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て、てごわい……っ。


日本人歴28年。転生して8年。その経験は、この場において全然、全くいかされなかった。

だって、婚約者を見つけにきたお嬢さん方にとって、私はいうなれば敵!いくら声をかけても、表面上はなごやかだが、バチバチ火花が飛んでくるのが分かってしまう。

だからといって、婚約者目的だと思われても困るので、男の子に声をかけるわけにもいかない。

こうして、私の友だち探しは完全に行き詰まっていた。


(というか、そもそも、友だちってどうやってつくるんだっけ?)


日本には保育園や学校があって、歳を重ねるごとに環境が変わり、その都度友だちが出来ていたけど。こうして考えてみると、そういう繋がりのない友だちなんて、いなかった気がする。社会人になってからは、友だちというより、同期とか仲間といったカテゴリーだったし。


(はぁ……私ってちゃんとした友だちいたことなかったかもしれないんだわ)


これは思ってもみなかった想定外である。

私は一人、庭園の端に置かれていた席につき、端だったからか誰の気配もないそこで、頭を抱えた。

が、すぐにがばり、と顔を上げる。


「まって、」


そうよ!そうだわ!


「ここであきらめたら、ここでの私、下手したら学校に通う13歳までぼっち生活じゃない。そんなのだめよ!」

「何がダメなの?」

「ヒェッ!」


突然の声に、私は椅子から少しだけ飛び上がった。

しまった、驚きすぎた!と思ったけど、ドレスのおかげで飛び上がったのはギリギリ相手にはばれなかったと思いたい。だって、ギギギ、と振り返った先、そこにいたのは。


「ごめん、驚かせちゃったね」

「……!」


ジルディオ・リデル・レーヴァルト。

さっきまでハーレムに囲まれていた、この国の皇太子だったからだ。


「……い、え、あの、……リーリア・エルディ、殿下にごあいさつ申し上げます」


とっさに思い出して礼をとる。兄辺りに見られたら、バタバタしてるぞ、お前もまだまだだなぁ、とか言われそうだけど、突然現れた皇太子に対しての礼としては、我ながらよく出来たと思った。よく思い出した、私!


「……いいよ、楽にして」


少しだけ間を開けて皇太子が言った。

言い終わらない間に、皇太子はさっきまで私が座っていた椅子の、空いてる方へ座る。


(……となりに座れ、ってことよね?うわぁ、あんまり一緒にいると、また皇太子が女の子に囲まれて、私もハーレム要員の一人、とかになりそうだからいやなんだけど)


とはいえ、このタイミングで、では私はこれで!と逃げるわけにもいかない。私は大人しく元の場所に座った。


「今日は来てくれてありがとう」

「……え、いえ、あの、ご招待くださったことこそ、ありがたいことですわ」


ここには、高位の貴族だって招待されている。あまり裕福でない(らしい)エルディ家が、そんな貴族たちと同等に招待されているのは、私がまだ幼いからとはいえ、そうあることではないらしい。

まぁ多分、私が皇太子に近い年齢の女の子だから、っていうのもあるそうだけど。

私はサーシャからそれを聞いて、えー……ってなった。やっぱり大規模お見合い?って思って。

兄はだからこそ最初は行かないと言っていたらしい。そうよね、大規模お見合い、面倒だもん、私と違って兄は付き添いだけど。


(って、そうよ!こんなことしてる場合じゃない!もたもたしてると、お見合いが進んで、みんな、お友だちに……なんて雰囲気じゃなくなっちゃうわ!)


「あの、殿下、どうして、こちらに……?」

「……いや、エルディ嬢が来たとき、あいさつにでも来てくれるかな、と思ったんだけど、来てくれないみたいだったから探してたんだ」

「え!ぁ、えっと、あの……やっぱり、あいさつに行ったほうがよかったですね?無作法で、申し訳ありません」

「……アヴェルがなにか言ってなかった?」

「?お兄さまとお知り合いでしたか?」

「いや……うん」


いや、どっちなの?

兄から皇太子の話を聞いたことは一度もない。名前すら出たことがないのだから。

そんなようなことを、ちょっと申し訳なくて濁しまくって伝えると、皇太子は「そう……」と呟くように言って目を伏せた。

ちょっとだけ怒ってるようにも、悲しんでいるようにも見える。

兄は、この綺麗な人に、なにかしてしまったんだろうか?


(まぁ、考えても仕方ないし、真相はお兄さまに聞いてみるだけよね)


「兄ともども、無作法で申し訳ありませんわ……」

「いや、まぁ、いいんだよ。挨拶を、と思って探してたのもあるけど、ちょっと息抜きもしたかったから」

「いきぬき?」

「……人の多いところだと、途端に令嬢たちが寄ってくるのが、なんというか、わずらわしくて……」

「へ……?」

「彼女たちはみんなして僕を誉めてくれるけど、なんというか、全部本当にそう思って言っているのか、分からないからね」


これは……もしかすると、愚痴を聞かされているのかもしれない。私が他のお嬢さんたちと違って、自分から近付いてこなかったから。

確かに、皇太子の婚約者になりたくて、もしくは親から言われて、おべっか使ってるお嬢さんたちもいるかもしれない。嫌々、褒め称えてるのかもしれない。でも。


「殿下。無礼を承知で、言いますけれど」

「え?」

「そんなふうに、おっしゃらないでくださいませ」


皇太子はびっくりしたように目を見開いた。

そうよね、そんなこと言われると思わなかっただろうから。


「あの子たちは、あなたにふりむいてもらおうと、一生懸命なだけだと思います。なのに、そんな風にわずらわしく思われるなんて、あまりにも気の毒ですわ」

「……彼女たちは、僕が皇太子だから、寄ってくるのに?」


流石にむっときたらしい。少しだけ拗ねたように、皇太子が言う。よく考えたらまだ10歳なんだもんね。


「たしかに、そうかもしれません。もしかしたら親に言われてそうする子もいるかもしれません。だけど、少しでも、他の誰でもなく、殿下に好かれたいから、あの子たちはああして近づいて、あなたの記憶に少しでも残るように、お話するんだと思うんです」

「……どうして、そんなことが分かるの?」

「だって……殿下はとてもお美しいですもの!」

「…………は?」

「今日、はじめて殿下にお会いして、みとれなかった女の子はきっといませんわ!」

「え?」


そうよ、私だって遠くから見ただけなのに一瞬見惚れたんだから。

近くで見たら、そりゃ、こんな人から好かれたい、記憶に残りたいと思うでしょ。


「だから……中には、とても緊張して、それでもがんばって話かけた子もいたはず」

「……」

「どうか、わずらわしいと思わず、向き合ってあげてくださいませ」


どんなに義務的な結婚でも、愛や恋に憧れない女の子はいないと思う。

男からしたら、そういうのは、必死すぎてやっぱり煩わしいんだろうと分かってるけど。それだけで最初から邪険にされるのは、違うと思うのだ。


「……」

「……」


落ちた沈黙に、ふいにはっとなった。

やばい!私、皇太子さまに説教してるみたいになってる?!

そもそもだ。別に、皇太子が、寄ってくるお嬢さんたちを煩わしいと思うのなんて、本人の自由に決まってる。私にどうこう言われる筋合いはないだろう。なにより私、8歳の小娘だしね。分かってる。

でも、婚活をそれなりに頑張っていた身としては、黙ってるわけにもいかなかったわけで。


「……」

「……」


とはいえ、えらそうに言える身分でもないことは確か。沈黙に耐えられず、私は思わずかばっと頭を下げた。


「ぅ、あの、でんか……もうし、」

「君も見とれてくれたのかな?」

「ふぇ?」


謝る寸前での皇太子の言葉に顔を上げる。いま、なんと?

皇太子は頭を上げた私の目をじっと見ていたかと思えば、ふいに満面の笑みをこぼした。ひえ。

美しい顔の満面の笑顔ってもはや武器じゃない?

なんて怯んでいる隙にも、皇太子は一人で喋っている。え、ちょっと。


「君も、僕に見とれてくれていたというのなら、言う通りにして、君と向き合うことにしようかな」

「……は、え?」

「これからよろしく」


いや、どうしてそうなる?!というか、よろしくって、なにを?!

皇太子は私の返事を特に必要とすることもなく「じゃあまた近いうちに使いを送るね」なんて言ってその場を後にした。え?本気?何が起こったの?皇太子が、これからよろしくって?


「えー……どういうこと……?」


結局、兄が「そろそろ帰る時間だぞ」と呼びにくるまで、私は頭を抱えていたままでいたので、友だちは一人も出来なかった。皇太子、許すまじ。





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