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空明の再誕 - 父は「生きろ」と言い、母は「守れ」と言った。二つを抱えたまま、俺は自分の人生を失った。だから今度は、本当の意味で生きること-  作者: 日和秋彦
第2章 - 光

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第十六話 【高みの純潔】

「こうすれば……」


 バルコニーに近づき、自室へと繋がる扉を閉めた。

 チョークを手に取り、風の魔法陣を描く。北から南へと曲線を幾つも引き、障壁の役割を果たす一本の線で交差させるというものだ。


「いけるか……」


 こうすることで、風が壁に衝突してより広範囲に散逸する。

 魔法陣は基本的に単純な構造をしており、誰にとっても扱いやすい。

 だが、マナを解釈するためのものである以上、一歩間違えれば自らの死を招きかねない。


 より複雑な図形を描けば魔法の威力は跳ね上がるが、その分だけ正確さが求められ、失敗すれば周囲に惨劇をもたらす危険がある。

 堕ちし者の浄化はその最たる例だ。何世紀にもわたって劣化せずに存在し続けているほど複雑な魔法だが、今では誰一人として再現する方法を知らない。


 魔法陣が完成した。


「ふむ……」


 風はマナにとって最も単純な元素だ。他の元素よりも遥かに多様な解釈が可能となる。

 だが、この世界で最初に使った魔法は冷風だった。


 冷気を再現するには水の十字を用いる。

 高度な集中力、矛盾のない図形、そして精神を正しく原点に置くことが必要とされる。少なすぎず、多すぎず、その中間点。

 無であり、同時にすべてである状態だ。


 ……少なくとも、本にはそう記されていた。

 世間の認識とは異なり、原点への到達自体は決して難しくない。ただ、一人でいる時の方が容易だというだけだ。他者がいれば少し難易度が上がるし、騒音があればなおさらだ。だからこそ魔法は戦闘向けには発展してこなかった。一部の魔法は戦闘にも応用できるが。


 雷雲(ヌブルリム)や氷柱のように。


 氷柱の場合、命中させられれば敵を串刺しにするか、動きを鈍らせることができる。


 意識を保っている限り、創り出した魔法の影響を受けることはない。

 敵が凍えていても、こちらは何ともない。

 だが、魔法の反動や敵の攻撃で気を失えば、自身にも影響が及ぶ。

 魔法側に緊急時の安全機構が備わっていたとしても、発動が解除された瞬間に効果が完全に消え去るわけではないからだ。


 それはさておき、魔法陣を起動してその中央に立ち、ゆっくりと目を閉じて瞑想を始める。

 ルビーによれば瞑想は非常に重要らしい。戻るまでにはまだ時間がかかる。帰ってきた時に誇らしく思ってもらうか、少なくとも言葉に耳を傾けていたと思わせるだけの時間は十分にある。


 なぜ今そんなことを考えているのだろうか。

 どうでもいい。


「あら、どうしたの?」


 すぐそばで声がした。

 目を開けると、バルコニーへと続く階段を上ってくる母の姿があった。


「おはよう、ママ」


 姿勢を崩さないまま、母を見て言う。


「おはよう、私の可愛い坊や」


 母はこちらの頭からつま先までを見下ろした。


「魔法陣の真ん中で何をしているの?」

「瞑想の技術だよ。体力作りも兼ねてる。四方から風を浴びながら真っ直ぐ立ち続けるのは、簡単じゃないから」

「そう、でも気をつけてね……それで、今日はエミリアと何をするかもう決めているのかしら?」


 少し考える。

 決めているか? いや。正直なところ、チョコレートの件以外はすべてその場しのぎだったからだ。


「わからないよ、ママ。今回はアドリブでやるしかないかな」

「そうね。あ! 忘れていたわ。ネレアスが言っていたのだけど、エミリアは三食ちゃんと食べて、チョコレートも受け取ってくれたみたいよ。あの人たちも味見してすっかり気に入ったみたいだから、私の母の遺産がこうして受け継がれていくのは嬉しいわね」

「大したことじゃないよ、ママ。教え上手なママのおかげだ」

「おだて上手なんだから」


 頭にキスをして、自室を通って去っていった。


 ---


 アレクシオとの訓練は激しさを増していった。


 立ち合いはますます過酷になったが、アレクシオは訓練中であっても全力を出すような真似はしなかった。

 庇っているわけではない。かつて弟子だった頃、過大な脅威を前にした訓練は逆効果であり、段階的に行うのが最善であると教え込まれてきたからだ。


 この世界の人間は成長が早いだけでなく、適応能力も桁違いに高い。


「アレクシオ、ドゥルグって具体的には何だ?」


 休憩時間中、ふと疑問に思ったことを尋ねてみた。

 アレクシオは少しの間こちらを見つめ、やがて口を開く。


「いいだろう。あそこには随分と足を運んでいない。旅路があまりに長く、今のところ行く必要もないからな」


 木剣を地面に置き、正面に腰を下ろした。


「船で直線に向かえば、長くても二ヶ月で着く。だが当然、一直線に進むことなどできない。ネクサス海を迂回し、中央海の特定の海域も避けなければならないからだ。だからこそ限界を越える必要がある。ドゥルグハイム王国は東に位置し、ゼレニアはメンシェ大陸の東部にある。港から直接向かう方が簡単だと思いがちだが、そうはいかないんだ」


「メンシェを迂回して西へ向かい、限界を越えるのが最善ってことか?」

「限界さえ越えれば、ドゥルグハイムまですぐに到達できる」


 限界……。

 またそれか。


 限界とは一体何なんだ……?

 危険だと言われているのに、なぜそれを越えるのが当たり前になっている?


「行ったことがあるなら、限界を越えたことがあるはずだろ? だとしたら、それは具体的に何なんだ?」

「ああ、それはお前が知るべきことじゃない。少なくとも今はな。限界は子供に話せるようなものではないし、何より父親から何も話すなと釘を刺されている。いずれ知る時が来る。その時が来れば、ヴァレリウスが連れて行ってくれるだろう」


 答えは得られないらしい。がっかりだ。


「わかったよ、アレクシオ。訓練を続けてもいいか?」


 アレクシオは微笑むと立ち上がり、流れるような動作で木剣を拾い上げる。

 俺は立ち上がり、地面に突き刺していた剣を引き抜いて、一振りで土汚れを払い落とした。


 ---


 アレクシオとの訓練が終わると、入浴を済ませてレオフル邸へと向かった。


 入り口には数台の馬車と、レオフルの使用人たちがいた。彼らには固有の呼び名があり、『レアン』――すなわち家長に仕える者たちと呼ばれている。

 基本的にはメイドや従者、料理人なのだが、王国全土で通用する威信を持った肩書きだ。フレデオやコービンのように。


 フレデオは大量の箱を抱えて行ったり来たりしており、内部魔力の使い手であることを如実に物語っていた。

 軽く挨拶を交わし、そのまま中へと入る。


 俺の出入りはすでに日常茶飯事となっており、使用人たちもいちいち目を向けたりはしない。ただ、近づくと少し緊張した様子を見せた。


 誤って怪我をさせてしまうことを恐れているのかもしれない。結局のところ、レアンという称号も、王国一の富豪であるセラフェル家の怒りを買えば何の役にも立たないのだから。

 もっとも、万が一誰かが誤って怪我を負わせたとしても、自分の不注意だったと嘘をつくつもりだが。


 ……


 屋敷に入り、ネレアスの執務室へと直行した。


「おお、ダリアン君。よく来てくれたね。調子はどうだい?」

「こんにちは、ネレアス。調子はいいよ。エミリアは部屋にいる?」

「ああ、いるよ。実はね……部屋に入れて、ベッドに座らせてくれたんだ。大きな進歩だよ。まだ目を合わせようとはしないが、何も言わなかった。抱きしめたり、壊れ物を扱うように接したりもしなかった。ただ話しかけて、最近あった出来事を教えただけなんだ」

「よかった。閉じこもっていても、世界は前に進み続けているってことを知ってもらわないと」

「君のそういうところが好きだよ、ダリアン君。さあ、行ってあげなさい。きっと待っている……ああ、それと、チョコレートはきちんと没収しておいたよ」

「やりすぎたか……」

「カカオを探して厨房を漁っているところを、フレデオが見つけたんだ」

「わかった、様子を見てくる」


 部屋へと階段を上がる。

 扉は開いていたが、入る前に軽くノックした。


「エミリア、俺だ。入ってもいいか?」

「少し待って。服を直すから……うん……もういいわ、入って」


 中に入り、目を向ける。

 再び入浴を済ませたのか、新しい服に着替えており、いつもより明るい表情をしていた。それでも、手元には必ず本を置いている。

 以前より回復したように見えても、それが永遠に続くとは限らない。

 記憶が戻れば過ぎ去ってしまうような、一時的なものかもしれない。


 その無力感ならよく知っている。


 良くなったと思っても、自分自身の内面と向き合った瞬間、再び暗い深淵へと突き落とされるのだ。エリトが引き起こすものよりも遥かに深い絶望へと。

 その名残は今も残っている。気づけば、再び本を胸に強く抱きしめていたからだ。


「こんにちは、ダリアンくん」

「こんにちは、エミリア」

「昨日、私が何をしたか知ってる……?」

「ああ、父親から聞いたよ」

「ふふ……ええと、馬鹿みたいだけど、チョコレートそのものが欲しかったわけじゃないの。本当にしたかったのは、それをもう一度作ること。手間暇かけて、想いを込めて、あの香りを感じながら……。それが……チョコレートを食べるよりもずっと好きだったの」

「そうでなければ、フレリーだってあんなに楽しそうに料理はしないだろうな」

「フレリー?」

「うちの料理人だ。あの人が微笑みかけてきたら、人生のすべてを間違えた証拠だって言われてる」


 エミリアは片眉を上げる。


「ああ、なるほど……。うちの料理人はとても陽気なの。気が合うかしら?」

「かもしれないな」


 エミリアは何も言わなかった。

 俺から話し出すのを待っている時もあれば、直接話しかけてくる時もある。


「ダリアンくん……お願いがあるの。ささいなことだけど、私にとってはすごく大事なことなの」

「ああ、言ってくれ」


 椅子に腰掛け、腕を組んで見つめた。


「あのね……私の形をしたあの植え込み、覚えてる? あれを見に行きたいの。窓からじゃなくて、近くで……。行けると思うけど、一人では行きたくないの。一緒についてきてくれない?」


 三度瞬きをする。


 外に出たい?


 付き添いを頼むのは、まだ完全に癒えていない証拠だ。だが同時に、自分自身の意思で決断を下し始めたということでもある。


「ああ。行こうか」

「うん……! じゃなくて、ええ、そうね」


 エミリアはわざとらしく咳払いをした。

 きっと本で読んだ知識を使って、照れ隠しをしているつもりなのだろう。まあいい。


 ---


 自室から出て該当する棟の境を越えること自体は、厨房へ向かった際にすでに達成していた。だが、庭に出るとなれば話はまったく別だ。


 本を胸に抱きしめたまま歩き、使用人と出くわさないかと絶えず周囲を見回している。誰ともすれ違わずに済むと、ようやく少し落ち着きを取り戻した。


 植え込みがある庭へと通じる扉の前に着くと、エミリアはその境目でぴたりと足を止める。

 前を見つめ、植木鉢の陰に身を隠した。


「あの人たち……悪い人……」


 もう一度視線をやり、近づいてみたが、そこには誰もいなかった。

 あの人たち……悪い人?


「エミリア……悪い奴らはもうここにはいないよ。二度と誰も君を傷つけたりしない。な?」


 手を差し伸べ、握ってくれるのを待ったが、動かなかった。


「ほら、見てみろ……」


 幻影を見た場所に近づき、何もないことを証明するために両手を振ってみせる。

 それで少し安心したようだったが、それでも扉を越えようとはしない。


「ほらな? 何もいないだろ」

「な、何もいないの?」


 エミリアの顔色は普段以上に蒼白だった。


「ああ。一つ提案がある」


 エミリアは近づいてきて、じっとこちらを見つめた。


「提案って?」

「靴を脱いで、裸足で芝生の上を歩いてみるんだ」

「えっ? 何を言ってるの……?」

「エミリア、ここは王国で最も安全で、一番手入れが行き届いている庭園だ。裸足で歩いても何も問題ないはずだよ。それに、そうすれば傷つけるものなんて何もないってわかるだろ」


 芝生を見てから、自分の靴を見る。再び庭に目をやり、また足元に視線を戻した。

 深くため息をつくと、地面に座り込み、靴を脱ぎ始める。


「こ、これをすれば、もっと強くなれる……」


 エミリアはそう呟いた。


「これができたら……お父様も誇りに思ってくれるわ」


 最後に思い切り引っ張って、もう片方の靴を脱ぎ捨てた。


「さあ……い、行きましょう、ダリアン」


 立ち上がるのを手伝う。

 境目を越えようとしなかったため、もう一度手を差し伸べた。

 エミリアがそっとその手を握ったので、庭へと導く。


 太陽の光が顔を照らすと顔を隠そうとしたが、今まで見せたこともないような力強さで前を見据えた。

 外の世界を隔てる境目を越えた……それでも、何も起きなかった。

 エミリアにとって、それこそが何よりも衝撃的な事実だった。


「何も起きなかった……どうして? 世界は残酷なはずなのに、そうでなきゃおかしいのに……」

「もし世界が残酷なら、君の形をしたあの植え込みだって残っていなかっただろ? でも、父親は専属の庭師を雇って、黄金の彫像みたいに毎日手入れさせている。あの人にとっては、世界のどんな宝物よりも価値があるんだ。そしてその宝物っていうのは……君自身のことだ」


 エミリアの瞳孔が開くのがわかった。


「お父様の宝物……? 私が、宝物?」


 頷いて見せる。

 エミリアが地面に片足を下ろすと、全身を震わせた。

 体が小刻みに揺れ、その目は驚きに見開かれていた。


 エミリアは両足を地面につけた。


 祝福者にはこれと深く関係するある特徴がある。芝生と冷たい土の感触に震える様子を見て、たった今そのことに気づいた。


 第三の眼を持つ者は、触覚の受容体が過剰に発達している。それは不運な人々の持つ不安定なマナを読み取り、感知し、回避するためだ。その不安定なマナの病――よくマナを逆にしたものとして記されることが多い――は誰にでも起こるわけではない。だが、どうやら生活が快適であればあるほど、その病を患う可能性が高くなるらしい。


「ダリアン……ダリアン……変な感じ。この感覚、忘れてた。裸足で歩いていた頃の記憶はあるけど、それはただの映像で、感覚じゃなかった……」

「なら、過去の記憶と今ここにある感覚の違いがわかるはずだ」

「だ、ダリアンくん……これ……なんて言えばいいか、言葉にもできないわ。本の中の登場人物たちは、芝生の上を裸足で歩いたり寝転んだりする時、こんな感覚のことなんて一度も口にしなかったのに……」

「行くか? 植え込みが待ってる。心配するな、そばから離れたりしない」


 手を差し伸べた。少し戸惑うかと思ったが、即座にその手を握る。


「六歳の男の子と手を繋ぐなんて変な感じだけど、なんだか心地いいわ」


 感覚……。前世の俺はそれを感じることをやめてしまった。唯一何かを感じられたのは、あの十月十四日に雨が降っていた時だけだ。


「世界は嘘をつかない……嘘をつくのは心だ」


 植え込みに近づくと、予想以上に長い間、それをじっと見つめ続けていた。


 まばゆい笑顔を浮かべた少女が、庭から逃げ出した蝶を捕まえようとしている。その蝶は食虫植物に食べられそうな危険に晒されていた。

 彼女にとってそれはただの遊びであり、当時の世界ではそれがすべてだった。


 植え込みの出来栄えは……驚異的だった。表情まで見て取れるほどだ。

 間違いなく、ネレアスはこの造形に途方もない労力を注ぎ込んできたのだろう。

 これはただの植え込みではなく、芸術作品だった。


「これ……つまり……ううん……これって……私……?」

「ああ、それが君だ。一切の嘘はない。ただ笑っていたいと願う健やかな人間にとっては、あまりにも壊れすぎている世界の現実と共に。でも、それが君なんだ。過去の話じゃない。今からでもそう戻れるはずだろ?」

「これが……私。嘘偽りない、私」


 その瞬間、最善にして最も危険な思いつきが脳裏をよぎった……。だが、もし成功させることができれば、間違いなく満足のいく結果になるはずだ。


 常に持ち歩いている暗い色のチョークを取り出す。魔法陣を長持ちさせるために渡された特殊なチョークだ。


 芝生から離れ、コンクリートの地面へと向かった。


「ダリアンくん……?」


 返事はしない。

 それどころか、予期せず湧き上がってきた高揚感に身を任せていた。


 雷雲(ヌブルリム)として知られる魔法陣を描き始める。

 雨雲を生み出す魔法だ。

 いつか特別な時のためにと取っておいた魔法陣だが、今がまさにその時だと思った。


 魔法陣の構造自体は概ね単純だが、いくつか考慮すべき点がある。


 第一に、他の魔法のような単一の呪文ではないこと。

 第二に、水の循環を計算に入れる必要があること。

 そして第三に、使い手の感情と結びついていること。


 記憶の通りに魔法陣を描き上げると、腕を伸ばし、静かにマナを流し込んだ。


 思考を無にする。

 マナが各点に循環し始め、微かな引っ掛かりを感じた瞬間、魔法が正しく発動したことを悟って目を閉じる。

 突如として、空が暗闇に包まれた。

 雷雲だったが、落ち着きを保っていた。


 ポツリ……。


 鼻先に一滴の雫が落ちる。


 この世界に来てから、自ら雨に打たれるのはこれが初めてだった。

 雨はゆっくりと弱々しく降り始め、やがて完全な暗闇が訪れた。ただの雨ではない。


 ピカッ!


 まぶた越しに淡い光が通り抜けた。

 ゆっくりと目を開けると、雨雲が丘全体を覆い尽くしているのが見えた。


 ……え……? 少ししかマナを使っていないのに、ここまでとは。


 だが、最も驚くべきことはそれじゃなかった。

 エミリアの方に目をやると、口を半開きにしたままこちらを見つめていた。

 何も言わず、微動だにしない。


 怒っているのだろうか?

 いや、違う。その瞳はたった一つのことだけを物語っていた……自分自身の輝きを。


「ダリくん……」


 こちらを見つめ、それから空を見上げ、再び視線を戻す。

 その動作の中で、不意に笑みをこぼした。

 そして、雨に打たれながら軽やかに動き始めた。


 その時、すべてを理解した。


 水は俺たちを繋いでいる。水はどこにでも存在する。

 他の惑星にすら……

 他の世界にすら……。


 そして、一つだけ確かなことがある。

 水は生命をもたらすだけでなく、浄化をももたらすということだ。

 雨に濡れながら、ほんの少し歩みを進めただけだというのに、今のエミリアにはどんなに深い闇でさえ消し去ることのできない巨大な活力が宿っていた。


 その光は、そう簡単には消えない。


 俺は……。

 本当にこんなことを口にしているのか?


 そして彼女は……。

 本当に笑っているのか?

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