第二十一話 【どうして私の子が?】
ダリアンは、母親なら誰しもが欲しがるような息子。
私だけの贔屓目じゃないのよ。
エメラルドも、私の息子みたいな子が欲しいって言っていたわ。
賢くて、かっこよくて、真面目で、礼儀正しい子がいいって。
もちろん、エメラルドだって自分の子どもたちを愛している。あの子たちのすべてをね。
カンデリウスの威厳。
ガイウスの優しさ。
ヴァレリアの元気さ。
そしてカッシウスの好奇心。
私のダリアンは、従兄弟たちと遊ぶ時に威厳や優しさ、それに好奇心を見せてくれるけれど、ヴァレリアのような元気さはまだ少し足りないかもしれないわね。
それでも、あの子は今のままで完璧だし、私から言うことは何もないわ。
たまに理屈っぽく話しすぎる時に注意するくらいで、それ以外は本当に愛しているのよ。
誰も見ていないと思っている時に、眉をしかめる仕草が大好き。何か分からないことがある時に見せる、あの愛らしいしかめっ面。
それに時々、キッチンへ歩いて行ったり階段を上ったりする後ろ姿を見ると、また抱っこしたくなってしまうわ。
ヴァレリウスには何度か話したことがあるの。ダリアンは何かを抱え込んでいるけれど、私たちには言おうとしないって。もしかしたら、古い魂を宿していることと関係があるのかもしれないわ。
「あなた、あの子が何か隠していると思うかしら?」
執務室にいた時、一度そう尋ねたことがあった。
「ダリアンが? うーん、そうは思わないな。とても無口だからね。時々、私の叔父を思い出すよ」
「叔父様を?」
「ああ、ずっと昔に、たった一つの愛のために家を出て、二度と戻らないと決めた叔父さ。私も君となら同じことをしていただろうね。一緒に逃げるって」
「愛しているわ……」
後ろから彼を抱きしめた。
また別の、雪が降っていた日のこと。私のダリは、いつも魔法の訓練に使っているバルコニーに面した部屋の窓を見つめたまま、凍りついたように立ち尽くしていたの。
その時はじっとしたまま、ガラス越しに雪の結晶を掴もうとさえしていたわ。
あの子はいつも全てを隠して、大人ぶるのが一番だと思っているけれど、こういう一面も隠しているのよね。
「ダリ、大丈夫?」
そう声をかけると、あの子はビクッとして慌てて振り向き、同時に両手を隠した。
「えっ? ママ……?」
「ふふっ、雪が好きなの?」
「分からない……変なんだ、雪って」
どういう意味かしら?
分からないわ。
「雪は凍った水でしょ?」
「うん、ママ。これは……というプロセスによって……」
また始まったわ。私が何か言うと、いつも本に書いてあるようなことを持ち出してくるのよ。
「ストップよ。どうやってできるかを聞いたわけじゃないわ。ただ、当たり前のことを言っただけよ」
「ごめん、ママ」
仕方ない子ね。
私の小さな子は色々と自分の知識を披露したがるし、そのことを誇りに思っているけれど、自然のプロセスとしてだけじゃなくて、雪をもっと魔法のようなものとして見てほしいのよ。
それだけじゃないわ。
ダリアンが働くと言い出して、いつもなら事前に相談してくれる夫のヴァレリウスが、私には何も言わずにそれを許してしまったの。今朝になってようやく私に話したのよ。
自分の赤ちゃんのことは信じているけれど、まだ小さすぎるわ。
でも、私のダリに「必要なんだ」って言われたら、あの顔に「駄目」なんて言えなかった。
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夕方のことだった。
お茶を飲むためにレイアと一緒に外へ出た。彼女は私の友人で、エミリアの母親であり、ヴァレリウスを感心させるために私が貴族らしく装うのを手伝ってくれた女性よ。
レイアはネレアスの従妹。そして彼も私の親友だった。
ヴァレリウスがこっそり渡してくれた私の母のチョコレートを食べて以来、彼女はその味の虜になっていたわ。
「ねえ、ジュリエット。あなたの息子さんがうちに来てから、娘が随分と変わったのよ」
「そうでしょうね。あの子は本当に素晴らしい子だから」
頷いて、紅茶を飲んだ。
「それだけじゃないの。お医者様が言うような空虚な言葉を並べたり、何かを約束したりは決してしなかったわ。その代わりに、一緒にチョコレートを作ろうと提案してくれたのよ」
やっぱり。
私のお気に入りの型がなくなっていることに気づいた日、あの子を叱れなかったのよね。
エミリアを助けるためにやったんだと知った時、あの子を抱きしめて、その真剣な小さな顔に何度もキスをしたわ。
「うちの娘、あなたのダリアンと結婚すると思うかしら?」
「まずはヴァレリアと勝負しなきゃいけないわね」
「あら、それなら手強いわね」
私たちは二人で笑い合った。
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その夜、悪夢を見た。名状し難い何かが、少しずつ私を蝕んでいく夢。
あの光が私に届いた瞬間、ハッと目を覚ました。
ヴァレリウスが寝返りを打ち、落ち着かない様子なのが伝わってきた。
「ん……? あなた……?」
身を寄せ、彼の腰に脚を絡ませて抱きしめた。彼も悪夢を見ているのかもしれない。
だけど、返事はなかった。
「大丈夫よ、愛しているわ……」
その時、彼の体が動き、私の脚に擦れた。
「ジュリー……?」
「ここよ、あなた。悪夢でも見たの?」
もう少しだけ、彼の方へ脚を動かした。
「そういうのはもう卒業する歳だよ、ジュリエット。そんな色っぽい声で話しかけられたら、どうなるか分かってるだろう……」
「そんな声、出していたかしら?」
指を咥えて、とぼけてみせた。
「ああ……」
彼は私の脚をさらに引き寄せた。
「君の脚はいつも落ち着きがないね」
「落ち着きがないかしら?」
くすくすと笑った。
脚を離して宙に上げ、体の柔らかさをアピールしてみせた。
「ジュ、ジュリエット……」
「ヴァレリウス~」
脚を下ろし、仰向けになった。
そしてゆっくりと、自分の平らなお腹に手を当てた。そうね、これはダリアンがまだ知らないこと。
「ダリちゃん、すぐに気づくかしら?」
「どうだろうな。賢い子だが、時々あからさまなサインを見落とすからね」
「私は気づくと思うわ」
軽く笑った。
「私の歩き方が変わったら、すぐに分かるはずよ」
「確かにそうだ」
突然、爆発音が響き渡った。
「今の音は何!?」
ヴァレリウスは素早く起き上がり、靴を履いた。
「ここにいてくれ。何があっても外に出るんじゃないぞ」
「でも、ヴァレリウス……!」
外からドアに鍵をかけられた。
くそっ。
それからの数分間、部屋の中をぐるぐると歩き回らずにはいられなかった。
外で一体何が起きているの?
「どうして誰も何も教えてくれないのよ!」
ドアを力任せに叩いたりもしたわ。
無反応。
返事は一切ない。
結局、膝を抱えて座り込むことしかできなかった。
この屋敷の歴史上、襲撃が成功したことなんて一度もないわ。
それどころか、丘を登り切ることすらできた者はいないのに。
どうしてこんなことに?
魔法陣の不具合かしら、それとも……?
ドアが開いた。
勢いよく立ち上がり、隙を見て外に出ようと決意しながら前を睨みつけた。
「ジュリエット様!」
コービンだった。
無視した。
「早く運べ!」
絨毯には血がべっとりと付いていて……専属の医師たちが客室へと向かっていた……。
数人を押し除けて部屋に入った……。
私の息子、私の大切な赤ちゃんが、震えていた。
「ダリアン! 私の坊や! 一体どうしたの!?」
返事はない……返事なんてできなかった。
体はぐったりとしていて、額は燃えるように熱かった……。
嫌よ……。
……
どうして……?
……
何があったの?
……
「エス……オプ……」
「ダリアン、私よ、ママよ!」
「マ……?」
私の小さな子は、まともに話すこともできなかった。
「落ち着いて、私の愛しい子。ママはここにいるわ……」
どうすればいいの?
どうしてこんなことに?
これ……これは悪夢なの?
なんて馬鹿なの……体が動かない。
心の中で叫ぶことしかできない。
「解毒のポーションが一本もないなんて、そんな馬鹿な話があるか!」
「誠に申し訳ございません、旦那様。しかしご存知の通り、ここ数ヶ月の嵐と、エルフィラノスの者たちに資源が不足していることから、あそこへポーションを求めに向かうのは現実的ではなかったのです」
叫びたかった。
「どうか息子を助けて! 御託はいいから、何かしてちょうだい!」
「ジュリエット……」
「切断するしか、助かる道はありません……」
その時、ついに医師が口を開いた。
「申し訳ありませんが、他に方法がないのです。剣は錆びており、腐敗を早める特殊な毒が塗られていました。これ以上毒が全身に回れば、助けることは不可能です」
「何をグズグズしているの!? 早くやって!」
理解できなかった。
頭の中が全く整理できない……それでも、あの子には生きていてほしかった。
「ママ? そこにいるの……?」
それだけで十分だった。
ずっと凍りついていた両脚が、ようやく動いた。
「大丈夫……全部上手くいくわ」
「ママ……?」
「少しだけ痛いわよ、いい? でも、ママはここから離れないからね」
震える声を必死に抑えながら囁いた。
渡されたベルトを取り出し、それをしっかり噛んでいるようにあの子に言った。
「これをぎゅっと噛んでいるのよ、いい? これで大丈夫だからね」
耐え難かった。
ノコギリがあの子の腕を曳いた時、私の胸が内側から粉々に砕け散るのを感じた。
気を失いそうだった……。
駄目、ここで諦めちゃ駄目。
もし今私が崩れ落ちたら、息子は弱い母親の姿しか見ることができない。私はあの子の避難所にならなければいけないの。
あの子を現実に繋ぎ止める声になり、決して離さないその手にならなければ。
「ママはここにいるわ……どこにも行かない……」
ダリアンはもう片方の手で、私の腕を強く握りしめた。
私自身が崩れ落ちそうになっていたとしても……すべて大丈夫だと信じさせなければいけなかった。少なくとも、そう思わせなければ。
ただ涙が溢れ出し、嗚咽が漏れているのは明らかだったけれど、それでも、震える唇で微笑みかけなければならなかったの。
処置がようやく終わった。
私の赤ちゃんは再び眠りについた。
「あなたは本当に強い子よ……ママはあなたのことを誇りに思うわ」
疲れと痛みに身を委ねるように、あの子のまぶたはそっと閉じられた。でも今回は違った。あの子は一度も私の腕を離さなかったから。
処置は長く、その間ずっと泣き続けていた。
涙は枯れ果てたけれど、力が尽きることは決してなかった。「息子は生きている」。それだけが、その場で気を失わずに済む唯一の支えだった。
ダリアンを起こさないよう、両手で口を塞いで嗚咽を噛み殺した。でも、どうしても涙を止めることはできなかった。涙が枯れたわけじゃなかったの。まだこんなにも残っていたんだわ……。
助かったの。私の小さな子は……助かったんだわ。
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眠りについてから四時間が過ぎていた。
残されたわずかかな力で枕を抱きしめながら、一分一秒でも早く息子に会いに行きたいと考えていた。それでも、面会は拒否された。医師たちが言うには、休ませる必要があり、刺激を与えてはいけないから、そばにいてはいけないのだと……でも、私はただあの子を腕に抱いて、もう二度と離したくないだけなのに。
ヴァレリアもあれからずっと会いたがっているけれど、それも止められていて、彼女があんな風に癇癪を起こしたのは初めてのことよ。
こんなこと、何も起きなければよかったのに。
ヴァレリアだって、あんな振る舞いをする必要なんてなかったのに。
私が望んでいたのは、ただそれだけだった。
夫も同じだったわ。
戻ってきてからというもの、窓際の椅子から一歩も動こうとしない。まるで、窓の外の景色のどこかに答えが隠されているとでも言うように。
無敵を誇るセラフェル家の当主の姿は、そこにはなかった。
ただ、打ちのめされた一人の父親がいるだけだった。
「明日……明日は、使用人たちに全員休みを取るように言ってちょうだい」
そう口を開いた。
最初は、ヴァレリウスも戸惑ったように私を見たわ。
私からそんな言葉が出るとは思っていなかったのね。
「それと、これをやった犯人を必ず見つけ出さなければ……」
私は言葉を続けた。
「私の息子を傷つけたあの忌まわしい外道をこの手で見つけ出すまで……私の心が休まることはないわ」
一つため息をついた。
怒りが内側から焼き尽くしてくるような感覚と同時に、深い悲しみが私を底へと沈めていく。
「でも、それは後回しよ……明日は私たちの子どものそばにいましょう。ベッドまで朝食を運んで、誰にも邪魔させず、二人だけで過ごすの。あの子には私たちが必要よ。そして私も……私にもあの子が必要なの。分かったわね?」
ヴァレリウスは一瞬驚いたような顔をしたけれど、すぐに立ち上がり、私をその腕で包み込んでくれた。私も抱きしめ返した。まるで、私を立たせてくれている唯一の柱にすがるように。
「もちろんだ、そうしよう」
彼の胸に顔を埋めた。
それが私にとって、唯一の慰めだったの。
激しい怒りを感じていたのは本当……でも、同時にボロボロだった。
悲しかった。
生きていてくれたことへの喜びを感じる一方で、何かに押し潰されそうだった。
あの子が目を覚ます時のことを考えると……恐怖で震えが止まらないの。
かつて自分の腕があった場所を見て、もうそこには何もないと気づくあの瞬間……あの子の悲しみに満ちた視線に、私は耐えられないかもしれない。
あの子が独自の言語を書き込んでいたあの小さなノートや、力強く握りしめていた木剣のことを思うと……あの小さな手がもう存在しないのだと考えると……。
どうしてこんなことをしたの、女神様?
もちろん、答えてなんてくれないわよね。
私たちが一体、あなたに何をしたっていうの?
その瞬間、再び涙が堰を切ったように溢れ出した。




