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開いた口が塞がらないとはこういうことか(実際は閉じてるんだけど)と、私は実感していた。


「エルディ伯爵家、アヴェル・エルディ様。並びに、リーリア・エルディ嬢ご入場です」


お茶会というのだから、テーブルにお茶とお菓子が用意してあって、談笑しながら過ごす、というイメージだったわけだけど。

流石は王家主宰。規模が思っていたのと桁違いだった。


(ふわー……)


広い庭園のそこかしこに美しい花が咲き誇っている。そして、それらの花々を鑑賞できるようにか沢山並べられたテーブルのそれぞれで、きらびやかに着飾った子息や令嬢が穏やかなおしゃべりを楽しんでいた。


(思っていたよりだんぜん、ものすごーく立派なパーティだわ)


きょろきょろしては、令嬢としてお行儀が悪いのを思い出し、はっ!として前を向く、というのを何度か繰り返していると、兄が小さく吹き出した。


「お兄さま?なんです?」

「いいや。なまじマナーが完璧な分、そうやってキラキラと目を輝かせて、明らかにはしゃいでいるのが分かるのがおかしくてな」

「は、はしゃいでる?」


なんてこと。自分では隠せている気満々だったのに。

28歳日本人の時はわりかし得意だったポーカーフェイスが、ここでは通用しないというのか。いや、でも、表情筋すら子どもに戻ってるなら、ポーカーフェイスも鍛えなきゃだめなのかも。

生まれ直すのもいいことばっかりじゃないのね。


「……お前がなににショックを受けて急にこの世の終わりみたいな顔をしているのか全く分からないが、ほれ、あっちにお前の好きそうな菓子があるぞ。兄さまが取ってきてやるから機嫌をなおせ」

「……お兄さま、私はおかしでごきげんがとれるような、子どもではありません」

「ほーお。なら、いらないんだな」

「……お兄さまは、やっぱり意地悪ですわ」

「ははっ。ならいちいち素直じゃない言い方をするんじゃない」 


兄はくしゃ、と私の髪を撫でると、そのままお菓子を取りに行ってくれるようだった。

全くもう。せっかくサーシャがセットしてくれたのに、変に触られると崩れてしまう。

ただ、これ以上何かを言ってお菓子を取ってきてくれなくなると嫌なので、私は唇を尖らせるだけにした。

だって、遠目にも見える菓子は、まるで宝石のように輝いていて、とっても美味しそうなのだ。大人しくしているに限る。


「でんかぁ~。こちらも、とってもおいしいですわぁ~」


と、急な声に驚いて、思わず振り返った。なんてびっくりするくらいの、猫なで声なの。

声の主を探していると、一際輝いているテーブルに、いた。

座っているのは、どうやら五人。男の子が一人で、他は女の子が四人。どうやら男の子を女の子四人で囲んでいるみたいだ。声の主は、囲んでいる女の子の一人で、その猫なで声は囲まれている男の子に向けたもののようだった。

ふと、男の子の視線がこちらへ向く。青銀の髪、瑠璃色の瞳。思わず目が釘付けになってしまうほど、整った顔。


「ぅわ……」


なんて完璧な美少年なの。眩し過ぎて思わず声も出ちゃうレベル。そりゃ囲まれちゃうはずだわ。

そしてピンときた。あれは皇太子だ。女の子が殿下とか言ってたし、顔がめちゃくちゃ整ってるし、しかも、一際きらびやかな女の子たちに囲まれてるし。

まさにハーレム。男の夢!あの年で叶えているなんてすごい!


「……行きたいのか?」

「ひゃ!」


急に背後から話し掛けられ身体が少し跳ねた。

慌てて振り返ると、犯人はやっぱり兄である。


「もう!お兄さま、驚かせないで下さいませ!」

「すまない。驚かせたつもりはなかったんだ」


まぁ、そもそもこんなに近付いていることも気付かなかったのは私なので、足でも踏んでやろうかしら、と思ったけど、なんとかこらえた。

兄は美しいお菓子の乗った皿を私に渡すことなく(私はすぐにお菓子に気付いて手を伸ばしたのに!)私がさっきまで見ていたきらびやかなテーブルを指し示す。


「熱心にあちらを見つめているようだったが?」

「え?あぁ、あちらはものすごくキラキラしていますよね」

「……あまりにも熱心だったから、あいさつにでも行きたいのかと。どうする?」

「え、あいさつしないといけないのですか?」

「……お前には、あの方のお顔が見えないのか?」

「いえ、うつくしいお顔が見えます」

「なのに、行かなくていいのか?」

「?お顔とあいさつに、なんの関係があるんですか?」


兄は今度はちょっと呆れたように息をはいた。

もう。どうでもいいから、お菓子を早くくれないかしら。


「普通の女の子なら、あそこにまざりたいもんなんじゃないか?」

「なんでですか?」

「なんで……?なんで、って……まぁ、お前がいいなら、いいが」


兄はそう言うと、やっとお菓子を渡してくれた。最初からそうしてくれればよかったのに。

それにしても、あいさつ、ねぇ。そりゃ、美しい皇子さまだもの。お近づきになって損はないわよね。周りの女の子も張り切って猫なで声出すはずだわよ。

だけど、私はお友だちを作りにきたんだから、下手に皇太子に近づいて、童話とかゲームにありがちな流れに巻き込まれでもしたら大変だわ。

前世での経験上、美しい皇子さまなんて、恋やら愛やらのイベントにつきものなんだから。

待って……そうよ、お友だち!


「お兄さま、たいへん。私、かわいらしいおじょうさんがたに、声をかけてこなければならないわ」

「……大人しく菓子を食べていると思っていたら、お前というやつは……もう少し言い方というものはないのか?」

「?なにかおかしかったですか?」

「……いや、うん、いい、いい。お前はそれでいい。兄さまはここで勝手にしておくから、お前はこころゆくまで遊んでおいで」

「もう!お兄さま、子どもあつかいしないでくださいませ!」




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