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白嶺学園風雲録(無人島サバイバル実習編連載中)  作者: 有坂紅
サバイバル実習編~鳥に当たらぬ道理はない~
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26:四日目/女島01









「――それでは、第一回これからどうするか会議を始めます」


 そう告げたのは蓼科冥。

 とても小柄な黒縁眼鏡の少女だった。


「ふむん。まあ、大雑把に考えて取るべき選択肢は二つありますよね。このまま逃げ続けるか、それとも打って出るか」


 答えたのはポニーテールの少女。

 自称女子高生忍者、風々院風雅だ。


「………………」


 そんな二人の間にいて、何の言葉も発せずにいるのが自分――黒瀬塔子だ。

 震える手で枝をつかみながら他の二人を交互に見る。


「いえ、フーガ。選択肢を絞る前に、まず現状を再確認しましょう。ゆらに狙われているのは私一人です。だから、私から離れるだけで二人は安全になるはずです」


 そう。赤髪の腹黒策士の恨みを買い、狙われているのは蓼科冥だけ。

 自分と麻矢と、そして女忍者は巻き込まれた形だ。

 ……まあ、その麻矢はさらわれてしまって、今ここにはいないが。

 ということを考えると一段と気が沈む。

 枝をつかむ手がなお震える。


「あくまで私の身から出た錆ですから、二人を付き合わせるわけにもいきません」

「冥の場合、相当錆落としが必要でしょうね。さておき、ここでアナタを見捨てるのは少し寝覚めが悪いです。逃げるにしろ立ち向かうにしろ、ワタシは冥と一緒に行きますよ。黒瀬さんはどうです?」

「…………」


 問われて、やはり言葉を返せない。

 それは自分が人嫌いだから、だけではない。

 この状況も一因を担っていた。

 ……自分たちは、なぜ木の上で会議をしているのだろう。


 一人では抱きついても手の回らないほどの太さの巨木。

 その高い枝の上で、この会議は行われていた。


「黒瀬さん?」

「……ごめんなさい。ちょっと緊張してしまって」

「わかります。ゆらの配下がうろうろしていますからね。でもここならある程度追手の目を切れるはずですよ。人探しをする人間って高低差はあまり考慮しないものなので」


 いや、そういうことではないのだが。

 自分が緊張しているのは第一に話したこともない他人が二人もいるせいで。

 第二に高い木の上という危険なロケーションのせいなのだが。


 ……やはり人と会話をするのは面倒で、嫌いだ。

 ツルギや麻矢なら自分の考えていることを察してくれるのに。


 とはいえ。

 その麻矢のためだ。

 今は自分の好き嫌いを言っている場合ではない。


「……さっきの話だけれど。逃げても意味がないわ。麻矢を取り返しにいかなきゃ」


 ここで二人と別れるのは楽だし簡単だ。

 しかしそうするとあの腹黒策士から麻矢を取り返すのは難しくなる。

 ならば四の五の言っている場合ではない。


「……麻矢のために、私にできることを教えてちょうだい」

「ふむん。ワタシは彼女とは縁がありませんが、気持ちはわかります」


 風雅はそう言いながらも言葉を続けた。


「しかし――ゆらの配下から隠れながら本拠地に行って、しかもそこからこっそり連れて帰ってきて、さらにサバイバル実習終了まで全員で逃げ回るというのは、実際問題かなり難しいかと」

「まあ、そうですね。でも、マヤの救出は私にとってもマストです。で、あるならば――」

「……何か、策があるの?」

「この戦力差と進退窮まった現状を打破するためには、相手の頭を取るしかないです」

「ふむん。つまり、ゆらを?」

「はい」


 うなずく動作で冥の眼鏡が光を反射する。


「――手負いのゆらに我々で奇襲をかけ、倒しましょう」









「――へくちっ!」

「やや。大丈夫ですか、ゆらさん」

「問題ない。どこかで噂でもされてるんだろう。おれは敵が多いからな。――さておき、八嶋麻矢」


 ゆらは片手で釣りをしながら、その片手間に会話を続ける。


「食材は確保しているとは言ったが、ずいぶんと使うな――いったい何を作る気なんだ?」

「それはできてのお楽しみということで」

「ふん――まあいいだろう。実習も終わりが見えている。貴様の性格からして毒を盛ることもないだろうし、好きにやればいい」


 ゆらは八嶋麻矢を信用している。

 彼女の人間性を、ではない。人の健康を何よりも重視するというその習性をだ。

 だから毒を盛ったり食料を無駄にして兵糧攻めをしようなどという考えは起こさないはずだ。であれば問題ない。好きにさせよう。


「ありがとうございます。でも、すごいですね。葛粉とか、作るのにけっこう手間と時間がかかると思うんですけど、初日から考えてたんですか?」

「ああ、それは浜で買ってきたやつだな。さすがのおれもそこまで道楽ではない」

「買ってきた……?」

「なんだ、貴様。今の浜の状況を知らないのか」

「知りませんけど、その言い方じゃまるでお店でも建ってるみたいですよ」

「そう言ってる」

「いや、まさかまさか」

「と、思うのも無理はないがな」


 あれには実際驚いた。

 去年はあんなものなかったし、おそらくこれまでのサバイバル実習でも一度もなかっただろう。武系生徒からは出てこない発想だ。

 化学反応――とでも言うのだろうか。

 武系生徒と一般生徒を混ぜたことで、これまでありえなかったことが起こっている。


「黒瀬塔子様々だな」


 彼女が先の記章争奪戦で両コースの混交を主張しなければ、起こり得なかったことだ。


「あっ、塔子さんと言えば、その、私を追ってここに来るかもしれないんですけど……」

「まあ、来るだろうな。ヤツの性格からして」

「どうかお手柔らかにお願いします。塔子さんは本当に体が弱いので」

「安心しろ。おれが戦えない女に手を上げることはない」

「いや、そこを曲げて、できれば冥にも……」

「それはヤツの出方によるな。まあ十中八九、おれを狙ってくるだろうし、期待はするなよ」

「冥もここに来るってことですか? せっかく逃げたのに?」

「来るだろう。状況的に、逆転するには大将を倒すしかないからな。しかも手負いでお手頃だ」


 釣り竿に手応えを感じて引き上げる。

 イワナがかかっていた。手早く針から外し、竹串を刺して締める。


「『先んじて戦地におりて敵を待つ者は佚し、遅れて戦地におりて戦いに趨る者は労す。故に善く戦う者は、人を致すも人に致されず』――人に致される気持ちというものを、ヤツにも味わってもらわねばな」


 ゆらは暗く笑って、イワナをビクに投げ込んだ。




拙作『世界平和のために魔王を誘拐します』が2月に無事に発売されました!

なろう版からだいぶ手を加えていますので、よろしければぜひ買ってください!

以上、宣伝でした!

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