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ムサビとベムスターが好きだった叔父の物語  作者: 巳ノ星 壱果


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25話 にいちゃんは眠っているだけ

 第25話 にいちゃんは眠っているだけ



 遠くて暗い道を、私は無心で車を走らせた。


 にいちゃんに会いに行く400キロが、今までで一番長く感じた。


 楽しみな気持ちだけで会いに行っていた頃の過去の自分さえ、少しうらやましく思えた。


 深夜二時頃だっただろうか。


 親からの連絡は、まだ来ていなかった。


 それなのに私は、もう声を出せなくなっている。

 そんなにいちゃんの姿を、どこかで感じていた。


 それでも私は、車を走らせ続けた。


 一分一秒でも早く、にいちゃんに会いたかったのだ。


 実家に、まず向かった。


 その頃には、もう空が少し明るくなり始めていて、

 朝を迎えようとしていた。


 両親と合流をして、私は、にいちゃんに会いに行った。


 病院に着いた頃、

 にいちゃんはもう、動かず、話すこともできなくなっていた。


 つい最近まで動いていた手も、たくさんしゃべっていた声も、もう止まっていた。




 私は、何も言葉を発することができなかった。




 到底、受け入れられなかった。


 看護師さんが、静かに教えてくれた。




「あなたのこと、いつもお話していましたよ」




 その過去形の言葉が、嬉しさと同時に、私にはとても重く感じた。




 霊安室で、私はにいちゃんを静かに見つめていた。


 その横で、両親と三人で葬儀の場所を探した。


 母も、まだ生きていてほしいと思っていたのだろう。


 余命宣告より早く亡くなったにいちゃんのために、

 葬儀の予約をまだしていなかった。


 高齢者が多いこの時代で、空いている葬儀場を探すのは簡単ではなかった。


 両親と三人で手分けをして、何件も電話をかけた。


 そして、私が電話をかけた場所で、ようやく葬儀を引き受けてもらえることになった。


 冷たくなったにいちゃんを、預かってくれる場所が見つかった。


 葬儀屋さんが迎えに来て、私たちは、にいちゃんをお願いした。


 一晩だけ実家で休み、私はすぐ家へ帰ることにした。


 まだ私は、現実を受け入れられずにいた。


 にいちゃんが、もうこの世にいないなんて、どうしても信じられなかった。





 冷たくなっているのに、にいちゃんはまだ生きている。




 私は、どこかでそう感じていた。



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