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「……」
どうしてこうなった?
それこそなんかの小説やらゲームとかにありがちなこの台詞がここ数日頭をぐるぐる回っているくらいには、私は困惑していた。
すべては目の前で優雅に茶ぁしばいてる皇子さま(比喩でなく本物)のせいで。
「……ん?どうかした?」
(うっ。茶ぁしばいてるは言いすぎたかも)
整った顔が私の顔を覗き込んだ瞬間、私はぐっと押し黙るしかなかった。
今日こそは「これまで三度ほどお茶を一緒にいただいてますが、あんまり会話も弾みませんしというかぶっちゃけ皇太子相手にどうでもいい会話をするのもおこがましいんで、いや、ぶっちゃけからは心にとどめておくつもりですけど、ともかく、このお茶会意味あります?」って、言わなければと思ったのに!
全てはこの美しい顔が悪い、と思ってはいるのに、今日も今日とてこの顔で心が洗われる気がするんだから、イケメンは偉大である。10歳だけど。
ていうか、私ってイケメン好きだったんだ。道理で婚活、うまくいかなかったわけだ。
「い、いえ」
「そう?それにしても、ここで飲むお茶はやっぱり格別だよ」
「ありがとうございます。家の者も喜びますわ」
そりゃ、皇太子が来るってなるたび大慌てで色んな準備してるんだから、そうじゃないと困る。 サーシャなんか、毎度毎度、私のドレスとか装いを考えてあーでもないこーでもないと頭を抱えているし。
皇太子は流石、その辺も察してくれているみたいで、来るたび何かしらの手土産(大体が恐れ多くてそうそう使えない高級品だったりするけど)を持ってきてくれるし、そんなにかしこまらなくていいよ、と言ってくれている。でも、そんなわけにいかないでしょ?!
「エルディ嬢」
「は、はい!」
「……そんなにかしこまらないでよ……って、そうもいかないのかな、君にとっては」
「……」
うわ。態度には出てないと思ったのに……いや、毎度そう言われて、それでも毎度かしこまってるんだから、態度に出てないもなにもないか。
「うーん、僕は友人の家に遊びに来ているつもりだったんだけど、やっぱりそんな風には思えない?」
皇太子は苦く笑って首を傾げる。
友人の家に遊びに来ているつもりにしては、手土産持ってきてお茶飲んでるだけであんまり喋ってないですよね?とは絶対言えない。
しかも、いつの間にその友人関係になったのか全く分からないし。
皇太子は、一回目から私をお友だちと認定してくれてたっぽいんだけどね。
『よかったな。記念すべきお友だち第一号が皇太子殿下だぞ?素晴らしいじゃないか』
皇太子が畏れ多くも我が家を訪ねてきた一回目。
彼が帰ったあと、あまり会話もなく、そもそも緊張で何を話したかも覚えていないくらいに疲れきった妹へ向けて、兄はにやにや笑ってそう言った。私はかっとなって兄に詰め寄る。
『違うんです!私は、女の子のお友だちがほしかったんです!』
『そこいらのご令嬢より、よっぽどお美しいじゃないか』
『お兄さま、わざと言っていますわね!私は、もっとこう、女の子同士でしか話せないこととかを、きゃっきゃうふふとお話したいんです!』
『きゃ……よく分からん』
『ともかく、私お友達は、可愛い女の子がいいんです!』
偏見だろうがどうでもいい。お茶会で見かけた貴族の女の子たちは思い返せば思い返すほどとても可愛らしくて、お友達になれたらどんなにか楽しいだろうと妄想が止まらなくなった。
皇太子とのお茶会を重ねれば重ねるほど。ごめん、皇太子!
私の胸中をよそに、苦い顔のままの皇太子は、急に咳払いをすると、格別だと誉めたお茶を一口飲み、カップを置いた。
「……実は、エルディ嬢に頼みがあるんだけど」
美しい所作の一連をぼんやり見ていた私は、今までになかった予想外の言葉に、思わず口が開くところだった。咳払いで誤魔化す。
「えっと、殿下?」
「"友人"の君にしか頼めないんだ」
友人、に圧を感じたのは気のせいではないだろう。だから、私はなにを頼まれるか分からなくて戦々恐々とした。
皇太子は何事もないように話を進める。ちょっと、これって癖なの?それとも皇太子だからってあえてそんな感じなの?
「僕の妹の、話し相手になってくれないかな?」
「……」
怒りが一瞬で霧散した。
え?なんて?
「いいいい、妹って……」
「うん。僕の妹。第一皇女、セルシア・イオ・レーヴァルト」
「皇女、さま……?」
「うん。妹の話し相手はどうしても年上の侍女なんかに限られてくるんだよね。そろそろ7歳になるし、同じ年頃の子とも親交を深めていかないと、と思って。ちょっと人見知りをする子なんだけど、エルディ嬢なら大丈夫じゃないかと思って」
「……」
今度こそ口が開いた。
皇女さまって、皇女さまよね。つまり、お姫さま。え、お姫さまと会えるの、私?
しかも、10歳の皇太子がこれだけ綺麗なんだから、7歳のお姫さまって、絶対可愛いに決まってない?
「すてきっ!」
「え?」
「素敵です、光栄ですわ、殿下!」
なんだ!これまでのお茶会は妹君、つまり皇女さまのお話相手に任命していいかどうか、見定めてたのね。そして、私は見事、合格したんだわ!
「ぜひ、ぜひ……っ、私からもお願いしたいです」
「……」
私は思わず立ち上がってきらきら思いを馳せた。
私のあまりの剣幕に皇太子が驚いてるけど、そんなの気にならない。
「……なんか、僕に対しての態度と違いすぎない……?」
「へ?」
「ううん。引き受けてもらえそうで嬉しいよ」
今、皇太子の腹黒いところがにじみ出たような気がする。気がするけど、私はぶっちゃけそれどころではなかったので華麗に流した。ほら、皇太子もやってたし!
「こちらこそ、皇女さまのお話相手に選んでくださって、嬉しいです」
目的も分かって、さらにそれが私にとっては願ってもないことだったので、もうかしこまる必要もちょっと警戒する必要もない。
私は強張っていた顔を緩めて笑った。
「……では、今度使いを送るから。ぜひ、皇宮へ遊びにおいで」
「ありがとうございます!」
「……」
ちょっと物申したそうにしていた皇太子は結局このお茶会の最後まで口を開くことはなく。
いつものようにお茶を飲みきって帰っていった。
私はずっとご機嫌のまま。生まれ変わって初めて、自分から、髪型とか着ていくドレスとかを気にしていた。
皇太子が帰ったあと、それらの話を一気に私から聞いた兄は「普通それらは殿下に会うときにこそ気にするもんだけどな。殿下もかわいそうに」と言っていたけど、だってしょうがないじゃない。私の中の優先順位は、恋とか結婚とかじゃなくて友だちなんだから。ごめん、皇太子!




