からは離れている。
この間ずっと、彼女のこと――ジュリエットのことを考えずにはいられなかった。
今はどうしているだろうか?
分からない……。
「まあいい、だってそれは……ん?」
突然、東から強い風が吹きつけ、船を反対方向へと押し流した。
先ほどまで穏やかだった海面が、波立ち始める。
そして、自分の手が妙な光を放っていた。
「な、なんだこれ?」
手を振ってみたが、何も起こらない。
その光はそこに留まり、消える気配がなかった。
すると突然、強風と高波が合わさり、船ごと海岸へと乱暴に押し流された。
一瞬、どうでもいいとすら思った。
つまり、これが最期なら、それでもいいと……。
その直後、光が激しく強まり、船はそのまま激突して、視界は暗転した。
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目を覚ますと、そこは陸地だった。
木が燃えるパチパチという音と、奥にいる男のシルエットが見える。
最後の記憶は……突風と、手元で動く水。
地面から起き上がり、周囲を見回す。
日が暮れかかっていた。
空は紫がかった色をしている。
砂は湿っていて、まるで海から引きずり上げられたかのようだった。
すぐ脇で、船の残骸がゆっくりと燃え尽きようとしており、暗闇に向かって小さな火の粉を飛ばしている。
俺をここまで運んできた船が、焚き火の薪として使われていたのだ。
「おお……目を覚ましたか……ゲホッ……ゴホッ……」
その男は背中を丸め、しわがれた声で話した。
ゆっくりと、言葉と言葉の間で息を整えながら。
「何が起きた……?」
「お前の船が砕ける音が聞こえたんだ、ゲホッ……まるで海が握りつぶしたかのように……で、見に行ったら、お前さんが倒れていた」
「船は……?」
「なくなっちまったよ」
老人は火へと視線を落とした。それ以上語る価値もないというように。風が一瞬、炎を揺らす。
「遠くまで来たな、坊主。その服からして、この辺りの者じゃないな」
彼は立ち上がり、木の枝からフード付きのマントを取った。
「ほれ、このマントを羽織れ……信じてくれ、必要になる。わしの孫のだった物だから、サイズは合うはずだ」
「あ、ありがとう……」
彼は頷き、再び座り込んだ。
「なあ、坊主……」
男はそれ以上言葉を続けることができなかった。激しい咳の発作に襲われたからだ。
何かしてやろうとしたが、どうすればいいか分からない。
突然、彼の胸元から光が溢れ、すべてが静まった。
「今のは何だ? あんたは……?」
「すまん! 本能的なものだ。今すぐ取り除くから……ん? わしの力が効いていないのか?」
「いや。何の力だ?」
その男はよそを向き、それから焚き火を見つめた。
「昔々、この浜辺には『啓示』と呼ばれるものがあってな。空から光が降り注ぎ、それに触れた者に栄光を与えると言われておった。若ければ若いほど病気に対する耐性が強くなり、ついには免疫ができると。当時のわしはただの子供だったが、そんなものを信じるには賢すぎた。『空からの光? 馬鹿馬鹿しい……』とな」
突然、男は話すのをやめた。
そんなこと、一言も聞いていないのに。
それでも、彼の声はどこか憂いを帯びていて、先ほどよりもさらにひび割れていた。
「だが、その光がわしに降り注ぎ、それが本物だと悟った時、わしは崩れ落ちた。そして傲慢になった……自分の力が何なのかを知るまでは」
「その力ってのは?」
「病気を吸収し、他人に移す力だ」
「なんだって……? ランクは何だ?」
「中位だ。それ以上でもそれ以下でもない」
中位ランクか……病気を吸収して他人に移せる力。基本的には、非常に有用な力だ。
「わしにはもう時間がない、坊主。そして、死ぬ前に自分のことを語るのが、我らが女神の習わしでな。どうやらお前さんが、わしの最後の話し相手になりそうだ……それに、お前さん、ただの天恵者じゃないな?」
「なんて答えたらいいか分からないな」
「なら、聞いてくれ」
そう言うと、老人はため息をつき、語り始めた。




