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空明の再誕 - 生きる理由を取り戻すために  作者: 日和秋彦
第3章:炎

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第二十三話 【あてのない旅】

 もう、どう進めばいいのか分からない。


 ……


 旅の真実なんて分からない。


 ……


 なぜ慎重な決断を下したのかも、分からない。


 ……


 間違いすぎた。

 人生は俺を惨めな気分にさせるらしい。たとえ人に囲まれていても。一度はすべてを手に入れたというのに、また奪われてしまうのだから。だから、この世界のことを何も知らないまま、ここを去ることに決めた。


 ……


 その時、月明かりに照らされる中、あの声が語りかけてきた。

 今回は違った。今までになく、遠く離れているように感じる。

 それと同時に、悲しみと苛立ちが込み上げてくる。


(もう私たちで対話できるか分からない、それは……)


「黙れ。お前の声なんて聞きたくない」


(…………)


「……え? いや、待て。どういうことだ? おい? なあ?」


 返事はなかった。

 くそ。

 なぜ今更気にするのか、自分でも分からない。


 同時に、安堵もしている。

 あの声はもういない。もう感じることはない。


 そのまま帆を下ろし、眠りにつくことにした。


 ---


 数時間後、寝心地の悪さで目を覚ます。


「本当に出発したのか、それとも夢だったのか?」


 目を覚ました時、頭に浮かんだのはそれだけだ。

 船の揺れと、停泊している船の周りを旋回するカモメの鳴き声が聞こえる。


「夢じゃなかったか……」


 再び寝転がった。


 自分の手を見る。

 一瞬、何かを感じたが、またそのまま腕を下ろした。


 星空も見つめる。

 星々は別の法則で動いており、前世の記憶にあるものとは全くの別物だ。

 だが、星々はただ一点に向かって進んでいるように見え、まるでそこが結節点であるかのようだった。


「……?」


 太陽が昇り始めた時、顔を覆った。

 こういうことには慣れていない。いつも、ちょうどいい光加減で目覚めていたからだ。

 そんなことが問題になったことは一度もなかった。

 今こうなっている以上、早く慣れなければならないのは明白だ。


 船は小さかった。

 一人用というわけではなく、数人用としては、だが。

 中はきちんと整理されている。


 簡素な寝台に、清潔な毛布。片側には食料、もう片側には釣り具などの道具が置かれている。

 今のところ、必要なのは食べ物だけだ。


 缶詰。


 セラフェル家の、もう一つの発明品。

 その紋章を見るたび、胸の奥で何かが反応する。


「何なんだろうな」


 だが、あの絵に描かれた父の顔を見ても、いい気はしない。

 ましてや、忙しすぎてめったに見せることのなかったあの笑顔はなおさらだ。


 ただ、手紙を読んだ時、自分に責任があると感じないでほしい。自分は正しくやったのだと思ってほしい。問題なのは父ではなく、俺の方なのだから。だが、父親がどう感じるかなんて分からない。そんなこと、断言できるわけがない。


 缶詰を手に取り、甲板に座り込んだ。

 小さな鍋を取り出し、フックに吊るして、縁の近くにある低いスタンドに置く。


「よし……」


 チョークを取り出し、鍋の下に魔法陣を描いた。

 単純なものだ。炎を出さず、ただ熱を送るだけ。


 深呼吸する。

 思考が衝突している。

 原点に入れるかどうか分からないが……。


 暗闇。


 あれを見つけ出せ。

 空虚でありながら、同時に満たされていると感じさせるもの。


 一つの問い。


「どうして俺を愛してるの、ママ?」


 そして、彼女の答えだけで十分だ。


 目を開け、魔法陣に集中する。

 しかし、手から炎が飛び出し、海へと消えていった。


「え? 何か間違えたか?」


 もう一度試すと、呪文は正常に機能した。


「今のは何だったんだ?」


 ---


 食事は悪くなかったが、腹は満たされない。

 このままでは食料が長く持たないし……釣りを始めないといけない。


 水面が泡立っている。

 突然、波が揺れた。


「誰だ……?」


 何かが水中から飛び出し、満面の笑みで甲板に着地した。


「おい、人間! この海を渡る前にひれ伏せ! 海の女神を前にしてるんだ、もっと敬意を……!」


 海の女神……?


 どう見てもただの子供だった。

 だらしない服装に、ボサボサの二色ヘアー……。

 いや、待て……どうやって水中から出てきたんだ?


「あのさ……」

「女神エフィリアの降臨だ!」

「女神? お前が……女神?」

「そう! エフィリアは有能な女神なのだ!」

「……じゃあ、俺が追放された原因はお前か」


 剣を鞘から抜く。


「えっ……? 違う! エフィリアはそんなことしない……!」

「悪い女神じゃないって? そんなわけ……」

「……エフィリアは女神なんかじゃない。ただの嘘だ」


 少女は眉をひそめた。


「エフィリアは海を守る。エフィリアがここを統べるの」


 彼女は誇らしげに自分を指差した。


「人間には、決してエフィリアのことが分からない」


「……」


「人間がエフィリアを理解する必要はない。でも、エフィリアは人間を理解するのだ」


 この少女――どうやらエフィリアというらしいが、俺の前への現れ方からして、海に住んでいてそれが日常の一部であるかのようだった。

 そして、決して喋りやまない……。


「エフィリアは巨大な網から魚たちを守るのだ。でも、一度エフィリアも網に引っかかったことがある。エフィリアは釣りを罰したりはしない。でも、乱獲はダメだ。そして、お前は……」


 彼女はしばらくの間、俺を見つめた。長い間。


「エフィリアは、お前の中に何か大切なものを感じる。人間には理解できないかもしれないけど、いつか分かる時が来る」


 そのまま海へと飛び込んだ。


「待て……!」


 反応はない。すでに消えていた。


「今のは、何だったんだ……?」


 再び座り込む。


 あの子供は何だったんだ? なぜわざわざこの船に来た?


 答えが欲しかったが……。


 得られることはないだろう。


 ---


 あれから二十日が過ぎた。

 最初の数日は……そうだな、予想外の経験だった。


 食べ物はあったが、話しかけてくる者は誰もいない。


 前世ではそれが当たり前だったはずなのに……いや、母がチョコレートを持ってきてくれた時が懐かしい、というか……まあいい。


 船はいつも通り南へと進み続けた。

 小型船とはいえ、非常に効率的だった。


 真っ直ぐに進んだわけではない。進むよりも立ち止まる時間の方が長かったが、それでも十分だった。


 案の定、食料は尽き、釣りを始めざるをえなくなった。


 余った魚は、魔法陣を使って鮮度を保った。

 雷雲(ヌブルリム)と同じ原理だ。おかげで長期間保存できた。


 遠くに嵐の雲が見えるが、今の場所からは離れている。


 この間ずっと、彼女のこと――ジュリエットのことを考えずにはいられなかった。

 今はどうしているだろうか?

 分からない……。


「まあいい、だってそれは……ん?」


 突然、東から強い風が吹きつけ、船を反対方向へと押し流した。

 先ほどまで穏やかだった海面が、波立ち始める。

 そして、自分の手が妙な光を放っていた。


「な、なんだこれ?」


 手を振ってみたが、何も起こらない。

 その光はそこに留まり、消える気配がなかった。


 すると突然、強風と高波が合わさり、船ごと海岸へと乱暴に押し流された。


 一瞬、どうでもいいとすら思った。

 つまり、これが最期なら、それでもいいと……。


 その直後、光が激しく強まり、船はそのまま激突して、視界は暗転した。


 ---


 目を覚ますと、そこは陸地だった。

 木が燃えるパチパチという音と、奥にいる男のシルエットが見える。


 最後の記憶は……突風と、手元で動く水。


 地面から起き上がり、周囲を見回す。


 日が暮れかかっていた。


 空は紫がかった色をしている。

 砂は湿っていて、まるで海から引きずり上げられたかのようだった。

 すぐ脇で、船の残骸がゆっくりと燃え尽きようとしており、暗闇に向かって小さな火の粉を飛ばしている。


 俺をここまで運んできた船が、焚き火の薪として使われていたのだ。


「おお……目を覚ましたか……ゲホッ……ゴホッ……」


 その男は背中を丸め、しわがれた声で話した。

 ゆっくりと、言葉と言葉の間で息を整えながら。


「何が起きた……?」

「お前の船が砕ける音が聞こえたんだ、ゲホッ……まるで海が握りつぶしたかのように……で、見に行ったら、お前さんが倒れていた」

「船は……?」

「なくなっちまったよ」


 老人は火へと視線を落とした。それ以上語る価値もないというように。風が一瞬、炎を揺らす。


「遠くまで来たな、坊主。その服からして、この辺りの者じゃないな」


 彼は立ち上がり、木の枝からフード付きのマントを取った。


「ほれ、このマントを羽織れ……信じてくれ、必要になる。わしの孫のだった物だから、サイズは合うはずだ」

「あ、ありがとう……」


 彼は頷き、再び座り込んだ。


「なあ、坊主……」


 男はそれ以上言葉を続けることができなかった。激しい咳の発作に襲われたからだ。

 何かしてやろうとしたが、どうすればいいか分からない。


 突然、彼の胸元から光が溢れ、すべてが静まった。


「今のは何だ? あんたは……?」

「すまん! 本能的なものだ。今すぐ取り除くから……ん? わしの力が効いていないのか?」

「いや。何の力だ?」


 その男はよそを向き、それから焚き火を見つめた。


「昔々、この浜辺には『啓示』と呼ばれるものがあってな。空から光が降り注ぎ、それに触れた者に栄光を与えると言われておった。若ければ若いほど病気に対する耐性が強くなり、ついには免疫ができると。当時のわしはただの子供だったが、そんなものを信じるには賢すぎた。『空からの光? 馬鹿馬鹿しい……』とな」


 突然、男は話すのをやめた。

 そんなこと、一言も聞いていないのに。

 それでも、彼の声はどこか憂いを帯びていて、先ほどよりもさらにひび割れていた。


「だが、その光がわしに降り注ぎ、それが本物だと悟った時、わしは崩れ落ちた。そして傲慢になった……自分の力が何なのかを知るまでは」

「その力ってのは?」

「病気を吸収し、他人に移す力だ」

「なんだって……? ランクは何だ?」

「中位だ。それ以上でもそれ以下でもない」


 中位ランクか……病気を吸収して他人に移せる力。基本的には、非常に有用な力だ。


「わしにはもう時間がない、坊主。そして、死ぬ前に自分のことを語るのが、我らが女神の習わしでな。どうやらお前さんが、わしの最後の話し相手になりそうだ……それに、お前さん、ただの天恵者じゃないな?」

「なんて答えたらいいか分からないな」

「なら、聞いてくれ」


 そう言うと、老人はため息をつき、語り始めた。

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